あらすじ
ザハの国立競技場が完成し、寛容論が浸透したもう一つの日本で、新しい刑務所「シンパシータワートーキョー」が建てられることに。犯罪者に寛容になれない建築家・牧名は、仕事と信条の乖離に苦悩しながら、パワフルに未来を追求する。ゆるふわな言葉と実のない正義の関係を豊かなフロウで暴く、生成AI時代の預言の書。
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Posted by ブクログ
難解な箇所では文章を反復することもあったが、非常に読みやすい印象も残る不思議な文章だった。
国立競技場の描写に違和感を覚え読んでいる途中にネットで検索をして、ザハ案が通ったパラレルワールド的な東京の世界を描いているのだと理解した。
「東京都同情塔」、この塔の是非についてメインキャラたちがどういった考えを持つのかの具体の描写があまりなかったのが少し残念だった。それは塔の是非自体がこの本の主題というわけではないから、というのも理解しつつ、私自身が非常に興味のあるテーマなのでそう感じた。
犯罪者は哀れまれるべき、彼らは環境に問題があっただけ、というのは、社会心理学や犯罪心理学に即した考え方だ。
人間の行動は全て遺伝要因と環境要因によって決定づけられるというのが社会心理学的な考え方で、私もそう解釈している。私は殺人事件の加害者などの生い立ちに日頃から関心を持っていて、時には涙ぐみながらWikipediaを読んでいる時間もあるし、加害者の名前をTwitterで検索して「こいつを今すぐ死刑にしろ」などという安易な書き込みに腹を立てたりもする。
そのため、マサキ・セトの提唱する「ホモ・ミゼラビリス」論には概ね賛成の立場で読んでいた。
ただ「東京都同情塔」については、アメリカ人記者と同じように、鳥肌の立つような嫌悪感を抱いた。
私は犯罪者は哀れまれるべきだとは思うが、だからこそ、更生のために刑務所に入るべき、入らなくてはならないと、自分が思っているのだと知ることができた。
マサキ・セトの理論ではホモ・ミゼラビリスはあくまでホモ・ミゼラビリスであり、ホモ・フェリクスにはなれないのだ。その思想が私に嫌悪感を与えたのだと思う。
マキナ・サラが最終的に「東京都同情塔」を建築すべきではなかったと感じた理由がどこにあるのかは読者の想像に委ねられていたが、もう少し描写してほしいと感じてしまった。
この本の帯にはAI時代の預言の書と書かれていた。徐々にAIに侵食されているような描写もあり薄気味悪くも感じたが、私の日常もAIに侵食されていると最近は感じることもある。
そういった未来でも、やはり思考は人間にしかできないものなのだと信じたい。マキナ・サラのようにとめどなく思考を続けることは、程度はあれど自分らしく生きていくために不可欠であると感じた。
私はマキナ・サラほど賢くはないので烏滸がましいし気恥ずかしいが、何かを考え続けて神経質気味な節があることに共通点を感じたため、比較的好きな登場人物だった。
言葉の持つ効力について考えさせられる一冊だった。
Posted by ブクログ
「都内に建てられる刑務所ユートピア」という、いかにも妄想っぽいアイデアが、巧みな筆致によってリアルに頭の中に構築された。
牧名沙羅は非常にこだわりの強い、自己主張の上手な女性だと認識した。建築家のことはよく分からないが、彼女のような人間がいるならちょっと喋ってみたいと思った。こちらに関心を寄せてもらえないかもしれないけど笑
Posted by ブクログ
人工知能との対話の壁打ちは良くも悪くも自己の壁を厚くするっていう話。
もやっとしてて角が立ってない雰囲気が自分にはあまり合わず。
この言葉とかこの一文というのではないけど、面白い文章や表現はたくさんあった。
p. 3
バベルの塔の再現。シンパシータワートーキョーの建設は、やがて現々の言葉を乱し、世界をばらばらにする。ただしこの混乱は、健築技術の進歩によって傲慢になった人間が天に近付こうとして、神の怒りに触れたせいじゃない。各々の勝手な感性で言葉を濫用し、捏造し、拡大し、排除した、その当然の帰結として、互いの言っていることがわからなくなる。
喋った先から言葉はすべて、他人には理解不能な独り言になる。独り言が世界を席巻する。
大独り言時代の到来。