【感想・ネタバレ】ヴィヨンの妻のレビュー

あらすじ

酒と女に明け暮れる無頼派の作家。26歳のその妻は夫の尻ぬぐいに奔走するが……。古い価値感が失われ新しい価値観が生まれようとしている戦後の混乱の中、必死に生き抜こうともがく男と女の愛のかたちを繊細に描いた表題作。その他太宰晩年の好短編を多数収録。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

興味深いストーリーばかりを揃えた短編集。

『父』、義のために放蕩するところが太宰っぽいなぁと。蟻の足跡のような無意味な文字という比喩も分かりやすくてすごい。奥さんがとても可哀想……。

『親友交歓』なんという人物や。

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2026年08月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

## 感想まとめ

太宰は意外と家族のことを想っていたのだなあと思う。

家族を想い、仕事に苦しみ、そして家族との関係に苦しみ、自分を追い詰める。

それが作品にも滲み出る。

太宰治の作品は最近少しずつ読んできているが、『人間失格』の息苦しくて暗い雰囲気から、『富嶽百景』の爽やかな雰囲気まで、色々な作品が書ける素晴らしい作家さんだなと思う。

しかし、素晴らしい作品を生みだせる感性は他人とは違うものがあるからこそだと思うが、それがあるからこそ世間からは浮いてしまって生きづらさがあるはず。

そう思うと、素晴らしい作品を届けてくれる芸術家の皆さんたちの苦労には頭が上がらない。

そしてその作品を何十年経ってもこうして読むことができるのも、出版社をはじめ、たくさんの人の努力あってこそ。

たくさんの素晴らしい仕事の上に、世の中は成り立っている。

この本の解説の中で、「太宰治の作品は『罪悪感』を宿している」とあって、納得した。

太宰治の作品から私が感じた、家族への申し訳なさ、開き直り、だらしなさ、憤り、これらをまとめて、『罪悪感』と言えば腑に落ちた。

この短編集の中にある複数の短編から、『生きづらさ』を感じる。

生きている上で、人は誰しも何かしらの罪悪感を抱え、生きづらさを覚えるのかもしれない。

だから、太宰の作品には惹きつけられるものがあるのかもと思う。

## 親友交歓

突然やってきた親友を名乗る平田。
平田は太宰秘蔵のウイスキーをがぶがぶ飲み、妻を呼びつけお酌をさせ、迷惑をかけまくる。
こういう無遠慮な人、お酒で暴れる人はたくさんいるし、たくさん見てきた。
太宰の冷めた物言いが面白い。
高いウイスキーを惜しく思ったり、昔の偉人の忍耐伝説を思い出して「やっぱり俺には無理だわ」と考えたり、太宰の人間らしいところに共感できる。
私なら即座に追い返している。

## トカトントン

恐らく太宰宛てのファンからの手紙という文章。
こんな小説の書き方もあるのかと面白く思う。
途中、マラソン選手を見た男の語りがある。
マラソンを「無報酬の行為」と言う。
たしかに、職業になるほどのプロでない限り、誰から何を求められるでもなく走っている人は大勢いる。
みな、それでも走る。気持ちいいから。自分を試したいから。また理由はないかもしれない。
ただ楽しいからやる。報酬をもらえなくてもやりたいからやるということがあるのは豊かだと思う。
また、伯父に「人生とは何か」を聞いた返しの

> 「人生、それはわからん。しかし、世の中は、色と慾さ」(p62)
>

は、なかなか真理だと思った。

## 父

子がいながら浪費に走ってしまう男の胸の内が語られる。
たぶん太宰治本人の気持ち?
私も子を持つ父だが、父になったからといって、体に何かの変化があるわけではないし、一人の人間だから、自堕落な部分は大いにある。
親も万能ではない、ただの人間。

しかし、こうした昔の文芸作品を読むと、男は今の価値観で言えばかなり破天荒だ。時代が変われば良しとされる価値観は変わるものだなあとつくづく思う。

## 母

> 「わざと身をやうして行くのです。水戸黄門でも、最明寺入道でも、旅行する時には、わざときたない身なりで出かけるでしょう?そうすると、旅がいっそう面白くなるのです。遊び上手は、身をやつすものです」(p89)
>

わざと汚い服装で太宰を訪ねてくる小川新太郎の言葉。なんだか粋な雰囲気。

> 「日本の宿屋は、いいね」「なぜ?」
「うむ。しずかだ」(p101)
>

おしゃれな締め方。

若い帰還航空兵が電気を付けようとして女中が拒む。それを盗み聞きする主人公の先生。

この短編集は全体的に戦争の気配を感じさせるものが多い。

戦争が与えたのはただの経済的なダメージだけでなく、文化的にも大きな影響を与えている。

## ヴィヨンの妻

先にある『父』を読むと、その妻目線の話かなと思える。今は父親も家事育児を共同で行うのが当然というような価値観が作られつつあるけど、この時は破天荒な父親はたくさんいたし、それが格好いいとさえ思われていたかもしれない。

めちゃくちゃな飲み方をして周りを不幸にしていく大谷さん(太宰?)。とにかくモテるのか色々な女性と飲み屋に来てはただ酒を飲む。なかなかロクでもない。

> 「僕はね、キザのようですけど、死にたくて、仕様が無いんです。生れた時から、死ぬ事ばかり考えていたんだ。皆のためにも、死んだほうがいいんです。それはもう、たしかなんだ。それでいて、なかなか死ねない。へんな、こわい神様みたいなものが、僕の死ぬのを引きとめるのです」
「お仕事が、おありですから」
「仕事なんてものは、なんでもないんです。傑作も駄作もありやしません。人がいいと言えば、よくなるし、悪いと言えば、悪くなるんです。ちょうど吐くいきと、引くいきみたいなものなんです。おそろしいのはね、この世の中の、どこかに神がいる、という事なんです。いるんでしょうね?」(p138)
>

太宰治自身の胸の内なのかも、と思う言葉。

辛い、死にたい、でも死なない。

作品を書くことは止められないが、その評価は人が決めることで、自分ではどうしようもない。

そんな夫に妻が言う。

> 「人非人でもいいじゃないの。私たちは、生きたいさえすればいいのよ」(p145)
>

強い言葉だ。

どんなに辛くても、他人からどう思われようと、ただ生きていればそれでいいと。

この話に出てくる妻への私の印象は、強いところと弱いところが混ざっている。

夫が飲み歩く店で働き出すことを名案と言い喜んで働く姿はたくましい。

しかしその前の夫の仕事について書かれたポスターを電車で見かけたときに流した涙は、色々と辛いものが溜まりに溜まって、堪えきれなくなったのかも、と思う。

夫婦は違う人間同士が共に生活するのだから、相容れない時が必ずあるものと思う。

しかし、その中で折り合いをつけていくものでもある。

この妻の場合は夫は折り合いをつけてはくれなかったが、自分が変わることで、結果的に関係を変えられることになった。

お互いが歩み寄る姿勢が大切だ。

## おさん

> 男の人って、死ぬる際まで、こんなにもったい振って意義だの何だのにこだわり、見栄を張って嘘をついていなければならないのかしら。(p168)
>

妻と子どもを残して、「ジャーナリストだ」「革命だ」と手紙を残して愛人と心中した夫の手紙を読んだ妻の言葉。

「本当につまらない馬鹿げたこと」とバッサリ切り捨てる。

妻は、ただ夫が家にいてくだらないことや取り止めもないことで笑い合って生きていられればよかったのに、大義のためと嘯いて死んだ夫に呆れている。

ほんとうに大切なのは、近くにいてくれる家族だ。

## 家庭の幸福

> 家庭の幸福は、或いは人生の最高の目標であり、栄冠であろう。(p183)
>

と言っておきながら、最後には「家庭の幸福に全力を尽くす余り、知らぬうちに他人の不幸を招いてしまった」という短編のアイデアを出す。

恐ろしい。

誰かの幸せの裏には、誰かの不幸があるかもしれない。

## 桜桃

> 私は家庭に在っては、いつも冗談を言っている。それこそ「心には悩みわずらう」事の多いゆえに、「おもてには快楽」をよそわざるを得ない、とでも言おうか。いや、家庭に在る時ばかりでなく、私は人に接する時でも、心がどんなにつらくても、からだがどんなに苦しくても、ほとんど必死で、楽しい雰囲気を観る事に努力する。そうして、客とわかれた後、私は疲労によろめき、お金の事、道徳の事、自殺の事を考える。いや、それは人に接する場合だけではない。小説を書く時も、それと同じである。
私は、悲しい時に、かえって軽い楽しい物語の創造に努力する。自分では、もっとも、おいしい奉仕のつもりでいるのだが、人はそれに気づかず、太宰という作家も、このごろは軽薄である、面白さだけで読者を釣る、すこぶる安易、と私をさげすむ。
人間が、人間に奉仕するというのは、悪い事であろうか。(p192)
>

太宰治の本心が滲んでいる気がする。

芸術家と自身を称する短編もあったが、作品を生み出すという仕事においては苦しみもがきながら奉仕の気持ちで取り組み、家庭においては必死に楽しい雰囲気作りに努める。

そうして、いわば自身を犠牲にしているうちに擦り減ってしまうのかもしれない。

> ヤケ酒というのは、自分の思っていることを主張できない、もどっかしさ、いまいましさで飲む酒の事である。いつでも、自分の思っていることをハッキリ主張できるひとは、ヤケ酒なんか飲まない。(女に酒飲みの少いのは、この理由からである)(p195)
>

辛さから酒に逃げる太宰治の、酒に対する考え方。自分の思っていることを主張できる人はヤケ酒なんか飲まないというのは、なんだか納得できる。

## 知らない言葉

- 空空漠漠(くうくうばくばく)
- 上州(じょうしゅう)
- 寸善尺魔(すんぜんしゃくま)

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2025年10月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

親友交歓は好き、横暴な田舎者をよくぞここまで歓迎できるなあ
ヴィヨンの妻は好き。どのようにしてでも生き残ろうとする苦労が、妻の冷めた態度から描かれている。だれしもが戦後はこのように苦労して生きていたのかな

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2026年10月22日

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