あらすじ
北の町に暮らす人々を描く悲運の作家の遺作
「海炭市叙景」は、90年に自死を遂げた作家、佐藤泰志(1949-90)の遺作となった短編連作です。海に囲まれた北の町、「海炭市」(佐藤の故郷である函館市がモデルです)に暮らすさまざまな人々の日常を淡々と描き、落ち着いた筆致の底から、「普通の人々」の悲しみと喜び、絶望と希望があざやかに浮かび上がってきます。この作品が執筆された当時はいわゆる「バブル」時代でしたが、地方都市の経済的逼迫はすでに始まっていました。20年の歳月を経て、佐藤泰志が描いたこの作品内の状況は、よりリアルに私たちに迫ってくると言えます。
函館市民たちが主導した映画(熊切和嘉監督・加瀬亮、谷村美月、小林薫、南果歩などが出演)の公開は2010年12月。映画化をきっかけに、心ある読者に愛されてきた幻の名作が、ついに電子書籍となって登場!
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Posted by ブクログ
日本文学100年の名作第8巻の中の、佐藤泰志「美しい夏」がとても良かったので読んでみました。
結果、とても良かった。
震えるほど(大袈裟か?)良かった。
悲しくて閉塞感がありながらも、優しくて美しかった。
負け組たちが織りなす群像劇
地方都市の希望と限界
今の時代に佐藤泰志が生きていたらどんな物語を書いていただろうか。
巻末の解説も合わせて読んでみてほしい。
Posted by ブクログ
20210917
海炭市叙景を読んで
函館の文学館の吉田さんの紹介で佐藤泰志の小説を読みたいと思って入りやすいと紹介された海炭市叙景を買った。
最初の章で出てくる函館山、あまり自分が見た光景が舞台になっている様子を見た事がなかったのでそれだけで感動した。不思議な感じだった。
吉田さんが佐藤ひさしの中高の1つ下という話も他の小説と比べて特別な感じがした。筆者が近いというか。
そんな特別な小説として読み始めて、1~18章を読んだ。
吉田さんは最初の話が暗くて辛いといったことを仰っていたが、私はそんなに暗く感じなかった。
何でだろう。
救いようがない兄妹であることは確かだけれど、その前に思いやりや幸せを感じていたからだろうか。
その他の人の事故の評価から私の中でも事故が風化したのだろうか。
淡々と書かれるそれぞれの主人公はありのままを描かれている。時にはひとつの物語の中で複数の視点が入ってより客観的になっていることもある。
ありのまま、客観的であるが故に救いようがないように感じる部分、自分が見ている自分と周りから見た自分のギャップが感じられて、痛々しく思う部分もある。
しかし不思議と納得できるというか、そういう人もいるよな、私もこうかもなみたいな考え方もできた。
2番目のあとがきの人が言っているように「職と人」を描かれているので、働くとは生きるとは何か、来年から社会人になる自分にとってはそういった設計プランも考えさせられた。
今とは少し違う時代の彼らがどのように人生を考えて生きていたのか、人間らしくて憎めない。一生懸命生きている。
折り返し地点、残り、続き、繋がりが気になる
しかしこれでいいのだとのこと
佐藤ひさしが大学進学と同時に上京し、後に1度故郷の函館に帰った期間があった。生まれ育った故郷と、1度離れてもう一度見た故郷で何か見え方に違いはあったろうか。
私は離れて故郷の良さに気がついた部分もある。自分が生きたい姿、本当に心躍るものは何かを感じられる場所。
海炭市はかつて栄えたものの、炭鉱の廃止、漁港の衰退により、かつての賑わいを失っている。
そういった経済的に暗い部分があるのは確かだ。
そんな中でも生きている人がいる。
私が故郷に感じる思いとも似ているのかもしれない。
Posted by ブクログ
海炭市という北方の架空の街を舞台にした群像劇、となっている。
語り手は次々と変わっていき、それぞれの視線で街とそこに住む自分という存在が語られていくのだが、ぜんぶを読み終えてふと誰にも寄り添えきれなかったような気がしている。街という絶対的な共通項はあるのだけれど、転々ばらばらな感情であり、街を統合するひとつの感情としてこの登場人物たちをまとめることができなかった。
第一章の話にとても好きなのがいくつもある。ひとつひとつの掌編のクオリティがめちゃめちゃ高いなと思う。思えば先生に薦められたのもこの小説のいちばんはじめに書かれている「まだ若い廃墟」だった。前半の話のほうが、廃れていく街がすぐそこにあるという感じがする。この物語の形式上、話が進むにつれて街の発展もすすんでいってしまうからある意味自然な成り行きといえるのかもしれない。しかし今の僕はそれを良さとしてまだ捉えきれなかった。
Posted by ブクログ
函館に住んでいた時に文庫化・映画化され、当時函館の本屋ではすごく話題になっていた。その時に購入していたのだが積読になってしまっていたのをようやく読み終えた。
私が知る函館になるまでこういう情景が実際にあったんだろうなと思いながら読んだ。出てくる地名も創作だが、ここだろうと推測できるところと全くピンとこないところがあった。後者に関しては昔は今よりも市電の路線がずっと多かったので、私の頭の中の路線図と一致しないせいかもしれない。映画も見て頭の中のイメージと一致させたいと思った。
それにしても第一話の結末が衝撃すぎた。真冬とはいえ、日が出て登り慣れた函館山で遭難するのだろうか。徒歩で登ったことがないから私のイメージがずれているだけかもしれないが…。函館山で年越ししたことがあるので(もちろんロープウェイ利用)自分の体験と重ねてしまったが、あのちょっと特別な感じがする年越しを迎えた後にあの結末は悲しすぎる。