あらすじ
「大きくなること、それは悲劇である」――この警句を胸に11歳の身体のまま成長を止めた少年は、からくり人形を操りチェスを指す。その名もリトル・アリョーヒン。盤面の海に無限の可能性を見出す彼は、自分の姿を見せずに指す独自のスタイルから、いつしか“盤下の詩人”と呼ばれ奇跡のように美しい棋譜を生み出す。架空の友人インディラとミイラ、海底チェス倶楽部、白い鳩を肩に載せた少女、老婆令嬢……少年の数奇な運命を切なく描く。小川洋子の到達点を示す傑作。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
まだ読み始めて数ページだけど早くも引き込まれている ミイラの女の子の話 それだけでぞっとするような展開にもなりそうなのにそこには静かな時間だけが流れている 少年の唇の話や象のインディラの話だって決して明るくはないのにどこにも悲壮感がなく自然とページを巡りただただ物語の中に吸い込まれていく
マスターが出てきたところでストーリーが少しずつ核心へと近づいていってて、今までのインディラやミイラが優しく彼を包み込んでる様子が伝わってくる
あぁそうか
そうなんだ
最後まるで予期してなかった終わり方で幕を閉じた
生と死
象と猫
チェスの海を渡る人々の話
いい本だった
ゆっくりゆっくり少しずつ余韻に浸るように読んだ
Posted by ブクログ
リトル・アリョーヒンには、チェスがあってよかった。
彼にとってチェスは、単なるゲームではなく、人生そのものだった。勝ち負けが存在するのはもちろんだけれど、彼が本当に大切にしていたのは、どんな「棋譜」が生まれるかということ、そしてそれを通じて誰かと交わされる「会話」だったのだと思う。
チェスは人生のように、対峙する相手や盤を挟む場所によって、まったく違う表情を見せる。汚い手を使ってでも勝ちを急ぐ者もいれば、報酬のために勝ち方にはこだわらない者もいる。そこには、その人がどんな人生を生きてきたかが、そのまま染み出している。
象徴的なのが、マスターがアリョーヒンを叱る場面だ。橋のたもとで賭けチェスに参加したとき、「そういう対局はするな」と彼は言う。
それは「賭けなんかに関わって自分の価値を下げるな」という忠告以上に、「そういう生き方をするな」「自分の人生をそんな場所に落とすな」というメッセージだったのだと思う。
深海クラブでは、アリョーヒンはアリョーヒンの中に入り、リトル・アリョーヒンとなる。あの場面は、彼が自分のアイデンティティをアリョーヒンに重ね合わせ、「自分」という器をそっと載せ替えるような行為に見えた。チェスの才能だけでなく、生きる姿勢そのものを借り受けるような、静かな変身の儀式だったのではないだろうか。
物語の終盤、老人ホームでひっそりとチェスを指し続けた後、アリョーヒンは静かに亡くなる。
それは、棋譜を求めて、会話としてのチェスを続け、人生とチェスを重ね合わせたまま、その「盤面」の中で息を引き取るような、美しい最期だったと感じた。
彼の顔や姿をはっきりと覚えている人は少ないかもしれない。でも、彼の存在や思い、そして彼が残した棋譜は、「ミイラ」という形で後世へと引き継がれていく。
たとえ名前を忘れられても、「確かにここに生きていた誰か」がいたという事実だけは、物語と記憶の中に残り続ける。
なもなき存在になったとしても、その人が生きていたという事実、その人が生き抜いたということを忘れないでいたい。
この物語は、そんなささやかな決意のような気持ちを、自分の中にもそっと灯してくれる作品だった。
Posted by ブクログ
最後の方までなかなか読書スピードが上がらず、読者の感受性が試される作品だと思った。自分は感受性が鈍い方と認識しているが、最後の急展開には引き込まれてページをめくる手が止まらなかった。
また何年後かに読み直したくなる作品だと思う。その時の感じ方も違いも楽しめると思う
Posted by ブクログ
少年
リトル・アリョーヒン。チェスプレーヤー。
祖母
祖父
弟
インディラ
象。三十七年間、デパートの屋上で子供たちに愛嬌を振りまきながら一生を終えた。
ミイラ
ボックス・ベッドの壁と壁に挟まって出られなくなった少女。
マスター
バスの中に住む男。
ポーン
マスターが飼っている猫。
アレクサンドル・アリョーヒン
伝記上のプレーヤー。ロシアのグランドマスター。
事務局長
パトロンの令嬢
ミイラ
広い額に尖った顎、黒々とした瞳とカールした睫毛、潤んだ唇、真珠色の肌、耳の脇で二つに結ばれた真っ直ぐな髪。パシフィックホテル専属の手品師の娘。
総婦長
キャリーバッグ老人
老婦人
S氏
国際マスターの称号を持つ。
キング
決して追い詰められてはならない長老。全方向に1マスずつ、思慮深く。
クイーン
縦、横、斜め、どこへでも。最強の自由の象徴。
ビショップ
斜め移動の孤独な賢者。祖先に象を戴く。
ナイト
敵味方をくの字に飛び越えてゆくペガサス。
ルーク
縦横に突進する戦車。
ポーン
決して後退しない、小さな勇者。