【感想・ネタバレ】岬のレビュー

あらすじ

作家の郷里・紀州の小都市を舞台に、のがれがたい血のしがらみに閉じ込められた青年の、癒せぬ渇望、愛と憎しみ、生命の模索を鮮烈な文体でえがいて圧倒的な評価を得た芥川賞受賞作。この小説は、著者独自の哀切な主題旋律を初めて文学として定着させた記念碑的作品として、広く感動を呼んだ。『枯木灘』『地の果て 至上の時』と展開して中上世界の最高峰をなす三部作の第一章に当たる。表題作の他、初期の力作「黄金比の朝」「火宅」「浄徳寺ツアー」の三篇を収める。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

筆者の生い立ちから作り出された家族関係が複雑に描かれている作品でした。ラストに向かうにつれて姉がおかしくなっていってどう終わるのかと思えば、自分の血の繋がり全てを陵辱するために妹と交わるのは衝撃でした。

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2025年09月22日

Posted by ブクログ

ネタバレ

『推し、燃ゆ』で芥川賞を受賞した宇佐美りんさんが、受賞インタビューで好きな小説家を聞かれて、中上健次と答えていた。買って読んでいなかった『岬』が家にあったので、中上健次ってどんなもんだろうと軽い気持ちで読み始めた。中上健次を読むのは初めてだった。

そしてあまりの男くささに驚いた。

次々に変わる情景を的確に描写してゆくスタイルで、僕が読んできた小説家の中では一番テンポが早い。登場人物がどんどん増えていく。野暮ったい説明がなく、リズムがいい。そして内容が凄まじい。

岬には4つの短編が収められているが、どの作品もどぎつい内容になっている。抗えない血筋に対しての嫌悪感が全開で、なんとも男くさい作家だ。ただ登場人物が多すぎて、誰が誰だかわからなくなるときがある。何度か読まないと把握できない。

『黄金比の朝』 
左翼の兄が、予備校生のぼくの家に転がり込んでくる。道で出会った風俗嬢に頼まれ、兄や友人と共に占い師を探す。登場人物が少なく比較的わかりやすい。クサレ〇〇〇〇という今の時代なら規制をくらうだろうパワーワードが頻出する。主人公の母も風俗業の従事者で、その母が貰ってきた食べ物を食べて育った主人公は母を嫌い、自分自身も穢れていると思っている。感情表現がストレート。兄とはことあるごとに衝突する。親父がオートバイで木に激突して死んだ設定。

『火宅』 
町に放火して回る無法者の男。どこからやってきたのかわからない。大柄な男で、ふらっとやってきてはどこかへ去っていく。僕の母親を孕ました後、別の女を2人孕ませて僕の母親から縁を切られる。その男の、子供であるぼく目線で、僕が居合わせなかっただろう幼少期の場面が語られる。幼いぼくの兄は男について回っている。「黄金比の朝」より誰が誰だかわからない。妹や伯父が多すぎる。「黄金比の朝」より内容がよりダーティに、書き方もより不親切になっている。後先を顧みない、暴力的で放火魔なその男の血が僕に引き継がれている。成人して家庭を持った僕は暴力で妻を脅す。田舎のじめじめした感じ、あるいはからっとした荒廃さみたいなものが伝わってくる。家の中の描写なのに路上のような放り出された感がある。男、つまり僕の親父は歳をとって老人になって、オートバイで切り株に激突する。あばらは砕け顔面はぐちゃぐちゃに。「黄金比の朝」と共通している。四作のうちで唯一実の父親について詳しく書かれている。いい意味で最もひどい内容の作品だと感じた。男の描き方がとても上手く、突き抜けている。男は無法者の犯罪者なのだが、同時に畏敬の対象というか、なにか神秘的なものも感じる。語りも幻想的でいい。

『浄徳寺ツアー』 
旅行会社で働く男。自ら組んだパッケージ旅行、「浄徳寺ツアー」で爺さん婆さんの相手をしながら思うのは、同じく参加してきた由起子との夜の不倫のことばかり。今度はおばあさんが多すぎて登場人物がわからなくなる。今頃は産まれているかもしれないな、と自分の子供を他人事のように考える。男を支配しているのは性欲。家庭のことなどどうでもいいのだ。
「実際、子供などどうでもよかった。子供など親の快楽の滓にしかすぎない。滓が、親の足を引っぱる。足枷をはめる。」どぎつい、身もふたもない表現。
血筋に関する言及があまり無い。四作のうちでは最もおとなしい作品だった。

『岬』
土方をしている主人公。家族関係は他の話と同じでもの凄くややこしい。登場人物も多い。ある日親戚の光子の旦那である、安雄が、光子の上の兄である古市の足を包丁で刺して殺してしまう。ショックで病気が再発し、発狂する異父姉・恵美。四作のうちで最もドラマ性が強い。その割にはどぎつい表現自体はなりを潜めていて、この控えめさゆえに芥川賞に選ばれたのかなと思った。まぁラストでやはりどぎついものが来るんだけど。個人的には火宅>岬=黄金比の朝>浄徳寺ツアーの順で気に入った。

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2021年01月31日

Posted by ブクログ

ネタバレ

表題作のみ読んだ。
田中慎也「共喰い」を想起した。
平易な単語ばかりで、句読点が多く軽快な文体で読みやすい。しかし、内容は極めて難解に読んだ。
噛み砕ききれず、だがなにか心を掴まれたような気がして、秋幸になにか自分と似たところを感じた気がした。
人の解説を読んでようやく少しずつ掴めてきた気がする。他人にがんじがらめになっているところが、秋幸に共感したんだと思う。
紀州サーガをまた読もうと思う。

262 彼は一人になりたかった。息がつまる、と思った。母からも、姉からも、遠いところへ行きたいと思った。あの朝、首をつって死んでいた兄からも自由でありたかった。

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2025年11月23日

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ネタバレ

「岬」路地三部作の一作目。自殺した兄と同じ二十四になった秋幸の、なにかが狂い始める。誰が悪いのか。俺を産んだ犬畜生だ。だからぶっ壊してやる。俺の血に関わるすべてを壊すために、あの男の娘を、この俺の実の妹を凌辱してやる。
「火宅」私小説的な、路地シリーズにつながる短編。“男”とつるんでいた兄の眼を通して、かつての男の行いを追憶する。その暴力性を現在の俺も受け継いでいる。その男が死にかけているらしい。どこの馬の骨とも知れない男。俺の父。俺のほんとうの父。あの男は、俺にとっていったいなんだったのだろう。

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2022年06月02日

Posted by ブクログ

ネタバレ

昭和の複雑な家庭が描かれた四編。

混み入った血縁関係による葛藤や苦しみが、この本の大部分を占めている。生まれた場所、逃れられない血の繋がり、若さによる暴力的なエネルギーに否応なく巻き込まれた。
一人一人の濃厚な人生が絡み合っているので、主人公とは別の人物から見たらどんな世界なのか読んでみたい。

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2020年11月23日

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