あらすじ
「子ども、もらってくれませんか?」――彼氏の郁也に呼び出された薫は、その隣に座る見知らぬ女性からそう言われた。薫とセックスレスだった郁也は、大学時代の同級生に金を払ってセックスしていたという。唐突な提案に戸惑う薫だったが、故郷の家族を喜ばせるために子どもをもらおうかと思案して……。昔飼っていた犬を愛していたように、薫は無条件に人を愛せるのか。第43回すばる文学賞受賞作。「おいしいごはんが食べられますように」で第167回芥川賞を受賞した高瀬隼子のデビュー作!
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Posted by ブクログ
【あらすじ】
昔飼っていた犬を愛していた。
どうしたら愛を証明できるんだろう。犬を愛していると確信する、あの強さで――。
間橋薫、30歳。恋人の田中郁也と半同棲のような生活を送っていた。21歳の時に卵巣の手術をして以来、男性とは付き合ってしばらくたつと性交渉を拒むようになった。郁也と付き合い始めた時も、そのうちセックスしなくなると宣言した薫だが「好きだから大丈夫」だと彼は言った。普段と変らない日々を過ごしていたある日、郁也に呼び出されコーヒーショップに赴くと、彼の隣にはミナシロと名乗る見知らぬ女性が座っていた。大学時代の同級生で、郁也がお金を払ってセックスした相手だという。そんなミナシロが妊娠してしまい、彼女曰く、子供を堕すのは怖いけど子供は欲しくないと薫に説明した。そして「間橋さんが育ててくれませんか、田中くんと一緒に。つまり子ども、もらってくれませんか?」と唐突な提案をされる。自ら子供を産みたいと思ったこともなく、可愛いと思ったこともない薫だったが、郁也のことはたぶん愛している。セックスもしないし出来にくい身体である薫は、考えぬいたうえ、産まれてくる子供の幸せではなく、故郷の家族を喜ばせるためにもらおうかと思案するのだったが……。
快楽のためのセックス、生殖のためのセックス。子供を産むということ、子供を持つということ。
1人の女性の醸成してきた「問い」の行方を描く。
『こんな街で、こんな世界で、よく子どもなんて産もうって、思えるな、みんな。かわいそうだと、思わないのかな。傷ついたり嫌な思いをしたりするのが、目に見えているのに。子どもを産みたいとか持ちたいとかいう、自分の希望を優先するんだろうな。』
【個人的な感想】
妊婦さんのお腹を見て怖いと感じる気持ちはおかしいのかと思っていたが、主人公も同じことを言っていてびっくりした。
生まれたての赤ちゃんの写真を見て『昔、実家の納屋でひからびて死んでいたこうもりに似てる。』という表現をしていて笑ってしまった。
自分が子供を持つことに対して慎重になってしまう理由がこの小説の中には詰まっていた。
産みにくい身体、産めない身体になるとわたしも子供を産みたいと思うようになるんだろうか。
犬に対して感じる愛情に対して『愛することってこういうことだ』と文章で書き起こしてあるp38〜39も印象的だった。
色々なことを考えさせられた。
Posted by ブクログ
面白かった。短めなのでほぼ通勤時間2日分で読み終えてしまった。
読み終わった今ならそりゃそう落ち着くよなと思うが、読んでる最中は驚きの展開だった。もらう、もらわない、どっちでもないんだ。産んでない人間には決定権がないんだ。
巻末の解説もよかった。
Posted by ブクログ
特別にグロテスクな場面があるわけではないのだが、愛や性の生々しさにじかに触れさせられるような感覚があり、どこか直視することに抵抗がある作品だった。
読みやすく、物語に引き込まれるし、質の高い作品だとは思う。
うまく感想を書けないので単行本の帯のコピーを転載しておく。
「どうしたら、証明できるんだろう。犬を愛していると確信する、あの強さで愛しているのだと——。」
「わたしたちがセックスを手放したあとに、やってきた『彼の子ども」。それでも二人でいつづけられるのだろうか、互いの身体を重ねることなしに……。」
「小説でしか表現できない、思考と文体を駆使しなければならない『複雑』さが、この作品の一番いいところだ。高橋源一郎(作家)」
Posted by ブクログ
女の人には確かに子供を作る、作らない、産むか産まないかなど選択肢が多い。
まあそもそも相手がいなければこんな選択肢はないけども。
私も子供欲しいと思ったことがないし、だから作る行為も必要ないと思うから共感できた。
最後は大体想像はできた。そりゃ、食べたいもの飲みたいものいろいろ我慢して痛めて産んだんだからそうなるよね。
逆に子供をかわいいと思えないのに主人公が他人の子供を育てられるのかってところもある。自分の子供だったら変わると思うけど。
だからこの結末でよかったと思う。
タイトルの「犬のかたちをしているもの」、これは主人公の愛の形なのかなぁ。話の主旨とは違うかもしれないけどミナシロさん最後ちゃんと離婚してくれたのかしら、そこだけめっちゃ気になる。
Posted by ブクログ
女性の怖さは観察が鋭いところである。高瀬さんの書いた小説を読むと慄然とする。「たしかに男って、こういうときこうするよな」というのが、じつに見事に描写されているのだ。「こんなところまで見られているのか…」と冷や汗が出る。男性作家はなかなかこういう真似はできない。男の場合、登場人物(とくに女性)にしばしば自分の理想を投射してしまう。わかりやすく言えば、エヴァンゲリオンの綾波とアスカだ。魅力的ではあるが、嘘くさいと言えば嘘くさい。
セックスをしていると、大切にされていない気がする。この薫の気持ちはなんとなく理解できる。どうせ私のことは体目当てなんでしょ。しかしセックスがなければないで、愛されているか不安になってしまう。郁也が求めてこないのは、彼が「大丈夫」だからなのか。そんな男がいるのだろうか。薫はどうやって郁也の愛を確かめればいいかわからない。
同時に薫は、郁也に対する自分の愛にも自信が持てない。あなたの子供を産みたい。これは愛である。しかし、薫は持病のせいもあり、子供を作ることに消極的だ。郁也が子供を欲しがっているのはわかっているのに。こんな自分は、本当に郁也を愛しているのか。自分の愛が本物の愛だと、どうやったら証明できるだろう。
本作は一見すると無茶苦茶でありえない設定だが、このありえなさを成立させることで、私たちが当たり前だと思っているものを「本当に当たり前ですか?」と問いかけてくる。犬のロクジロウを愛してると確信することはとても簡単なのに、どうして人間どうしが愛し合うことはこんなにも面倒なのか。
愛や性は〝理性〟とは対極の〝本能〟であり、本能に従っていれば迷うことなどないのに、考えてしまうから答えが出ず前に進めなくなる。
「これまで考えすぎるほど考えてきたつもりなんだけど、振り返ってみると全然、目の前に置かれた課題の方がまだ全然、多い」と薫は語る。逆だ。考えてばかりだから目の前に課題が積もってしまう。それに対して、本能のままに赴くミナシロはずっと軽やかだ。あれほど子供が嫌いと言っていた癖に、いざ産まれたら自分で育てると言い出す。つまり本能が優先しているわけで、これは欲望解消のためならお金だけの肉体関係もありだと考える彼女らしい決断である。それに比べたら、薫が最後に下した決断は、じつにささやかと言うしかない。それでも、彼女はここでようやく一歩を踏み出したのである。
Posted by ブクログ
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途中からミナシロさんは子どもを渡さないんじゃないか、と思ってたらやっぱり。
おばあちゃんが危篤になって、「お腹が大きくないから帰れない」と考えるシーンは生々しく印象的だった。子供が他の女とできてしまったからもらってほしい、ということ以上にそれを許される前提で進むことに腹が立つ。主人公の受け身の感じが随所によく出ている。
◯印象的な文
わたしのほしいものは、子どもの形をしている。けど、子どもではない。子どもじゃないのに、その子の中に全部入ってる。
→セックスが苦手なのに子どもを産まなければいけないのか、産んだら両親は喜ぶし社会は優しくなるし悩まなくて済むだろう。そもそも選ぶのがしんどい。そういうことが全部詰め込まれている。
◯展開
検診のため隠毛を切る
↓
子どももらって
↓
過去犬の話、郁也との出会い、病気の話、東京での就職
↓
ミナシロと再会
↓
課長と不倫して子供ができた笹本さんp63
↓
大学への転職話
↓
ミナシロ なぜセックスできないか
↓
郁也と喧嘩
↓
大学見学 子供が成長してほしい
↓
実家帰る 子供できたら喜ぶかな
↓
田舎での手術。もう結婚できないね。
↓
ミナシロ 郁也と結婚
↓
祖母危篤、子どもをもらう決心。
↓
ミナシロ こども渡さない