【感想・ネタバレ】世界を動かした名演説のレビュー

あらすじ

名演説とは時代や歴史、社会問題や政治運動を色濃く記録したサムネール(縮図)だ! 武器にもなり癒しにもなる言葉の力とは。チャーチルの第2次世界大戦の戦況を逆転させた演説から、ドイツ発史上最強の謝罪演説、ゼレンスキーの戦時下演説まで。冷戦、戦争責任、グローバルサウス、人種差別、宗教戦争、コロナ禍そしてウクライナ戦争。現代史と世界情勢の要点を、話術のコツと合わせて総覧し、歴史に残る名言を味わい尽くす。

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Posted by ブクログ

原田マハの『本日は、お日柄もよく』というスピーチライターの魅力を描いた小説が面白かったが、本書は、ノンフィクションで描く演説の力に迫った内容だ。

世界を動かした。しかし、これは一面では形容矛盾であり、なぜなら、演説の場面には先に大勢の大衆がいて、既に世界は動き出していたからだ。演説の力を否定するものではないが、より正確に捉えるならば、先に「動員力」がある。この動員力の本源には、別の場面での小規模な演説の力、政治力、媒体を用いた演出力などの積み重ねがある。そうして集まった大衆に、更に演説の力が響く。動員の拡大再生産のメカニズム。そして、これらに共通するのが「言葉の力」だ。

もう一つ考えてみたい事があった。それは、言葉に潜む権威主義。これは固有名詞にこびりつくラベルとしての権威でもあるし、修辞や語彙力の巧みさによる、人心掌握術的な要素により構成されるもの。この本の面白さは、そうしたレトリックを冷静に見抜き、批評する点にもある。

それと池上氏と対話する、パトリックハーランの存在。誰やねん、と思ったら、パックンという高学歴漫才師である。パックンのおかげで、英文の語感が解説され理解が進む。

― 修辞学では、説得力のある演説には3つの要素があると言われています。エトス、ロゴス、そしてパトスです。エトスとは、その人物自身の頼性です。人格や経歴、権威が含まれます。その人の話を聞きたくなる要素ですよね。ロゴスは論理的なアピール、そして磨かれた言葉の力、そしてパトスは聞いている人の感情です。チャーチルは、失敗したチェンバレン政権とは違うとアピールすることでエトスを高めようともしましたが、彼の強みは何と言ってもロゴスです。何度も原稿を書き直し、繰り返し音などの巧みな技を駆使しながら感情を高めるストーリーを練りに練っていました。

パトスで大衆を操作したと看破するというのは、言ってしまえば、批評する側が衆愚を認めるような発言でもある。大衆が煽動されたのは事実でもあり、そこに配慮は必要ないという考えもあるか。いや、寧ろ「感情で動く=愚か」という私の決めつけの方が問題かもしれない。しかしどうしても、印象や感情で動かされる大衆には危うさを感じてしまう。人間が完全に合理的にはなり得ないとしても。だが、大衆にとっての正義の感情ならば、ありだろうか。

但し、犠牲を伴わない正義が、この社会に存在するのならば。

― 「10日目には、武器を持たないウクライナ国民が抵抗を始めた。装甲車を、自らの手で止めようとし始めた」これを聞くと、ヨーロッパの人はハンガリー事件(1956年)とプラハの春(1968年)を思い出すはずです。東西冷戦時代、ハンガリーで民主化運動が起きました。ブダペストに戦車で乗り込んできたソ連軍に対し、ハンガリーの人々は素手で立ち向かい、多くが殺されてしまった。あるいはチェコスロバキアの民主化運動プラハの春でも、ソ連の戦車で多くの民衆が踏み潰された。そうした歴史を彷彿とさせる一文です。中国の天安門事件(1989年)を思い出す方も多いでしょう。

中国政府にとっては、天安門事件は呪いのようなものだ。それこそ本書で学んだアポファシス(陽否陰述「言わないことによって言うこと」)により、規制している事が弱点を晒している。正義の感情を揺さぶる、言葉の力とは、こういうものだ。同時に、無謬性のある真の正義ならば言葉によって揺さぶられる事はないはずで、故に、正義が可謬的である事の証左でもある。

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2025年04月03日

Posted by ブクログ

人にわかりやすく伝える優れた知性を持つ二人の解説によって、時代・国家背景がよくわかり、演説の内容、人となりがよく分かる。
だがこれを読んでも自分のスピーチは上達しないな

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2024年10月25日

Posted by ブクログ

演説で概観する世界の近現代史。英語の表現にも、これはうまいとか、音韻にふれられていて、聞く人の琴線にふれる言葉の使い方を教えてくれる。なかなか楽しかった。

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2024年07月20日

Posted by ブクログ

名演説が名演説たるゆえんを、池上さんとパックンの解説で読む。

なぜ聴衆に響くのかを、背景となった出来事やその国や民族の文化、歴史、演説内の言葉や言い回しを解説してくれる。

この本は英語話者ならではの解説があってこそ。
演説内のどこがどう感じるのか、これを言われると何を思い出し、何と結びつけるのか、怒りを煽るのか、同情を誘うのか、異国の出来事でも自分のことのように考えることができるのか。
単語の並び、発音、対比、美しさ、力強さなど、へぇーーーと思うことばかり。勉強になった。

名演説と聞いて思い出すのは、ブッシュ元大統領のI can hear you。
グラウンドゼロで瓦礫の上に立ち、作業員との偶然のやり取りから発せられるあの演説は、鳥肌が立ったし、アメリカ人の琴線に触れるものであることが感じられた。私がそこにいたら、涙と力が溢れるだろう。
YouTubeでも観られるので、ぜひ。

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2024年04月05日

Posted by ブクログ

教科書的に文章を読み解く作業に似たような感覚を、ある程度知識として抑えておくべき歴史のターニングポイントにおける演説文章に触れながら感じられる。

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2023年12月24日

Posted by ブクログ

池上彰とパックンの掛け合いも軽妙な世界の名演説の紹介。英語の教科書で読んだキング牧師からマルコムXもありながら歴史としてのチャーチル、ケネディ、ヴァイツゼッカーなど英文で見るとまた翻訳と違う趣を感じられた。
やはりこうして比較すると日本人総体としてのプレゼン文化のなさが感じられる。

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2023年12月09日

Posted by ブクログ

世界の演説に関する、池上彰さんとパトリックさんとの対談集です。

人の心に残ったり歴史を超えて語り継がれていく演説は、それなりに理由があって残っているのであり、それを表現や文化的な側面から解き明かしてくれています。

心を動かすスピーチとするにはどういった要素が必要か、何をやってはいけないか、人前で話す方にとっては参考になるのではないかと思います。

また、多くの演説に触れ、人を動かすのは大義とそれを伝えるための言葉であると改めて感じました。

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2024年04月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 配役の妙。
 話術に長けたパックンが、修辞学に基づいて、演説の内容をレトリックや言葉遣いについて分析、池上さんが、演説がなされた時代背景や世界情勢を解説し、その意義を補完する。
 対話調にまとめられているので、お手軽に読みやすい。筑摩書房編集局のお手柄か。

 取り上げられた演説は全部で15。チャーチル、J・F・ケネディは当然ながら、レーガン、キング牧師、ネルソン・マンデラと、名だたる名演説が列記されている。
 ややもすると、それらは何度も見聞きし、世の名言集にもピックアップされているようなものも多い。池上さんの解説にも、いまさらながらの目新しさもない章も少なくない。
 そこを、英語のネイティブで話術の達人のパックンが、修辞学に基づく解説を加え、なぜ、その演説が聴衆の心を捉えたか、その後の行動を促す結果になったか、世界を動かしたかを解説する点が新鮮。

 説得力のある演説の3つの要素、エトス(信頼性)、ロゴス(論理)、パトス(勘定)は憶えておこう。

 近年の演説も含まれる。ドイツのメルケル首相や、当時の安倍首相、そして、ゼレンスキー大統領らのものだ。
 まだ現役の人の演説を、ここで取り上げ持ち上げるのはどうなのだろう。

 本書、チャーチルの章で、ふたりはこうも言っている。

P:それにしてもこんな見事なレトリックで国民を鼓舞して、戦争に勝ったからいいものの、もし負けていたらチャーチルは今とは正反対の評価を受けていたかもしれません。
池:だからチャーチルは是が非でも戦争に勝たなくてはならなかった。

 つまり、その後の結果が、その演説を名演説たらしめた、ともいえる。
 徹底抗戦を国民に訴え、海外からの支援に頼り、国民を盾に戦争を続けるための演説が、果たして「正」だったのか? 
 時の洗礼を受け、やがて淘汰されていくのだろう。

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2023年11月17日

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