【感想・ネタバレ】実験の民主主義 トクヴィルの思想からデジタル、ファンダムへのレビュー

あらすじ

デジタルが社会を一変させるなか、政治は分断を生み、機能不全が深刻だ。なぜ私たちは民主主義を実感できないのか? 本書は、19世紀の大転換期を生きたトクヴィルの思索と行動を手がかりに、平等・結社・行政・市民のイメージを一新し、実験的な民主主義像を描き出す。新しい技術が人々の想像力を変えた歴史を捉え、民主主義論の第一人者がフランス革命・アメリカ建国後の政治史を解説。AI時代の社会構想と人間像を探究する。

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Posted by ブクログ

民主主義、と言っても政治に限定せず、世の中をどうやって私たちが主権を持って動かしていくのか、がわかりやすく伝わってくる。
AIやSNSなどのコミュニティなど、現代ならではのツールにもふれながら、自分で「やってみた」が大事で、トライアンドエラーという実験を通して学び続けるプロセスの重要性を認識した。
実験から新たな問いが出て来て次へ次へと進んでいく、それ自体を楽しむこと、それが実験哲学であり、それが民主主義につながるのだと気付かされ、私たち一人ひとりでも今すぐにできる社会参加の形態なのだと感じた。

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2024年09月21日

Posted by ブクログ

★目次
はじめに 第1章 「平等化」の趨勢
トクヴィルのアメリカ旅行/銃、印刷、郵便/「未来はすでにここにある」/民主化/平等化の良い面と悪い面/アメリカ自治組織/マルクスの階級闘争/想像力の変容/デカルト的になる/小説→映画→ゲーム/個人主義の孤独

第2章 ポストマンと結社
親愛なる郵便局員/郵便≒インターネット/「集権」と「分権」/福沢諭吉の構想/プラットフォームとしての政府/アメリカで内戦が起きるとすれば/アソシエーションという身分保証/フランスと結社/陰謀論者/アソシエーションは軍事化する

第3章 行政府を民主化する
選挙というバイアス/ロックの「三権分立」/中国の科挙、一七世紀のペスト/目立つ議会、隠れる行政/人は腐敗する。機械はしない/超人政治家と精密機械/官僚の歴史/官僚の素質と編集者/行政とユーザー/「官僚や公務員を人間に戻す」/ポピュリズムでもなく、権威主義でもなく

第4章 「市民」とは誰か
首相の「大統領制化」/エリート任せから参加へ/保守の融通無碍さ、左派のコレクトネス /シトワイヤンvsブルジョワ/日本の市民運動/ファンダムはアソシエーションか/消費から創作へ/推し活=贈与する消費者/相互依存するケアへ/スキルの伝達/土地所有者→ブルジョワ→賃労働者→消費者→ファンダム/オタクと左派/二人のファンダム大統領

第5章 分断を超えるプラグマティズム
リテラシーからコンピテンシーへ/ルソーの一般意志の外へ/Do it with Othersの習慣/ Do から始まる参加/「民意」から「やってみる」へ/オンラインゲームの社交性/ファンダムの贈与・投資・消費/植物を手入れする「庭師」/コギトを乗り越える集合的知性/「対話」ではなく「やり取り」

第6章 「手」の民主主義
技術論と生成AI/イデオロギーからミッションへ/ガチャからの解放/イデオロギーの歴史/保守主義、自由主義、社会主義/代議制と政党の起源/政党クラブとフランス革命/ ボーイズクラブ/裏面のポピュリスト政党/直接民主主義の可能性/分人、くじ引き/名望家→職業政治家→相場師/ファンダムの趨勢/所有と使用の距離を近くする/プラグマティズムの習慣論/手の思想

第7章 感情と時間の政治へ
「不平等だけど違っている」/革命とおにぎり/食事の風景/依存が自由の条件/シェアとは持ち寄ること/推し活にあるケア/「実験」の時間/じっくり問いを探す

聞き手をつとめて
語り手のあとがき
図版出典
文献案内

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2024年06月22日

Posted by ブクログ

とても面白かった。タイトルに民主主義が入っているから政治的なことがメインかと思いきや、ビジネスや社会参加、生産者と消費者の関係性まで、幅広い議論が行われている。知識や技術の「民主化」により、平等化が進むが、それは必ずしも平和や安定を意味せず、むしろ細かい違いに注目がいき、差別や偏見を生むことになる。同時に、それまでの権威に対する信頼失墜に繋がり、社会が不安定化する。これに変わる信頼がファンダムに集まっている。いわゆる「推し」であり、確かに一定のお作法、共通の価値観、奉仕や貢献の意識など、コミュニティを維持する要素が詰まっている。現代社会を理解するのに非常に参考になる一冊。

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2024年04月21日

Posted by ブクログ

戦後の日本では職業を通じて経済活動をしていれば立派な社会の一員だった。民主主義とは何か、面白い一冊だった。

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2024年03月20日

Posted by ブクログ

トクヴィルが見たアメリカは「民主主義の実験場」。

「平等化」を促したものとして、プロテスタンティズム、銃、印刷、郵便というものを挙げている。

それまでの教育は過去から伝わる「規範」を身につけるものだったが、平等化の趨勢は、「自分で考える」ことを促していくのではないか?

「政治的集権化(政権)」は必要
「行政的集権(治権)」は不要

平等化によって孤独が起きる。なぜなら平等化が進むとちょっとした違いが気になってしまうから。
互いに平等なはずなのに残る不平等について、人々はより過敏に反応することになる。

「編集者は最初の読者だ」
アマチュアであることのプロであることが求められる

DXとはユーザー中心のこと

「行使の民主主義」とは選挙の日だけでなく、情報やデータを公開させて、それを使って有権者に問題提起やソリューションの提案まで市民が行政に提案できること。
重要なキーワードは、「透明性」、「ネットワークを活かした民主主義」、「開かれた統治」

これまでの民主主義は「承認の民主主義」であって、「行使の民主主義」がちゃんと問われてこなかった。
それによって「意思決定」と「その実施」の区別が「なし崩し」になっている。

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2024年02月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

選挙の結果が自分の想像力を超える事象が続いた2024年。選挙戦もSNSをうまく利用した人が勝つような、何を信じて良いかわからない時代に、民主主義とどう向き合っていけばよいのかについて、ここはやはり信頼できる宇野重規先生。トクヴィルについては今まであまりよく知らなかったけど、平等化の中で「想像力の変容」について考えていくことの意味は極めて現代的なテーマに思えた。
 第3章の行政府への着目の中で、編集者も官僚もジェネラリストであり、様々なネットワークを持っているという点。行政の本来の役割として、市民生活をファシリテートするということ。これは我々の業界でも同じ流れではないかな。民主主義について言えば、「承認の民主主義」から「行使の民主主義」へ。

 ファンダム、コンピテンシー、プラグマティズム、経験や習慣を基盤とした公共の形成。贈与、投資、消費など様々なものを含むプラットフォームで、参加者がルールを更新していくようなコミュニティ。ファンダム文化はともするとポピュリズムと親和してしまう可能性があるが、そこにケアの倫理を持ち込む。岡野八代やローティに連なっていく。

300ページ程度の新書だが、噛み砕きなら読んでいたらすごく時間がかかった。自分の関心領域があちこちにあって、何度か読み返すことだろう。

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2024年12月23日

Posted by ブクログ

民主主義の立法権だけではなく執行権(行政権)への着目、新たなアソシエーションとしてのファンダムの可能性への対話。
行政権のアップデートは萌芽を感じる。
ファンダムは試みとして興味深いが、ポピュリズム以外の着地が浮かばない。

第1章 「平等化」の趨勢
・平等化をめぐる想像力。かつてと比べて「違い」は相対化されたが、むしろその小さな違いに敏感になる。平等化の趨勢は不可逆。
・道具の民主化と民主主義化は別物
・個人主義の不安

第2章 ポストマンと結社
・政治的集権と行政的集権を区別する
・「自由を援け合う術」としての結社(アソシエーション)。デモクラシーを相対化する。
・宗教(所属する教会など)による信用度の担保。ファンダムによるアソシエーション。インターネット社会によるアソシエーションの暴力化(ハイブリッド戦争における「総動員」の常識化。

第3章 行政府を民主化する
・ペスト流行から「人を生かす権力(生権力)」として、国民の生の把握と管理のための官僚機構が精緻化。
・「合理的な法と統治システムさえあれば、社会はよくなる」という考えから、立法権に関心が集中。行政権は従属的とみなされる。実態の転倒。
・官僚の機械的イメージ。
・日本の武士から由来する「学問だけではダメだ」という価値観。揶揄しても潜在的な「お上」への信頼。
・人文的教養を重視する欧米の官僚制。プロの視点よりも幅広い教養。
・「アマチュアであることのプロ」。編集者と共通する素養。国民と政治家をつなぐファシリテーター。
・官僚の人間化。

第4章 「市民」とは誰か
・「市民」という言葉には、ルソー的な古代の都市国家に依拠した「政治に主体的に参加する人(シトワイヤン)」という意味と、「単にそこに暮らす人」、あるいは「経済活動に専念している人たち(ブルジョワ)」という三つ概念が混在じている。
・Z世代の80%以上が推し活をしている。消費から創作。

第5章 分断を超えるプラグマティズム
・リテラシーは受動、コンピテンシー(何かを「する」能力)は能動
・プラグマティズムは、人が何かを「信じようとする権利」を最大限に擁護することを、思想の基盤に置く。人間は考えがあるから行動するのではなく、行動する必要があるから考えを持つ、その行動から得られた結果をもって、さしあたり、その理念が正しかったかどうかを検証することができる。
・Do it with Others (DIWO)。「参加型」「行動」の重要性。終わりをデザインするのではなく始まりをデザインする。

第6章 「手」の民主主義
・ファンダムの可能性は、選挙ではなく、その外にある共創活動
・エネルギーの地産地消など所有と利用が一体となる、距離の近さと即応性

第7章 感情と時間の政治へ
・自立というのは依存先を増やすこと。「自由」と「依存」は対立的な関係にあるのではなく、現実的にはむしろ補完的な関係
・一方的なものではなく相互依存というレイヤー
・分担ではなく「持ち寄る」という発想

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2024年03月23日

Posted by ブクログ

こういった、ものの根本を再検討する著作は読みごたえがあります。
民主主義のこれからの在り方がファンダムに見いだせるのではないかというあたり、挑戦的ですが納得するものがあります。ただ、一度ですべて理解できるような内容ではなく、高度な内容をたくさん含んでいました。

別に問題ではありませんが、本書はインタビュー形式のような体裁をとっているところ、実際には対談のようです。

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2023年11月18日

Posted by ブクログ

『実験の民主主義』とは、自由の国として建国されたアメリカ合衆国を、19世紀のフランス思想家トクヴィルが指した言葉である。王政からの革命によって混乱期にあったヨーロッパから見て、理想的な分散型主権国家を築きつつあった合衆国は眩しく見えたに違いない。

この19世紀の理想的な民主主義国家が、21世紀には強烈なポピュリズムと分断に見舞われていることを私たちは知っている。メディアの発展やデジタル化は、情報の非対称性を解消するとともに社会階層の平等化に寄与したと考えられてきた。ところが実際は偏った情報によるイデオロギー極化や、小さな価値観や立場の差異による分断差別が起こっている。

この古くて新しい課題に対して、国家という統治フォーマットは無力である。むしろこの政治と行政の機能を一緒くたに考えてきたからこそ、社会機能が制約を受けてきたというトクヴィルの思想は慧眼であろう。そして政治体制としての中央集権と行政区分としての自律分散こそが、理想的なフォーマットであると説く。

政治体制といっても、従来のイデオロギーに準じた敵味方の色付けはもはや大多数の無党派無関心層を生むだけである。むしろファンダム≒推し活のような熱狂を生む仕組みこそが求められる。またそこから行政区分は切り離し、デジタルによる恩恵を最大限に発揮すべきだろう。

個人的には、実験≒プラグマティズムの考え方にとても親和性を覚える。自分自身が小規模でも実験的なことを繰り返してきた人生であるし、スケールするにしたがい政治や行政のシステムが絡んでくるのを正直鬱陶しく思っていた。これからのポジショニング含めて、考えさせられる内容だった。

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2023年12月30日

Posted by ブクログ

2023年の現在、改めて民主主義とは何かを問い直す。
対話形式になっているのが面白いのだが、聞き手である若林さんの煽りに対して、アカデミアに住む宇野さんの冷静さが際立っていて興味深い。
興味関心や言葉の使い方の異なるお二人の創発がもっと見られたら素晴らしいと思った。残念ながら意見や主張がそれぞれ個人の単位でまとまってしまい、ある種の噛み合わなさを感じた。

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2023年11月22日

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