あらすじ
三十年近くコンビナートの荷役をし、酒を飲むだけが楽しみ。そんな男のもとに、十五夜の晩、偶然、転がり込んだ美しい女──出会うはずのない二人が出会ったとき、今にも壊れそうに軋みながらも、癒しのドラマが始まる。表題作ほか、青少年の鑑のような高校生が、ふと足を踏み入れた極道の世界で出会ったヒットマンとの、短くも充実した日々──「銀色の雨」。子供のころ、男と逃げた母親との再会をイタリアを舞台に描く「ピエタ」など、“浅田マジック”が冴える全七篇。
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Posted by ブクログ
男女の恋愛を中心とした関係性の複雑さと葛藤を描いた短編集。
理性と感情は、時に相入れないものかもしれないが、そこをないまぜにした割り切れない存在が「人」であり、それを他者との関係として顕著に現したものが「愛」なのかもしれない。
それぞれの物語を自分の経験と照らし合わせて置き換えてみると、つい理性を優先してしまい、感情を置いてきぼりにしてしまうことが多かったと省みることができる。
どちらが重いのではなく、どちらも内包して、苦悩し葛藤し、それでももがいて現実世界での答えを出そうとする営みが、人を人たらしめている行為の表れなのかもしれない。
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短編小説。どの話も、男女のいろんな愛のカタチが切なく、そしてとても優しく描かれていた。
読み終わった後、じわーっと胸に暖かさが残る。それはどことなく月明かりのようなぼんやりとした暖かさにも似ていて、「月のしずく」っていうタイトルがとてもよく似合う本だと思った。
通勤中に電車で読んでいたのだけれど、どうしても涙をこらえられなくて、目に涙をいっぱいためながら本を読んでる変なひとになっちゃった。
失敗したっていい、どんな間違いをしたっていい、ちゃんと自分に見合う素晴らしいひとが身近にきっといて、その素晴らしさを拾い上げられるひとにならねば、と思わせられました。
全部好きだったけど、特に好きだったのはパリで出逢った画家の恋人が忘れられない女性のはなし。
「オルヴォワール」
美しい響き。フランス語の美しさを知っているからこそ、最後に交わすフランス語の別れの挨拶がとても切なく、潔く、美しく心に響きました。
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浅田次郎さんの作品らしい7つの短編集。
ヤクザ、中国人、不器用な男や女が登場し、男と女の関係がまずある。
帯の題にもなっている「月のしずく」が一番だったかな。
美人で次々と男を替えるような女性リエが、金持ちで妻帯者の男性と関係を結び、赤ん坊が出来る。
当然の展開で、結局ケンカ別れになるが、たまたまその場面に出くわしたのが、中年の労務者辰夫。
女性を介抱し小汚ない自分の家に泊めてあげるが、それまで彼女と関係を持った男とは異なり、女性のことを考えて手を出さない。
彼女にとっては新鮮で、心が通うようにもなるが……。
不器用な男の辰夫は、実にいい味を出している。
彼女と関係を結ぶ男性とは真逆だ。
指名手配中のヤクザ岩井章次とその女菊枝、年下だが母親が菊枝のことを可愛がっていた関係で、幼い頃から面識のある和也との、不思議な生活を描く「銀色の雨」も良かった。
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浅田次郎、男女の哀愁、ノスタルジー、偶然、再会、色んな情景が浮かぶ7編。浅田さんの文章は分かりやすく、登場人物の心情が理解できる。圧倒的に一番よかったのは「花や今宵」。見知らぬ男女2人が酔いつぶれ、中央線で寝過ごし山梨まで来てしまう。2人はお互いに愛するパートナーがいると嘯く。それぞれパートナーとの愛情が切れていた。女性は不倫中、男性は分かれたばかり。2人の微妙な距離感、話すにつれ一定の距離感を保ちながら縮まってくる。この描写がエロティックであり、プラトニックである。最後にはこの2人の距離感が密着する。
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男女の愛情であったり、親子の愛情であったり、色んな“情”に溢れた、なんかいい話ばかりの短編集。
熟練の大将が、素材も調理方法も全て異なる料理を次々と出してくれるのを、美味い美味いと言いながら食べているかのように読み進めていきました。
中でもグッときたのは
『聖夜の肖像』
『銀色の雨』
『流璃想」
『ピエタ』
でした。って全7篇のうち4篇も選んでちゃ世話ないですね。
どれも面白かったです。
Posted by ブクログ
短編集。『銀色の雨』『月のしずく』がよかったです。久しぶりに大人の男と女の物語を読んだような気がします。どれも終わり方に余韻が残って、この後二人はどうなったのか?たぶん幸せになったのだろうと思う。そんな風に思わせる読後感の良い全7編でした。
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久しぶりに浅田次郎さんの作品を読んだけれど、時々涙が出そうになり、さすがに上手だな、と。
特に独白部分がよかったし、ラストが読者がこうなってほしいと思うような展開になり、読後感もよかった。
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あまりこういった恋愛小説の類は読まないのですが。。。
浅田次郎さんという作家はとてもエモーショナルで、私の中では「泣かせの次郎」。これでもかと泣かせを迫るのですが、どういうものかそれが余りいやらしくない。そのあたりの上手さがこの作家の特徴のように思います。
一方、冷静になって考えると、しばしば「何でそうなるの?」と思われるストーリーの必然性の無さが気になるところも有ります。特に長編ではそのあたりが気になってました。
短編は今回が初めてです。やはり「何故」は感じるところが無いとはいえません。しかし短い場面を切り取るという短編の特性ゆえでしょうか、長編よりもその傷が浅くて済むようです。長編よりも寄り爽やかで、一気に読み上げました。
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一筋縄でいかない恋愛短編集。
月のしずく:不器用な仕事人の主人公が報われる話は、読んでてうれしいし、この作者に書かせると上手い。
聖夜の肖像:チャコさんはしあわせな女だと思うし、周りの人が素晴らしい。
銀色の雨:恋した女性を追ったばかりに、別の世界に踏み込みかけたカタギの少年の話。
瑠璃想:中国に故郷を持ち、過去に家族をそこに置いてきた社長の話。
花や今宵:出てくる男女が意地っ張り。最後数行のスピード感が笑える。
ふくちゃんのジャックナイフ:最後の映画のワンシーンのような描写のために、書かれたような話。
ピエタ:大人の女とその母の話。「聖夜の肖像」「瑠璃想」とこの話は過去と折り合いをつける話。
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酒好きの中年おっさん向け良質短篇集。
どの話を気に入るか、人によって好みが分かれそうですね。
個人的には「瑠璃想」がお気に入り。
★4
月のしずく、聖夜の肖像、銀色の雨、瑠璃想
★3
花や今宵、ふくちゃんのジャック・ナイフ、ピエタ
Posted by ブクログ
妻子持ちだった恋人とひどい別れ方をしたリエはたまたま居合わせた辰夫の家に厄介になることに。
「お腹の元恋人の子供がいるの、お願いちょっと|中絶《おろ》すの手伝ってよ」
しかし純粋な打算で近づいた男は何を勘違いしたのかその子を二人で育てようなどと言ってくる。はあ、とんでもないお馬鹿な奴もいたもんだ。こんないまだに汲み取り便所を採用しているようなアパートに住む男がこの私と釣り合うとでも思っているのかしら。学もなさそうだし、たぶん身の程知らずという言葉も知らないんじゃないかしら。でもいいわ、私は優しい女だからあなたが安物の時計をプレゼントしてくれたって窓に叩きつけて壊すぐらいで許してげる。
まったく男ってのは女の人格なんてどうだっていいんだわ。下半身で物事を考えるっていうのは、あながち間違っていないのかもしれないわね。馬鹿みたい。行きずりの男に堕胎の手伝いを申し出るような女のどこが良いて言うの? 仕方ないから一発やらせてあげる、それでおしまいにしましょう。そしたらこの子を堕ろすのを手伝ってね。
次回『社会の底辺が安物の腕時計をプレゼントする前の「ただいま」が死ぬほど気に障った』――これがブスなら話にもならない
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2015.10再読
読んで処分しようと思ったものの、読んだら処分できなくなった短編集
2023.07再読 旅先持参、処分。やっぱりいい。
月のしずく ☆☆☆☆☆→☆☆☆☆
聖夜の肖像 ☆☆☆☆
銀色の雨 ☆☆☆→☆☆☆☆
琉璃想 ☆☆
花や今宵 ☆
ふくちゃんのジャック・ナイフ ☆☆
ピエタ ☆☆☆
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映画とかになった長編のイメージから、あんまり僕にはわへんのとちゃうかとおもってたけど
ひょうんなことから、映画にもなった「鉄道員」を含む短篇集を読み、気にっても一個読んでみた。
すばらしい。
うまくは表現できないけど、なんとも、心にひっかるものがあり
なんとも言えない余韻が読後に残る。
これが、6つも7つもあるんだからたまりまへんな。
Posted by ブクログ
2025.7.12~2025.7.30
(感想)
読みやすいけど、やはり浅田次郎節はどこか気になる(違和感がある)。ちょっと嘘っぽさを感じる…
ドラマなどには向いているかもしれない。
ストーリーとしては、人情ものとしてとてもいいのですが。
Posted by ブクログ
すごく綺麗なタイトルに惹かれて手に取った一冊
様々な愛情、の短編集で読みやすい
相手がどんな言葉で傷つけようと、心に深い傷があろうと、それを包む大きな愛情がどの作品にも共通しているように思えた
血のつながりのない他者に
こんな大きな愛情を持ち、貫く人は世の中にいるのだろうか
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人と人との不思議な縁を描いた短編集。
大半は男と女の物語であまりピンとこなかったが、最後に掲載されていた『ピエタ』は、読んでいるとなぜだか涙が出そうになった。
しかしどれもこれも悲劇のヒロインが多すぎてうーん……
私には合わなかったかな?
Posted by ブクログ
読んでいて気恥ずかしくなってしまう作品とこれぞ浅田次郎節(任侠道編)と思う任侠作品が混在した短編集。各作品の評価はつぎの通り。
「月のしずく」★★★
「聖夜の肖像」★★★
「銀色の雨」★★★★
「流璃想」★★★
「花や今宵」★★★
「ふくちゃんのジャックナイフ」★★★★
「ピエタ」★★★
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最近、血生臭い系の小説が続いたので目先を変えて浅田次郎の短編集。
私的には浅田次郎の最高傑作は「壬生義士伝」。
浅田作品は登場する凛とした人物が好きで何冊も読んでいます。
この短編集は7つのお話しが納められていますが私にはイマイチハマらなかった。少し甘めの星3つ。
唯一少しグッときたのは最後の一編の「ピエタ」かな。
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有名な「ラブレター」でも涙を搾った浅田次郎。女性の心情すらおてのもの、なはずが、微妙にズレているように思う。特に表題作『月のしずく』はどうなの?ファンタジーと言われればそれまでなんだけれど。
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ずっと積読にしていた本と思ったが、読んだことあった。
浅田先生の「鉄道員(ぽっぽや)」の頃の短編集。
「月のしずく」千葉の姉ケ崎だったら、多少土地勘もあるのに、既読に気が付かなかった。「聖夜の肖像」で、稍々記憶があるなあ。4作目の「瑠璃想」は、覚えていた。他の作品もしっかり覚えていたものも、全然記憶のないものも。
記憶のない作品も浅田節に慣れてしまっているのと、目の衰えで、一文字一文字を追わず、大体の文意を追うような読書になった。
Posted by ブクログ
『月のしずく』他、短編全7話。
浅田次郎作品という事で手に来てみたものの、いささかストーリーが出来すぎてる感が否めず。内容もクサいやり取りが多く、結末も意外性が乏しい気がする。次の作品に期待したい。
Posted by ブクログ
浅田次郎さんの小説を読むのは三冊目くらいだけど、女の人より男の人の支持者が多いような気がしている。少なくとも私の周りで浅田次郎さんが好きだと言っているのは全員男の人。
というのも、この短編集を読んで少し解った気がする。
あらゆる意味での“男のロマン”が詰まっているように思えたから。
表題作はまさに“男のロマン”。
コンビナートの荷役を30年近くしている冴えない40代の独身男の元に、ある十五夜の晩、ひょんなことから美しい20代の女が転がり込んでくる。
というプロローグからロマンが溢れているように思えるし、主人公の男はこれでもかというほど純朴で、美しい女は気が強い、というところもまさに。
その他も、不倫の関係を精算したあと相手の女に少しの執着心を見せる中年男が主人公の「琉璃想」は、切なくて物語自体は好きなのだけど、主人公の行動は女としては理解しきれない部分もあったりする。
任侠の世界やバイオレンス的な世界に対する憧れが見え隠れする物語もある。
女性が主人公の物語であっても、どこか思考が男性的であるような気がした。言ってしまえば「女はたぶん、もっとずる賢く立ち振る舞うよ」と思ってしまう感じ。笑
それだけ美しい結末のお話が多かった。
映画化に向きそうな物語ばかり、と思っていたら、実際の「銀色の雨」は映画化されているみたい。
ヤクザに匿われている殺し屋と情婦とその情婦を愛する少年のお話。
女よりもきっと男のほうが理解して感動もするだろう。と感じた作品群でした。
Posted by ブクログ
愛した人が例え自分には決して振り向かず、
他の人を想い続けているとしても、 愛してきた自分がいるからいい
という台詞があって、泣きそうになった。
自分はそこまで好きになれる人に出会えるだろうか。
Posted by ブクログ
浅田次郎というと、私らからすると競馬好きのご同輩という感じで、今日でもJRAのブログに「思い出の天皇賞」みたいなことを書いているのだけれど、文章書かすと洒落た文章書きますよねぇ。
この本、中に収められた「銀色の雨」が映画になるようで、確かに映画にしたら良いような街の佇まいと季節の色合いが散りばめられ、コンビナートの光、滲んだネオン、鴇色の空、群青の空を被いつくす爛漫の桜、緑の葉と真赤な夏の花…、これらを背景に、夫々の男女のこれまでの人生に対する懺悔と浄化が描かれる7つの短編集。
ただ、どれも哀切さ溢れる佳い話なのだけど、描かれるお話の微妙な古めかしさの違和感からか上手な話が出来過ぎなためか、夫々の心の浄化の過程が私にはイマイチしっくり来なくってねぇ…。
そんな中では、クリスマスのイルミネーションの中で起こった夫と妻と妻の元恋人の奇跡の邂逅を描いた「聖夜の肖像」が一番良かったかな。