あらすじ
自動車や家電だけでなく、ロケットやミサイルにもふんだんに使われる半導体は、今や原油を超える「世界最重要資源」だった。国家の命運は、「計算能力」をどう活かせるかにかかっている。複雑怪奇な業界の仕組みから国家間の思惑までを、気鋭の経済史家が網羅的に解説。NYタイムズベストセラー、待望の日本語訳!
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Posted by ブクログ
半導体の、短い歴史の濃密な物語を、足早に駆け抜ける。その様を雑だと当初は感じたが、読み終えて今、焦点がどこに定められていたかを知った今ではそう思わない。現在の世界情勢、具体的には米中摩擦を語るためだったのだ。
中国は半導体供給を台湾に大きく依存している。半導体製造は容易ではない。何千億ドルを投入して最先端を目指し、数年後に半導体製造を実現したとしても、そのときにはすでに最先端でなくなっている公算が非常に大きい。この投資に見合わないと競争をやめたかつてのメーカーは自前工場を持たず設計のみを行うファブレス企業へと転身した。半導体の能力の差が兵器の差になる。ロシアがウクライナで使用している兵器は無誘導である率が高くなっているらしく、食洗機に使用するような半導体も兵器への転用が図られているという。
軍事においても半導体に非常に依存している状況において、それでもなお台湾有事は起こり得ると、著者はいう。ロシアのようなカッコ悪いことになった場合、半導体の供給なしで継戦することになるリスクを飲めば。
「人間は水と酸素に中毒している。もうひとつくらい増えてもかまうまい」フランク・ハーバートはデューンでこんなカンジなコトを言った。
現実の人類が罹患したかもしれない新たな中毒の名は半導体かもしれない。
アメリカもまた自前で最先端の半導体を製造することはできず、台湾有事が発生した場合、中国と同程度のリスクを負うことになる。
グローバル化というのはパックス・アメリカーナにおいては良い感じに働くが、世界革命やアナーキズムに天秤が傾くと途端にリスクとなる。
カネでいろいろと解決を図ろうとして自前をやめると、有事に大問題になりえるとわかっていても、やはりカネが大切なのでなにもしないというのは身近な例がいくつもあって、人は状況や歴史に学べないということを身に沁みて知る。
Posted by ブクログ
半導体の世界における歴史書。
様々なメーカーと国の威信をかけた
栄枯盛衰の物語。
半導体はもはや軍需産業。
その中で日本の取るべき
戦略は。。。
Posted by ブクログ
【ハードウェアの中身】
あらためて、私たちは無形のサービスではなく、物理的な資源やモノがあって初めて生活が成り立っているのだと考える。
この本の原題『Chip War: The Fight for the World's Most Critical Technology 』で、チップという形で人間が発明した半導体という技術作品が、いかに私たちの生活品の中に組み込まれていて、その半導体の技術の発展と普及が、地政学的な展開上に成り立っていることを示している。
例えば今現在私たちが使用しているスマートフォンの製造には、様々な国をまたぐサプライチェーンから成り立っていることは、「グローバル化」についての授業などでよく聞く話だけれど、
今回提示されているのは、半導体を必須とするこれらの生活用品は、東アジア、とくに台湾への依存が進んでいるということ。
一つの機器の製造が複雑化する分、サプライチェーンはグローバル化しつつも、中核となる部品においては、多角化ではなく一点集中、競争からの独占、といった現象が生じていること。
これを、特に筆者の国、アメリカの視点から、安全保障上のリスクとして警鐘を鳴らしている。
20世紀半ば、シリコンバレーの創設者とされる人々の手により発明されたこの技術は、当時の冷戦を背景に、一時は国防のための技術としても発展してきた。
半導体チップのチップ当たりのトランジスタ集積密度の指数関数的な増加を予測する「ムーアの法則」という言葉を生み出したのも、当時のシリコンバレー創設者たちであった。
その予測を実現する形で、今日私たちが使っている半導体チップは1平方センチメートル当たり100億個のトランジスタを搭載するものとなっていると知る。
つまり、半導体チップの微細化がムーアの法則に従って進んできた。
本書では、その過程で突破口を見出してきた個々人について、そして国家間の関係性の移り変わりについて、具体的な人物を紹介しながら論じられている。
当初は、アメリカとソ連間で繰り広げられた戦争は、
今日、米中間に主戦地を移している。
半導体サプライチェーンが、台湾という地政学的な要所を核として武器化していること、
これは米中関係にとどまらず、世界の国際秩序を揺るがすリスクを含んでいるものであり、日本は最も高リスクな関係上に位置していると考えざるを得ない。
インターネットやソフトな技術が注目されてきたIT革命だけれど、半導体の今を知ることで、本当に現実主義的な国際関係が見えてくる。
だからと言って自分に何ができるかと問われると答えられないけれど、
日々使っている技術が、常にあるものとは限らないこと、国際関係のバランスゲームは、私たちの普段の生活を簡単に揺るがしかねないものであることを教えてくれる