あらすじ
小泉八雲とセツ。2人の奇跡の出会いが、異文化を乗り越え、『怪談』を生みだした。
ギリシア生まれのジャーナリスト、ラフカディオ・ハーンと上士の血を引くセツ。2人の宿縁の出会いと文学作品に結実するまでをドラマチックに描く。日本に憧れ東京に上陸したハーンは、英語教師として松江に赴任、誤解からヘルン先生と呼ばれるようになる。版籍奉還により生家は財産を失い、働く場も失ったセツは旅館に滞在中の異国人の女中として奉公する。はじめは会話にも不自由するが、ハーンの日本男性にはない優しさ、セツの武士の娘である毅然とした佇まいに互いに惹かれあうようになる。あるときセツの語る説話にハーンが高い関心を示した…。こうして奇跡的に出会った二人が愛を育み障害を乗り越え、『怪談』を世界に発表する。
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Posted by ブクログ
明治の世となって数年。人々の思想も身分制度もことごとく覆され、誇り高き武士たちは行き場を失くし時代に取り残されていた。
そんな時代の松江藩が舞台の物語。
小さな頃から物語を聴くことが大好きだったセツ。武家の娘として蝶よ花よと大切に育てられてきた。
そんなセツの家も時代の波にもまれ没落。セツは家族を養うため身を粉にして働かざるを得なくなる。
一方、東の果てにある小さな島国・憧れの日本へ、新進の紀行作家としてはるばる来日したラフカディオ・ハーン。英語教師として松江の尋常中学校へ赴任する。
縁あってハーンの身の回りの世話をするため住み込み女中となったセツ。
武家と庶民、両方の感覚を併せ持つセツから得る豊富な知識と知恵が、ハーンを作家としての成功へ導くこととなる。
小泉八雲といえば怪談。
あの怪談の数々にセツがこんなにも深く携わっていたなんて。夜な夜なセツがハーンに怖い話を語り、それをハーンがワクワクしながら喜んで聴く。そんな二人がとても微笑ましかった。
ハーンによると、日本の怪談は独特で、人間くさく、哀れで、もの悲しく、心を鷲掴みにされる、という。
「見ているものと本当のことは違うのだ」何度も出てくるこの言葉の通り、日本の怪談は裏側に潜むエピソードに切ないものが多い。そんなところがハーンの心を掴んだのかもしれない。
沢山の障害を乗り越えて生まれた二人の愛。
日本に根を下ろすことを決意したハーンの心意気と、いつも誠実に懸命に生きるセツの心根に胸打たれた。セツの潔さがとてもいい。
そしてこんな時代の定まらない世の中で、「ヘルン先生」とハーンを慕ってハーンの元へと集まる松江の人々の温情と、目の前に広がる明治の松江の優美な景色や人々の暮らしぶりに清々しい気持ちになれた。
読めて本当に良かった。