あらすじ
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一九九一年四月。雨宿りをする一人の少女との偶然の出会いが、謎に満ちた日々への扉を開けた。遠い国からはるばるおれたちの街にやって来た少女、マーヤ。彼女と過ごす、謎に満ちた日常。そして彼女が帰国したとき、おれたちの最大の謎解きが始まる。覗き込んでくる目、カールがかった黒髪、白い首筋、『哲学的意味がありますか?』、そして紫陽花。謎を解く鍵は記憶の中に――。忘れ難い余韻をもたらす、出会いと祈りの物語。著者の出世作となった清新なボーイ・ミーツ・ガール・ミステリ。
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妖精さん
謎解きは軽快だった。ミステリーによくある殺人事件ではない、いわゆる「日常の謎」とされるものだった。
しかし、結末は哀しかった。タイトルから哀しい物語だろうと考えていたけれど、考えていたよりも哀しかった。
語り手の守谷は、若くて野心的で、自分が抱いている理想と、現実との間でじりじりと燻っていて、だから現実の外から来た(ように思えた)マーヤが輝いて見えたのだろう。大刀洗もまた、鋭く、冷たく、賢く、輝いて見えたのだろう。僕も男だから、いくつか心当たりのある、ごくありふれた幻想だ。
その脆い幻は、時を経て儚く壊れた。
マーヤは現実の外・幻想の中に住んでいる妖精ではなく、現実をどうにかしようとしていた一人の心優しき愛国者だったし、大刀洗は鋭く、冷たく、賢いように見えた一人の悩み多き女子高生だった。
マーヤは、現実の中で生き、そして死んだ。大刀洗は、現実の中で生き、そして恐らくこれからも現実の中で生きていくのだろう。
そして、守谷は……。
守谷の前に、二つの道がある。
一つは、文原のように、手の届く範囲のものを大切にして生きる、現実的な道。
一つは、今いる場所から飛び出て、何かを成し遂げる、理想的な道。
その二つの道について、多分、二十歳くらいの人は誰しも一度は考え、一応、選ぶだろう。
米澤先生も二十歳の頃に二つの道について考えていたのだろう。そして、米澤先生は、故郷を飛び出て、小説家になる道を選んだ。
では、語り手の守谷はどうするのだろう。
そして、読み手の僕はどうするのだろう。
まるで、他人事のようにそう思った。
『さよなら妖精』というタイトルは、マーヤの肉体的な死と、守谷が抱いていた『マーヤ』と『大刀洗』という幻想の死なのだと思う。
それから、もしかしたら、守谷が抱いていた何かを成し遂げたいという理想の死なのかもしれない。
守谷は語り手ではあったけれど、最後まで「主人公」にはなり得なかった。
僕もそうかもしれないと思った。でも、これから頑張れば、主人公になりうる可能性はあるのだ。
そう思って、生きるしかない。
Posted by ブクログ
王とサーカスで前のシリーズも読みたいと思っていたので今回読めて良かった。太刀洗万智は主人公ではなく、友人の守屋の視点でストーリーが進んだが、ネパールで取材をしていた太刀洗と比較して、学生時代の太刀洗はより無口で不思議な印象を受けた。紛争の起きたユーゴスラビアに帰ったマーヤの安否を心配し、連邦の中のどこに彼女がいるか明らかにする、というのが大筋だが、ほとんどのシーンはマーヤとの回想に割かれ、ミステリーという感じがしないあたりは、著者の特徴を感じさせた。何事にも特に打ち込むということがない主人公が、マーヤをきっかけにユーゴスラビアのために何かしたいと思い、しかしそれは本当の当事者から見れば観光に来るようなものだと言われて葛藤する、何とも言い難いやるせなさがあった。王とサーカスもラストは晴れ晴れとしない終わり方だったが、今回も最後に切ない気持ちにさせられた。
Posted by ブクログ
ひさしぶりの米澤さんの青春小説。
古典部シリーズの予定だった作品ということで
なんとなく古典部の面々が思い浮かびました。
平々凡々な守屋の前に現れた、探究心がいっぱいで目標に向かってどんどん進んでいくマーヤ。
守屋くんにすごく共感してしまった。
「幸せ」ってなんなのか、生きているだけで私たちは幸せなのか、日本で不自由なく生きている私達は幸せなのか。
いろいろと考えさせられた。
Posted by ブクログ
本作は<古典部>シリーズの一冊として描かれたと言うだけあり、米澤穂信が得意とする日常の謎を説く短編集という位置付けになっている。ただし個々の話が独立している<古典部>シリーズとは異なり、全体として一本の大きな謎も最初に提示される構造となっており、長編としても楽しむことが出来る。
物語の舞台となるのは、架空の観光都市である藤柴市。Wikipediaによれば岐阜高山をモデルにしたとされるこの地方都市に住む主人公守屋が謎の少女マーヤ・ヨヴァノビッチと出会うところから物語は始まる。
彼女は2025年の今では消滅してしまった国家であるユーゴスラビア出身であり、日本には「何かしらの理由」で2ヶ月だけ滞在することになっていた(滞在の理由は最後までは明確にならない)。物語はその彼女が藤柴市に滞在したこの2ヶ月の間に出会した、ちょっとした「日常の疑問」に答える形で進んでいく。
本作で取り上げるこの日常の謎だが、これまでの米澤穂信の 作品と比べても、特に小粒な謎が多い。例えば主人公の守屋は弓道部に所属しているのだが、彼が参加した大会でのちょっとしたやりとりの疑問を解決するのに一章を丸々使ったりする。「哲学的な意味がありますか?」が口癖のマーヤがちょっとしたことに対してメモを取り出すのがその理由なのだが、これは<古典部>シリーズで千反田が「わたし、気になります」を繰り返すのとそっくりだ。
ただし本作が<古典部>シリーズと大きく異なるのは、マーヤの日本滞在が2ヶ月限定であり、彼女はユーゴスラビアに戻ってしまうことが最初から決められていたことだ。そして読者の多くが知っているようにユーゴスラビアでは1990年代に内戦が始まり、 特に クロアチアの首都サラエボでは壮絶な市街戦が展開されることになった。
自分も当時ベストセラーになった「サラエボ旅行案内」を買って、ほとんど街の原型を残していなかったサラエボを知ったのを覚えている。そのユーゴスラビアに戻った彼女は、いったいどこの出身で、どこの街に戻って行ったのか・・が、本作の最初に提示され、最後に解かれる謎である。
そして同時にこのユーゴスラビアに 戻ると言う決断は、主人公である守屋の生き方にも大きな影響を与えることになる。米澤穂信の初期の作品では高校生が主人公になることが多く、 彼のキャリアが長くなるにつれて、どんどんと内政的な作品になっていってしまったが、 本作は、その兆しを感じさせる作品と言っても良いだろう。 決して読後感が良い作品ではないが、 デビュー直後からこのような方向性を持っていたのかを知るという意味において、 今のから読み直すのも決して悪くは無い。
ちなみに、決して日本ではメジャーとは言えないユーゴスラビアが舞台になったのは、著者の大学時代の研究テーマであったかららしい。今では存在しない国を扱っていることから、きっと若い読者には何の話なのかがさっぱりわからないかもしれない。 そういった意味では、本作は ほぼ同じ時代を10代として過ごした。我々に向けた作品であるとも言えるだろう。
Posted by ブクログ
久しぶりの米澤穂信 面白かった!
やれやれ主人公を描かせたらやはりダントツ?だとおもう
読みやすかったけどシリアスな場面とかたくさんあってただの青春推理小説に終わらなかった
最後どうやって終わらせるのかハラハラしてたらまさか死んでしまって辛い読後感だけどなんとなくそんな気もしてた
Posted by ブクログ
高校生の日常の謎もの。と、ひとくくりにできない面白さがあった。
マーヤがとにかく魅力的。流暢でいて少し変な日本語をあやつりつつ、しっかりとした考えを持っている。個性的な面々と行動し、その先々でちょっとおかしな出来事が起こる。太刀洗はすぐに真相を理解するが、解明するのは守屋の役回りだ。
最大の謎の解明は哀しい結末にたどり着くことになる。ユーゴスラビアが背景に設定されていることで、何となく推測できたが、ほのぼのとした日常に比べると哀しさが増してくる。
匿名
さよなら妖精
他の作品と同じように日常に潜むミステリーを織り交ぜ、一人の少女との出会いがここまでひとつの物語になる様は改めて素晴らしいと感じる作品でした。
Posted by ブクログ
物語が一貫している日常の謎ものだった。読後感は切なく、メッセージ性がある。ミステリとしては、日常の謎ものとしても若干謎解きの要素が薄く感じた。謎解きの過程がかなり短いのがその原因か。
Posted by ブクログ
ミステリーではありますが、何事にも興味を持てなかった少年・守屋が、好奇心旺盛なユーゴスラヴィアの少女・マーヤと出会い-からはじまる青春の色合いが強い作品でした。根幹の謎は、マーヤはどこに帰国したか?この推理は結果としては演出的なものだったのですが、A国は安全で、B国は内部紛争と、大半置いてきぼりをくらっていました。守屋とマーヤのやりとりと決意にグッときて、太刀洗のギャップに驚いて。守屋が頭の回転がにぶいと評した、白河のアドバイスは的を射ていたのですね。おもしろかったので、米澤さんの他の作品も読みたいです。
Posted by ブクログ
古典部3作目に予定されていたとは思えないほど異国の政治情勢に踏み込んでいる作品。元は古典部シリーズということで一応キャラクターを(個人的に)当てはめてみるなら、守屋≒折木、福原≒文原といったところだろうか?千反田の要素は分散しており太刀洗万智とマーヤに少しづつあると思う。マーヤの「それは哲学的意味ですか?」は千反田の「私気になります」であるだろうし、太刀洗の方が高身長かつ大人びた雰囲気をしているものの、彼女の容姿は千反田に近いと思う。白河いずるが当てはまりそうな人は居ないが、強いて言うなら千反田だろうか。伊原要素もまた、あまり感じることは無かったが、頑固で面倒くさい所は文原と共通していると感じた。そういえば酒を飲んだ太刀洗の言い回しは福部里志そのものだったので古典部メンバーは分解されそれぞれのキャラクターに少しづつ宿っているのだろう。
ただ、インターネットで検索してみたところどうやら古典部とさよなら妖精のキャラクターについて公演で米澤穂信さん自ら言及していたそうで、折木→守屋、福部→文原、千反田→いづる、伊原→文原と白川に分散、太刀洗万智→新規キャラということだった。いづるに千反田は感じなかったが主に実家が広い設定とお人好しの設定を引き継いだのであろう。千反田の実家は豪農でいづるは民宿、どちらもマーヤが泊まる理由になるだろうし、送迎会で酒を飲むシーンなどいかにも千反田家でやっていそうだ。
冒頭で「古典部3作目に予定されていたとは思えないほど異国の政治情勢に踏み込んでいる作品」と書いたがこの作品は古典部シリーズではないので当たり前といえば当たり前である。ではもし仮に雰囲気を古典部に合わせて書き換えたら?と考えるとなかなか面白い話になりそうだと思った。なぜかというと異国の未知の存在が折木の成長を促しそうだからだ。折木の信条からして能動的にマーヤのような存在に触れて異国に思いを巡らせる事はないであろう(姉ならありそうだが)そしてそれが戦争という命のやり取りが行われるとあれば日本のいち高校生には大変な刺激となる。そういった未知の刺激に触れた折木奉太郎がどんな選択をするのか、摩耶花や福部との関係性にどんな変化があるのか見てみたいものだ。(個人的にユーゴの件について話し合ったら摩耶花や福部と折木は意見が割れそうだと思う)
古典部の話が長くなってしまった。「さよなら妖精」に話を戻そうと思う。この作品が面白かったかというと★が表している通り正直微妙であった。1つは謎が微妙かつ少ないという点。この作品はミステリにカテゴライズされているのだが、物語を通して謎解きをするシーンは少ない。あったとしてもサブクエスト的な推理が多くあまり惹きつけられない。唯一墓場の謎に興味を惹かれたが、あれはこの作品の世界観から逸脱していたように感じる。
もう1つは登場人物を好きになりきれないということ。魅力的なキャラクターで好きになる素養は兼ね備えているのだが、それが発揮されず好きになりきれない。例えば探偵役は守屋なのだが(能力で言えば太刀洗なのだが積極的に参加しないので守屋が推理するシーンが多い)太刀洗の力を借りずに最後まで解ききったのはユーゴスラヴィアの下りくらいなものだった。一方守屋が投げ出した謎を太刀洗が推理するのかと思えばとある事情でそれをしないので全体的に推理パートが不完全燃焼に感じる。物語の序盤イメージしていたのは守屋が推理を始める→太刀洗に投げ出す→太刀洗がある程度骨組みを推理して守屋に投げ返す→守屋推理披露→太刀洗が補完というものだったのだが小さいスケールでは披露されたものの物語の中心となるようなスケールでは披露されなかった。では、ユニットで見てはどうか?守屋・文原ペアはどうだろうか?私は米澤穂信の男性ペアが好きなのでこの2人も例に漏れず好きではある。ただ、文原の性格によりあまり物語に深く絡んでくる事がなかったので好きになるような場面自体が少なかった。守屋・太刀洗ペアはかなり好きなペアだ。もし継続的にこのコンビが描かれるなら1番好きになるかもしれないが今作だけで判断するならあまり良いコンビネーションは発揮していないと思う。それは守屋が太刀洗を見誤っているからであり、推理を投げ出すからであり、太刀洗が積極的にマーヤの事情に踏み込まないからである。
ツラツラと不満を書いてきたが上で書いた不満はこの作品を推理小説として、古典部に多少なりとも関連する小説として読んでいるから出るものであって、これを古典部とミステリーを抜きにして、未知の国から来た少女と高校生の話だと思って読めばそれなりに面白い。(もちろんミステリとして出来てるのでその読み方で良いのかは分からないが…)
この話を読んで異国出身の友人を思い出した。ある日私は彼の国に行ってみたいと言った。何の気もないただの日常会話のつもりだった。ところが帰ってきた言葉は衝撃だった。現在国内で武力を伴うゴタゴタがあり安易には帰れないと言うのだ。詳しくは聞かなかったが帰ってしまうと徴兵されるので出国出来ないだとか。彼は一緒に飲みに行った際ホームシックで泣いていた事があったのだが、その裏にそんな事情があるとは知らなかった。正直かなりカルチャーショックを受けた。仕事の合間の他愛もない会話のつもりだったが、異国では国の内外で衝突があり、それによって人が死に、家に帰れなくなるといった事情が身近にあるということを初めて感じた経験であり、まだまだ自分の視野は狭いなと実感した経験でもある。
Posted by ブクログ
マーヤの抱えるものに対して、それを助けたい気持ちと未知の世界への欲求もあって共に行きたいと志願する守屋が少し痛い。気持ちはわからないでもないが、高校生という若さを感じる。
後半、マーヤはユーゴスラビアのどの共和国に帰ったのか?推理が繰り広げられるが、私の知識が無さすぎてついていけず、wiki検索。6つも国家があり、さすがに参考文献もなかなかの量である。
マーヤは結局生きているのか?
手紙の中の露骨な言葉に驚きつつも、首が撃たれたとなるとしばらく苦しんだのか、それとも当たりどころが良く即死できたのか。
呆気ないながらも、自身の平和ボケを感じる読後感。
Posted by ブクログ
旧ユーゴからやってきた高校生マーヤと弓道部員守谷がその仲間達と繰り広げる日常系ミステリー。初の米澤さん本だったが、文語調強めの日本語表現が特徴的。ユーゴ国民として内戦へ突き進む祖国を憂うマーヤの発言は常にリアルで、当時の緊張感が伝わってくる。様々な局面でマーヤからユーゴを感じることができる不思議な物語で、雰囲気は良かった。
多民族国家で純粋な国民国家を建設しようとすると、少数派の弾圧を生み、宗教や民族をベースにしている分その弾圧は凄惨なものになるのかもしれず、帝国による緩い統治が多民族国家の場合には適しているのかもしれない、なんて素人ながらに考えさせられた。