あらすじ
奇矯な学者本間鋭太、訳稿を受け取る古閑沙帆、ギタリスト倉石学と妻麻里奈、その美しい娘由梨亜。どこか秘密めいた人物たちの〈別の顔〉とは。奇妙な言葉〈ハト〉とは……。ついに古文書の全貌が明らかになるとき、虚実入れ子の物語は、脱出不能の〈結末〉へなだれこむ。長年渉猟してきた貴重な資料を駆使し、ホフマンと鴎外、漱石、乱歩などの考察も織り込んだ、巧緻にして驚倒のミステリー。(対談・松永美穂)
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Posted by ブクログ
クラシックギターの演奏家であり、19世紀ギターの愛好家でもある倉石学は、マドリードで開かれていた古書店でドイツ語の古文書を購入する。古文書自体に興味はなく、目当ては裏側に書かれた高名なギタリストであるフェルナンド・ソルの楽譜だった。だがこの古文書に興味を持ったのは倉石の妻の麻里奈で、大学時代、ホフマンを卒論のテーマにしていた彼女は、その文書にホフマンが出てくることに気付く。友人の沙帆は、その文書の翻訳をホフマン研究で有名なドイツ文学者の本間に翻訳してもらうため、その仲介をすることになる。
本間が翻訳した古文書の作中作と倉石一家や本間鋭太らの奇妙な縁とそれに付随する秘密が徐々に明かされていく現代パートが交互に綴られていく『鏡影劇場』という題名の物語が突然、作家である逢坂剛のもとに送られてきて、自身が編者となって本書を発表することになった、という体裁を採っている不思議な味わいの物語です。最後まで遊び心を忘れない、驚きに満ちた物語で、文庫版にはなくなっていますが、単行本版には袋とじまで付いている徹底ぶりでした。
ホフマン……いままでまったく読んだことがなかったのですが、なんだかこれを読んで詳しくなった気がしますし、すぐにでも読みたくなりました。知識が横に広がっていく、好奇心の迷宮に誘ってくれる作品でした。