【感想・ネタバレ】鳥葬の山のレビュー

あらすじ

土日返上で働きづくめの夏木は、思い切って二週間の休暇をひねりだし、チベットに出かけた。ラサの町で、ハゲワシに人間の死体を処理させる鳥葬を見て圧倒されたが、帰国後、夜毎の夢に現れる奇怪な光景の謎は? 表題作ほか、読むほどに怖くなる「頭の中の湿った土」に「閑古鳥(かっこう)」、爽やかな驚きがあなたを襲う「羊の宇宙」、超能力の持ち主同士の見えない闘いを描く「超高層ハンティング」など、夢枕ワールドを満喫できる、大満足の短篇集!

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Posted by ブクログ

ネタバレ

[柔らかい家]
 個人的にこの短編集のベストはこれ。この短編集は、冗長になってきた感じのある「キマイラ」よりも、全体的に密度が高くていい感じだけど、その中でも特に好み。「顔面崩壊」や「ポルノ惑星のサルモネラ人間」並の内臓感覚の描写が満載でいけてます。自分の娘を犯して子供を産ませて、それを餌にして魚を釣ったり、食べちゃったり。かなり鬼畜。
 床を踏みしめたときの音が、板の隙間に詰まった小さな虫があげてる悲鳴だというのは、かなりいいたとえ。

[頭の中の湿った土]
 なにもおこならいのが意外なオチ(?)の吸血鬼小説。地面に埋められた男の回想っていうで出だしは、独創的でかなり好き。吸血鬼ものっていうのはもともとエロチックなものだけど、この短編は特に近親相姦の雰囲気ありありで、母親が妙に色っぽい。

[鳥葬の山]
 鳥葬っていうと、岩かなんかに生きたまま縛りつけてそのまま、っていう印象があるんだけど、本当はこんなふうにやるのかなあ。人体を解体するシーンが結構きてる。内蔵感覚っていうよりは、首の骨なんかにナタが食い込む感触だけど。

[閑古鳥]
 この前の話を読んでるときに、自分の一番愛している人を食べたら一番うまいっていう話を思いついて、やったと思ってたら、いきなり次にその話が載ってやがんの。まいったなあ。でもこれは偶然というよりも、この人の文体かなんかにそういうものを連想させる雰囲気があるってことなんだろうな。あー、くやし。
 ”お母さんの料理”のダブルミーニングがなかなかうまい。この短編は倒錯したユーモアになってるけど、この作者にとって愛しているものを喰べるというのはかなり重要なテーマなのかも。

[あやかし]
 こういうふと狂気がちらつく瞬間って怖いよなあ。そのひとが、きれいな人だったりするとよけい怖い。でも子供がこういう女性に惹かれるというのはよくわかるけどね。最後のオチはちょっとありきたり。もうちょっとなんとかしてほしい。

[超高層ハンティング]
 夢枕獏っぽくない短編。どっちかというと菊地秀行っぽい。この人の短編にNASAとか遺伝子改造とか出てきても、なんか違和感ある。
 ただし、話のできそのものはかなりいい。ガジェットの密度とスピーディな展開で傑作だっていってもいいかも。”念子”とか”念呪者”とかいった単語は、ちょっと無理がある気もするけど、時層をずらすとか宇宙の弾力なんてアイディアはいけてる。獏さんっていうとのんびりした展開の話ばっかりというイメージがあったから、ちょっと以外だった。こういう話ももっと書いてもらいたい。っていうか長編化してもいけるかも。

[羊の宇宙]
 禅問答みたいな短編。結局うまくはぐらかされただけという気もするし、理系の俺としては細かい部分で突っ込みたいところがあるけど、雰囲気はいい感じだから、まあいいか。
 個人的には、実は物理法則っていうのはそんなに単純なものではないんじゃないかって思ってるけどね。

[渓流師]
 不思議なことは何も起きなくて、別にどうということのない話なんだけど、山の描写とか典型的な夢枕獏節が気持ちいい。これは「ヘッドハンター」を読んでいたときの居心地の良さに近いかも。あれも延々とハンティングの話だったけど、面白かったもんな。

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2025年11月24日

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