【感想・ネタバレ】テラ・アルタの憎悪のレビュー

あらすじ

獄中でユゴーの『レ・ミゼラブル』と出会い、犯罪をやめ警察官となったメルチョールは、カタルーニャ州郊外の町テラ・アルタで、富豪夫妻殺人事件の捜査に当たる。夫妻は拷問の末に惨殺されていた。メルチョールは夫妻の事業には裏があることを直感するが……

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Posted by ブクログ

ネタバレ

惨劇から始まるスペイン産ミステリ。
スペイン、珍しいな。
あんまり思い浮かばないな。
『風の影』とか?

ならず者あがりの刑事メルチョールが”何も起きない町”、”旅の途中で通りすぎるだけの場所”テラ・アルタで出くわした凄惨な事件。
この町きっての富豪で町の産業を一手に握る「アデル美術印刷」の夫婦が屋敷内で拷問を受け、無惨な姿で殺されているのが発見された。
誰が、何のために?金品目当てか、怨恨なのか?

おどろおどろしい事件を巡る調査の日を追う物語が続くのかと思いきや、かなりのページを割いて主人公の過去に飛ぶ。
かたや事件究明の方はするすると手の中を溢れ落ちて行き、進展らしい進展は起きないまま過去の話へと成り下がっていく。。。

凄惨な事件を呼び水にする物語は、その事件の裏に潜むきな臭さだったり、犯人のサイコ性だったりがメインになるのが常なところ。
タイトルや装丁の雰囲気からもまさにそんなイメージを想起するところだが、意外にもその辺はあっさり目なところが新鮮。
むしろ、メルチョールの過去との決着を目指す物語や、服役中に出会った『レ・ミゼラブル』への賛美を中心に展開する人生観が興味深い。

「小説の半分は著者が書いているが、残りの半分は読み手が埋めるんだ」
中盤以降、カミュ『異邦人』、ボリス・パステルナーク『ドクトル・ジバゴ』、ギュンター・グラス『ブリキの太鼓』、ジョルジュ・ペレック『人生使用法』なんかも言及され始め、警察小説×文学の様相を呈してきて乙。

メルチョールのジャベール(『レ・ミゼラブル』に出てくる悪徳警官)評。
「彼は偽りの悪人なんだ。そのことに気づかないか?そして偽りの悪人は、真の善人なんだ」
「そう考えると、偽りの善人もいるってことね」
「もちろんだとも。それが真の悪人だ」

そうした人生観や辿ってきた道のりがあってこその喪失の重さ、正義とは何か、復讐とは何かを問う最終盤。
「憎む相手を殺すために、自分も毒を飲むようなもの」の言葉が胸を刺す。

色々詰め込んだ割にはとっ散らからず、それぞれのカケラがそれぞれの厚み色味を帯びてうまく纏まっていた印象を受けた。
とにかく、ことあるごとに読みたいなーと思っていた『レ・ミゼラブル』、絶対読まなきゃという気に改めてさせてくれた。

続編もあるようなので、是非に邦訳してもらいたいもの。

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2025年03月02日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ストーリー自体は好き。ただ最後の黒幕の話は、黒幕自体にそうするメリットがなく、話の説明のためにそうした感がある。

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2024年08月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

2024年の3冊目は、スペイン産ミステリーです。
スペインのミステリーを読むのは、もしかしたら初めてだったかもしれません。かなり良いです。
主人公は、「レ・ミゼラブル」によって、人生が変わった男メルチョール。獄中で「レ・ミゼラブル」を読んだ事で、ジャベールに心酔し、母親を殺した犯人を捕まえる為に警察官になります。4人のテロリストを射殺した事で一躍、ヒーローとなりますが、テロリストからの報復を恐れた警察上層部が、カタルーニャのテラ・アルタへの移動を決めます。メルチョールは、テラ・アルタで最愛の人にめぐり逢い、娘も生まれます。
そのテラ・アルタで、美術印刷会社の社長夫妻が、拷問され殺されているのが発見されます。この事件の犯人は、想定の範囲内ですが、真相部分にスペインの歴史の暗部を加えている点が、重厚感を加えています。
そして何よりも、メルチョールと「レ・ミゼラブル」のジャン・バルジャンの人生が重なっている所が、素晴らしいと思います。メルチョールが、ジャベール的生き方から、ジャン・バルジャン的な生き方に変わるラストが、心に染みわたります。
☆4.7

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2024年02月11日

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