あらすじ
出産を間近に控えた姉に、毒に染まっているだろうグレープフルーツのジャムを食べさせる妹……妊娠をきっかけとした心理と生理の繊細、微妙なゆらぎをみごとに描く、第104回芥川賞を受賞した「妊娠カレンダー」。住人が消えてゆく? 謎に包まれた寂しい学生寮の物語「ドミトリイ」、小学校の給食室に魅せられた男の告白「夕暮れの給食室と雨のプール」。透きとおった悪夢のようにあざやかな三篇は、すべて小川洋子の独特な静謐な世界を堪能できる珠玉の短篇集です。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
2回読みました。1回じゃ正しく理解できなかった。
○妊娠カレンダー
単純に言ってしまえば復讐譚なのだけど、そんな単純な言葉で表現しきれないのがこの作品。
印象的だったのは、匂いに過敏になった悪阻中の姉に配慮して、主人公は庭で夕飯を作るのだが、食べられない姉をあざ笑うかのように、主人公は炊飯器の湯気が立ち上ってゆくさまを心安らかに眺め、大きな口を開けてシチューと一緒に「夜の闇」を飲み込むところだ。主人公は夜の闇とともに、心の闇を飲み込み自分のものとする。
かたや、悪阻が終わった姉は「彼女の存在そのものが、食欲に飲み込まれてしまったように」食べつくす。その姉のお腹には主人公がDNAを壊す(と信じ込んでいる)PWHにDNAを壊された(と信じ込んでいる)胎児が存在する。
どちらも体内に不気味なものを内包する姉妹。その外にいる義兄や姉が頼りにする精神科医の存在感・生命力の乏しさ。そして、この人たちが日陰なら、燦々と輝く日差しに照らされた明るい庭のような存在である義兄の両親。
こういった対比が複雑に絡み合った、すごい作品。この不気味さは小川氏ならではですね。
○ドミトリイ
2人の大学生が失踪した寮が主モチーフだが、副モチーフとして蜜蜂と巣がくる。
夫が外国に単身赴任中の主人公は、夫からすること・持ってくる物を指定されるものの、そちらはほったらかして、寮の先生のためにお菓子を片手に日参する。
初めて読んだときは、なぜ「蜜蜂の巣」が出てくるのか分からなかったが、読み返してみて、主人公も寮という巨大な巣に誘い込まれてしまった蜜蜂なのだと気づいた。彼女は“夫”という巣に花の蜜を持っていくべきなのに、働き蜂が花の蜜をせっせと巣に持ち帰るように、主人公は食べきれないだろうと思われる量のお菓子を寮の先生に毎日持っていく。それはそれは懸命に。
○夕暮れの給食室と雨のプール
子供の頃に雨のプールで泳がされたことと、一見非衛生的と見える方法で給食を作る様子を見てしまったことが強い記憶となって残っている宗教勧誘員の男。彼はそれを“集団の中に自分をうまく溶け込ませるための通過儀礼だった”と言う。通過儀礼=大人になるためのステップ。嫌なものを受け入れることが大人になること。
いくら手足をバタつかせても水の中に沈むしかなかったという男と、バツイチで年が離れていて司法試験に10年落ち続けているダメ男の婚約者が重なる。
Posted by ブクログ
話に出てくる人たちの行動が人間らしくなくて、ずっと不穏な空気が流れてるけど、すごく心に残る。
とくに妹が、妊娠した姉のためにグレープフルーツのジャムを煮るシーンが印象的。
とても従順にみえて、農薬が使われているかもしれないグレープフルーツを淡々と調理する妹の姿に寒気がしてくる。わたしには悪意とともに行為に及んでいるように見えて、それは自分の姿ともすこし重なるような気がした。
色んなことがはっきり書かれていないからこそ、いろいろな読み方ができそう。
わたしは面白かった。
Posted by ブクログ
妊娠カレンダーに関しては、生命の誕生って奇跡的で喜ばしい事なのに、誰も心から喜んでいないような気がして怖くなった。
全体的に暗い印象をもつ物語で作者さんが何を思って作品を書いたのか読み取れない。だけど、作中の表現、文章が綺麗で透き通ってるなって思いながら読んだ。
Posted by ブクログ
【妊娠カレンダー】
主人公は大学生の妹。姉夫婦と一緒に住んでいる。心が脆い姉が妊娠。
大きな病院ではなく,近くの産院で出産するという。そこは幼い頃姉と裏から中庭に入り込んで遊んでいた古い病院。窓から覗いた器具や、3階の病室の窓辺にいる女が記憶にある。
姉のつわりが酷くなってくると、色んな我儘を言い出す。食べるのも,家の中の匂いも。
姉がいる時にご飯を作れないし、食べれなくなる。
急にふっと長く続いたつわりが終わった。
途端にいろんなものをたくさん食べるようになってしまった。
仕事で大量に貰ったグレープフルーツを皮ごとジャムにすると,姉はパンにつけずジャムそのものもを食べてしまう。グレープフルーツの皮の表面にはアメリカて体に良くない農薬などが使われているだろう。でもそれを知らずに、姉はどんどん食べる。お腹の子にどんな影響があるんだろう?
【ドミトリイ】
旦那が海外に単身赴任中、年がうんと離れた従兄弟から15年ぶりに連絡があった。
大学生になるが、お金があまりなく下宿先がみつかならい。昔大学生の時に住んでいた学生寮(ドミトリィ)を紹介してほしい。
6年ぶりに学生寮に連絡する。そこは学校運営でなく、一般のアパートのような寮のようなところ。だがもう古くなり、住んでる学生もほぼおらず、シェフもいないし、大浴場も2日に1回しかお湯を張らなかなってしまったという。しかも、寮の管理人(オーナー)は両手と片足がない。それでもいとこはお金がないからと紹介して欲しいといって入寮。
何度かいとこに会いに行くけどいない。そしてほかの入寮生も見ない。
どうも、この寮に住んでいた学生がするっと行方不明になり、悪い噂が立って少なかった入寮生も去っていったらしい。
そして何度もいとこに会いにいくけど全然会えない。
そして、管理人はどんどん衰弱していく。鎖骨と顎でいろんなものを持ったりする不自然な姿勢を続けていたから、肋骨がいびつに歪んで心臓と肺を圧迫しているらしい。いつか骨が心臓や肺に刺さるかも?
【夕暮れの給食室と雨の日のプール】
古い家に引っ越した。司法試験に何度も落ちてる彼と結婚するのでお金がない。けど、犬のジュジュと生活できるのはこの家だった。
2人で式を挙げる数週間の間、ひとりで家を整える。お風呂の壁のペンキを塗ったり、花壇に花を植えたり。
ある日、男と小さな子がインターフォンを鳴らす。
何も持ってない二人。どうやら宗教の勧誘?
でも、パンフレットも持ってない。「難儀なことはないですか?」
ジュジュと散歩していたら、その親子?とまた出会う。
小学校の給食室の前の道路で、学校をじっと見ている。
どうやら子供が給食室が好きで、よく行きたがるらしい。
その小学校は千人ぐらいいて、その給食をそこでつくっているらしい。大がかりな設備で調理されているのをみたり、その器具が洗われていくのを見たりするのが面白いらしい。
だけど、男性は給食室での調理風景をみて気持ち悪くなってごはんが食べられなく案った時期があった。
なんて感じのお話が3編。
全部、すっごい湿度の高い薄暗い空気感がある話。
めっちゃ芥川賞っぽいな~て思った。