あらすじ
人は、一度巡りあった人と二度と別れることはできない――。午前二時、アダルト雑誌の編集部に勤める山崎のもとにかかってきた一本の電話。受話器の向こうから聞こえてきたのは、十九年ぶりに聞く由希子の声だった……。記憶の湖の底から浮かび上がる彼女との日々、世話になったバーのマスターやかつての上司だった編集長の沢井、同僚らの印象的な姿、言葉。透明感あふれる文体で綴る至高のロングセラー青春小説。吉川英治文学新人賞受賞作。
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Posted by ブクログ
パイロットフィッシュ
「人は一度巡り合った人と二度と別れることはできない。なぜなら人気には記憶という能力があり、そして否が応にも記憶と共に現在を生きているからである」という文書から、この本は始まります。
アダルト雑誌の編集者をしている主人公山崎のもとに、真夜中に電話がかかってくる。声だけで誰かを理解する主人公。それは大学時代の彼女である由希子だった。
由希子は、かつて山崎が就職で苦労していた頃に、編集者として勤める文人出版を探してきた女性であった。また、大学に馴染めず、アパートの一室で沈んでいた山崎を救い出した女性でもあった。
電話の話の中でパイロットフィッシュの話を由希子にする山崎。パイロットフィッシュとは、水槽の環境づくりのために一番最初に水槽に入れる魚のこと。
由希子と電話から、かつての自分を想起し、いろいろなことを思い出す山崎。
2人はプリクラを取るために新宿駅南口で待ち合わせをすることになる…。
個人的にはとても難しくて、残酷な結末の本だな、と思いました。一度巡りあった人とは二度と別れられない。時として、バイカル湖のように、心の深いところから記憶が湧いてくることがある。それが懐かしい記憶であったり、心の支えだったりすることもある。場合によっては、パイロットフィッシュのように誰かが環境を支えてくれていたことに気づくこともある。
でも、時として誰かが作り出した生態系から逃げ出せず苦しむこともある。由希子のように。
人は巡りあった人と二度と別れることはできない。そう尻尾とちぎれた犬が尻尾を追いかけるように、いつまでも同じところを回り続けているのかもしれない。
どうしても、人は同じ過ちをしたり、過去の辛い記憶や人間関係から抜け出せないことがある。
そのことをこの小説は想起させます。
Posted by ブクログ
まず、鈴木成一さんの装丁がとてもきれいで目がひかれる本。
主人公の山崎はエロ雑誌の編集者。
ある夜中、19年ぶりに大学生の時の恋人・由希子からの電話が鳴る。
「出会い」と「別れ」が人生において、いかに交錯しているかが描かれている。
そして、「出会い」にも「別れ」にも意味があるのだということを教えてくれる。
もっと読み終わったら落ち込んだりするかと想像していたので、妙に心がじんときてしまい、びっくり。
多少、自分の中で「えっ、あのひとはどうなったの、結局」と未消化といえば、未消化なところもあるけれど、それはそれで良しなのかなと・・・。
何か、目頭熱くなった。
Posted by ブクログ
森本
札幌の高校時代からの山崎の友人。東京の同じ大学に進学。大手のカメラメーカーの営業マンになった。有能な社員として日本全国を転勤して営業マンになった。一九九八年の夏頃から様子がおかしくなる。朝であろうと真夜中であろうと、いつも泥酔している。ある日警察官と大立ち回りを演じ、そのまま精神病院に運ばれてそのまま入院した。重度のアルコール依存症。
山崎隆二
四十一歳。由希子が電話帳で上から順番に片っ端らから電話して空席を見つけた文人出版に就職した。アダルト雑誌『月刊エレクト』の編集長。ロングコートチワワのクーとモモを飼っている。沢井の死後、編集長になる。
川上由希子
四十一歳。山崎が大学時代に三年間付き合ったかつての恋人。二人の子供がいる。上は小学三年生よ健太、下は五歳の綾子。
沢井速雄
隆二が入社した当時の文人出版専務取締役編集長。現在は肺癌で入院中。
五十嵐
四十六歳。文人出版の編集者。編集者のくせに本はろくに読まない、漢字を知らないので校正はしない、昼過ぎに編集部に来て大いびきをかいて寝てばかりでほとんど仕事らしい仕事をしないが、読者が求めるエロ写真を選別できる特技があり、「勃起羅針盤」と呼ばれる。長年連れ添った妻と子供に逃げられた。
野口早苗
文人出版が出している『月刊エレクト』のデザイン担当。
浅川七海
隆二の十九歳年下の恋人。西荻窪のコンビニでアルバイトをしていて、週に二度は夜通し働き、その後隆二の部屋を訪ねてくる。可奈の友人。
伊都子
由希子の親友。友達の彼氏と寝る癖がある。
トム
隆二が小学校のころから飼っていた雑種の犬。
大沼
『月刊エレクト』のベテラン校正マン。
洋子
沢井の娘。
渡辺
隆二が大学生時代にバイトをしていた新宿のロック喫茶のマスター。大学生だった隆二と由希子を週に二度、新宿御苑の傍に建つマンションに招いていた。妻の聡子、冬花、秋菜、生まれて半年になる男の子。大韓航空機撃墜事件で亡くなる。
高木正也
風俗ライター。隆二が『月刊エレクト』をゼロから再構築に立ち上げた企画“新宿風俗嬢ストーリー”の立役者。
可奈
歌舞伎町で一番人気だった風俗嬢。「新宿風俗嬢ストーリー」の最終回を飾った。その号が発売さらてから、可奈の名声が沸騰した。客が殺到し、体を張って全ての客の望みにこたえようとしだ。深夜テレビにも引っ張り出されるようになり、画面に映る可奈の瞳は正気を失い体は見る影もなく痩せ細った。精神的に参ってしまい、隆二の部屋で一ヶ月ほど住む。クーとモモとアジアンタムの鉢植えを残して姿を消す。