初めて『不毛地帯』を読んだとき、圧倒的な感動が胸に押し寄せ、しばし呆然としてしまいました。けして、楽しいばかりの話ではありません。戦争の話、抑留の話、友の死、そして―。
“結局、古き良き昭和の話だよねー”と言う人もいるでしょう。でも、そんな陳腐な言葉は寄せ付けないほどのドラマがここにあると、私は声を大にして言いたい!!
また、私が山崎豊子さんの作品の中で一番『不毛地帯』を好きな理由は、途中はいろいろな困難と挫折に見舞われながらも最後に「救い」があるからです。油田がねえ…。彼女ともねえ…。いかん、ここからはネタバレ!!
さてさてどんな救いなのか?は、あなたの目で確かめてください。
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Posted by ブクログ
田淵幹事長…一体誰がモデルなんだ…(笑)
5巻はずっとイランのサルベスタン石油の話、千代田自動車が後味悪かった(最終的にはめでたしになるんだけど)のに対してこちらは小気味よく進んでいく。裏のえげつない部分もFXと比べたら露骨でない(と言うか露骨に見せていない?)ので読みやすい。
でもせっかく苦労して掘り当てた石油も数年後にはイラン革命で全部おじゃんになっちゃうんだよね。山崎豊子がこれ書いていた時期もギリギリイラン革命前だしなんとも複雑な感情を抱く。
最終的に大門社長の引退と同時に壹岐も会社を去り、シベリアで物語は終わる。千里とはおそらく結婚したんだろうけど、安易なハッピーエンドにせずあそこで切るのが山崎豊子といった感じ。それでも華麗なる一族や沈まぬ太陽に比べたらずっと後味はいい。
Posted by ブクログ
この小説を書くのに、著者はどれくらい取材したのだろう。 経済や石油開発の細かな情報は、正直ピンと来ない部分も多くあったが、その背後に膨大な取材、調査があったことが想像できる。いまいちわからない専門的な話があっても、全体として面白くて中盤以降は一気読みした。
登場人物のなかでは大門が一番魅力的だった。当初は豪胆な社長として壱岐を抜擢し会社を成長させるも、終盤は綿花相場にのめり込んで部下を発狂させてしまう。壱岐との関係が悪化すると、かつて自ら切り捨てた里井に本社復帰を要請するなど、なりふり構わない。壱岐が私情を排して淡々と仕事をこなすぶん、終盤に至って弱みや焦りをさらけ出す大門が魅力的に見えた。原作を読んだ上でドラマを思い返すと、改めて原田芳雄さんの演技はすごかったなぁと感じる。
Posted by ブクログ
非常に良作。最後まで見事でした。
油は出るのか出ないのか。このハラハラ感、ぐいぐい読ませること必至。「不毛地帯」というタイトル通り、不毛な結果に終わるのかーーそう思ってたところで、ついに出た時は思わず涙したほど。
また有能な経営者が老害となっていく様は見苦しかった。
大塚家具の会長を想起したのだけど、時代に取り残される前に自分を客観視して、自らの身の振り方をちゃんとプロデュースする必要があるのだなと。
壱岐正のように才能があって頭が切れても、罪悪感、背徳心を拭い去れない人間には熾烈な政財界で生きて行くのは難しい。
でも潔くその世界から去れる者もなかなかいないと思う。
壱岐正の生き様かっこよすぎでしょ。畏敬の念を感じる。どこまで実在したモデルの人物に則しているのか気になる。
この作品もどんな取材量を持って書かれたのか。想像だにできない。
全日空の旅客機選定を巡るロッキード事件、FXに絡むダグラス・グラマン事件をモデルに描かれたのかと思いきやこれらの事件が明るみになる前に描かれたそうで。。
もはや小説家の域を超えてるでしょうよ。。
Posted by ブクログ
石油採掘権の入札に成功するも、石油は出ない苦しい時期が続く。会社を長年引っ張ってきた社長も、その圧倒的な存在感が害をなすように・・・。
最後まで、主人公には厳しい状況が続くが、最終的には華々しい成果を挙げ、それでいて身を引くという潔さでもって物語が終わる。
全5巻。本当に大作でした。
不毛地帯というタイトルはひとつには当然シベリアの大地を指していますが、同様に、何も実るものがない熾烈な商戦を表しているはずです。
国のため、家族のため、自分の欲望のため、不毛地帯で闘い続ける人たちの物語でした。
主人公は、登場人物の中では、人間として理想的な書き方をされていますが、それでも黒い部分や闇とは切り離せない。決して救われることのないエピソードと、ひょっとしたら救いになる可能性を秘めたエピソードが混在する、さっぱりとは割り切れないものです。
ほかの登場人物も、清い面も濁った面もあり、これこそが人間であるというものを深く描いている。
正解は提示されていないけれど、不毛かも知れない闘いのなかで、自分はどう生きるか、それを強く問う名作でした。
Posted by ブクログ
不毛地帯最終章。
長かった主人公の商社マンとしての第二の人生が終わりを告げる。
社運をかけた中東のオイルビジネスはどうなることかとハラハラさせられたが、結果的に物凄い量のオイルが見つかり、会社に多大な利益をもたらすことになった。
主人公は社内で更に評価を上げる。
他方で、大門社長は相場で莫大な損失を出す。
年のせいで判断能力は衰えているのに、本人は現役のままでいるつもりだから、周囲の意見に全く耳を貸さない。これぞ老害。
社長の存在は会社にとって、もはや邪魔であると判断した主人公は社長に辞任を迫る。
最初は納得しなかった社長も徐々に諦め、主人公と一緒に会社を去る。
オイルビジネスが成功した、まさに絶頂の時に会社を去った社長は、世論から高く評価され、結果的に会社のため、社長のためになった。
主人公は、誰のためでもなく、常に会社の利益になることを最優先に考え、行動してきた。
そして、社長とともに会社を去った主人公は、第三の人生をシベリアに求める。
シベリアで亡くなった同志たちの遺骨を日本に持ち帰ることを今後の活動にすると決意する。
ずるずると中途半端な関係になっていた恋人とも別れることになる。
この小説のモデルとなった人物は伊藤忠の会長まで登り詰めるから、現実とは異なるけど、あくまでも事実をもとにしたフィクションということで、これはこれで面白かった。
Posted by ブクログ
1~5巻までまとめて。
山崎豊子氏の綿密な描写により、躍動感溢れる内容となっています。読む側の専門知識が足り無くて何言ってるのか分からない所も多々有りましたが。
商社での最後のシーンに引き際の美学を感じた。自分もあのように生きれるだろうか...
スーパーマンのような主人公壱岐正ですが、男としては最低ですな。ビジネスマンとしては立派だけど下半身に人格がないキャラというのが山崎氏の企業トップの男性に対するイメージだったのでしょうか?
Posted by ブクログ
イランの油田問題に片が付き、自動車問題もおさまるところにおさまった。社長に引導を迫り、自分も退社。恋人とは別の道を行くことになり、朔風会の会長となりシベリアへ向かう。里井の病気はどうなるのか、恋人の兄は? そのあたりは解決されていないが、物語のケリはちゃんとついた。執筆前からここまでの落としどころを考えた上で書いたことは彼女のインタビュー内容から間違いないところだろうけど、毎回みごと。途中中だるみな感じがしていたが、スパイ小説のようなスリリングな展開には引き込まれた。ただ最後の最後まで主人公には感情移入できなかった。暗い影がつきまとっていすぎて、濡れ場のシーンは鼻白んだ。それに次々と登場人物が身体をこわすのにぞっとした。人生って辛いなあ。でも生きていかなきゃならない。