あらすじ
山一証券の自主廃業など相次ぐ金融破綻に、効果的な経済政策を打ち出せない政府、プライドだけの大蔵官僚、不良債権隠しに走る銀行。邦銀ニューヨーク支店の花形ディーラーだった恋人は、なぜ死ななければならなかったのか? その死の真相に迫るべく奔走する州波は、単身日本に乗り込んで、そのキャリアと私財の全てをなげうって、芹沢とともに驚くべき秘策を実行する──。銀行の存続とモラルのはざまで何がおこったのか? すべての金融マンに捧げる著者渾身のミステリー。
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Posted by ブクログ
この小説の表向きの主人公は男性ながら、真の主人公は、たった一人で腐った大蔵省や銀行と戦う女性だった。
いかに日本の金融機関内部の人間が腐っているか、日本人の思考が画一的で信念がないか、ズバズバ切り込んでいく姿が見もの。
女性ならではの繊細さとしなやかさ、そして男性にはない強さが描かれていて、とても格好良かった。
Posted by ブクログ
幸田真音、名前だけ聞くと男性か女性か分からないが、元女性ディーラーの書いた小説。
文体が非常にハードボイルドで男らしい。(下)だが、(上)から併せて全体的な感想を述べると、非常にクールさに、人間味に溢れた作品だと思う。
金融という賭け事のような世界の中で、「金」というものがいかに人を生かし、また殺していくのかを具に描いていると言える。通貨の無いやりとりではない、いわゆる金が媒介する世の中でどれだけ人の思惑が交錯するかということを丁寧に描いてみせている。その辺は女性ならではの書きぶり、と言えるかもしれない。
最後、色恋沙汰に落ち着いてしまうのかと危惧したが、見事にそれをぶった切って、最後までハードボイルドだった。寧ろ残された男性の方が女性を想うという辺りがさっぱり感を増していた。
「傷」というタイトルは非常に重く、深いものだ。人は誰しも瑕があるが、そのタイトルの意味が中盤まで分からなかったのも、また良い。
星ひとつ、は己の不勉強さで交わされる金融業界のやり取りを、よく分からなかったことから、深く楽しむことが出来なかったため。ま、自業自得ではあるが。