あらすじ
走行中の豪華列車内で起きた陰惨な強盗殺人。警察は被害者の別居中の夫を逮捕した。必至に弁明する夫だが、妻の客室に入るところを目撃されているのだ。だが、偶然同じ列車にのりあわせたことから、事件の調査を依頼されたポアロが示した犯人は意外な人物だった! 初期の意欲作が登場。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
章毎に視点が変わり、それぞれの登場人物目線でストーリーが進んでいくのが面白くて良かったです。
あるひとつの場面や事件に対して、それぞれの思惑や心情が明かされていく様子にわくわくするし、それでいて誰が真犯人であるのかが良い具合にぼかされて話が進行していく描写の緻密さには思わず感服しまいました。
またそれぞれの目線で見る"名探偵ポアロ"の、不気味なまでの底の知れなさが、読者目線にもより鮮烈に描かれているのが印象的でした。
ポアロ視点が無いのでよりそう感じたのかも知れない。
これまでのポアロシリーズの中でも特に男女の愛憎や恋に焦点が当たっているのも印象的。ミステリーのドキドキはもちろん、キャサリンを中心としたそっちの話にも、内心どうなるのかドキドキしてました。
Posted by ブクログ
青列車の秘密
クリスティの長編ミステリー。ポアロシリーズ。
ブルートレイン車内で発生した宝石「火の心臓」を巡る盗難事件とアメリカ人令嬢の殺人事件の謎。単純な殺人事件の調査だけではなくイギリスで有名な宝石泥棒「侯爵」に繋がる事件。
クリスティ作品において冒険ものは沢山あるが、今作は冒険的な部分と殺人による捜査、推理のパートのバランスがよくスリリングに物語が進行していく。上手く言えないが構成も現代的な印象があり、まずは宝石商と購入した人物のやりとりからスタートする。
他のシリーズに比べてポアロの性格や人間関係がとてもよくわかる作品で、様々な分野の上位の人物に顔がきき、捜査の合間に恐ろしさを見せる等、とても表情豊かだ。最後、宝石商がポアロを悪魔だと形容するが、今回の様に事件の時間が経過していってもポアロは強かに情報を集め、事象を整理し確実に犯人を捕まえる様子は犯罪者から見れば誠に悪魔の様だ。(今回も侯爵を事件のあったブルートレインまで引っ張り出し、罠に嵌め誰も正体すら掴めなかった人物を見事に捕まえている。)
ポアロの内面も垣間見れた様なきがする。泥棒に恋するのは構わないが、殺人者はダメだ。というキャサリンへの言葉は少しだけ哀愁を感じてしまった。そして今作にも恋する女性、お金がなくてギャンブル好きの不良か、真面目で面白みのない金持ちの秘書か、という二択があった訳だが、必然、どちらかが犯人だろうと勘繰ってしまう(クリスティ作品ではお馴染みだ。)いずれにせよ他作と同様に女性達は幸せになる様な結末が予想できる。
余談だがポアロの執事であるジョージにスポットが当たっており、普段以上に彼の知的な部分を知る事ができる。
全体的にとても面白い作品だった。記憶が定かではないが、おそらくこの作品は3番目が4番目位に読んだ作品で当時は余り印象に残らなかったが、改めて読んでとても素晴らしい作品だと印象が変わった作品だ。
Posted by ブクログ
セントメアリミード
ブルートレイン
わたしたちの探偵小説
ルビー(火の心臓)
シガレットケース
傷付けられた顔
侯爵(ル・マルキ)
侯爵周り複雑でいろいろ勘違いした
Posted by ブクログ
豪華列車・ブルートレインで起きた殺人事件。この殺人に「火の心臓」なる宝石や不倫、色々と仕掛けられる。その列車には関係者が複数乗っている。この中に犯人がいるのか?いないのか?いつもながらエルキュール・ポアロが乗っている。今回斬新だったのは、搭乗中ではなく事後に関係者に会い犯人を絞っていく。ポアロは気付く、絶対に誰かが嘘をついている。ポアロの前では嘘は通じなかった。初めて犯人を言い当てた!でも完璧ではないのでもう少し頑張ろうと思う。クリスティーがなんか吹っ切れた印象でとても嬉しい!早く読友さんと話がしたい。
Posted by ブクログ
ドラマ版で富豪の秘書の年齢が気になってたけど
やっぱり原作は若かった
ヒロインのキャサリン・グレーがとても素敵でした
自分の気持ちを抑えて生きてきたのが
よく分かる描写は素晴らしかった!
ポアロの人を見る目と誰のことも信じない観察眼がすごい
原作の方が人物関係がごちゃごちゃして面白かった
Posted by ブクログ
久々にクリスティーに戻って、
やっぱり勝手知ったるホニャララ〜で馴染みました。冒頭、登場人物が順序よく描かれる様は、まるで舞台上の人物に光を当てるように鮮やかで。これから起こる事件を予感してわくわく。
そこまで強烈では無いけれど、魅力的な人物もちょいちょい出てきます。彼らの恋模様をポアロが時に励ますような意味深なアドバイスも楽しい。
いつも犯人を想像しながら読み進めるのだけど、思いもよらない人物が最後名指しされるので、気持ちよく騙される。ヒントは各所に散らばっているけれども、気づけない。
ちょっと残念なのは国際謀略の要素もあって、話を大きくし過ぎているかな〜感があるところ。
Posted by ブクログ
クリスティー文庫No.5
大富豪、侯爵、伯爵、召使い…魅力的なワードがたくさん。
ミステリももちろんだけど、ロマンス要素があるのがよかった。
男女の心の動きがちょっとした文でしっかりわかる。
またいつでも読めるように積んでおかなきゃ!
Posted by ブクログ
読み終わりました。相変わらず名前が覚えられないのが自分の欠点で何回も登場人物を見ながら読みすすめました。最初は夫と思っていたのですが、意外な人物が犯人、それも共犯者がいたとは考えつかなかったです。
Posted by ブクログ
ポアロシリーズの5作目。
一人の女性と彼女が所持している宝石を巡る事件が起こる。
もうほぼ全員怪しい。
列車を使ったトリックは流石。
恋模様も織り交ぜつつ上手に着地した感じ。
このシリーズは本当に読みやすい。
Posted by ブクログ
探偵がポアロなのにセント・メアリ・ミード村のヒロイン、大金や”火の心臓”といういわく付きの宝石、そして、豪華寝台列車のブルートレイン内での事件。三角な恋愛模様などなど…魅力的な要素がいっぱいでとても面白かったです。犯人を当てることもできました。
序盤はゆっくりと人間模様の描写に当てられていて、ポアロが登場後は徐々にスリリングでスピーディーな展開になっていき、ラストがとても素晴らしい終わり方です。読後感も良く、余韻に浸れるような、まるで列車の発車から終着駅までの動きのような小説。ただ残念なのは、やはり偶然に頼り過ぎなことと、詰め込み過ぎてあの件はどうなんだろうというモヤモヤ感が残ってしまうのが残念かな。
ちなみにヘイスティングズは出てきませんが、ポアロの執事であるジョージ(ジョルジュ)や女性陣がいいサポートをしていて好感が持てます。対して、容疑者絡みの人たちのクズっぷりに萎えますけどね。
そんなわけで、一つ★を減らさざるを得ないですが、『スタイルズ荘〜』や『ゴルフ場〜』より断然『青列車の秘密』の方が好きですね。
Posted by ブクログ
怪しい点、辻褄の合っていない点に目を向けて読めたから楽しかったー!ポアロがパズルのピースを埋めて、一つのストーリーにして語ってくれてすっきりした◎
ヘイスティングス不在で寂しかったけど、キャサリングレーが素敵だった。あと、ラストの「人生は汽車ですよ、マドモアゼル」のポアロの言葉が好き。
Posted by ブクログ
冒頭はコレ何の話!?と思わせて犯人紹介パートだった。デリクもナイトンもすぐにキャサリンを好きになったが、負けず劣らず私もキャサリンを好きになった。見知らぬ人間にここまで義理堅い人いるか!?いないよ…。
Posted by ブクログ
これは子供の頃に読んだことがなかった作品。
最後まで犯人が分からず楽しめた。
列車内での殺人事件という、小説の中でしか起きないような出来事の推理と、割と身近な恋愛の話が同時に進行していくので、ただ傍観しているだけではなく、気付いたら物語に入り込んでいる。
様々なタイプの女性が出てきて、国や時代背景は異なるけれど、あぁこういう人いるよねと人物描写や会話も楽しめた。
Posted by ブクログ
ブルートレインという密室の中で行われた殺人事件に偶然乗り合わせていた名探偵ポアロが得意の推理を活かして、論理的に事件を解決していきます。
登場人物が複雑でしたが、非常に読みやすく、予想外の犯人でオーソドックスなミステリーです。さすがアガサ・クリスティという感じで初めて推理小説を読む方にもオススメです。
Posted by ブクログ
アガサクリスティー。ポアロシリーズ。
豪華列車のなかで強盗殺人が起き、たまたま乗り合わせたポアロが調査を開始する。
少し前置きが長かったが、事件が起きてからはサクサク読め、犯人も意外で良かった。しかしミス・グレー側の話はもう少し控えめでもよかったし、登場人物たちの群像劇じみていて、ストーリーがぼやけてしまったように思えた。
Posted by ブクログ
ポアロの探偵もの。絶妙な引掛けが1つあり、そこに引っかかって真相にたどり着けなかった。とはいえ、クリスティとしての捻り具合は普通か。
Posted by ブクログ
読後感の良さで割とお気に入りの一冊。本編よりも最終章の「海辺で」がすごく好き。本編は、推理ができなくても現代文の読み解き的に犯人が割り出せてしまう。ただ冷血な殺人犯がそんなに純情だったりするかなと疑問。ヒロインが心霊現象で犯人に気づくと珍しい場面もあります。また自分の贈り物のせいで娘が殺されたのに自責の念が湧く様子もないケロリとした父親はさすが大物実業家、と妙に納得してしまった。タンプリン、ケタリングなど貴族の苗字が不細工なのが笑えた。逆にキャサリン・グレイは平凡な名前なのにすっきりして好感が持てるのはキャラクターにぴったり。レノックスとジアもよかった。
Posted by ブクログ
ポアロのシリーズで列車が舞台のって、オリエント急行だけだと思ってました!
うーん、やっぱり今回も推理が外れた笑
でも、自分の推理と違うからこそ面白いと感じます♪
宝石には色んな逸話があるものなのですね。
手に入れただけで身を滅ぼすのは、なんというか嫌だなぁ
Posted by ブクログ
ポアロ
途中まではそうでもないのかなーなんて思ってちびちび読んでいたけど、やっぱり途中から面白くなって後半は一気に読んでしまった。
セント・メアリ・ミード村が出てくるので、もしやマープルもチラッとご登場?と思ったけどそれはなかった。ミス グレーに幸せになって欲しい。幸せの定義は人それぞれだとは思うけれど。
Posted by ブクログ
豪華列車ブルートレインの中で起きた殺人事件。
被害者の別居中の夫が容疑者に 。
列車に居合わせたエルキュール・ポアロは捜査に協力することになったのですが ―― 。
そんな単純なわけがないとワクワクしながら読みました。面白かったです。
Posted by ブクログ
出来れば月に一冊くらいクリスティを読みたいと思っているのだが、なかなか果たせない。
ここの所、あまり評判の良くないクリスティの国際謀略物を読んでいたが、それに比べると出来はいいように思う。なかなか犯人がわからず、フーダニットとしては見事にクリスティの策略にはまったが、ポアロの捜査の過程ではフェアな記述がされているので、ミステリ好きで丁寧に本を読む人ならなんとなく犯人は推理出来るかもしれない。
但し、犯行時のトリックは分からない人が多いのでは。
例によってラヴロマンス、それも上流階級のロマンスが描かれており、好きな人はそちらのストーリーも楽しめるでしょう。
終わり方は中々粋だと思う。
Posted by ブクログ
展開が早く、登場人物が少し多い感じがする。パートナーのヘイスティングが登場せず、ポアロとその他の登場人物の会話でストーリーが進む。これまでと違うタイプの物語。いろいろ怪しい人物がでるが、結果は単純。犯人に納得する。
Posted by ブクログ
【ポアロ】
1928年クリスティー38歳。
クリスティー失踪後の精神的に不安定な時期。
私が唯一最後まで読めなかった『ビッグ4』の次に書かれた作品なので不安があった。
やっぱり冒頭から国際謀略の要素が出てきた。
私はどうしてもスパイとかこの手のものが苦手なんだけど、『ビッグ4』よりもミステリーが強くて安心した。
クリスティーの描く女性は毎回魅力的な人が多いけど、この作品の女性はイマイチ魅力が伝わってこなかった。ラブロマンスもなぜ?とあまり共感できず。
ポアロのことを知らないという使用人に対して、「悪いけど、きみの教養の程度が知れるね。世界の偉人に数えられる人間の名前だよ」と、自分で言っちゃうポアロは可愛い。
でもポアロは本当にすごい探偵だからね。
アントニイ・バークリーの謎に自信満々のユーモアのある探偵ロジャーと、洞察力抜群の完璧なポアロを交互に読むと楽しい。
甘いものと辛いものを交互に食べたくなるように、クリスティーとバークリーを交互に読むと、それぞれ違った面白さでより面白く感じる。
Posted by ブクログ
遠出の機会があったので、せっかくなら電車(列車)の話を、とチョイス。南仏が主な舞台ということで、いつものイギリス作品とは違った雰囲気が味わえました。
ところで、この作品は短編の「プリマス行き急行列車」を発展させたものだそうで、そちらをドラマで見ていたので謎解きに関しては納得。
それより印象深かったのがキャサリン・グレー。
会う人すべてに”印象的な目”と評される聡明な女性で、先日読んだ『杉の柩』のエリノアを彷彿とさせました。
……だからこそ、デリクを選んだのにはそっち?!と驚き。
私もまんまとナイトンの魅力に騙されていたのだなぁ。
これはまだドラマを観ていないので、南仏の景色と豪華な”ブルー・トレイン”が楽しみです(^^*
Posted by ブクログ
ポアロシリーズは、ミステリーとラブロマンスを同時進行で読んでいるような気分にさせられるから不思議。
魅力的な人物とドラマティックな展開、そして意外な犯人。
この組み合わせは専売特許と言ってもいい。
もはや殺人事件そっちのけで、この世界観を楽しんでいるところさえある。
Posted by ブクログ
ポアロシリーズ5冊目。
1928年の作品で、有名な失踪事件ののち最初の夫と離婚したころに書かれたもの。そのせいかクリスティー自身はこの作品を気に入っていないようですが、普通におもしろいです。大富豪の娘ルースが夫の浮気に悩んで離婚を考えていたりするのがまた。
登場人物が限られているので今回はめずらしく犯人が当たりました。でも謎解き以上にミス・グレーをめぐる三角関係の行方がおもしろかった。
日本人は黒髪黒目がほとんどなので小説でも髪や目の色に関する描写があまりないですが、海外文学だと登場人物の紹介に目の色はよくでてきますね。キャサリン・グレーの瞳にみんなが夢中になる。
「きみは彼女の目に気がついたかな」
「男なら」と、ナイトンは言った。「彼女の目に気づかないはずがありません」
今回はポアロの紳士ぶりと洒脱な会話も光りました。宝石商とのお互い相手に敬意をしめしながら手の内をさぐりあうような会話とか、その娘に対する優しい言葉とか。
タイトルが「ブルー・トレイン」じゃなくて「青列車」なのも良い。
ロンドンとニースの距離感がわからなかったので調べてみましたが、ロンドンからドーバーまでは2時間ほど。ドーバーからカレーまでフェリーで90分。カレーからパリまで2、3時間。パリからニースまでは6時間。いずれも現在の所要時間で小説の中では軽食と夕食をブルー・トレインの食堂車でとり、朝にニースに到着しています。
今では海底トンネルがあるのでロンドンからパリまではTGVで2時間。東京大阪ぐらいの感じでしょうか。ポアロもちょっと調査にみたいな感じでパリに行ったりしてますよね。
ちなみにミス・グレーの住むセント・メアリ・ミード村はミス・マープルシリーズの舞台。
以下、引用(長いよ)。
「ルース、離婚という言葉を初めて聞いたような言い方をするじゃないか。おまえの友達は毎日のようにしているっていうのに」
「でもある意味では行動の自由を制限されると、精神的な自由は広がります。どんな時でも考えるのは自由ですから。いつも精神的に自由だと感じていました。すてきなことですわ」
「そうね。彼がそんなことをするとは思わないわ。どっちにつけばパンにバターを塗ってもらえるか、よくよく心得ているもの」
男は彼の本性を見抜くが、女には見抜けない。
「ムッシュー・ポアロ、わたしは金持ちです。金持ちはどんなものであろうと人であろうと金で買えると思い込んでいると世間は言いますが、それは違います。わたしは自分の専門分野では大物です。ある分野の大物なら、他の分野の大物にお力添えをお願いできるのではありませんか」
「女性は彼に簡単にまいっちゃうの」
「どうしてかしら」
「ありふれた理由でよーとてもハンサムで悪(ワル)だから。みんな、彼に夢中になるのよ」
「あなたも?」
「ときどきね」と、レノックスは答えた。「それからすてきな助任司祭と結婚して、田舎に引っ込んで植物を温室で育てて暮らしたいと思うこともあるわね」
「アイルランドの助任司祭が一番いいんじゃないかしら。そうなると探すのは大変だけど」
「あれはベストに油染みがついているよ」と、ポアロ。「火曜日にリッツで昼を食べた時に、舌平目のジャネット風の一片があそこに着地した」
「もう染みはございません」ジョージはとがめるような口調で言った。「取り除きました」
「あなたのことは分かっているわ、デリーク。わたしを見てーほら、ミレーユよ、ミレーユが話しているのよ。あなたはミレーユなしでは生きていけない、分かってるくせに。わたしはこれまであなたを愛してきたけど、これからは今までの百倍も愛してあげるわ。あなたの人生をバラ色にしてあげるーそう、バラ色に。ミレーユに代わる女性はどこにもいないわよ」
「きみは彼女の目に気がついたかな」
「男なら」と、ナイトンは言った。「彼女の目に気づかないはずがありません」
「探偵小説をお読みになるとおっしゃいましたね、ミス・グレー。完全なアリバイのある人物が常に疑われているのをご存知のはずですよ」
テニスコートに着くと、ポアロが出迎えた。その日はぽかぽか陽気だったので、ポアロは白麻のスーツを着て、衿のボタン穴に白椿の花を挿していた。
「ですが、ムッシュー、あなたの属する民族は物事を忘れないと言っても間違いではないのではありませんか」
「ギリシャ人ですか」パポポラスは皮肉っぽい微笑を浮かべて、言った。
「わたしが言ったのはギリシャ人という意味ではありません」
沈黙が流れた。やがて老人は誇らしげに背筋をぴんと伸ばした。
「おっしゃるとおりです、ムッシュー・ポアロ」と、彼は静かに言った。「わたしはユダヤ人です。そして確かにわれわれの民族は忘れません」
ポアロはメイドにいつものように丁重に挨拶した。それはメイドの階級の人間には例外なく効果があった。
「年寄りがおせっかいなことを言うとお思いでしたら、ムッシュー、お許しください。あなたにイギリスの諺を一つお聞かせしたい。こういうのですよ。〝恋を始めるなら、古いのを片付けてから〟」
「あなたは彼女と別れたでしょう。しかし彼女はあなたと別れたんでしょうか」
「泥棒を愛することは、マドモアゼル、できるでしょうが、人殺しはいけません」
ミレーユのような性格には、〝待つ〟という言葉自体が呪詛であることを、ポアロはよく知っていた。
「人間というのは愚かなものですね、マドモアゼル。食べて、飲んで、いい空気を吸う。実に楽しいじゃありませんか、マドモアゼル。単にお金がないーあるいは心が痛むというだけで、すべてをあきらめるなんて、まったく愚かです。愛(ラムル)のために何人死んだことか」
「わたしの名前はエルキュール・ポアロだ」
「はい、ムッシュー?」
「きみはこの名前を知らないのか」
「一度も聞いたことがございません」と、イポリート。
「悪いけど、きみの教養の程度が知れるね。世界の偉人に数えられる人間の名前だよ」
「鏡は真実を映しますが、人はそれぞれ違った場所に立って鏡をのぞいています」
「あれは、あのろくでもないブルー・トレインよ」と、レノックスは言った。「汽車って、ムッシュー・ポアロ、無情じゃありませんか。人が殺され、死んでも、汽車は相も変わらず走り続けています。馬鹿なことを言っていますけれど、わたしの言いたいことはお分かりでしょう」
「ええ、ええ、分かります。人生は汽車ですよ、マドモアゼル。走り続けるんです。それはいいことですよ」
「汽車をお信じなさい、マドモアゼル。汽車を走らせているのは神(ル・ポン・デュ)ですからね」
Posted by ブクログ
前置きで挫折しそうになったけど、事件が起こってからはいつも通りさくさく読んじゃう。
ヘイスティングス不在の代わりに、キャサリン・グレーがポアロの話し相手。読者と同じ目線と思いきや、ポアロとの意味深な会話にかえって混乱させられたり。
今回も完敗、敗因はまさしく「そうあればいいと思ったからでしょうね」。
Posted by ブクログ
本作にはクリスティー作品でおなじみのポアロが登場します。
物語は非常に高価なルビーを持った令嬢の殺害事件で幕を開けます。序盤から怪しい人物が目白押しで、登場人物それぞれの視点の切り替えが頻繁に起こるので、私は最初、人間関係の把握にとまどいました。しかし、読み進めるうちにキャラクターの人となりが分かってくると、一気にのめりこむことに。というのも、舞台となる豪華列車、W不倫の果てに離婚の泥沼、高価な宝石など、今作はストーリーを盛り上げる舞台装置がひとつひとつ際立っているから。
さらに、ガジェットだけでなく、登場人物たちを結びつけるような面白いネタも満載です。例えば主要人物の一人キャサリン・グレイ。表面的な役割で終わるかと思いきや、ストーリーの根底に彼女の恋愛の自立が描かれていたりもします。事件をめぐる登場人物たちの群像劇としても楽しめ、どのキャラクターも一本筋の通った役割が用意されているのは圧巻でした。
少し物足りない
面白いことは面白いのですが
思わせ振りな登場人物が多くて
少し消化不良な印象を受けました。
ポワロの活躍にもちょっとキレがないような
快刀乱麻を断つとは言えない感じです。