【感想・ネタバレ】小さなことばたちの辞書のレビュー

あらすじ

ことばに生涯を捧げた女性を描く珠玉の一篇。

「生きるということは、ことばを集めることだ――べつに辞書編纂者でなくても。エズメがそれを教えてくれる」――国語辞典編纂者・飯間浩明
19世紀末の英国。母を亡くした幼いエズメは、『オックスフォード英語大辞典』編纂者の父とともに、編集主幹・マレー博士の自宅敷地内に建てられた写字室に通っている。ことばに魅せられ、編纂者たちが落とした「見出しカード」をこっそりポケットに入れてしまうエズメ。ある日見つけた「ボンドメイド(奴隷娘)」ということばに、マレー家のメイド・リジーを重ね、ほのかな違和感を覚える。この世には辞典に入れてもらえないことばがある――エズメは、リジーに協力してもらい、〈迷子のことば辞典〉と名付けたトランクにカードを集めはじめる。
大英語辞典草創期の19世紀末から女性参政権運動と第一次世界大戦に揺れる20世紀初頭の英国を舞台に、学問の権威に黙殺された庶民の女性たちの言葉を愚直に掬い上げ続けた一人の女性の生涯を描く歴史大河小説。
2021年豪州ベストセラー1位(フィクション部門)、NYタイムズベストセラーリスト入り。「ことば」を愛するすべての人に贈る珠玉の感動作。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

あまりに美しくて最初から涙が出そうになる。「美しい」といったけどそれは外見に現れる「美」ではなくて日常に浮かんでいる、心が絵のように印象を切り取り溜め込んでいくそのシーンの美しさの事。言葉で文中説明されることのない主人公の感情の積み上げはこちらにぽつりぽつりと落ちて波紋をいくつも作るのよ。トニモリスンの「ラブ」を読んだ時の如く、直接説明せずに描ける方は本当に凄いなぁ。映画化されて欲しいくらいだが映画でこの美しさを表現できるのか?とも思う。本が好きな人も、言葉が好きな人も、女性である事に鬱々とする人も、メタな視点でいえば翻訳という事を楽しむ人も、何かしら見つけられると思う。そして戦争が日常に入り込むその描写も今この時だからこそエグい。
一人の少女が辞書編纂者の父親の仕事場で言葉を遊び道具に育ち、女として仕事が与えられない事、望まぬ妊娠、愛する人との出会い、そうした人生の折々をその時その時の言葉と共に過ごしていく。小さなトランクに溜められて行く言葉。それは私達が記憶を積み重ねて行く様に層をなして彼女の人生を記録していく。
彼女の出会い集めた言葉は辞書から零れ落ちたような言葉達。零れ落ちた所にも沢山の世界は広がっていて生きている人間がいる。
辞書編纂者達が「詩人なら」と言うシーンにまた味があった。私達の人生がいかに言葉で彩られているかにも気付かされた。
本を愛する人に是非読んで欲しい本。

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2025年07月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

読んでよかった。
ことばを持つこと、ことばを扱うこと、ことばを得ること。ひとつひとつが大切で、意味のあることだって実感できた。

すくいあげられない市井の人のうつくしさも素晴らしかった。
エズメは当時の女性にしては恵まれていたが、それでもやっぱり「女」であることからは逃れられなくて、「持つ者」としてのエズメと「持たざる者」としてのエズメ両方を描いているところが好き。

メイベルもディーダもガレスも好き。リジーはもちろん好き。リジーがいたからエズメは「ボンドメイド」ということばが引っかかったのだろうし、エズメがいたからリジーはいろんなことばを獲得して、ことばを通して心について考えたりできたのではないかと思った。
ガレスからの贈り物のシーンは、新幹線で読んでいたのに思わず息を呑んで一旦本を閉じてしまった。あまりに素敵すぎて……

ひとりひとりの登場人物についてもっと知りたすぎて、それぞれの視点でスピンオフ書いてほしいくらい。

ハッとさせられるセリフやことばがたくさんあったから、また読み返して胸に留めておきたい。

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2025年05月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

エズメが大切に大切に言葉を集めたように、大切に大切に読みたかった。辞書編纂をめぐる壮大で、かなしくて、あたたかい物語。
「世界中のあらゆる書物から集めた言葉」が、書物の書き手がほとんど男であったために男が使う言葉に片寄っているのではないか?という視点は目から鱗だった。
編纂にかかった40年の間に第一次世界大戦があり女性参政権運動があり、それがエズメとOED編纂の物語に丁寧に織り込まれて、読みごたえがあった。(戦争の下りはもう過去の話として読めなくて、本当につらい)
翻って、物語の中にあったような女性の生きづらさが果たして今はなくなっているのか?と思うにつけ、なにも変わっていなくてびっくりする…

イギリスの階級社会の様子も読んでいて興味深い。それが女性解放の考え方にもつながるのだけど、エズメはリジーにお友達か気の許せるお姉さんのように接したがるけど、リジーの方はあくまでも使用人の立場で接しようとするのが切ない…

植字工が素敵すぎる。『エンデュミオンスプリング』に出てきた植字工がすごーく好きだったけど、本作に出てくる植字工も素敵でした。同著者の次の作品は製本の物語だけど、同じ植字工の青年が出ていると知って読むのが楽しみ。

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2025年02月12日

Posted by ブクログ

ネタバレ

いや、すっごいこの本は考えさせられた!
何か分からない言葉があったら調べる。
今はネットとかでサクッと調べるけど、より深く調べたり学校に通ってた時は辞書を使いなさいとよく言われた。
だから辞書の中には全ての言葉の意味が載っていると当たり前のように思っていたけど、そうでは無い事もある。
特に男尊女卑が激しかった昔に作られたオックスフォード辞典にはほぼ女性が使う言葉は無く仕事もほぼ男性の手によるもの。
女性も沢山編集に加わっていたものの、時代的に女性は手伝っていたとはみなされなかった。
さらに階級格差で比較的上流階級の人の言葉だけが採用されている。

辞書と言う物はそういう世の中の格差や差別等からは一線を画した権威ある書物と言う認識があっただけに色々と驚きだった。
差別的な言葉やちょっと下品な言葉達も、使い手や文脈によってはその限りでは無いと言うのもたしかになとも思う。
今作られてる辞書は昔以上にそういう事に配慮したりして色々考えて作られているだろうけど、
辞書に載らない言葉を集めてその意味の背景やその人達の生活を理解しようと最後まで務めた主人公には賞賛の拍手を贈りたい。

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2023年06月11日

Posted by ブクログ

ネタバレ

最後の「ボンドメイド」の意味と文例に長い年月を思って泣いた。ガレスがエズメをエッシーメイと呼びたかったこと、残されたリジーの深い哀しみすべて。死が淡々と描かれているけれど、エズメが少女の頃からの風景を一緒に眺めていたから深い。またいつかゆっくり読み返したい。

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2023年01月22日

Posted by ブクログ

ネタバレ

全体にとても好き。こういうのが出てくるようになったんだなあ。子供の頃にアラバマ物語を読んだときを思い出した。1928の部分がすごくいいのだけれど、1989が少しばかり不満。この人がこのときのメガンの年になって書くものが読んでみたい。

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2023年01月08日

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