あらすじ
前任地での仕事の引継ぎに行って来るといったまま新婚一週間で失踪した夫、鵜原憲一のゆくえを求めて北陸の灰色の空の下を尋ね歩く禎子。ようやく手がかりを掴んだ時、“自殺”として処理されていた夫の姓は曾根であった! 夫の陰の生活がわかるにつれ関係者がつぎつぎに殺されてゆく。戦争直後の混乱が尾を引いて生じた悲劇を描いて、名作『点と線』と並び称される著者の代表作。
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Posted by ブクログ
初松本清張作品。サスペンス小説の王道を行くような話でなかなか好き。同時に、かつて日本に存在したであろう終戦直後の混乱期を生きる人たちの息遣いが感じられたような気がした。終戦直後の様子は、もはや事象として断片的にしか知ることができないけれど、感情を持った人間として確かに生きた人がいたのだ、と考えさせられた。この頃の日本を知っている人だからこそリアルさを持って書けるのだな、などとも思った。
Posted by ブクログ
『砂の器』の時にも感じた、今の時代では使えない、当時だからこそのトリックに驚かされた。
結婚間もない夫の失踪、そのため夫の事情が何も分からない主人公、その中で少しずつ真相に近づいていく展開から目が離せなかった。
本多からの想いも、全く靡かないのが良かった。勝手なイメージだけれど、これが他の方が書いていると本多と道ならぬ恋…とかなっていそうだったので。身持ちの固い主人公だからこそ、まだ日の浅い夫のために駆けずり回る描写が違和感なく見られたのかなと。
ラストの沖に向かう船に乗った妻が崖の上の夫に手を振っていた、という描写がなんとも美しかった。死へ向かう残酷さが、その情景に言いしれない美しさを与えているように感じた。
なにかの後書きで、松本清張は難しい表現はあまり使わず、簡便な文体だからこそ輝く、といった意見を見たけれど、難しくない簡便な文体であそこまで美しく描写できるのは素晴らしいと思った。
Posted by ブクログ
探偵ではない一般人が推理を進めるという話の流れは少しユニークだった。
昔の作品であるからなのか現代では考えられない情報のやり取り(見ず知らずの人間に個人情報を渡す)であったり主人公の禎子の価値観(見合い結婚で間もないのに一生懸命尽くした本多より鵜原を好意的に見ている)のせいで変に物語に入り込めなかった。
Posted by ブクログ
時代は感じさせるもののぐいぐい読み進められた。さすが名作。禎子視点で推理が進み、状況証拠?が中心でやや心許ない気はしたが、その当時だと防犯カメラもないだろうし仕方ないかなとも思った。戦後の混乱は想像もつかないが、当時の女性がおかれた状況を思うと胸が苦しい。ラストはとても辛い。能登であることが一層辛さを増す気がする。この暗さは雪国が舞台だからこそかなぁ
Posted by ブクログ
この物語が評価されたのは謎そのものではなく、もはや戦後ではないと言われた時代の暗黙の了解を、闇に葬らないように、サスペンス仕立てで書き表したことにあると思う。
米兵の夜の相手を勤めた女性たちの哀しさ。まとわりつく侮蔑の目。どんなに拭い去りたくて、幸せになりたかったか。
殺人事件までは起こさなくてもこの思いが分かる人、または身近な人がそうなのではないかと思っている人、他人事ではなく我が事として受け止めていたからこそ多くの人に読まれたんだろう。
戦後の雰囲気を色濃く反映しているは任侠映画とかなのかなと思うが、そう言う派手なものばかりじゃなくて、沈黙されたものにも目を向けないといけないなと思う。
家の写真がヒントとなったところで『火車』を思い出し、オマージュだった事に気付いた。