あらすじ
19世紀後半、天才医師と、奇怪な手術で蘇生された女がいた。そう記された古書に魅せられた作家はある行動に出る。映画化原作
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傑作。
女性が押し付けられる物語についての物語を男性作家が書くことの押しつけがましさ、おこがましさというものに対して真っ向から向き合った作品。向き合った結果がこの枠物語の構造だ。読者を混乱させて楽しませる機能のためだけの奇妙な構造ではなく、作者自身が加害者の一人になることで、この物語のテーマを強固にしている。
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先に映画を観ていてよかったと思った。
というのも、映画では描かれなかったことが原作本には書いてあり、それによってまた解釈も変わってくるからだ。
ただ、本当のところどうだったのか?というところはこの本を読んだ私達に、自由に思考せよと言われているような感じがして、そこもまた良い。
本自体にもいろいろな仕掛けがされていて、改めて紙の本の良さを実感した。たくさん思考する時間が物語の長さを感じさせないくらい楽しく、あっという間だった。こういう読書体験は久々だったかもしれない。ベラの成長過程、そして成長した先に見つけた彼女の生き方を見ていると、もっと知ることに貪欲でいたいと思うし、自分自身の心を信じて、逞しく生きていきたいという気持ちになる。
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女性が女性として教育された脳をリセットして、思うがまま自由に生きてみたら…。
そのリセットというのが、胎児の脳を移植するというのだから、本当に何の先入観もないゼロからのスタートである。しかも、身体的には魅力的な容姿を持った成人女性として。
女性は選ばれ、管理されるものである。女性は結婚を望み、性に関しては受け身なものである。
そのような女性観をリセットした主人公 ベラの言動は、現代においても新鮮で、見るものを清々しい気持ちにさせてくれる。
特にベラとウェダバーンの駆け落ちあたりが最高に面白かった。2人の関係性がよくある駆け落ち中の男女の描写とは違って、性欲や感情に支配されずに、目的を持って計画的に行動しているベラの姿がかっこよく思えた。
そして文章のリズムも心地良く、頭の中をふわふわと短歌が漂っているような不思議な感覚が味わえる。クセになりそう。
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あらすじを書くと、19世紀末の医学博士の若き日の回想録と、その妻による回想録に対する反論を、20世紀後半のある作家・画家が編集したことを書き記したフィクション、ということになる。それだけ。世に出回っている、身投げした女性に胎児の脳を云々というあらすじは、上記の回想録の部分を要約したものである。
この本の中の語り手は、編者、医学博士、医学博士の妻の3人であり、このすべてが信用ならない。
編者はこの本の著者と同じアラスター・グレイだがあくまでフィクションであるこの本の架空の登場人物と見るべきである。ああややこしい。
で、中でも最も信用ならないのが編者である。回想録が真実であることを裏付けるための事実を並べ立て、巻末には異常なほどの量の注釈で補強しようとしている。回想録の真偽については回想録の最初の発見者とは意見を異にしているらしい。一人前の作家であるという自負があり、見栄を張りたいという様子が透けて見える。
ということはつまり、回想録はアレであって、妻の反論の方がアレであって、世に出回っているあらすじはつまりアレであって、、、ということになる。この構造的ないたずらがとても面白い。訳者までもが、この編者のたくらみに加担したような解説文を寄せているところも笑える。
ちなみに、ある意味本編とも言える回想録の部分は、奇想天外なゴシックホラー的、SF的な冒険物語となっていて、ここだけ取り出してももちろん面白い。
映画化されているが、本全体なのか回想録の部分だけなのか気になるところ。
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それぞれの世界で描かれる哀れなるものたちの数奇な人生。
語り継がれる人々の人生は全て主観的なものでしかなく、それが真実か否かは物語において特別意味はなさない。あるのは文章の中で確かに生きているという事を改めて教えてくれるとても素晴らしい物語だった。
ストーリー上でアラスターグレイと共に登場する歴史家のノンフィクション作家と事実か否かで意見が分かれるところから始まるのもまた粋というか。。。
終盤マッキャンドルズが語る史実が終わりベラから見る自身の史実と合わせて、中略という形で客観的に語られるアラスターグレイの史実が繰り広げられるが、全ての人が幸福で格差のない理想郷を望んでいる彼女の存在そのものが未だ存在し得ない社会主義のユートピアと重なり、この物語の虚構性と来ることのない世界平和を語られているような哀しい気持ちにさせられた。
こちらが何かに渇望する哀れなるものへの仲間入りをして締め括られる物語、本当に素晴らしかった。
映画見た人は絶対見た方が良い!
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先に映画観て大正解だった、エマ・ストーンさんが演じたベラを思い出しながら読むともう楽しすぎて楽しすぎて。
長いと思った533ページ、読み終えるのが惜しいと思うほど。面白かった……。
アラスターグレイさん自ら描いた挿絵もあったり、註釈、写真、などもあり、なかなか凝ってる本になってると思いました。3枚目のカバーの絵もアラスターグレイさんが描いたものらしい。
2枚目のあらすじの通り、ある医者が自殺した妊婦(ベラ)に、そのお腹の中にいた赤ちゃんの脳を移植し、蘇生させた。
その女性は体が大人なのに脳が赤ちゃんという状態で第2の人生が始まり…とてもはやいスピードで成長していくベラ。
本当に楽しくて面白かった、それだけではなく、色々考えさせられたこともあり、自分も成長を止めることなく色々吸収したいと思いました。
この本も映画も面白かったのでオススメです。
こんなに楽しい!と思う読書は久しぶりかも。
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映画がとても素晴らしかったので、小説も読んでみた。
基本的には映画と同じ物語、展開ではあるのだが、登場人物周りは映画のほうがよりベラが主体的だった印象。このあたりは昨今の再びのフェミニズムのブームからの影響か、現代的な改変がされているのかな、と。
そして世界観の構築も結構違っていた。
映画はヴィクトリア朝時代のような世界観にスチームパンクと、ファンタジーを混ぜたような世界が作られているる。
小説のほうもケレン味を効かせた部分はあるのだが、映画ほど荒唐無稽な世界ではない。メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』なんかの世界観構成と近いかもしれない。SFやファンタジーに振り切ってるわけではないという感じ。
それもあって映画から小説に入ると結構世界観の違いに驚く部分もある。
一番驚いたのは『哀れなるものたち』が結末を迎えた後に、もう一つ物語があって、その部分。
これはベラ本人による手記なのだが、これは映画にも描かれていないので、結構驚くというか、煙に巻かれたような気持ちになった。
今まで見ていたものは何だったのか……。そんな気持ちになる。
でも、それも含めて面白かった。
ただ一つ残念だったのは、これを自分は文庫本で読んだのだが、圧倒的にハードカバー向きの本だったってこと。
それと、国書刊行会は『ラナーク 四巻からなる伝記』を再販してくれ!
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著者、アラスター・グレイが偶然手に入れた医学博士、ヴィクトリア・マッキャンドルスによる一連の書類をグレイが編集し直したもの、という体で綴られるメタフィクション。
ヴィクトリアの夫、アーチボールド・マッキャンドルスが発行した書籍がベースになっている。
この書籍は完全にアーチボールドの視点で描かれており、件のヴィクトリアは、自殺したうら若き美しい女性ブレシントン夫人の肉体に、彼女が身ごもっていた胎児の脳を移植したいわゆるフランケンシュタイン的に生み出された女性であり、いかにアーチボールドが彼女に惹かれそして人生を共にしたかについて綴られている。
内容は胎児の脳を移植されたヴィクトリアが逃げ出して世界を駆け巡る中で圧倒的な成長を果たしていくという様を、あたかも「アルジャーノンに花束を」のパロディのような感じで綴っているものであり、確かに面白いものではあるが、SFとしては「ふーんなるほど」という感じ。
この小説が面白いのは、ただ単にそれで終わらず、このアーチボールドの書籍に対し、当事者であるヴィクトリアの手記が添えられていること。
この手記はヴィクトリアの視点で綴られており、これを読む中で、どちらの主張が正しいのかがさっぱりわからなくなる。
その答えがどうなるのかは実際に読んでもらって体験して欲しいが、これはなかなか見事に考えさせられる構成となっている。
冗長かなーって思う部分も結構あったけど、500ページ強、ボリュームを感じさせず楽しませてもらった。
いいSFだったと思う。
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観てから読みました。
映画は原作に忠実ではないけど、原作の風味を全く損なっておらず!それも驚きでした。
最終的な「真相」としては、マッキャンドルスの記録派です。
マッキャンドルスも、ベラも、信用できない語り手、だとしても、ラストの一文で、マッキャンドルス派…。
村田沙耶香さんの「信仰」を読んだ時と同じ感覚に。小説なんだから作り物前提なのに、事実としてあったかも、と思わせられる感じ。
頭が良くても、貧乏だと外見に出てしまい、やはり弾かれてしまうことの辛さも描かれていました。
マッキャンドルスの身の上話もそうだし、ベラの(実の)おとうさんが、成金後にベラに与えた教育内容もそう…出自、育ち、辛い言葉です。
そんな言葉に振り回されず静かに生きる方法…
そんなことも考えさせられました。
そして、反戦・反軍国主義小説でもありました。
若者を殺すだけの戦争…
そのあたりをきちんと語っていました。
また、社会主義をベラに語らせていました。
それにしても「ウェド」だらけで少々疲れましたが(笑)、不思議な、おもしろい本でした。
映画共々賛否両論なかんじ。
読める人、観ても大丈夫な人にオススメ。
私的に星4つぴったり。
内容をよく表現している表紙イラストもアラスター・グレイ本人。すごい。
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良くも悪くも「人を食った」ような形式をとった作品で、流石はイギリス文学! と感じました。
川へ身投げして死んでしまった女性の胎内にいた赤ん坊の脳を、医師が母親に移植して蘇らせた…という概要だけは知っていたのですが、ストーリーそのものだけでなく、物語の形式そのものが、読者に色々と考えさせる構成になっているのが何とも曲者でした。
恐らくですが「フェミニズム」が激化したり、世間の考えに変化が起こるたび、評価を集める作品ではないでしょうか。
映画版だと後半部分は(ほぼ?)カットされてるとのことですが、そちらも好評なので観てみたいです。
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映画を公開日に見て、非常に面白いと感じたので、原作を手に取ってみました。
映画でも扱われたシーンは頭の中で想像しやすくより楽しく読めました。
ヴィクトリアの手紙によって、映画で扱われた大部分を否定しているためどっちが真実なのかは分かりませんが、それもまた物語の深みも増して良いと思いました。
個人的には映画よりも、原作の方が哀れなるものたちというタイトルがとてもしっくり来ました。
訳者さんが、哀れなという訳を多様して下さっているので、心に引っかかる部分は多いと思います。
ぜひ、映画と原作合わせて見てほしいです。多くの時間、この作品に触れられて幸せです。
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映画が衝撃的な面白さだったから原作を読んでみた。
ストーリーは概ね映画と変わりないけれど、"実在の人物が昔自費出版した本とその妻のメモを作者がまとめた"という体裁を取っているのが独特。映画には無かった最後の仕掛けによって、原作でも脳がクラクラする経験ができる。
序文や注釈によってフィクションをあたかも実際に起きた事のように思わせる作りなのに、最後にそれがひっくり返される。今までの作者の努力とは真逆の仕掛けのように思えるのだけど、「どっちが真実?」と混乱しているうちに、「どちらかが真実のはず」という思考になっていて、まんまと作者の術中にハマっていることに気付く。
ただ、映画を先に観てしまっていると完全にフィクションとして読んでしまうのがちょっと勿体なかったかな。
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奇書だ…!というのが第一印象。
実際の手紙のヴィクトリアが夫をバカ呼ばわりしていたり「こんな物書く時間があれば社会貢献のために働けよ」的なこと言ってたのが残念な気持ちになった。資本主義や家父長制の倫理と似たような考え方に陥ってしまうのが。
事実と違うのに自分がフランケンシュタインの怪物にされてたら腹立つのも分からんではないが。
ヴィクトリアは(1914年には)アーチボルドの回顧録の内容を嘘だとして拒絶したが、1920年の「愛の経済」(の序文と書評)を読むとヴィクトリアが(アーチボルドの書いた)ベラと同一化していったようにも感じる。これの本文も読みたかった。
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映画の評判や本の評判でフェミニズム的な側面が強い本だと思われてそうだけど、この本はエゴ、進化学習へのメッセージが強いと思った
可愛らしく素敵な女性ってだけじゃダメだと思ったベラが学んで進化していく過程で他者からのエゴに振り回されたり、バッサリ切り捨てたりするその行動がベラの魅力の一つだと思った
私は比喩表現が多いと読み飛ばしちゃう人だから少し本だけではメッセージをちゃんと受け取れなかったかも、映画行ってきます〜!
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「天才外科医が女性の死体から造り上げた人造人間」と結婚した医師の回顧録に、その人造人間が「私は人造人間ではなく本当の人間だ」と主張する手紙を付録にして編纂した書物…という体裁の書。
どちらの言い分が正しいかは読者の判断による。
映画化されたようだが、映画ではどちらの解釈なのか気になるところ。
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映画も衝撃的だったけど、小説も違った意味で衝撃的!映画よりベラの成長がひしひし感じられた。そして一体どちらが真実なのー⁈*感謝する必要のない人がそばにいるってなんて素敵なことかしら。
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映画観てから読んだ。ベラがマッキャンドレスの記述をほぼほぼ否定していて、だいぶ印象が変わった。役者あとがきまで含めてみても、結局何が真実かは藪の中である。複雑で凝った1冊だった。
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監督:ヨルゴス・ランティモス、主演:エマ・ストーンで映画化され、日本劇場公開が迫った話題作(2024.1.21現在)。映画は、発表されてから注目していたが、原作があることは最近になって知り、せっかくなので先に原作にあたってみることに。
19世紀末、スコットランドのグラスゴー。医師/科学者であるゴドウィン・バクスターは、溺死した妊婦の胎児の脳をその妊婦本人に移植して蘇らせることに成功、ベラと名付けて養育した。大人の身体に無垢な精神を宿したベラは、その不思議な魅力で出会った男性たちを虜にしていき、彼女自身、様々な知識や経験を取り込み成長していく―――。
・・・といった内容が記載された一冊の書物(=『スコットランドの一公衆衛生官の若き日を彩るいくつかの挿話』)を手に入れたアラスター・グレイ(著者)が、本編に、その書かれた内容が真実の話なのかの歴史的考察と、本編に対するヴィクトリア・マッキャンドルス(=ベラ)の書簡を添えて編集して、一つの作品に仕上げたという体のメタフィクション。(ややこしい!)
メインとなるのはやはり「ベラの奇妙な冒険」なのだが、作品をとおしてみるとその物語自体が主という感じではなく、男性/女性としての本能や価値観に囚われ、羨望・嫉妬・憤怒・絶望に見舞われ苦しむ、全ての"哀れなるものたち"のための話なのだと感じられた。
先に書いたような特殊な作品構成には目を見張るものがあるが、作品としての面白さは、(決して面白くなかった訳では無いのだが、)ちょっと期待し過ぎていたかもしれない。どのように映画化されたのか、非常に気になる。