あらすじ
「私、結婚するかもしれないから」「すごいね」。小6の慎は、結婚をほのめかす母をクールに見つめ、母の恋人らしき男ともうまくやっていく。現実に立ち向う母を子どもの皮膚感覚であざやかに描いた芥川賞受賞作に加え、大胆でかっこいい父の愛人・洋子さんと小4の薫の奇妙な夏の日々を爽やかに綴った文學界新人賞受賞作「サイドカーに犬」を収録。子どもの視点がうつしだすあっけらかんとした現実に、読み手までも小学生の日々に引き戻される傑作短篇2篇。
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Posted by ブクログ
懐かしの昭和後期。芥川賞候補作と受賞作。どちらも読みやすい。昨今の芥川賞、設定が凝りすぎているものも多くて読むのがしんどいなってときはこの年代の作品を読み返すのもありかな。
サイドカーに犬
芥川賞候補作。母が家を出て知らない女が家に来た。
猛スピードで母は
芥川賞受賞作。ハードボイルドな母は強し。
サイドカーの主人公は小四女子、猛スピードの主人公は小六男子、この二作品は一冊の本として纏められてしかるべき作品だ。バラバラだと魅力は半減するかもしれない。母と子の関係を通した昭和の空気感がとても懐かしい。タイパ、コスパというものがまだ存在しない時間の流れに身を浸すことができた。
長嶋さん1972年生まれ、同級生じゃないですか!道理で書かれているのが昭和の(私にとって)懐かしい風景なわけだ…。
この年代、なかなかに文学界で著名な方が多いなぁ、嬉しい。
Posted by ブクログ
⚫︎感想
離婚しそうな、またはシングルの親を持つ設定の2篇。どちらもタイトルにインパクトがあり、同じく大人との距離と自立がテーマだと思った。
「サイドカーに犬」母の家出後、洋子さんという父の愛人と暮らすことになる。母とは全く違うタイプで自由な女性。「猛スピードで母は」は彼氏はできるが長続きせず、そんな母を見ながら育つ少年。
どちらも、スカッとしたカッコいい女性像でありながら、100%そういうわけでもない一面を見て、少年少女は彼らの生活を通しながら、少しずつ少しずつ精神的に大人になる。母に大きな出来事が起こっても、冷静な自分を発見し、驚くという場面が二作ともあった。そこがまた、現実味がある気がした。なんにせよ、日常は否応なしに続いていくから。
⚫︎あらすじ(本概要より転載)
「私、結婚するかもしれないから」「すごいね」。小6の慎は、結婚をほのめかす母をクールに見つめ、母の恋人らしき男ともうまくやっていく。現実に立ち向う母を子どもの皮膚感覚であざやかに描いた芥川賞受賞作に加え、大胆でかっこいい父の愛人・洋子さんと小4の薫の奇妙な夏の日々を爽やかに綴った文學界新人賞受賞作「サイドカーに犬」を収録。子どもの視点がうつしだすあっけらかんとした現実に、読み手までも小学生の日々に引き戻される傑作短篇2篇。
Posted by ブクログ
芥川賞受賞の表題作+文學界新人賞受賞のサイドカーに犬 の2作品が収録されている。
いずれの作品も、主人公の目線で、自由で強くてでもちょっと悲しい女性が丁寧に描かれて、なんとなくブルーな世界に落ちていく感じ。
Posted by ブクログ
目次
・サイドカーに犬
・猛スピードで母は
「サイドカーに犬」「猛スピードで母は」のどちらも、子どもの日常が子どもの目線で書かれているのだが、そのどちらもが親との精神的距離がある。
親を嫌いなわけではない。
親も、子どもを嫌いなわけではない。
ただ、子どもの他にいろいろとあるのだ。好きなこと、やらなきゃならないこと。
子どもはそれを知っているから、いつか、親に捨てられるかもしれないことを心のどこかで知っている。
それは特に寂しいことではない、とも思っている。
結局捨てられることはないのだけれど。
どちらの作品も主人公の心は終始フラットで、時々不安に駆られることはあっても、大笑いしたり激怒したり泣きわめいたりはしない。
無口ではあるけれど、心の中ではいろんなことを考えている彼らは、自分の感情くらい理屈で納得させることができるのだ。
ああ、それはまさに、子ども時代の私のようで。
無口でぼうっとしていた私は、子どもらしくないと言われ、しっかりしろと言われたけれど、心の中では自分の考えをはっきりと表明できる人に憧れた。
それは「サイドカーに犬」の洋子さんであり、「猛スピードで母は」の母だ。
それにしても母たちよ、子どもを簡単に捨てるな。
捨てるなら、その後の生活の保証をしてからにしろ。
捨てられたと思わせるな。
と、読みながら思う。
私は物理的に母に捨てられたことはないけれど、母がもう少しアクティブな性格だったら、きっと捨てられていただろうな。
そして私は、それを淋しく思わなかっただろう。
厄介なことになった、とは思うだろうけれど。
そんなことを考えながら読んだので、読後切なくなってしまったのだ。
夜な夜な読みました。
優しくて切ない物語。文章の表現がその時の状況をよく想像させるので、夜中の静かな時間に読むのにぴったりな雰囲気の本でした。
子供は親を選べない、どんな親だろうとその人の子供に生まれたからには、一緒にいるしか生活できない子供たち。
親も子供は選べないはずだけど、この親たちは本に登場する子供たちが自分の子でいてくれて良かったなと思います。
女性にとって子供を宿し産み育てるということは、一生の人生がかかったことなのだと感じます。
男性にとって一生愛せないかもしれない女性が自分の子供を宿し産むということが、自身の一生において、どれほどのことなのか。
今愛していると感じている相手の男性や女性を、一生愛し続けることを想像する以上に、自分の人生の中で子供を一生愛し続けるということがどんなことなのか、男女共に深く想像できるきっかけが増える社会になるように願うばかりです。
子供への虐待や無関心が生み出す現代の悲しい事件を色々と感じてしまう一冊でした。
Posted by ブクログ
サイドカーに犬
母親が家出した小四の夏休みに薫ちゃんちに来た,ちょっとガサツなところが魅力的な洋子さんと父親(+父親の変な仲間)についての薫ちゃんの思い出話.洋子さんとの別れは意外であっけない.
飼われている想像が心地よいものだったのは,カッコイイ洋子さんとごっこ遊びをしている感じだったのかな.父を思い出すととても愉快な気持ちになるっていうのがいい.洋子さんの年齢を追い越した薫さんが感じた「そろそろ」は何なのだろう.
猛スピードで母は
小学6年生の真面目でいい子の慎くん.いつも祖父母から再婚をせっつかれているちょっとカッコいいお母さんと二人で暮らしている.お母さんから結婚するかもと告げられて,慎一さんを紹介される.その後,お祖母さんが亡くなって,お母さんの結婚話も立ち消えになって,さらに慎くんはいじめられるようにもなってしまう.
読みやすい文章ながら慎くんの行為の描写がリアル.特に,デートに出かけた母親がなかなか帰ってこない所(「安心な気持ちになった」なんてすごいね)とか,霧の朝,ベランダ伝いに飛び移ってアパートの4Fの自宅に入ろうとする母親を見上げている場面の前後が印象的.