あらすじ
古代に軍事国家だったチベットはインド仏教を受容、12世紀には仏教界が世俗に君臨する社会となった。17世紀に成立したダライ・ラマ政権はモンゴル人や満洲人の帰依を受け、チベットは聖地として繁栄する。だが1950年、人民解放軍のラサ侵攻により独立を失い、ダライ・ラマ14世はインドに亡命した。チベットはこれからどうなるのか? 1400年の歴史を辿り、世界で尊敬の念を集めるチベット仏教と文化の未来を考える。
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Posted by ブクログ
仏教国チベットの知られざる歴史を概説。「物語」と冠しているのは、とくに古代は仏教思想のフィルターを通じて語られているからのようです。17世紀以降は転生僧の歴代ダライ・ラマが政教一致の統治をしてきました。歴史の山場はダライ・ラマ5世、13世、現14世の3つの時代。とくに70年前に人民解放軍による侵攻を受けて中国に併合され、14世がインドに亡命し現在に至るくだりは、なんとも生臭い展開。
チベットという国家は今や存在しません。しかし著者は、この転生僧のシステムが次の15世へとバトンタッチできれば、〈おそらく「チベット」は国として存在するしないにかかわらず、消えることはない〉といいます。14世の言葉とされる「仏教の歴史は二五〇〇年であり、中国共産党の歴史よりはるかに長い」この歳月がそれを実証しています。
Posted by ブクログ
この本を読んで仏教に対する世界観が変わった。
生活の一部として存在していながらも深く考えることはなかった仏教であるが、なぜ三大宗教と謂われるほどの拡がりを見せたのか、チベット仏教においては、険しい高山へ巡礼に行く人々が絶えないのか、その一端を知った。
三章・四章はダライ・ラマ13世と14世にそれぞれ1章分のページが割かれ話が進んでいくが、正直、後半はページをめくる手が止まらず、あっという間に読み切ってしまった。
「ダライ・ラマ」について名前を知るほかは特段の知識もなかったが、群雄割拠の帝国時代から続く激動の時代を歩んだ道のりを紙面を通して読み進めるうちに、いつの間にかチベットの人々へと心が寄り添い、彼らに平穏が訪れることを祈っていた。
今、再び注目を集めているチベット・中国問題。
はるか昔に捧げられた祈りが成就し、すべての命あるものに平和なときが来ることを祈る。
名前は知っててもどんな歴史を歩んできたかあまり知られてないチベット。高校の世界史でも吐蕃とか名前だけサラッと触れられるだけであまり詳しくやりません(少なくとも私の頃はそうでした)。
前半はチベット人がどのように古代帝国を築き、その後インドから伝来した仏教がどのようにチベットに定着したのか、を新書にしては細かめに説明しています。ただその割に近代以降の歴史が駆け足になってるような印象は受けました。
貴重なチベット通史の新書ですからこれからも読まれる本になるのではないでしょうか。
Posted by ブクログ
古代の軍事帝国から政教一致の仏教国家となり、現代は中国の侵攻により受難の歴史を歩んでいるチベットの通史。
チベットの人名や仏教用語が満載で、特に第1章、第2章はすっと頭に入ってくる内容ではなく、正直、読み進めにくかったが、あまりよく理解していなかったチベットの古代から現代までの歩み、そしてチベット仏教の思想を知ることができ、有意義だった。
古代チベット帝国が仏教思想のフィルターを通した歴史として語り継がれているので、本当かどうかよくわからない話も多かったが、神話のようで面白く感じた。また、仏教国家といっても、内部の権力争いなど、俗っぽい歴史も結構あるなと感じた。
これまで清朝の頃からチベットはいわゆる中国の支配下にあったという認識だったが、本書を読んで、チベット側の「中国とチベットの歴史的な関係は『高僧とそれを後援する施主』の関係であり、主従関係ではない」という主張も十分妥当するのではないかと思った。また、今日まで続く中華人民共和国によるチベットの侵略は、本当に酷いものだと感じた。
本筋からはそれるが、19世紀後半の西欧でキリスト教にかわる普遍宗教として仏教に着目する動きがあり、神智学協会が設立され、ガンディーをはじめ多方面に影響を与えたというのは本書で初めて知り、興味深かった。