【感想・ネタバレ】なぜ歴史を学ぶのかのレビュー

あらすじ

ポスト真実の政治と歴史修正主義が横行する時代に,歴史学に何ができるのか──.トランプ政権のウソ,ホロコースト否認論,白人至上主義のテロや原爆展論争などを題材に,こうした問いに答えるアクチュアルな歴史学入門.アメリカ歴史学界を牽引してきた著者による,『歴史とは何か』(E. H. カー)の現代版.

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Posted by ブクログ

ネタバレ

アメリカの歴史学者リン・ハントさんによる、一般市民向けに歴史について書かれた本。

修士課程で彼女の本が課題文献になっていたので著者の名前は知っていたのですが、それ以来でした。

今日に至る歴史学について、とても分かりやすく紹介されています。

私たちは歴史に取り憑かれた時代に生きている、と一の方で述べられていて、

記念碑や教科書に関する近年の国際的な動向に触れつつ、

歴史についての認識を深められる内容となっていました。

歴史に完全性も客観性もないということ、

ご本人白人の女性という立場からこれを書いていると明記して、

強調されている点のひとつです。

_歴史学というものは、定義からして発見の過程であって確立した教義ではない

暫定的真実。



歴史的真実の二段階構造として、

1つに事実、2つ目に解釈。

では事実はどのように決定されているか。

それが依拠する文書の性質によって決定される。そして、科学技術も用いる文学的な技芸だという。

実際、こんにちは文書だけではなく、多様なかたちで存在し、それは歴史の表現に対する驚くべき広範な開放性をもたらしている、といいます。

_歴史は…語りの形態に依拠している。つまり、ある種の時系列的な習字技法を通じて、過去を表象することを主張する物語なのである。

解釈の基盤になるのが、事実に意味を与える力。



誰が語るか、という点では、著者自身の経験にも触れ、歴史学が男性中心であることが伝えられています。三淵嘉子さんの法学界での女性の受け入れ過程のように、

ケンブリッジ大では1923年年に女性に学位授与が始まり、1926年に大学の職位に任命できるようになった。

著者の属するカリフォルニア大学バークレー校で、著者が助教授となった1974年当時、歴史学科採用女性は4人目。

1984年に正教授に昇進したときは、歴史学科の正教授40人で彼女一人だったといいます。

2017年になると、26人中9人が女性とのこと。 

そして、2008年までに女性はすべての歴史学博士号の40%を占めるようになった、という、本当に最近の進展があるようです。



歴史の対象が主に政治に限られ、それを語り学ぶ人がエリートに、また欧米中心にほぼ限定されてきた中、

_歴史学の主題の民主化は、明確な地理的領域の変更ではなくアプローチの変容に由来するものであった

1900年代~人類学、社会学、経済学の手法が融合

1960-70年代 社会史 庶民の思考慣習や生活様式により注意を払う

1980-90年代  文化史 社会的カテゴリーそのものがどのように意味をもちうるようになったのか。文化的意味が社会的アイデンティティを規定する。

1990-2000年代 すべてが研究対象に。

グローバルヒストリーへの関心の増大。



最終章、「歴史の未来」は、歴史のもたらす広がりのようなものが感じられるものでした。

_歴史の最も永続的な魅力というのは、現在の関心事に対する視座を与え、そこからの一種の解放感を与えてくれるところにある。

過去例から、私たちの行動の参考となる模範や事例を見出し、進歩や時間の進行を認識し、そして「全地球的時間」に視点を広げることで、自分以外のものを尊重する倫理感を豊かにする。

_時間を整序する多様な様式を研究することは、環境、動物、病原菌などの歴史から得られる視点をさらに拡大してくれよう。そうした新たな歴史が、家族、共同体、都市、国家、グローバルな地域の一員にとどまらない私たち、すなわち主としての私たちについて考えることを可能にしてくれるからだ。

_グローバルとは、何度も繰り返し掛け合わされたローカルのことをいうのだ。

_過去において物語から排除されていた集団への注目は、馴染みの物語を解体し、新たな物語の草稿へとつながっていく。

今日の歴史学は、より現代に焦点が当てられている。適度な現代主義は必要だけれど、過剰になると、私たちの観点を過去に押し付け、時系列的関係に敬意を払わなくなる、と。これはヒストリシズム、のことかな。

ローカルとグローバルの歴史、自分たちと他者の歴史、アカデミックと通俗的な歴史、過去と現在、という様々な緊張関係。それを避けるのではなく、掛け合わせるように、対話し,ともに視座を更新していくことが大事なのだと理解しました。

_どのようにして終着点がやってくるのかを説明することと、その語り方によって選択がなされたという感覚を持つこととのあいだの緊張関係は、歴史を叙述するときに調整しなければならない最も困難な問題のひとつとなっている。選択の感覚がなければ物語は面白くない。しかし、物語は選択に至る論理がなければ意味をなさない。

時間の進行の感覚を必要とする物語からなる歴史。

目的地は物語の語り方に強く影響を与える。

歴史と歴史の表現には、自分を含め語たりの意図に意識的になることで、異なる視点や認識のあいだに対話と尊重を生むという役目があるのかもしれないとも思いました。

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2025年01月25日

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