【感想・ネタバレ】羆撃ちのレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

いやいやいや。
これは面白かった。
久々に一気読み。

猟だけで暮らしたい。
そんな作者が
猟だけで暮らし、
猟犬を育て、
アメリカで学び、
牧場を営む。

一つの夢を叶え、また次の夢に向かって歩む
その作者の心意気がとても素敵な作品。
猟で得た獲物を大切にし、
綺麗に分けて無駄の出ないよう最大限に生かす姿勢も本当にかっこいい。

男なら、こんな生活に憧れるんでしょうね。

でも、それだけでなく、
アメリカに渡って本場を見、自分の生きていく道を決めたところも人間らしいし、
もう一頭犬を飼い、その結果自分の甘さに気づき
深い後悔を背負うところにも
共感できる作品。

0
2020年12月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

幼少の頃から実父に猟の手ほどきを受けた著者は、大学卒業後、猟
だけで食べていくことを決意して、山での生活を始めます。獲物の
肉や皮を換金して生計を立てる暮し。ウサギ、キツネ、シカなど何
でも獲りますが、一番の狙いは羆。著者が目指したのは、タイトル
の通り「羆撃ち」だったのです。

一人で山に入った著者は、あらゆる兆候を手がかりに何日もかけて
獲物を追いつめて行きます。執念深く獲物を追うその行為は、獲物
を倒すことよりも、獲物と同化することを目指しているかのようで
す。実際、殺気が出ると獲物に感づかれてしまうため、できるだけ
獲物のことを考えないようにして、間合いを詰めていくのです。

獲物が何をしたか。何を感じたか。人間としての痕跡を出来るだけ
消し、シカや羆に近づこうというただその一心で山を歩き続ける中
で、著者の五感は覚醒し、普段は見えないもの、聞こえないことが、
感じられるようになります。そして、獲物と同化し、周囲の自然と
一体となった時に初めて、「予感」が「予兆」に変わるのです。

命を奪うからこそ命の重さを知っている著者は、獲物に対して全て
の責任を追う覚悟を持って引き金を引きます。そして、命が消える
その瞬間までじっと獲物を眺め続けるのです。それが死にゆく者に
対する、著者なりの畏敬の念の表し方だからです。

獲物の腹を裂き、内蔵に手を当てて「痛いほどの熱さ」である命の
温もりをもらう。取り出したばかりの心臓を食べ、その鉄臭い命の
味、ほとんど苦しむことなく死んだ野生の味の旨さを全身で味わい、
自らの血肉に替える。それは獲物の「生きていた価値、生きようと
努力した価値」から、恩恵をもらうということです。そして、そう
やって恩恵を得た者が誰よりもその価値をわかるからこそ、その価
値が充分以上に発揮できるように、丁寧に獲物を扱うのです。

猟とは、命の価値の交換なのだ、ということに本書を読んで初めて
気付かされました。全て価値あるものは、交換される時に初めてそ
の価値が実感されます。命も例外ではありません。自らの死が、他
をどれだけ生かすことにつながるか。それがその命が生きてきたこ
との価値になるのです。だからこそ、死は無駄に扱われてはならな
い。ちゃんと生きてきたことの価値が十二分に発揮されるように扱
われなければならないのです。

生きている間は、他の生命の価値が最大限に発揮できるように努め、
死ぬ時には他に惜しみなく与える。死にゆく運命にある者は、そう
やって命を交換しながら、生きることの価値を発揮していくのでし
ょう。この命の価値の交換関係にこそ、いかに生きるかの真実が隠
されているのだろうと思いました。

学ぶこと、働くこと、生きること、教えること、育てること等、あ
らゆることのヒントに満ちた一冊です。是非、読んでみて下さい。

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▽ 心に残った文章達(本書からの引用文)

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耳に残っている仔熊の鼻声を思い出しながら、自分に言い聞かせた。
引き金を引くということがいかに重大かということを。それは、獲
物に対して、すべての責任を負うということだ。すべての責任を負
う心構えを持って弾を獲物に送り込もう。急所を狙って一発で斃せ
るように。

時間の観念が次第に消えていく。感覚が研ぎ澄まされていくと、木
の葉が散る音、葉の茎が枝から離れる音さえも聞こえる気がする。
いや、実際に聞こえるのである。それらの音をやり過ごし、ひたす
らに身が周囲に同化するように待つ。

シカの動きを知るには、自分がシカになったつもりで何日か徹底的
に歩いてみるのが一番だ。

一つのことだけに心を奪われすぎずに、あたり一帯に均一な緊張感
で注意を払わなければならない。特に目を見開いて探すより半目に
して見るほうが、微かに動くものでも目の隅で捉えやすい。

ナイフを取り出しシカの腹を裂いた。その腹腔に凍えてかじかんだ
両手をもぐりこませて温める。シカの最後のぬくもりが、痛いほど
の熱さで両手に染み込んでくる。私はそのまましばしの間じっとし
ていた。最後の温もり、生命の温もりの全部を両手にもらった。

生きるということの凄さ、生きようと懸命に努力する姿を目のあた
りにすること、それが猟の一番の魅力なのかもしれない。

シカは生命の温もりで私の凍えた手を温め、うまい肉となって腹に
おさまり、私の生命に置き換わってくれた。あのシカが生きていた
価値、生きようと努力した価値は、そこから恩恵を得た私が誰より
もわかり得るのではないか、そんな気がした。この充足感が、私の
求めていたことの一つであることがわかったとき、狩猟だけで生活
することへの確固たる自信へとなっていた。

旨い。手負いで苦しんだり興奮して死んだ獲物に比べて、苦痛や恐
怖をほとんど感じることなく斃された動物の肉はこれほどに旨いも
のなのか、とあらためてその違いに驚かされる。

美味しく食べられるように大切に扱わなければならない。それが死
んでいった動物を生かすことになるし、彼らに対する礼儀だと思う
からだ。ただ獲るのではなく、いかにして獲るかを心がけよう。

重い。この重さは羆の命の重さかもしれないと思う。(…)斃され
た命を決して無駄にはするまい。運びきって、生きてきた価値を俺
を通して発揮させてやるのだ。そう自分に言い聞かせながら歩く。

自然の中で生きた者は、すべて死をもって、生きていたときの価値
と意味を発揮できるのではないだろうか。キツネ、テン、ネズミに
食われ、鳥についばまれ、毛までも寝穴や巣の材料にされる。ハエ
がたかり、ウジが湧き、他の虫にも食われ尽くし、腐って融けて土
に返る。木に養分として吸われ、林となり森となる。森はまた、他
の生き物を育てていく。誰も見ていないところで死ぬことで、生き
ていた価値と意味を発揮していく。

だから私は、斃し方に心がけ、解体に気を配る。肉となって誰に食
べられても、これは旨いと言ってもらえ、自分で食べても最高の肉
だと常に思える獲り方を心がけ実行しなければならない。斃された
獲物が、生きてきた価値と意味を充分以上に発揮するように、すべ
てを自分の内に取り入れてやる。私の生きる糧とするのだ。
山での姿も、撃たれ斃れていった姿の細部までも目の奥に焼きつけ、
決して忘れないでおこう。それが猟で生活しようと決心した者の、
獲物の命に対する責任の取り方だろう。

猟犬はどんなに素質が良くとも、主人の技量と心以上には育たない
ということがわかった。猟犬を育てる側は常に技と思考の向上を目
指すことが必要となる。

だからこそ猟に対する考え方をしっかりと維持していかなければな
らないと己をきつく戒める。気を抜くと簡単に心を見透かされてし
まう。そこそこの仕事だけをして、ずるを決め込むような犬になる
ことが怖い。私の猟に対する姿勢がその程度だとフチに思われるこ
とが本当に怖い。良い素質を持っていればいるほど感覚が鋭いのだ
から、ごまかしはきかない。

脆く壊れやすい、しかし私にとっては望めばすべてがあり、与えて
くれたのが自然であった。獲物が、山菜が、川には魚が、厳しさが、
優しさが、そして夢と冒険がそこにはあった。脆く壊れやすく、儚
そうで強い自然だからこそ、その中にどっぷりと浸かりきってみた
い、自分の野生を確かめてみたかったのだ。その自然からは貪るよ
うなことはするまい、と常に自分に言い聞かせてきたはずであった
のに、気付かぬうちに楽をして多くを望んでしまっていた。
驕りであったのか、油断だったのか。いつのまにか自分が最も戒め
ていたはずの自然から貪ろうとする卑しい根性に取りつかれていた
のだ。

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●[2]編集後記

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一月の終わりに手術した父の予後が思わしくなく、一週間の入院の
予定が、三週間目に入っています。この二週間、病院に通い続けて
いますが、病院というのは、本当に色々と考えさせる場所ですね。

ベッドに縛り付けられていることに対して父親は苛立ちを隠せませ
ん。もともと文句の多い人でしたが、病院に行く度に、嫌味や小言
を言われるのは、それだけ不安でストレスを抱えているということ
でしょう。気を回して何かをしてあげようとすると逆に怒られるか
ら、何もせずにただベッドの横に座って、とりとめのない話に付き
合うように心がけています。

父の嫌味を聞きながら、本当に自分は、父の期待にも希望にも沿わ
ない生き方をしてきたしまったんだなあとしみじみ考えます。この
期に及んでも「息子は失敗作だった」と思わせるような生き方をし
てしまったことを申し訳なく思い、そういう親子関係しか築けなか
った自分を反省しもしますが、もう今更取り返しはつきません。

だから、自分は娘や息子とどんな関係を築くことができるのか、と
思いを馳せます。「猟犬はどんなに素質が良くとも、主人の技量と
心以上には育たない」と今回ご紹介した本の中にありましたが、本
当にそうだなあと思います。子ども達は親の「技量と心」を見透か
す力を持っています。「その程度か」と思われるような生き方にな
ってしまうのは本当に怖い。そう思われないように生きることが、
子ども達への責任なのだろうと思うこの頃です。

0
2013年02月12日

Posted by ブクログ

ネタバレ

北海道の道東で実際に羆撃ちをしていた方の実体験を元に書かれたエッセイ風の小説。
私自身が歩いたことのある地域に近いこともあり、切々と感じるリアリティと、雪山の静けさ、羆への敬意と恐怖、猟犬「フチ」への信頼と愛情が伝わってくる。
こういう生活に憧れる一方、作者自身も牧場を持ち、山での生活に区切りを付ける姿が印象的。

0
2011年02月05日

Posted by ブクログ

ネタバレ

射止めた羆(ヒグマ)の腹腔内に溜まった血に、かじかんだ両手を突っ込み温める。まだ脈を打つ羆の命の息吹を感じると共に、温かさから生命を引き継ぎ、彼が生きてきたことを忘れない。
ランニング後のポカリからですら生の潤いを感じるのに、数週間かけて極寒の山中で山の主を対決した後の肝臓は、どんな味なのだろうか

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2012年04月30日

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