あらすじ
ナチによるユダヤ人大量虐殺の首謀者、ラインハルト・ハイドリヒ。ヒムラーの右腕だった彼は、第三帝国で最も危険な男と怖れられた。チェコ政府が送り込んだ二人の青年によってプラハで決行されたハイドリヒ暗殺計画。それに続くナチの報復、青年たちの運命……。ハイドリヒとはいかなる怪物だったのか? ナチとはいったい何だったのか? 史実を題材に小説を書くことに、著者はためらい悩みながら全力で挑み、小説を書くということの本質を自らに、そして読者に問いかける。小説とは何か? ゴンクール賞最優秀新人賞受賞作。/解説=佐々木敦
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Posted by ブクログ
ナチスのユダヤ人大量虐殺の責任者であったハイドリヒがチェコで暗殺された事件を描くお話
ハイドリヒの生い立ちや、暗殺に至るまでの過程を大量の資料や、過去の小説、映画などを参照しながら書いていくのだけど、それを書いている作者の視点が随所に織り込まれて、歴史を小説という形で創作することについての考察が並行して語られていくという構成
映画「ハイドリヒを撃て」を見ていて、暗殺計画の行く末は知っていたので、歴史的な部分よりも、歴史を創作することの是非を考える部分の方をとても興味深く読みました。
読んでいて、これはあまりにドラマチックに描きすぎではないかと思っていたら、直後に作者自らがそのことをつっこんだりしていたのがすごく面白かったですね。
資料のないところは創作しないと書けないけど、勝手に歴史を変えてしまうことに対する葛藤みたいなのが出てきてしまって、結果的に普通なら盛り上がりそうな場面がすごくあっさりしていたりするのも面白い。
この小説自体が映画化されてるのだけど、どんな感じになってるのか気になる。映像化することの葛藤を交えた映画化だったら面白そうだけど、ちょろっと調べた感じそうではなさそう。
Posted by ブクログ
◼️ ローラン・ビネ「HHhH プラハ、1942年」
タイトルの奇抜さに気が惹かれ、やがて来るその瞬間に向けて集中力が高まっていく。
書評と受賞歴で評判はなんとなく分かり、読みたいと思っていた。本を読む前に予備知識はあまり入れない。単純に知らない方が楽しめるから。今回も最初の方のページに書いてある紹介文にはほとんど目を通さなかった。ナチもの、という程度の認識だった。
ナチスの大物幹部、ハイドリヒ・ラインハルト。天才的な実行能力と、狂気とを併せ持ちドイツ第三帝国領内のユダヤ人を絶滅させようともくろみ実行した男。チェコを統括する地位に就いたハイドリヒを暗殺すべく、ロンドンの亡命政府が刺客を放つー。
作者の分身である「僕」が常に顔を出し、膨大な資料や先行書籍、映画まで検分して、歴史に向き合い叙述することの手法や是非をチェックしつつ、自作の執筆に悩みつつ、物語を進めていく。新スタイルの歴史ものとして世界的に評価され、日本でも本屋大賞の翻訳小説部門で2014年の第1位となった。文庫化はおととしと遅かったのが意外だった。
最初はどこに向かうのか分からず、どうももったいをつけてて冗長だなと感じていた。でも暗殺実行者のガプチーク、クビシュがチェコ領内にパラシュート降下をするあたりから集中力が高まって、暗殺の実行そして後日談へと早く読みたいと気が急いていた。
ナチの残虐性を代表する金髪の野獣、ハイドリヒはナチでどのようにしてのし上がったのか?ヒトラーその他の幹部にどう受け止められていたのかも興味深いが、なにより暗殺は成功したのかどうか?鉄槌はくだされたのか、段々とクライマックスに迫っていく感覚。特殊な読ませる文章にゾクゾクする。まだか、と思わせるのも手法の1つだなと再認識。そして暗殺決行時に起きる偶然にはドラマ性とともに現実感が強く伴う。
なにせ従わなくば殺せ、従っても殺せ、という土壌。暗殺後のヒステリーのような悲劇は痛ましい。大きな裏切りとレジスタンスたちの最後の抵抗を経た後の喪失感。エピローグも短めで好感が持てる。
映画にはドキュ・ドラマというジャンルがある。この作品はドキュメンタリーでもなく、歴史的出来事を扱うノンフィクションでもない。スタイルという面での賛辞は多かったようだ。私としては、僕、の登場と語り、という手法そのものよりはやはり、やがて来る決定的なシーンに読み手を惹きつけ、その過程で知識とシンパシーを深めていく筆力そのものに感嘆した、と思っている。リーダビリティ、読み応えが半端ない。
おもしろい読書体験、良い読書でした。