あらすじ
統計データに基づく経営分析から読み解く日本企業の50年史
「企業成長なくして、経済成長はない」
日本経済の成長の低さの原因を、政府の経済政策のまずさに求めることも多い。
しかし、日本企業の経営そのものに、経済成長の低さの原因があるのではないのか。
設備投資、海外展開投資、人材投資を30年にわたって、ケチってきた日本企業の実態が本書に掲載されているデータと分析で明らかになる。そして、投資をされなかったお金は株主の配当へと形を変えていた。日本の大企業の株主分配率(配当/付加価値)は1990年代には4%未満だったが、2021年には20%を超えるまでになっている。配当の額は設備投資の額を超えてしまっている。人を大切にする日本企業が株主主権の経営をするようになってしまった。
日本企業は、今こそ、従業員主権という経営の原理を思い出す必要があるのではないか、そして、大きな投資に挑戦すべきではないか、と著者は説く。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
1.90年バブル崩壊までの日本は「不動産資本主義経済」=金融依存→現代は「株主資本主義」=Equityに変わりつつある
CEOへの配当増・自社株買いによる株価引上げ圧力
特に外国人株主比率の上昇・・・現代の帝国主義
2.経営者の変化
「リスク管理」を得意とする官僚型経営者ばかり
利益重視→経費抑制・・・人件費・投資・研究開発
内部留保を増やし、借入金圧縮
「将来ビジョンはない」→余剰金でM&A、株主還元
財務が得意で事業は不得手
3.ROE経営は悪魔のサイクル
「将来ビジョン」なく、財務改善
株主優先で搾り取られるだけ 現代版植民地政策
4.教育の重視・再興を
結局は人材育成=投資が人を育てる
Posted by ブクログ
日本企業に対する著者伊丹氏の「正義感」が溢れる内容で、非常に良いなと思った。しかし、これはある意味での警鐘でもあり、このままだと危ういという危機感でもあるのだろう。大企業と中小企業を分けてその利益処分を分解しての推移をデータで示しながら考察を述べる。非常に説得力のある良書。だが、説得力がある分だけ、恐怖感は増す。
あまり書き過ぎると本書の面白さが半減するので触りだけ乱暴に書くと、「大企業の配当が増えてきているよね。これって企業の長期的成長と相反する短期的思考だけど、大丈夫?」という内容だ。利益処分と書いたが、一般的にはこれが<株主への還元、従業員への待遇、設備などの成長投資、内部留保>に分解できる。それぞれの目的や関係性を解説しながら、失われた30年と言われる期間に、何がどのように変わってきたのかを示す。
震災など、何が起こるか分からないから手許にお金を置いておきたいという気持ちはわかる。ただ、お金は使わないと事業が成長していかない。それが設備投資や人への投資などの前向きなお金の使い方だ。株主への配当と相反する。配当を下げると株価が下がる。資金調達力を上げても、結局、投資するアテがないなら、何のために配当を重視するのか。
海外のアクティビストからの圧力だったり、コーポレートガバナンスコードの導入だったり、様々な理由があって、配当が低いままでは許されなくなったという負のインセンティブが大きいのだと思う。これに加えて、至近、ROEやROICの目標設定型役員報酬が散見されるが、これによる短期志向、投下資本を身軽にしたいという動機もあるだろう。
従業員を守れ、会社は従業員のものだ。株主と拮抗するのは従業員であり、会社は株主のものだ、という思想と対立する。当然バランスが大事という日和見な見解に落ち着くが、至近の株主偏重傾向に一石投じるという意味では、非常に重要な本だと思う。
Posted by ブクログ
自身が経営者として感じていた「株主への配分の過剰さ」を明確に説明してくれてる書籍。自分以外にも同じことを考え、発信してくれている方がいらっしゃることに感動。「投資をやめるな」「従業員主権を」というメッセージは、これからの経営者人生にとっても貴重な金言となろう。
Posted by ブクログ
大企業は設備投資より配当のほうが多くなった。
バブル前より従業員数は増えている。人口は変わっていないから雇用参加率は増えている。
金利低下で売上経常利益率は増えた。
設備投資がないから自己資本比率が上がった=ROEが下がった。
メインバンクが頼りがいがなくなった=手元資金を増やす。設備投資は行わない。アメリカ流を取り入れて配当を増やす。
リーマンショック直後で輸出は33%減。
大企業は人件費は2001年以降変わっていないが配当だけ増えている。
人件費に使わず、大企業は配当を増やし中小企業は内部留保を高めた。
アメリカ流の株主重視策から。
委員会設置会社は普及していない。90社程度、2%程度。
海外設備投資も円安にもかかわらず増えていない。
配当増加の負のサイクル=一度増加させると減少できない。自己資本が積み上がるとROEが減少するから自社株買い=自己資本が少なくなる、に走る。
日本の半導体産業は投資抑制でサムソンに抜かれた。日米半導体協定でメモリ事業が官製カルテルになっていた。コンスタントな設備投資ができない。日米半導体協定とバブル崩壊の影響。
不況期にも株主配当を挙げる=株価維持=労働分配を犠牲にした。株式原理主義、コーポレートガバナンス改革の悪影響。
従業員への甘え、人事制度維持のほうを大事にした。
新興企業、GAFAMは人材資源を大事にして高給を出した。
企業は人と金の2面性がある=株式会社の制度の矛盾。
株式会社の本質は、有限責任で多大な投資を可能にした、だけでなく悪平等に対抗する意味もある=資本多数決の原則。
逃げない金=資本金、逃げないヒト=従業員、どちらにお金を掛けるか。
中二階の原理=従業員を1階から中二階に上げて、実質的に統治に参加させる仕組み。原則は2階の株主主権。
日本の中二階は、役員が従業員出身であること。
ドイツは、株主主権だけでない会社統治の制度を作った。49%の主権を持っている。
アメリカのUSスチールの労働組合による反対運動?
中二階の落とし穴=従業員の反対が怖くて改革ができない恐れ。投資効率が低い投資をしてしまう危険。投資リスクを取らない危険。
キーエンスの成長と経営効率。=従業員主権=分配が大きい。業績連動給は81%にのぼる。高給の企業。
情報共有=オープン化。主体性が発揮できるようにする。
共同体的市場取引=顧客と共同体、下請けと共同体。共同体の経済合理性は高い。知識の蓄積、コミュニケーション効率が高いなど。
5年で一人前になる=人材育成に力を注ぐ。
金の原理と人の原理の二重性は衝突が起きて判断の余地ができること。しがらみとの戦い。強い経営者が必要。
投資をしないから人が育たない、育たないから低迷する、投資ができない、の悪循環。人も設備も同じ。
人と金の二面性が企業の本質。株主主権だけでは二面性を解決できない。
Posted by ブクログ
日本企業が配当を重視して投資を実行してこなかったことで成長しなくなっている姿を30年間くらいのデータで示しており面白い
中小企業よりの書き方と今後の施策が現実的でない点は気になる
Posted by ブクログ
『日本漂流:失われた30年の経済解析』
統計情報 ☆☆☆☆☆
解釈 ☆☆☆☆
未来への提言☆☆
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【はじめに】
「失われた30年」という言葉は、日本経済の長期停滞を象徴するフレーズです。しかし、その実態を正確に説明できる人は少ないでしょう。この本は、マクロ経済の視点からミクロ経済の動向を理解するための重要なインプットを提供します。
【1;統計データの洞察】
1975年から2021年にかけての統計データは、売上高と従業員数の年率2%弱の増加、利益率の4倍の上昇、設備投資の年率1%の増加を示しています。これらのデータは、日本経済の変遷を理解するための鍵となります。
【2;解釈と解説】
伊丹敬之氏は、経営学者としての深い洞察を通じて、統計データを解釈します。彼の分析は、日本企業が直面した経済的課題と、それに対する経営戦略の変化を明らかにします。
【3; 日本経済の漂流】
伊丹氏は、失われた30年間で日本企業が設備投資や従業員への投資を行わなかった理由を分析します。これらの経営判断が日本経済の停滞にどのように寄与したのかを考察します。
【読み終えて】
2024年4月現在、急激な円安という形で、資本市場で日本に対する評価が低下しています。
マクロ経済の評価とミクロ経済(企業レベル)の評価は必ずしも一致しません。為替、日経平均とは逆の方向で、株価を上昇させている企業も多く存在します。
今後、企業側は、マクロ経済に左右されづらい顧客基盤、業務基盤そして結果としての財務基盤の必要性が増してくるのかもしれません。