あらすじ
唯一の身内である母を突然亡くしたアキコは、長年勤めていた出版社を辞め、母親がやっていた食堂を改装し再オープンさせた。しまちゃんという、体育会系で気配りのできる女性が手伝っている。メニューは日替わりの〈サンドイッチとスープ、サラダ、フルーツ〉のみ。安心できる食材で手間ひまをかける。それがアキコのこだわりだ。そんな彼女の元に、ネコのたろがやって来た――。泣いたり笑ったり……アキコの愛おしい日々を描く傑作長編。
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Posted by ブクログ
猫のタロちゃんと飲食店を営む主人公の日常の物語。私は犬を飼ってるので、より感情移入できた。猫の描写がすごく繊細でイメージでき、温かい気持ちになりました。
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心が整う小説でした。
読みながら、怒れたり、感動したり、悲しかったり、色々ありましたが、読み終わるとスッキリしていました。
とても良い小説でした。
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脱サラというともう死語なのかしら?
亡き母親が運営していた小料理屋を改装し、パンとスープのお店をオープンした主人公。
新人アルバイトのしまちゃんと、ご近所の喫茶店
のママと穏やかな日常ときどきネコが描かれる
ドラマ化もされていて、小林聡美さんが主演。雰囲気はかもめ食堂ですね!
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しまちゃん、お客さんの服の色に合わせてお皿選ぶのがあまりにも可愛くてにやけちゃった。
アキコはいつも心にゆとりがあって凄い。
私なら心が乱れてしまうような事でも平気そうにしている。
たろちゃんの死が呆気なすぎて、少しの間頭が追いつかなかった。それがリアルだった。
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小林聡美主演でドラマ化された作品。あらすじはだいたい同じだが母と娘の関係性に焦点が当たっていたドラマ版とは異なり、こちらはこちらで面白く読めた。あっさりして読みやすくて、世界観も映画『かもめ食堂』まんまんのムードであった。立場の違う大人の女性たちがほどよい距離感で交流しながら等身大の人生をしっかり生きるお話。色恋や男性との関係ぬきに描かれる女たちの風景は平和で癒しに満ちている。温泉につかるような心地よさがある。あと猫の描写がリアルでかわいい。よほど猫が好きなのだろうと思った。
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亡き母が残した食堂を改装し再オープンさせたアキコ。ちょっと毒のある母を反面教師にした分、お店もガラリと改装してある。
商店街の人たちやネットの書き込み、亡き母の常連だったお客さんとの気持ちのズレ、日々の生活を通して嫌なことや孤独。
いい事もあれば悪い事もある。特に最後の猫との別れは読んでいて辛かった。
きちんと描写されていて良かったけれど穏やかなカフェの話だと思っていたので読後は心が重い。
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主人公は母親の生き方を否定して彼女の経営していた気のおけないワイワイとした町内の人々の溜まり場のような店とは真反対の自分の思うような食堂を経営したが、それは一部の人を排除して彼らの居場所を奪ったことになるのだろうかと思いもする。
彼女の親に対する反発、そしてその後に来る後悔は誰にでもある人生の形のようだ。
群さんの小説「かもめ食堂」の中でも、そしてこの小説の中でも主人公と似た感覚を持つ、そして力強く頼もしい相棒を得ることができて主人公の掛け替えのない相棒となって二人三脚で食堂を経営して行き、それだけでなくお互いを思いやりながら生きていくことになるというと共通点があって、1人で頑張らなければいけないという悲壮感のようなところが和らいでいいなあ。
自分にもこんな相棒がいてくれたらと思う。
Posted by ブクログ
嬉しい!
作者さんの本、れんげ荘シリーズだけではなく、こちらもシリーズがあったとは。
こちらも自分と同じ年頃の主人公に、もう共感出来るところが沢山あって。
サンドイッチとスープのお店を始める事になり、彼女は新しい学びや出会いお別れをしながら日々自身の気持に向き合います。
そうだよね、そうなんだよねと、思いながら読み終えました。
読み終えてしまった、、、と思ってから気がついたシリーズである事。
続きをすぐに買いに行ってしまいました。
Posted by ブクログ
休み休み、ブレずに、ずっとその方針で生きていく。
猫の描写がたまらん、笑みがこぼれてしまう。
だからこそ、死後の描写もより響く。
死は生がある限り、逃れられない。
わかっていても、普段わからないふりをして生きている。
人間よりは死を特別視していないどうぶつたち。
種を残すことで、次に繋がっていく。
人が関わるどうぶつは種を奪われたり、無理やり生まされたりしているが。
植物にとっては死ではなく、生命の中のサイクルの一つなのかもしれない。
花を飾るのは好きではない、野に咲いててくれと思う。
実際にお店があったら、私は入らない人間だ。
私はヴィーガンで、お店で出されるものは食べられないなあと思いながら読んでいたが(どんな作品もほぼそう)、ヴィーガンについても少し触れられていてほんの少しだけ嬉しかった。
時々、イライラする人間が現れるが、(母の店の常連たちや、母がかつて働いていた店のヤマダ、新しくできた小料理屋の夫妻、等など)
自分とは違う、いろいろな人たちがたくさん生きる世の中。
その中で、自分を殺すことなく、心を殺すことなく、何かを我慢して、すり減らすことなく、心のままに、ただ自分のままで在り続ける。
自分がいけないわけでもなく、悪くもない。
ズレがあるから息継ぎできる。
Posted by ブクログ
全体的に、かもめ食堂みたいな雰囲気。
実写化はやっぱり小林聡美かな、と思ったらそうだった。
母が妻子持ちの坊さんと不倫して出来たのが、主人公。
がさつで、居酒屋兼定食屋みたいな店を切り盛りしながら子育てした母を反面教師に、母亡き後、修道院の食堂みたいなシンプルなカフェを経営する。
自分は自分、他人は他人。
ゆっくり息していこう。
母親が反面教師、家みたいな居酒屋と定食屋の中間みたいなお店、そういう場所の雰囲気とか人の会話も苦手なので、わかるなぁと共感。
母とはまったく方向性の違う店を出したことで冷たくなった、子どもの頃から知っている母の常連さん。味が薄いと文句を書かれたレビュー。
人はいろいろだから、仕方がないよ、と迷いながら呑み込む主人公の強さを感じます。
店主のこだわりがや、お客さんへのいたわり、優しさなどが感じられるカフェなんだろうなぁ。
資本主義の真ん中で、バリバリ営利目的でやっているお店よりも自分の芯を大切にして細々とやっているようなお店で一息つくのも良いかもしれない。
近所にあったら通ってみたかった。
Posted by ブクログ
ドラマを見たことがあったので、興味があり原作も読みました。
内容はドラマよりも周りの人たちの個性が強く描かれていましたが、穏やかさは変わらず描かれていて良かったです。あと、アキコさんの心の動きは小説のほうがしっかり書かれていたので、本を読んでからドラマを観るのもおすすめです
Posted by ブクログ
れんげ荘シリーズを読んでいたので、非常に似た設定で安心して読める。結婚経験の無い女性とネコ。バリバリ働いていた女性が会社を辞めるところまでは同じだが、こちらは自分の店を開店させて、それを繁盛させているところが気持ちを明るくさせる。れんげ荘シリーズでは働くことを放棄した女性が徹底した節約で気持ちを暗くさせる。
また、このシリーズではネコの『たろ』と従業員のしまちゃんがいいキャラクターで華を添えてくれる。最後の方でネコのたろに悲劇が、、、。辛い内容だった。シリーズ化されているので新しいネコの登場か?
Posted by ブクログ
主人公がつくるパンやスープの描写が綺麗だった。でも何よりも愛猫の描写、そして失ってしまってからのかの心情が、自分の時と重なって泣きそうになった。
母の死よりも愛猫の死のほうが辛いというのも理解できてしまう。
とにかく猫、猫への愛がすごくいい。
Posted by ブクログ
ほんわかとしたお話で良かったです。食堂の様子や主人公の生い立ちに至るまで、会話ではなく説明的な文章で、自分なりにいろいろ想像して楽しめました。
企業に勤めて働くも、自分で開業して働くも、どんな風に人と繋がっていくかは変わらないもんなんだなぁと思いました。
丁寧に過ごしてると、丁寧な人や事と巡り合う。
ひとりであっても、実際はいろんな人に支えられている。
そんなふ風に思える一冊でした。
Posted by ブクログ
友だちに薦められていて読んだ本。
編集者として働いていた主人公が
とあるきっかけで自分のお店をもつ話。
穏やかなバランスのとれた主人公。
シンプルだけれど素材にこだわったお店。
一緒に暮らすことになったまんまるな猫。
自分で雇った素朴で素敵な店員さん。
迷いながらもお店をつづけていく。
出自のいろいろとも向き合う。
愛してやまない飼い猫との別れ。
淡々とした日常を切り取ったような物語。
いつか猫を飼ってみたい私。
買う前から、ペットロスが怖くなってしまう。
いや。でも。
何かを失って悲しいのは
それ以上にたくさんの想い出が
共にあるからだよね。
なんて考えてしまった…本。
Posted by ブクログ
ずっと前に読んだことあって、久しぶりに読み返してみました。やっぱり読んでてほっこりするし、猫に癒される。
もし近所に主人公がやってるお店があったら、絶対通う!素敵なお店だと思います。サンドイッチと野菜たっぷりなスープ食べてみたい。
主人公も素敵だし、しまちゃんもいい子。ママさんも、嫌味ばっか言ってると思ったら、苦労人の実はいいキャラでした。
ペットを飼ったことがないから、いなくなることがどれだけ悲しいかは想像しか出来なかったけれど、主人公がすごく辛そうで心痛かったです。当たり前の存在が急にいなくなったら、立ち直るのにも時間がかかるよな。
お寺の方たちとの関係も気になるとこ。シリーズもっと読んでみよう!
Posted by ブクログ
母を亡くし、やっていた居酒屋をおしゃれなカフェに替えて再開する。商店街の人たちとの交流や、飼い猫との日常、父との関係がより明らかになるなど、波瀾万丈までいかないが、日々起こる出来事がおもしろかった。
後半の猫の話は、猫飼いにとってはなかなか読むのがしんどかった。
Posted by ブクログ
唯一の身内である母を亡くしたアキコが、
母の食堂を改装し、自分のお店を再オープンした。
スタッフのしまちゃん、ネコのたろちゃん、
料理学校時代の恩師、食べにきてくれるお客さん達との日常を淡々と描いている小説です。
淡々と描いていますが、
どのシーンも淡く温かい雰囲気が漂っています。
アキコは意識してないのかもしれないけれど、
日々のちょっとした出来事に、微笑んで丁寧な暮らしをしているのが感じ取れました。
最後まで温かい気持ちで読んでいられた本です。
自分の生活も丁寧に生きていきたいな。
Posted by ブクログ
小林聡美さん出演作品をよく観ていたのでオススメに出てきて、最初は映像化されたものを観ました。
本でも読みたいなと思い書店で手に取り、出演者を頭に浮かべながら楽しく読めました。パンとスープの組み合わせが良いですね^ - ^観終わったらサンドイッチを作りたくなります。
Posted by ブクログ
とても共感できることが多く、うんうん、そうだよね。と思いながら読んでいました。
アキコさんのようなお店をすることに憧れていた時期もあったことを思い出し、丁寧にコーヒーを入れてサンドイッチとスープを作りたくなりました。
Posted by ブクログ
あなたは、イヌとネコのどちらが好きですか?
はい、これはよくある質問ですね。イヌ派とネコ派と呼ばれるくらいにどちらが好きかはハッキリ分かれると思います。2021年の統計では、イヌの飼育頭数が約710万頭に対して、ネコは894万頭と、なんとネコの方が多く飼育されているというのがこの国の現状のようです。この数には予想外という方もいらっしゃるかもしれませんが、基本、家の中からあまり出ることのないネコが実はたくさん愛でられている現実があることを改めて思い知らせてもくれます。
私はイヌもネコも飼育したことはありませんが、それらが嫌いというわけではありません。人から聞く飼育の様子、『抱っこして体を撫でてやると、素直に体をあずけて、「くおおお、くおおお」とうれしそうに小さな声で鳴く』といった人と動物との間に交わされる心の有り様に微笑ましい感情を抱きもします。愛し、愛されるという感情は生物の種の垣根を超えていくものである、そんな風にも思います。
さてここに、主人公が食堂を『開店した直後、店の横の隙間にうずくまっていた』というネコを『招きネコ』だと思う中に飼育を始めた主人公の日常を描いた物語があります。『素材の味のみで勝負』する主人公の料理への思いにハッとさせられるこの作品。全編に渡るネコの描写にネコ好きには至福の時間を味わえるこの作品。そしてそれは、『五十三歳のアキコの身内は、三歳のたろしかいない』という主人公の日常をほっこりと描く物語です。
『お父さんは、お坊さんだよ』、『あっちにはちゃんと奥さんがいたからね』と中学の『入学式の直後に』母親のカヨの説明に驚くのは主人公のアキコ。『そのときの母は三十三歳』にして『父は六十三歳。立派なじいさんではないか』とその年齢差を聞いてさらに驚きます。そんなカヨに『お父さんって、生きてるの?』と訊くアキコに『二年前に心臓発作で亡くなったんだって。お母さんも知らなかったんだよね』と母は涙を拭きます。『自分の名前をつけた「お食事処 カヨ」という食堂を経営』するカヨから、『いつ帰ったか知りたいから』と『店の入り口から出入り』するようアキコは指示を受けていますが、『昼も夜も入り浸』る『酒が入った常連のおじさんたち』に囲まれ『左手に煙草を持ったまま、母が酒を飲んではしゃぐ姿を見るの』が大嫌いでした。そんな母の姿は『アキコが大学生になっても』変わらないどころか、今度は『ボーイフレンドについても、ものすごくうるさくな』ります。『自分に男の子を会わせてから、デートに行け』と言う母と喧嘩するようになったアキコは、『母のいうなりにはならず、七時の門限も無視』するようになります。そして、出版社に就職したアキコは、『料理はね、何時間、何分っていう時間では測れないの』と語る『料理専門学校を経営している先生』と出会い料理本を担当します。『自分が試しに作ってみたのと、同じ材料を使っても、味に雲泥の差があるのにも驚』き、『本作りの面白さと同時に、料理の面白さにも惹かれてい』くアキコ。そんな『アキコが家で料理を作るのを、母は嫌が』ります。『味が濃すぎる』『母の食堂の料理は、家庭料理の延長ではないか』と思う『アキコの舌には』母の料理は次第に合わなくなっていきました。一方で、『あっという間に四十五歳になっていた』というある日、『会社で仕事をしていたアキコは』母が倒れたとの連絡を受け病院に駆けつけるもそのまま亡くなってしまいます。そんな母の遺品の整理を進める中で『お父さんよりアキコへ』という通帳を見つけたアキコは、『父から渡された通帳を、母が引き継いで残高を増やしてくれたのだろう』と『まじまじと眺め』ます。一方で、『食堂は閉めたまま』になっていることが気がかりでもあるアキコは先生に相談しました。それに『あなたがやればいいじゃないの』、『あなたはセンスがあるし、食べ物の大切さをわかってくれる人だと思うの』と語る先生の言葉に、『お世辞でいってくれたのだろうけれど、自分にはできそうにない』と思うアキコ。そんな半年後、人事異動で『なんと経理部に異動に』なってしまったアキコは、『再び編集部に戻れるチャンスは皆無』だと認識する中に退職を決意します。そして、『私は私のやりたい店をやるだけなのだ』と決意し、自分の店を開く準備をスタートします。そして、『すっきりとシンプルにというアキコの要望』通りに出来上がった食堂で働くアキコと、二階で飼う『グレーのキジトラ柄のネコ』『たろ』との日常が穏やかに描かれていきます。
“唯一の身内である母を突然亡くしたアキコは、長年勤めていた出版社を辞め、母親がやっていた食堂を改装し再オープンさせた…安心できる食材で手間ひまをかける。それがアキコのこだわりだ。そんな彼女の元に、ネコのたろがやって来た ー 。泣いたり笑ったり…アキコの愛おしい日々を描く傑作長編”という内容紹介が、如何にもほっこりとした物語を予想させるこの作品。そんな内容紹介通りの穏やかな物語が展開していきます。
作者の群ようこさんと言えば映画化もされた代表作「かもめ食堂」が有名です。「かもめ食堂」は、フィンランドを舞台とした物語なのに対して、この作品の舞台は『狭い店舗が建ち並ぶ商店街』というだけで場所こそはっきりしませんが、間違いなく国内の下町っぽい場所です。とは言え、それまで会社員だった一人の女性がゼロから食堂を開いていくという展開が共通することもあって、どことなく「かもめ食堂」の雰囲気感に近いものも感じます。一方でこの作品ならではの色合いを出す存在があります。それこそが「パンとスープとネコ日和」という書名にも登場し、表紙にもその四分の一ほどの大きさをもって描かれているネコです。『グレーのキジトラ柄のネコ』は名前が『たろ』であることが冒頭に紹介されるなど間違いなくこの作品の準主役といって良いほどの存在感をもって登場します。このレビューを読んでくださっている方の中にもネコが好きという方は多々いらっしゃると思います。小説家さんの中にもネコがお好きな方は多々いらっしゃいます。そして、ネコを最前面に出された小説群もあります。すぐに思い浮かぶのは有川ひろさん「旅猫レポート」でしょうか?ネコ視点の描写も登場し、ネコ自身も活躍を見せる同作に対して、この群さんの作品は、ネコの可愛さに”でれでれ”な主人公が描かれるという違いがあります。ネコ好きな方には、そんなネコの描写を読むだけで幸せになれるのではないか?それくらいネコを愛でる表現に満ち溢れています。二つほどご紹介しておきましょう。まずは、アキコがこれから出かけようという場面です。
・『忙しい朝、たろはアキコに甘えたい気持ちをぐっと抑えているように見える』という『たろ』が『ぶつぶつと文句をいいながら、室内をぐるぐると回っている』様を見るアキコ
→ 『抱っこして体を撫でてやると、素直に体をあずけて、「くおおお、くおおお」とうれしそうに小さな声で鳴く。しばらくすると自分から、たっと床に飛び降り、アキコの顔を見上げて、「にゃあ」と鳴く』
→ 『アキコにはそれが、たろが、「もういいから、いってらっしゃい」といっているように思える。たろも我慢してくれているのだ』
→ 『そんなたろがとてもいじらしくなって、アキコは、部屋に戻ると、「たろちゃーん」といいながら、頰ずりをする』
仕事もあれば学校もあるという私たちの日常においては、愛でる存在であるネコと離れ離れになることは避けられません。そんなネコとの感情の交流を見る一コマです。どうでしょう。ネコ好きなあなたにはたまらない描写ではないでしょうか?次は、『掃除機をかける』という場面です。
・『掃除機の音が大嫌いなたろは、掃除機を出したとたんに、ぴゅーっとすっとんでいき、室内でいちばん安心できる、クローゼットの奥の奥に避難した』
→ 『「ちょっと我慢しててね」と声をかけた』アキコに、『「にい~」たろは情けない小さな声で返事をして、横を向』きます
→ 『掃除機をかけ終わると雑巾で床を拭いた。音がしなくなったので、たろが出てきて』、『「わああ、わああ」と何やら訴えはじめ』ます。『お掃除をしてるからね。これが終わったら遊ぼうね』と言う『アキコの手元をじーっと見』る『たろ』は、『ぱっと雑巾にとびつ』きます。
→ 『こら、邪魔しないの』とアキコが言うも『尻尾をぱたぱた振って』『雑巾を両手でしっかりと押さえ』ています。それに『しょうがないわねえ』と『先に毛皮のついたネコじゃらしを出して』、『たろをじゃれさせながら、拭き掃除をするはめになった』アキコ
アキコと『たろ』のなんとも微笑ましい場面です。掃除をしたいアキコと遊んで欲しい『たろ』。そんな『たろ』を叱らないで『たろ』との時間も大切にするアキコの幸せそうな顔が目に浮かびます。とは言え、私はネコを飼ったことがないのでその本当の喜びは残念ながらわかりません。恐らくこれは読み味にも響いてくるのだとも思います。そういう意味でも”ネコ好き!”な方には是非ともお勧めしたい作品だと改めて思います。そして、ネタバレになるので書くことは控えますが物語後半に向かってアキコが『たろ』のことを深く思う展開が繰り広げられていきます。この辺りネコ好きな方には深く感情移入ができる物語だと思います。一方で”ネコ嫌い!”の方にはページを捲ることさえ嫌になるのではないか、それくらいにネコの描写に満ち溢れた作品だという言い方でもお伝えしておきたいと思います。
さて、そんなこの作品のもう一つの読みどころが、主人公アキコが営みを始めた食堂です。母が経営していた酒と煙草の匂いに満ち溢れた『お食事処 カヨ』。そんな店にアキコはこんな思いを抱いています。
『私は、母のあの茶の間のような店を受け継ぎたくはなかったんです』
そして、『すっきりとシンプルに』という方針のもとに店を作っていくアキコは、『食器も乳白色や淡いベージュに揃えて、生花以外の無駄な飾りは一切なし』と店のイメージを作り上げいきます。そんなお店のメニューをアキコは以下のように決めます。
『お食事 千円(税込み) ◎サンドイッチ、スープ、サラダ、小さなフルーツ(パンは全粒粉か天然酵母。二種類から選べます)』
アキコは、店の準備が進むにつれてこんな思いも抱いていきます。
『人が口にするものを作るのは、大変な責任がある。それを考えると、自分などがそのような仕事に手を出していいのかという、怖れもわいてきた』。
この作品では店を開店させるまでの日々にも十分なページ数を割いた物語展開がなされていきます。私はお店を持ったことはありませんが、そんな私にもお店を持つ、食べ物を提供する店を持つということの意味合いがひしひしと伝わってきます。書名前半の『パンとスープ』という部分に深い読み味を感じさせてくれるこの作品。この辺りはネコにはあまり興味がないという方にも十分楽しめる物語になっていると思います。
そんな物語は、母親が死んでしまったことで、この世に一人ぼっちになってしまった五十代を生きるアキコという一人の女性が人生を諦観する物語としての魅力も秘めています。
『アキコは父の顔を知らない』。
という中に母親に育てられてきたアキコ。ある日突然に、『お父さんは、お坊さんだよ』と母親に言われたものの、唯一の写真も『引っ越しのときにゴミにまぎれれ捨てちゃったようだ』いう説明に納得できるようなできないようなモヤモヤとした思いを抱いていくアキコは、物語後半になってそんな父親への興味も抱いていきます。上記した『たろ』への深い思いが描かれていく物語後半には、この父親への想いを描く部分、そしてもう一つ物語の根幹に触れていく部分がしっとりと描かれてもいきます。それこそがアキコのこんな想いに集約されるものです。
『いったい自分はどういう店を作りたかったのだろうか』。
母親への反発もあって『茶の間のような店』の対極にあるような店作りを心がけてきたアキコ。しかし、店の客層の偏りに気づくようになったアキコ。
『あんなに毎日がただ同じことの繰り返しと呆れていた母の店のほうが、自分の店よりも客層が豊かなのだった』。
そんな現状に動揺もするアキコ。そんなアキコにさまざまな迷いも生じます。しかし、
『いちばん大事なのは、自分がぶれないこと』。
そんな言葉を改めて噛み締める中にアキコは、迷いを振り切ってもいきます。とは言え、物語が深刻になりすぎることはなく、あくまでも「パンとスープとネコ日和」という書名のほっこり感が失われることはありません。そして、そんな物語の結末には、その先へと当たり前のように続いていく日常を思わせながら穏やかに結ばれる物語の姿がありました。
『お腹がふくれて目が半開きになった、たろを抱っこして、ぼんやりするのが、アキコの至福の時間なのである』。
『アキコは父の顔を知らない』という先に、『たった一人の身内だった母』も亡くし、『三歳のたろ』と暮らしつつ、『すっきりとシンプル』にこだわる食堂を切り盛りしていく主人公・アキコの日常が描かれたこの作品。そこには、「パンとスープとネコ日和」という書名そのもののほっこりとした世界観に包まれた物語が描かれていました。『素材の味で十分』と繰り返し語られる物語の中に、料理に対する見方が変わるのを感じるこの作品。そんな料理を提供する食堂にもう一人の店員として働く しまちゃんの存在にも魅せられるこの作品。
日常を丁寧に描写していく群さんの一貫した筆致に、どこまでもほっこりとした気持ちにさせてくれる、そんな作品でした。
Posted by ブクログ
一万円選書で送っていただいた『れんげ荘』がとても良かったので、他の作品も読みたくなり「ネコ」が題名にあるこちらを読んでみることに。
会社を辞めた独身女性の日常を描き、魅力的で個性的な登場人物に囲まれるというのが両作品の共通点。
パンとスープのお店を、悩みながらも頑張って営んでいるアキコさんと愛猫タロちゃんとの生活を「わかる〜」と思いながら読んでいると後半は…。
シリーズもののようですが、もういいかな…。
『れんげ荘』シリーズの方は続きを読みたいと思っています。
Posted by ブクログ
初めての郡よう子さんの作品です。
読者友だちからのおすすめで貸していただいたのですが、
とてもほんわか温かいお話でした。
ねこちゃんを飼ったことはないのですが、
動物全般大好きなので
ねこのたろちゃんとアキコの暮らしを見ていてとても癒されました。
家族関係の複雑な感じも暗く重い感じではなく、カフェの様子も
素敵で温かい気持ちになりました。
いろいろな家族の在り方の中で
自分らしく日々を生きている
主人公に共感し、ドラマにもなったというだけあって、背景や様子が目に浮かぶようでした。
たろちゃんという家族のことを思うアキコの気持ちは痛いほどわかります。とても素敵なお話でした。
Posted by ブクログ
2024.12.26
アキコの何気ない日々の人生を丁寧に描いた作品だった。
ペットロスのシーンは、本当に経験した人にしかわからない感情の移り変わりをとても上手に表現されていて、自分も昔亡くしたペットを思い出してじーんときてしまった。
とにかく後悔するんだよね、そうそう。と共感した。
何か大きな事件も出来事もなく、淡々と毎日をしまちゃんとお店を営むことですぎていく毎日。
そこにちょこちょことアキコのルーツの話が挟まるので、飽きることなく気づいたら読み終えていた。
群ようこさんの作品はかもめ食堂に続いて2作目だが、こちらの方が断然わたしには刺さった。
Posted by ブクログ
タイトルのイメージ通り、ほんわかした日常が描かれていました。そんな日常をこんなにステキに輝かせる作家さんていいなぁ。そこに、身近な人やペットの死。こだわりを持った店作り。ところどころに、訴えるものがあって、とても楽しめました。
Posted by ブクログ
アキコの母を筆頭に「大雑把で俗っぽく社交的を履き違えた人」がたくさん出てくる。私もアキコやしまちゃんのようにそういう人たちが苦手なので一緒に嫌悪したりイライラしてしまった。アキコがしまちゃんに出会えて本当に良かった。
嫌なことや悲しいことが続いたり、素敵な人の素敵な振る舞いに救われたり、生きていくってこういう事だよな、と思った。生きるのって大変!
Posted by ブクログ
以前はオチのある本ばかりを読んでいたが、ただ日々の日常の中で起こることが書かれているような本もほっこりしていいなあと思えるようになった。
知らない名前のお料理が出てくる本好きだな。
喫茶店でランチ後にコーヒーを飲みながら読みたくなる一冊。