【感想・ネタバレ】遅いインターネットのレビュー

あらすじ

インターネットは世の中の「速度」を決定的に上げた。
しかしその弊害がさまざまな場面で現出している。世界の分断、排外主義の台頭、ポピュリズムによる民主主義の暴走は「速すぎるインターネット」がもたらすそれの典型例だ。
『遅いインターネット』が主張するこの指摘はコロナ禍とウクライナの戦争が起こる中、悪い意味で加速している。いま改めて最新の分析と対抗策を大幅に加筆しついに文庫化。
インターネットによって本来辿り着くべきだった未来を取り戻すには、今何が必要なのか。気鋭の評論家が提言する。

解説:成田悠輔
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序章 オリンピック破壊計画
TOKYO2020
平成という「失敗したプロジェクト」
「動員の革命」はなぜ失敗したか
走りながら考える

第1章 民主主義を半分諦めることで、守る
2016年の「敗北」
「壁」としての民主主義
民主主義を半分諦めることで、守る
民主主義と立憲主義のパワーバランスを是正する
「政治」を「日常」に取り戻す
インターネットの問題はインターネットで

第2章 拡張現実の時代
エンドゲームと歌舞伎町のピカチュウ
「他人の物語」から「自分の物語」へ
「他人の物語」と映像の世紀
「自分の物語」とネットワークの世紀
『Ingress』から『ポケモンGO』へ
ジョン・ハンケと「思想としての」Google
仮想現実から拡張現実へ
拡張現実の時代
個人と世界をつなぐもの
物語への回帰
「大きな物語」から「大きなゲーム」へ
文化の四象限

第3章 21世紀の共同幻想論
いま、吉本隆明を読み直す
21世紀の共同幻想論
大衆の原像「から」自立せよ
「消費」という自己幻想
吉本隆明から糸井重里へ
「政治的なもの」からの報復
「母性のディストピア」化する情報社会

第4章 遅いインターネット
「遅いインターネット」宣言
「速度」をめぐって
スロージャーナリズムと「遅いインターネット」
ほんとうのインターネットの話をしよう
走り続ける批評

文庫版書き下ろし 新章
分断する社会とより「速い」インターネット時代への対抗戦略
1.コロナ・ショックと「速い」インターネット
2.なぜ人はウイルスを直視できなかったのか
3.パンデミックとデジタル・レーニン主義
4.プラットフォームの時代と、その罠
5.持たざる者たちの希望と絶望
6.金融資本主義とプラットフォーム
7.21世紀のグレート・ゲーム
8.回帰と加速
9.戦争と「遅い」インターネット
10.プロパガンダの本質
11.モノからコトへ、再びモノへ?
12.肉でも穀物でも酒でもなく、禁断の果実を
13.強い物事と弱い人間
14.プラットフォーム下の実空間
15.「庭」へ
16.SDGsの18番目の目標

解説:成田悠輔

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Posted by ブクログ

遅いインターネットってタイトルの人だけど、スマホを5Gにしてたらちょっと笑う。
内容的には、オリンピック批判とか。走りながら考えたこと。村上春樹のエッセイにもちょっと似る。成田祐輔の解説付き。

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2024年08月06日

Posted by ブクログ

他の方も書かれているように文体が難しく、一度では理解できない部分が多かったです。

自分自身がSNSをほぼほぼやらないので、あまりピンと来る話ではありませんでしたが、遅いインターネットが必要というのは理解できました。

フェイクニュースや陰謀論を信じてしまわないために、速いインターネットからはできるだけ距離を置き、しっかりと時間をかけて一つ一つの情報と対峙していきたいです。

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2023年08月22日

Posted by ブクログ

ネタバレ

イギリス人ジャーナリスト、デイヴィッド・グッドハートが「境界のある世界」に生きる人たちを「Somewhere」な人々、「境界のない世界」に生きる人たちを「Anywhere」な人々と名付けた。
非日常ー日時の軸と他人の物語ー個人の物語の軸で捉える考え方。
世界を捉える別の視点を得られた一冊。

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2023年06月18日

Posted by ブクログ

私は宇野常寛の本は『ゼロ年代の想像力』と『母性のディストピア』しか読んでいないのだが、彼の思想はある種戦後民主主義の崩壊とその後の情報社会に対するそのアップデートという一本の軸に貫かれている感じがして、論旨も明快で非常に読むのが楽しい。今回の『遅いインターネット』を読んで得た収穫は、いわゆる批評家が(東浩紀しかり宇野常寛しかり宮台真司しかり中島義道しかり)活動の主眼を本を書くことからコミュニティを形成することに移していることへの疑問(というか半分は不信感)が多少なりとも解消されたということだった。
本書は4章構成だが1章はほぼ『一般意志2.0』や『22世紀の民主主義』、『なめらかな社会と、その敵』と似ていて、衆愚政治に堕した民主主義から情報技術によって本来の政治を取り戻そうとするものだった。特徴的なのはそこで志向されているものがある種テクノクラート的な職業人による仕事の延長として政治が捉えられていることおよび、選挙というものを祝祭と捉え、選挙以外の日常生活の中に政治を接続しようとする試みを描いていることだろう。まあこれもオードリー・タンの受け売り感はあるが(自分で言及してるし)。誤解のないようにいうが、私自身はこういう情報技術の政治は(東や成田のような半ポピュリズムはどうかと思うが)首肯できるところがある。問題はそうした手法が必ずしも全ての政策分野に当てはまるわけではないことで、例えばきわめて専門的な知見を要する事業や長期的な規模間の政策、また誰もやりたがらないが必要不可欠な政策については日常の延長としての政治という手法だけでは無理があると思う。まあその辺も織り込んだ上での議論を宇野はしているので、こうした議論の中では比較的手堅いものか。
2章はほぼ『ポケモンGO』おもしれーっていう話。『母性のディストピア』でみた。
面白かったのは3章で、ここでは吉本隆明の『共同幻想論』の再評価を行いながら現代の情報社会(『母性のディストピア』で描いていた肥大した母胎としての情報技術)における自己像を肥大した自己幻想が共同幻想や対幻想を取り込んでいる状況に喩えている。またここで重要なのが(言い忘れたが本書全体を貫く通奏低音でもあるが)階級の問題で、そもそも情報社会で自己幻想のみで自立しうるのは経済的・人的資本を持った個人のみで、大半の大衆は自己の意見を持つ能力もなく他人の意見をリツイートしたりすることによって自分の意見を言った気になるという意見の格差とでもいうべきものが存在しているということだ。これは本書の冒頭でも、世界に経済活動を通して素手で触れている層と、その実感を持たず政治にその捌け口を求めている大半の大衆層との分断を非常に問題意識を持って述べている。再びトランプ政権が台頭しつつある現代ではこの格差という見方は今の分断の図式を整理してくれたと思う。
4章は1〜3章の議論を踏まえ、リテラシーを養いタイムラインの流行に流されずじっくり熟考する主体を養うためにコミュニティを作ろうという自身のプロジェクトを描いたもの。このコミュニティが成功したのかは私も部外者なのでよく知らないが、理念自体はいいと思う。ただそれは結局、そういうコミュニティに属そうとするだけの意識高い系エリートだけしか包摂できてなくね?という感じがして、宇野が批判している『ポケモンGO』のエリート主義との差別化がうまくできてない気がする。まあこの辺はサロンの人のセールストークと捉えるべきか。

全体としてはまあ今となっては「そうやろなあ」という感じです当たり前のことを言っている感じだった。

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2025年04月28日

Posted by ブクログ

言語が国境に規定され、いわゆる母国語としての壁を超えるには、外国語を習得した上で、外国語の媒体を読み解くか、直接外国人と交流するという方法がある。インターネット以前は、これには物理的な限界があった。今、ネット上では、グローバルな距離は縮み、かつ、タイムリーに情報が公開され氾濫する。更に、機械翻訳も可能。とても便利な時代になって、情報も民主化され、より平和な世界市民的社会が到来するのだ…と無垢に考える人はいないだろう、残念ながら。

フェイクニュース、快楽のための生贄探しや炎上、排外的なヘイト、欲望を刺激するための性的ポルノや消費を煽るリコメンドが溢れる。ここでいう遅いインターネットとは、アナログ回線の事でも、スペックの低いCPUの事ではない。一呼吸おいて自ら思考した上で扱う媒体たれ、というニュアンスを含む。インターネット至上主義は間違いで、であれば民主主義の究極は、結局、全員参加型の意思決定プロセスにはない、と私は思う。弁証や最適解を扱う分野には、それなりのトレーニングが必要なはずで、ポピュリズムに任せたり、それをハックできてしまう状況は危険なのだ。大衆迎合は、大衆操作のためにある。

コミュニケーションをネット空間に置換しても、結局、人間はテキストを誤読するし、自らの感情や論理をテキストで表現仕切れない。原始的な言葉は、顔の表情や身体ランゲージに表れるのであり、声の大きさや震え、つまり、テキストの行間は肉体に任される部分も大きく、対外的には、更に語彙力に致命的に制限されるからだ。この語彙力を駆使した論理の力こそが学問や学歴、偏差値の序列に作用する。インターネットは、一見、この壁を取っ払ったかに見えたが、行間の壁は崩せなかった。

検索でヒットしない現実は存在しない。同様に、語彙に語られぬ現実もまた、表出しない。

なんて事はない。語彙力など、顔文字における眉毛の角度、いいねの指の位置と変わらない。直角のいいねを傾ければ、それは一部不同意を示すなど新たな認識をルール化すれば、そこから一つ語彙が生まれ、運用されるに過ぎない。数学的語彙など、0〜9の記号のみでも大方の論理を説明できてしまうではないか。本当に大切なのは、論理を紐解く読解力である。専門用語は、論理の独占と権威付けのために用いる隠れ蓑であり、内輪ネタ、他者排除のための縛りゲーである。

バベルの塔の本質もまた、言語の多様化ではなく、語彙と論理を権威側が我が物としてしまう事での排外主義的思想にあるまいか。そこに辿り着けない知性の残滓でインターネットを扱うなら、早かろうと遅かろうと、自ず、民主主義は限界であったという事だ。

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2024年10月20日

Posted by ブクログ

グローバルな市場にドメスティックな政治→「民主主義って本当に最良のルールなのか、世界をまわって考えた」参照。
大きく風呂敷を広げているが、もっとネットリテラシーを持てという話。

※単行本にて読書

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2024年02月17日

Posted by ブクログ

2020年2月に刊行された著書の文庫版で、2023年現在を踏まえた新章が加えられている。解説も成田悠輔という…贅沢。
早すぎるインターネットによる弊害が嫌というほど書かれていて、自分の中でも反芻しながら読み進めた。宇野さんの全てに賛同するわけではないし、それも歓迎してくれるのが宇野さんだとも思う。podcastの「a scope」でも出演していて、本書を理解するうえでの補完になる。
いろんな考えに触れられる読む喜びをこれからも享受していきたい。そして、その後の行動も大切だ。

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2023年04月23日

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