あらすじ
24歳のOLが、アパートで殺された。猟奇的犯行に世間は震えあがる。この殺人をめぐる犯罪記録、週刊誌報道、手記、供述調書……ひとりの記憶喪失の男が「治療」としてこれら様々な文書を読まされて行く。果たして彼は記憶を取り戻せるのだろうか。そして事件の真相は? 視点の違う“言葉の迷路”によって、謎は深まり闇が濃くなり──名人級の技巧を駆使して大命題に挑む、スリリングな異色ミステリー。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
1回目に読んだ時は皆さんと同じようにオチが???でした。ただ、あの清水義範がユーモア抜きに書いているんだから、何かあるはず。と思い、解説をよく読んで、本文を読み返しました。
はじめは『八つの異なる文体を用い、様々な角度から読者の前に提示してみせる。』これが清水義範がやりたかったことか?とも思いましたが、しばらくして壮大な仕掛けが隠されているのに気付き、何回でも読み返したくなる衝動に駆られました。これは作者による300ページにわたる大実験といっても良いかもしれない。
『犯罪報道における「事実」とはなにか。人は、自分に理解できる「事実」を捏造し、勝手に理屈を付けたがっているだけではないか。人間の行動には、言葉では説明できない部分がある。人の心の奥底にある真相は、他人にはそう簡単に、わかるものではない。にもかかわらず、それを言葉にするのが作家の使命である。』この大命題に作家清水義範は挑み、そして読者に問いかけます。『なぜあんな異常な殺人をしたのかの理由も、世界中できみだけはちゃんとわかっているんじゃないかい』清水義範が用意した八つの資料を読んで、井口克巳がなぜ藤内真奈美を殺害したのかの理由が頭に浮かべば、清水義範による『実験的な治療』は成功したと言っていいのかもしれません。
国際的な政治駆け引き、恋愛における温度差、ビジネスマンの社内外での評価、、、などを題材にこの手法を使った内容の違う本が生まれても面白いかもしれない。などと読後の勝手な想像は尽きません。
Posted by ブクログ
ある猟奇殺人事件のあらましを、
(犯罪記録)(週刊誌報道)(手記)(取材記録)(手紙)(供述調書)
といったさまざまな表現で読者に「読ませる」。
というのも前提が、あるひとりの記憶喪失の男が治療として「読まされる」からである。
文体を駆使しているのはわかるのだけれど、
どうしても章ごとに同じ意味合いのことが続くのはとても疲れる。
その割の落としどころというか、結局は最後まで「迷宮」でした、みたいなのは、
個人的には合わないか。
『微笑む人(実業之日本社)/貫井徳郎』と読後感が似ている。
ミステリ :☆☆
ストーリー :☆☆☆
人物 :☆☆☆☆
文章 :☆☆☆☆
Posted by ブクログ
記憶喪失で精神病棟に入っており、診療を受ける男性。
その男性に診療を行なう診療士。
診療は、ストーカー殺人のうえ女性器の一部を持ち帰るという猟奇的犯行を行なった殺人犯の取調べ記録、その殺人犯の真意に迫ろうとする小説家の手記を男性に読ませるという方法で進められる。
著者の作品は設定などに奇想天外ともいえる破天荒さがあるイメージがあった為、最後にどんでん返しを期待したが、結果はそのままに終わってしまってちょっと食傷気味。
Posted by ブクログ
ちょっと軽めのミステリーが読みたい、ということで、書店の文庫コーナーで見つけた本。
帯の煽り、「こんなとてつもない1冊が埋もれていた!」に惹かれて購入。
記憶喪失の男が、治療と称して読まされる、猟奇殺人に関する文献。
この各種文献(供述調書・週刊誌の記事・他)を中心に流れていく物語。
各章での文章の書き分けが実に見事で、読んでいて飽きないタイプ。
とにかくリアルで緻密な描写で、読んでいるこちらはグングン引き込まれたのだけど、
残念なことにラストがあまりに食い足りない(^^;)。ここに予想外のオチが付いてれば、
かなり印象は変わったと思うんだけど・・・。
最近読んだ完全なる首長竜の日に近い印象。
ただ、こちらの作品の方がぐにゃり感が無く、サラッと読める事は間違い無い。
しかし、どちらが印象に残るかと言うと・・・。
・・・返す返すもラストが惜しい。ちょっと残念かな?
Posted by ブクログ
ごく普通のOL藤内真奈美は、合コンで知り合った大学生の井口克己に付きまとわれた末殺され、身体の一部分を切り取られる。井口はそれをアイスクリームの中に埋め込み保管していた。作家の中澤は、世間で『アイスクリーム殺人事件』と呼ばれたこの猟奇殺人を題材に小説を書くべく、井口や真奈美の周辺を取材する。その取材メモや週刊誌などの記事を、『記憶喪失にかかっている男』が治療の為に読んでいく、という筋立て。こうして書くとややこしい。
語り手が記憶を失っている為、霧の中を手探りで進んでいるような心許ない状況ではあるが、徐々に真相に近づいて行く過程は読ませる。井口の異常性や真奈美の他の一面も、いきなり前面に押し出すのではなく、読むうちに分かってくるのも良かった。ただ、大方そんなところだろうなと予想通りになってしまってはいるが。近年ストーカー事件が起こりすぎているので、こんなことくらい珍しくないという気になってしまっているのだ。勿論そう思うことに実はなくむしろ危険だ。
明言はされないが、語り手が井口、治療師が中澤という関係で進んでいるように見える。だが、本当は二人は同一人物で、殺人以後の全ては井口もしくは中澤の妄想であるようにも思える。ラストが分かり辛いというかスッキリしないが、分かったような気でいればいいのだろうか。だって脳髄は人間の中の迷宮だから。