あらすじ
昼間の公園のベンチにひとりで座っていると、あなたは何が見えますか? スターバックスのコーヒーを片手に、春風に乱れる髪を押さえていたのは、地下鉄でぼくが話しかけてしまった女だった。なんとなく見えていた景色がせつないほどリアルに動きはじめる。『東京湾景』の吉田修一が、日比谷公園を舞台に男と女の微妙な距離感を描き、芥川賞を受賞した傑作小説。役者をめざす妻と上京し働き始めた僕が、職場で出会った奇妙な魅力をもつ男を描く「flowers」も収録。
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Posted by ブクログ
表題作「パークライフ」よりも、同収録「flowers」がとにかく圧巻。
「同じルートを廻っていると、ふっと外へ飛ばされるような気がする」
生活に「僕」を縛り付けるような地元のしがらみや仕事のルーティンが、墓石やビールケースなどやたらと重みを強調する仕事で表現される。
対比される元旦や鞠子の軽やかさ、自由さ。同僚の妻と堂々不倫をしたり、公衆の面前で金太郎の喜劇を演じてみたり。露悪的でありながら、どこか自由。
心を通わせていたはずの彼らや、また兄弟のように接してきた従兄弟と、どうしようもすれ違っていく瞬間。
壊れたシャワーを浴びながら元旦を殴り付けたあの日のように、鞠子ともいつか、壊滅的な出来事を迎えるのだろうか。「いち抜けたぁ」とふっ飛ばされる衛星のような、そんな結末を想像してしまうようなラスト。
吉田修一ならではの何とも言えないモヤモヤ感を存分に感じられる傑作だった。
オススメです。
Posted by ブクログ
⚫︎受け取ったメッセージ
公園は人が入ってきて出ていく。
体は食べ物が入ってきて出ていく。
同じ人が来る、同じ食べ物が入る。
でも、違う人も来るし、違う食べ物も入る。
毎日毎日、同じように見えていても、絶対に同じ日はなく、気づかない間に、少しずつ少しずつ変わっていっている。小さな変化を受け取るという丁寧さを思い出させてくれた。
⚫︎あらすじ(本概要より転載)
昼間の公園のベンチにひとりで座っていると、あなたは何が見えますか? スターバックスのコーヒーを片手に、春風に乱れる髪を押さえていたのは、地下鉄でぼくが話しかけてしまった女だった。なんとなく見えていた景色がせつないほどリアルに動きはじめる。『東京湾景』の吉田修一が、日比谷公園を舞台に男と女の微妙な距離感を描き、芥川賞を受賞した傑作小説。
⚫︎感想
私は、とても「パーク・ライフ」が気に入った。
公園は、平和で事件が起こらない場所として期待されている。本書も公園のように、特に何か大きな出来事が起こるわけではないのだが、ちょっとした不思議な出会いや出来事がある。そのちょっとした出会いや出来事の積み重ねが多くの人の日常であり、その中で本当に気づかないくらい少しずつ変わっていく。また、人体模型に惹かれる主人公が描かれている。人間が食べ物を摂取して、排泄するその淡々とした流れにも、気づかないくらい少しずつ体に変化がもたらされる。気にしなければ、ただただ流れていく日常が、丁寧に描かれるとこうなるのか…と思うと、自分の日常も、当たり前だが同じ日は二度とないと意識すると、なんでもない日が少し大切に思える。当たり前だと思っていることは当たり前ではないなどと、使い古されたフレーズは常に頭の中にあるつもりでいるが、改めて感受性豊かに、丁寧に生きていくことを思い出させてくれる1冊だと思う。
Posted by ブクログ
収録されている2話のうち、タイトルにもなっているパークライフが良かった。
以下、ネタバレあり
公園から過去の話を思い出し、そこからさらに過去の初キスの話へと展開されて、また公園に戻ってくるところ。複雑な構成だが、スッと頭にイメージできて、自分も体験している感じになれた。人物同士の距離感が不思議。夫婦は離れていて、夫婦じゃない、初見同士の方が近い。最後のふわっとだけど何か芯のある終わり方。
全体的にさっぱりしている。
2話目は1話目と違い内容が気持ちの良いものではなかったので★-1で、トータル★4とした。
ただ、表現というか、時系列が前後する構成はこちらも健在で、読みものとしておもしろかった。
Posted by ブクログ
横道世之介から流れつき拝読。出てくる人物がみんな魅力的に浮かび、くすっと笑えるのがとても好きだった。パークライフにて、電車内で友人と間違えて話しかけてしまった彼女と偶然にも再会したときの声の掛け方が気に入った。さっき何か言い忘れたことがあるような気がして、つい走ってきちゃったなんて、