あらすじ
葉子を癌で失ってからというもの、僕はいつもデパートの屋上で空を見上げていた――。万引きを犯し、衆人の前で手酷く痛めつけられた中学の時の心の傷、高校の先輩女性との官能的な体験、不倫による心中で夫を亡くした女性との不思議な縁、客の心を癒すSMの女王……。主人公・山崎が巡りあった心優しき人々と、南仏ニースでの葉子との最後の日々。青春文学の名作『パイロットフィッシュ』につづく、慟哭の恋愛小説。
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Posted by ブクログ
大崎善生さんの小説『アジアンタムブルー』。
大崎さんの代表作だと私は思います。
主人公・山崎隆二と恋人・続木葉子との出会いから別れ、そして彼女の死後の再生までを描いています。
山崎隆二は、東急百貨店の屋上で1人過ごしていた。そこで中川宏美という女性と出会い、過去を話しだす。宏美は、夫が宏美の友人の女性とともに電車に飛び込んだという。
隆二も色々なことを思いだす。
友人に万引きに巻き込まれ、デパートのガードマンに叩きのめされたこと。高校生のときの美術部の先輩である美津子との情事のこと。ヌードモデルとして職場に来て、泣いてしまって脱げなかったモデルのユリのこと…。
山崎隆二はアダルト雑誌の編集者として働く33歳の男性でした。ある日、SMの女王として知られるユーカの紹介で、新進気鋭の写真家・続木葉子と出会います。葉子は水たまりを主題とした独特の写真を撮影しており、その芸術性と人柄に惹かれた隆二は、彼女と恋人関係になります。しかし、葉子は旅行中に倒れ、末期の癌と診断されます。余命わずかと宣告された葉子の願いを叶えるため、二人は南フランスのニースへ旅立ち、そこで最期の時を共に過ごす。
葉子の死後、隆二は深い喪失感に包まれる。そして、冒頭のように東急百貨店の屋上で立ち尽くすことになる。
ではあるが、彼女との思い出や出会った人々との交流を通じて、再び前を向いて歩き始める。「憂鬱の中から立ち上がったアジアンタムだけが、生き残っていく」という葉子の声を頼りに。
阿部寛さん、松下奈緒さん主演で映画化もした作品です。人の喪失と再生を描いている名作だと思います。
「憂鬱の中からしか掴めないものがある。それをこの手にしっかりと掴むのだ…」
Posted by ブクログ
こんな風に純粋に思い出に浸り、人を愛せることの幸せ。そんな風に愛した人を失ってからの空虚な日々。これ以上巻けないねじを巻き上げなければならない苦悩…それでも、前を向いて生きていかなくては、と感じる主人公の苦しみの隙間に、心が少しずつ溶かされていくようでした。言葉や表現が、優しさに溢れていて、じん…っと染み渡る。。
以下、メモ。
・アジアンタム・ミクロソリウム
・概念には定義というものが必要で、そしてその定義は要するに自分が気に入ったり、ある程度納得できればなんでもいいんだということが分かりました。
・キース・ジャレット
フェイシングユー
・言葉が氾濫している
・アジアンタムブルーを乗り越えた株だけが冬を超え、活きいきと生きていく。そうなればこっちのもので、その後は二度と、アジアンタムブルーは訪れない。
・どんなにきつく体を重ね合わせても、埋めることができない隙間。その隙間に思いを馳せることが愛するということなのかもしれない。
・エルトンジョン ユアソング
・シャルルドゴール空港 野ウサギ
・ニース