あらすじ
知らなかった「キーンさん」がここにいる! 同時代のカワバタ、ミシマの話から「超大国日本論」、そして美味しい料理屋の紹介まで、本邦初訳の27編。
これらは、ドナルド・キーンという類い希な日本文学者が、アメリカの読者に向かって日本をどう紹介したかを示すとともに、アメリカがどんな時に日本について知りたいと思ったか、日本文化を理解しようとしたかを示す、もう一つの戦後日米文化史でもある。
目次より
〈書評〉谷崎潤一郎『蓼喰ふ虫』E・サイデンステッカー訳
〈書評〉大岡昇平『野火』アイヴァン・モリス訳
〈エッセイ〉日本文学の翻訳について
〈エッセイ〉大歌舞伎、初のニューヨーク興行
〈エッセイ〉戦後、日本人は変わったか?
〈投稿〉編集主幹へ――日本の選挙を分析する
〈書評〉コルタサル『石蹴り遊び』
〈エッセイ〉日本文学者という「専門家」の告白
〈エッセイ〉川端康成のノーベル文学賞受賞
〈エッセイ〉ミシマ――追悼・三島由紀夫
〈エッセイ〉超大国日本の果敢ない夢
〈エッセイ〉大都会東京の「素顔」
など
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
若き日のドナルドキーンさんのエッセイ書評集。
1955年から1987年までの約30年間に、ニューヨークタイムズへ寄稿した27本のエッセイを収録している。 日本に関わる様々な本や文化に関する考察、苦労話、旅行記などを紹介しているが、面白かったのは日本文学の翻訳について。 日本語の微妙なニュアンスをどう英訳するか色々苦労があったらしい。
当時の欧米文化人達のアジア文学に対する偏見、戦後の日本人の変化、川端や三島など親しかった日本人作家の話、東京や瀬戸内の旅行記など、様々なジャンルについて自身の考えが述べられており大変面白かった。
またメトロポリタン美術館の日本展示室開設の経緯についてのエッセイも興味深かった。 自分も2度メトロポリタン美術館に行ったが、多くの展示室を限られた時間で巡ったため、日本展示室は素通りしてしまった。 開設の経緯を知っていたら、見に行ったかもしれない。
Posted by ブクログ
ニューヨーク・タイムズ誌に1955年から1987年まで掲載されたキーンさんの書評やエッセイを時系列に掲載した本。
あとがきに記されているように「ニューヨーク・タイムズ」から見た「日本の戦後史」のように楽しめた。
半世紀以上前の日本人や日本社会について語られている部分では、驚くほど今と変わっていない部分が多くあってびっくりした。
“順応しなければならないプレッシャーが非常に強い日本では、憤懣が発散される力強さにも驚くべきものがある。かりに坐る席がないという恐れがない場合でも、駅で人を押しのけて電車に乗るときに日本人が示す無作法は、日本人の優雅な礼儀正しさについて読んだことがある外国人をびっくりさせるに違いない。
駅のプラットホームにいる男が謝罪の言葉もなく、後ろから押したり、肘で押し分けたり、足を踏みつけたりするのは、その犠牲者が見知らぬ他人だからである。”(戦後、日本人は変わったか 1960年)とか、
「攘夷」の気質が残っていると感じた”日本人には、外国人を嫌う気持が今なお残っていることは間違いない。”(超大国日本の果敢ない夢1974年)など、2025年の今まさにそう感じるニュースが溢れている。
それって日本人が古き良きものを失ってしまった結果かと思っていたけど、なーんだもうずっとこんな感じだったのか、と思ってしまった。だからいいか、とはならないけれど。
そういう冷静だけど冷徹ではない視点に、背筋が伸びる気持ちと同時に温かさを感じて、キーンさんが今の日本を見たらなんておっしゃるのか聞いてみたくなる、そんな本だった。