あらすじ
いつか自分たちの土地を持ち、
ニワトリやウサギを飼い、
土地からとれる極上のものを食べて暮らす──。
しっかり者のジョージと怪力のレニーは小さな夢をもっていた。
自然豊かな一九三〇年代のカリフォルニア。
貧しい出稼ぎ労働者の、苛酷な日常と無垢な心の絆を描く、
哀しくも愛おしい名作が新訳で登場!
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Posted by ブクログ
ああ……なんて切ない話しなんだろう。アメリカのノーベル文学賞受賞作家の代表作『怒りの葡萄』同様に、こちらも傑作。短いので新潮文庫版と読み比べてみました。
あらすじ:
カリフォルニア州で農場を転々とする二人の出稼ぎ労働者。ジョージは、小柄で抜け目のない性格。一方レニーは、体が大きく腕力もあるけど頭の方はアレな感じ。まるで正反対の凸凹コンビですが、レニーを育てたクララおばさんが亡くなってからは、ジョージがレニーの面倒をみて、レニーはジョージなしでは生きていけません。体だけ大きい子どもみたいな性格のレニーは、あちこち働く農場で問題を起こしては、ジョージの庇護のもと、一緒に次の農場を目指すのでした。あるとき、彼らは南へ向かって農場で仕事を見つけます。そんな働き場所を転々としながらも、彼らは真面目に働き、叶えたい夢がありました。ジョージの語るその夢は、物覚えが悪く、なんでもすぐ忘れてしまうレニーにとっては何度聞いても嬉しい夢物語。しかし、そんな夢を実現したい二人でしたが、新たに働く農場でも問題が起きてしまいます……。
読み終えると序盤からフラグ立ちまくりだったことがわかりますが、レニーを見捨てられないジョージとの間柄が好感持てるだけに、キャンディ老人の老犬に重なるレニーの行末を思うと切なくやるせない思いが残ります。社会の最下層に生きる渡りの労働者たちの悲哀や人種差別、人間を含めた命の尊厳について考えさせられるました。
短い小説ですが、そのキャンディ老人と三人で話し合うシーンが楽しそうだったり、黒人の馬屋番の部屋での会話にハラハラしたり、仔犬を可愛がるレニーに降りかかる災難などイベントも明確で読みどころも多くて読みやすい。ラストは、ラバ追いのスリムとジョージの会話に胸熱でしたね。
ところで、余談ですが農場の親方の息子であるカーリーの奥さんは、ストーリーに重要な役割を与えられつつも名前が明かされないところは、昔の作家にありがちな女性に厳しい面も感じました。
以下、新潮文庫版と講談社文庫版の比較:
新潮文庫のジョージは、少しおとなしめで丁寧な印象で、レニーは粗野でぶっきらぼうな感じの訳し方。二人の立場は対等に感じられます。一方で、講談社文庫のジョージは、尖ったものいいの兄貴という印象で、レニーは辿々しい語りのおどおどした感じの訳し方をしており、兄貴と弟といった感じ。
どちらか読んだ人なら、本の表紙と内容の印象がしっくりくると思います。新潮文庫の横並びで大きなレニーを見上げているジョージのイラストに対し、講談社文庫のレニーが大男なのにこぢんまりとしているのに、ジョージはジョジョ立ちとまで言いませんが、なんかカッコいい兄貴っぽいですよね。
また、ジョージがレニーのことを語る時、新潮文庫では”こいつ”と平仮名で書かれていますが、講談社文庫では”コイツ”とカタカナで書かれているだけでもかなり印象が違います。他の人たちの話し方も、新潮文庫の方は長閑な田舎の農民たちの会話のようで、講談社文庫の方が粗野な渡り労働者の雰囲気が感じられる男らしい話し方。これが、エンディングの印象をがらりと変えています。自分は、新潮文庫はバッドエンドに感じましたが、講談社文庫は悪いなりにも未来につながる終わり方に好感がもてました。
あくまで個人的な意見ですが、自分は翻訳の新しい講談社文庫の訳し方の方が好みでした。値段は100円高くても巻末に年譜もついているので、どちらを読もうか迷っているなら講談社文庫の方をおすすめします。
Posted by ブクログ
なんともいえない読後感が残る名作だと思う。
貧しい渡り労働者のジョージとレニーは、いつか自分たちの土地を持つという夢を語り合う。現実には、労働者の多くが同じような夢を持つが叶わない。厳しい現実の中でもジョージが夢を語れたのは、相手がレニーだったからだろう。レニーはジョージの言うことを信じて素直に土地を手に入れるのを楽しみにしていて、否定的なことを言わない。それだけに、最後は切なかった。
黒人の馬屋番のクルックスの部屋での会話が印象に残っている。
「人間はあまり寂し過ぎると、病気になっちまう」(p.122)
訳者解説で、タイトルの由来が知れたのも良かった。
Posted by ブクログ
180ページと短いながらも、1930年代アメリカの貧しい労働階級の労働者の過酷な日常と主人公2人の友情が良く描かれている。あと小説全体からは土っぽさや埃っぽさなども醸し出されていて雰囲気がある小説であった。
最後は何とも言えない切ない展開で、どういった気持ちでそのような行動を取ったのか?と読み手が考えさせられる終わり方だった。短いながらも心情に訴えてくる内容で翻訳も読みやすい。海外文学に興味を持ち始めた初心者にもオススメしやすい作品
Posted by ブクログ
社会の底辺に属す渡り労働者を描いた本作は後に発表する「怒りの葡萄」へ繋がる一篇であり著者の持ち味たる写実的な表現が胸に迫る。特に結びでの堅実者ジョージと純粋な大男レニーの遣り取りは二人の心理が行間から滲み出るようだ
ジョージから何度となく警告されながら結局人を殺めてしまうレニーの姿は、母親の心配した通り諍いに巻き込まれ罪を犯す「怒りの葡萄」の主人公トムと重なって映る。偶然の必然とも云うべきこれらの件は私に強い印象を残した
Posted by ブクログ
1930年代のカリフォルニアを舞台に、貧しい渡り労働者のジョージとレニーを主人公とした小説。あらすじだけ読んで労働者の悲哀を描いた作品かと思っていて、じっさい厳しい境遇は出てくるのだが、あまり労働そのものを描いた場面は登場せず、どちらかというと人間関係で苦労する様子が描かれる。結論もまた人間関係に起因するものである。レニーは読んでいてややもすれば肩入れをしたくなるような無垢な人物であることがわかっているので、その彼が殺されてしまうというこの結論は結構つらかった。「夢オチ」ではないかと期待してしまったほどである。しかし、(作中でそうとは明言されていないが)知的障碍を抱えているが無垢であるという一種のステレオタイプのような人物像は、いまの価値観でいうとどうであろうか。もちろん執筆当時の背景を無視して現在の価値観で断罪しようというつもりはない。ただ、やはりどこか受け容れがたい部分も感じてしまったのは事実である。あと、レニーはあまりにも怪力すぎないか? そこもちょっと気になってしまった。よい小説ではあるし心に響くものもあるのだが、やはり「古さ」も否めない。
Posted by ブクログ
あとがきには「荒んだ心にじんわり染み入る不思議な物語」とあるが、私はむしろ噛んだ瞬間に血の味が拡がるような物語だと思った
容赦ない現実や資本主義社会から溢れ落ちた人間たちの悲哀を描いた本作、弱者が弱者を傷つける様相は現代も同じだろう
Posted by ブクログ
スタインベック、というと、名前は知っているけれども、どういう本を書かれているのか、まったく知らずにはじめて読んだ本でした。
アメリカの田舎、労働者の生き様。
読み終えてから解説を読むと、1930年代の大恐慌の影響を受けたアメリカ社会を描いているようでした。
大恐慌の時代では慢性的な労働過剰の傾向がみられ、人件費などを変動費化することが求められ、貧しい渡り労働者たちを生み、格差と貧困が拡大、精神的な疲弊が身近に火即状況下にあったと言える、と解説されています。
レニーとジョージというコンビというか、
2人で農場などの仕事場を渡り歩いているのですが、
それ以外の登場人物もそれぞれ孤独を抱えているみたいで、
やるせなさがにじみ出る内容でした。
当時から約100年経った今のアメリカも、
最近ではラストベルトの状況がクローズアップされていますが、
広大な土地で今は人がどのように生きているのか、
想像は全く行き届かないのだけれど、
それぞれの、その時々の経済状況の中で、
レニーとジョージのように、固有の人と人が互いの存在を支え合って生きてきているんだということを、また少し想像させられました。
いつか土地をもって、小さな小屋をで一緒に良い暮らしをすることを言葉に手確かめ続ける。
そしてそこで、ウサギの世話をさせてもらえるように、今頑張る。そしてー。