あらすじ
科学によってアルツハイマー病を克服するためには、まずこの現状を見直さなければならない。インサイダーだけが知る、袋小路に陥ったアルツハイマー病研究分野の今。「私たちはアミロイドのみのルートを通ってアルツハイマー病の治療薬を追い求めてきたために、多くの時間を失った。たぶん10~15年は無駄にしてきただろう」(本文より)。実績ある科学者が、アカデミズム・製薬産業・関係官庁三つ巴の迷走の驚くべき裏事情を明かす。良心的な告発の書であり、アルツハイマー病についての直近数十年間の認識じたいを根本から問い直す一冊。
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Posted by ブクログ
内容については言うに及ばず、和訳が良い。本書は下記のような注釈から始まる:
"本書は現在「アルツハイマー型認知症」と呼ばれる疾患の研究について記述しており、この疾患名が頻出語となるため「アルツハイマー病」と略記する。また、「若年性」「家族性」などの断りが特にない場合は、弧発性アルツハイマー型認知症を指す。"
本書は「アルツハイマー病とは結局、なんなのか?」という本なので、和訳にあたって慎重に言葉を定義するのは極めて誠実な姿勢と考える。自分は原書をあたっているわけではないので原書と和訳書の比較まではできないが、この注釈が最初にあるお陰で全編にわたって安心して読み進めることができた。
アルツハイマー病とは何なのか、については、自分の認識としては「アミロイドβの蓄積を特徴とする、認知症のごく限られた一類型」(=この世で観測される認知症の大部分はアルツハイマー病ではなく、老化の一類型に過ぎない)というものだったが、本書を読んでその認識はそう的外れではないと感じた。筆者の主張は、「現実としてアルツハイマー病の定義が極めて拡大されている以上、くくったものを正確に描写した要素を定義とすべきである=アミロイドに固執すべきではない」というもので、至極尤もであり首肯する。というか、次第に「アミロイドβの蓄積を特徴とする、認知症のごく限られた一類型」が実在するのかも疑問に思えてきた。アミロイド蓄積が治験の主要評価項目というのは妥当ではないと感じる。
基礎研究に公費を投じるにあたっての「選択と集中」については本邦でもたびたび(否定的な文脈で)議論に上がるが、医薬品開発のグローバルリーダーに見える米国でも同じような悩みは尽きないというのは面白い。