あらすじ
国史研究史上、初めての発見! 「金沢藩士猪山家文書」という武家文書に、精巧な「家計簿」が完全な姿で遺されていた。仕事は経理、小遣い5840円、借金地獄、リストラ……。タイム・カプセルの蓋を開けてみれば、江戸時代史や日本近代史の見直しを余儀なくされる驚きの連続。気鋭の研究者による意欲作。
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Posted by ブクログ
古文書読みの磯田氏が古本屋で入手した「武士の家計簿」。幕末から激動の明治維新をこの一家はどう乗り越えたのか。
興味を引いたのは主人公が自力で債務整理をすること。返すだけ返し、残額をりそくなしの10年賦にする。現代の任意整理そのもの。
大村益次郎など、有名な人物も登場する。
加賀藩の御算用者が明治政府の海軍主計になる、数奇なストーリー。
映画も見たが本で読まないと本当の価値はわからない。
Posted by ブクログ
面白かった。経済関連の話はあまり得意ではなく、というのもお金って増やして商品増やして消費を増やして、その先のビジョンって何なの?って思っててそれがなんかよくわからないからなんだけど、
経済状況をこうやって、家計簿っていうふうに残すことで、その当時の暮らしや思想や価値観を丸ごと残すことが出来るんだ、と思って、それは経済の特筆すべきところだなあと思った。
出費と収入をおさえれば、どんな仕事をしていたのか=その社会の産業 も、何の浪費をしていたのか=その当時の流行やサービス もわかるし、出産グッズやちょっとした買い物で家族の歴史が追える。特にこの本では丁寧な解説もあって、当時の人がどんなことを考えていたのかというのが丸分かりなのが、すごいと思った。武士の刀をうっぱらったりとか。
本書はある一家を丸々追ったルポタージュのようになっていて、物語風なのが面白く読める。歴史の研究の醍醐味を感じた気がした。成之が死んだのが、うちのまだ生きている曾祖母とちょうどタッチの差だというのも、歴史と言えど、つい自分の鼻先くらいの場所の出来事だったのだなと思われて、現代に繋がってる感が面白かった。
時代は変われど人はそれを嘆かず、こつこつとやれることをやる、というのもよかった。こんな幕末に比べたら、今の世は落ち着いているようには思う、だからと言ってどちらがよいとは言えないし生きている限りどんな世でも不幸の種はつきないと思うけど、
だからこそ他の時代の苦労もわかるし参考になるところもあるのかもしれない。やっぱりサラリーマン世代の、特にリタイア少し前の人とかに、おすすめだなと思う。
Posted by ブクログ
「武士は食わねど高楊枝」の秘密。
武士がどのように家計を管理していたか、どれくらいの収入があり、どれくらいの支出があったか。時代劇を見ていてもよくわからないし、あまり考えたこともなかった。この本は、加賀藩のある武家一家の財政管理のまとまった記録を元に、江戸末期から明治にかけての武士の生活を紐解いた本である。
そもそもきちんと記録を付けていたのが、おそらくこの記録者が算盤で職を得ていた人だからというのが面白い。計算能力は世襲じゃないし、武士の中ではあまり好まれない技能だった。でも猪山家はその力を磨き、出世の道を駆け上がり、厳しい家計をなんとかしたのだ。
武士は儀式や付き合いにお金がかかる。でも武士であるためには欠かせない出費である。それをなんとか工面して体面を維持していた猪山家。明治維新で士族の多くが今までのやり方から抜け出せず、新たな生き方にも苦労した。猪山家は学問の力で海軍に入り収入を得る。家禄を手放すタイミングや資産運用も考えて動いている。その結果、大きな時代の変化を抜け出せている。
社会のシステムが変わっても活かせる力。猪山家の記録からはそれが時代の大転換を生き抜くポイントになったと考えられる。AIに仕事を奪われると心配している自分たちもそのような社会システムが変わっても必要とされる力を見抜いて磨いていきたい。