あらすじ
練塀小路にかくれもない、数寄屋坊主の河内山宗俊。お上の威光を笠に着て、やりたい放題の悪事三昧。大名旗本はいわずもがな、はては坊主、町人にいたるまで、弱味を握っては追い回し、大仕掛け、小仕掛けの荒稼ぎ。贅をこらした屋敷には宗俊を慕う悪党どもがたむろして、夜毎、色と欲の胸算用……。歌舞伎でお馴染みの河内山宗俊を主役に、悪どもの群像を描く。江戸情緒のなかに悪の美学が冴えるピカレスク・ロマン。連作短篇時代小説。
*薬研堀の狼
*石町の銀鼠
*池之端の蝮
*鉄砲洲の小猿
*向島の傷千鳥
●多岐川恭(たきがわ・きょう)
1920年福岡県生まれ。東大経済学部卒。戦後、横浜正金銀行をへて毎日新聞西部本社に勤務。1953年『みかん山』で作家デビュー。『濡れた心』で第4回江戸川乱歩賞を、翌年には短編集『落ちる』で第40回直木賞を受賞。以降、推理小説と共に時代小説も旺盛に執筆した。
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日本生粋のピカレスクロマン。
初読は30年程前に成ります。
丁度、同じ河内山を主題としたSF(?)小説『講談 碑夜十郎』半村良著を読んだばかりの時でした。
なにぶん学生で歌舞伎の「河内山」など縁も所縁も無かった年頃でしたので、「悪党だけれど、本物の悪党は容赦なく懲らしめる」と云う筋立てにスッカリ嵌まってしまい、同様に河内山を主題とした作品を探していて、見つけたのが本書でした。
半村良さんの作品の方が色々と独自の脚色をしていたので、基本となるストレートな物語が読みたかったので即買いして読みました。
まだまだ若かったので、多岐川恭先生の作品も初読で、粋で衒いの無い作風に酔いしれました。この作品が切っ掛けで歌舞伎に興味を持つように成り、河内山作品を愛読して北原亞以子先生にも出逢えたので、本当に想い出深い小説です。
連作短編集の様な味わいで、鯔背でカッコいいけど、仕事柄ちょっと影の有り、必ずしも幸せとは言えない男達の色気に、憧れを持って読了しました。
こうして電子書籍化されて、より多くの人に読んでいただける機会が増えて良かったですね。日本独特のピカレスクロマンを是非お楽しみください!