【感想・ネタバレ】羆撃ちのレビュー

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2020年12月29日

いやいやいや。
これは面白かった。
久々に一気読み。

猟だけで暮らしたい。
そんな作者が
猟だけで暮らし、
猟犬を育て、
アメリカで学び、
牧場を営む。

一つの夢を叶え、また次の夢に向かって歩む
その作者の心意気がとても素敵な作品。
猟で得た獲物を大切にし、
綺麗に分けて無駄の出ないよう最大限に...続きを読む生かす姿勢も本当にかっこいい。

男なら、こんな生活に憧れるんでしょうね。

でも、それだけでなく、
アメリカに渡って本場を見、自分の生きていく道を決めたところも人間らしいし、
もう一頭犬を飼い、その結果自分の甘さに気づき
深い後悔を背負うところにも
共感できる作品。

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Posted by ブクログ 2018年12月08日

日本で唯一の羆ハンターである著者の自叙伝。北海道に住み、大学を卒業してから40年間、最初は一人で、数年後からは猟犬「フチ」とともに羆、鹿をはじめとする動物と闘う日々を過ごす。また、狩猟の本場アメリカにも修行に出かけ高い評価を受けている。若い時の著者は専業プロハンターのため、自然動物に近い繊細な感性を...続きを読む持っている。その著者が表現する北海道の大自然の風景、気象状況、動物の動きの描写は絶妙で、犬とともに雪をかき分け羆を追いかける風景がありありと浮かんでくる。マタギと同じく、斃した動物たちに感謝し、皮、肉、内臓に至まで、そのほとんどすべてを無駄にすることなく活用するといった自然とのつきあい方にも感銘を受けた。一般社会と距離をおき生活する人間の生き様を知る感動の一冊である。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2013年02月12日

幼少の頃から実父に猟の手ほどきを受けた著者は、大学卒業後、猟
だけで食べていくことを決意して、山での生活を始めます。獲物の
肉や皮を換金して生計を立てる暮し。ウサギ、キツネ、シカなど何
でも獲りますが、一番の狙いは羆。著者が目指したのは、タイトル
の通り「羆撃ち」だったのです。

一人で山に入った著...続きを読む者は、あらゆる兆候を手がかりに何日もかけて
獲物を追いつめて行きます。執念深く獲物を追うその行為は、獲物
を倒すことよりも、獲物と同化することを目指しているかのようで
す。実際、殺気が出ると獲物に感づかれてしまうため、できるだけ
獲物のことを考えないようにして、間合いを詰めていくのです。

獲物が何をしたか。何を感じたか。人間としての痕跡を出来るだけ
消し、シカや羆に近づこうというただその一心で山を歩き続ける中
で、著者の五感は覚醒し、普段は見えないもの、聞こえないことが、
感じられるようになります。そして、獲物と同化し、周囲の自然と
一体となった時に初めて、「予感」が「予兆」に変わるのです。

命を奪うからこそ命の重さを知っている著者は、獲物に対して全て
の責任を追う覚悟を持って引き金を引きます。そして、命が消える
その瞬間までじっと獲物を眺め続けるのです。それが死にゆく者に
対する、著者なりの畏敬の念の表し方だからです。

獲物の腹を裂き、内蔵に手を当てて「痛いほどの熱さ」である命の
温もりをもらう。取り出したばかりの心臓を食べ、その鉄臭い命の
味、ほとんど苦しむことなく死んだ野生の味の旨さを全身で味わい、
自らの血肉に替える。それは獲物の「生きていた価値、生きようと
努力した価値」から、恩恵をもらうということです。そして、そう
やって恩恵を得た者が誰よりもその価値をわかるからこそ、その価
値が充分以上に発揮できるように、丁寧に獲物を扱うのです。

猟とは、命の価値の交換なのだ、ということに本書を読んで初めて
気付かされました。全て価値あるものは、交換される時に初めてそ
の価値が実感されます。命も例外ではありません。自らの死が、他
をどれだけ生かすことにつながるか。それがその命が生きてきたこ
との価値になるのです。だからこそ、死は無駄に扱われてはならな
い。ちゃんと生きてきたことの価値が十二分に発揮されるように扱
われなければならないのです。

生きている間は、他の生命の価値が最大限に発揮できるように努め、
死ぬ時には他に惜しみなく与える。死にゆく運命にある者は、そう
やって命を交換しながら、生きることの価値を発揮していくのでし
ょう。この命の価値の交換関係にこそ、いかに生きるかの真実が隠
されているのだろうと思いました。

学ぶこと、働くこと、生きること、教えること、育てること等、あ
らゆることのヒントに満ちた一冊です。是非、読んでみて下さい。

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▽ 心に残った文章達(本書からの引用文)

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耳に残っている仔熊の鼻声を思い出しながら、自分に言い聞かせた。
引き金を引くということがいかに重大かということを。それは、獲
物に対して、すべての責任を負うということだ。すべての責任を負
う心構えを持って弾を獲物に送り込もう。急所を狙って一発で斃せ
るように。

時間の観念が次第に消えていく。感覚が研ぎ澄まされていくと、木
の葉が散る音、葉の茎が枝から離れる音さえも聞こえる気がする。
いや、実際に聞こえるのである。それらの音をやり過ごし、ひたす
らに身が周囲に同化するように待つ。

シカの動きを知るには、自分がシカになったつもりで何日か徹底的
に歩いてみるのが一番だ。

一つのことだけに心を奪われすぎずに、あたり一帯に均一な緊張感
で注意を払わなければならない。特に目を見開いて探すより半目に
して見るほうが、微かに動くものでも目の隅で捉えやすい。

ナイフを取り出しシカの腹を裂いた。その腹腔に凍えてかじかんだ
両手をもぐりこませて温める。シカの最後のぬくもりが、痛いほど
の熱さで両手に染み込んでくる。私はそのまましばしの間じっとし
ていた。最後の温もり、生命の温もりの全部を両手にもらった。

生きるということの凄さ、生きようと懸命に努力する姿を目のあた
りにすること、それが猟の一番の魅力なのかもしれない。

シカは生命の温もりで私の凍えた手を温め、うまい肉となって腹に
おさまり、私の生命に置き換わってくれた。あのシカが生きていた
価値、生きようと努力した価値は、そこから恩恵を得た私が誰より
もわかり得るのではないか、そんな気がした。この充足感が、私の
求めていたことの一つであることがわかったとき、狩猟だけで生活
することへの確固たる自信へとなっていた。

旨い。手負いで苦しんだり興奮して死んだ獲物に比べて、苦痛や恐
怖をほとんど感じることなく斃された動物の肉はこれほどに旨いも
のなのか、とあらためてその違いに驚かされる。

美味しく食べられるように大切に扱わなければならない。それが死
んでいった動物を生かすことになるし、彼らに対する礼儀だと思う
からだ。ただ獲るのではなく、いかにして獲るかを心がけよう。

重い。この重さは羆の命の重さかもしれないと思う。(…)斃され
た命を決して無駄にはするまい。運びきって、生きてきた価値を俺
を通して発揮させてやるのだ。そう自分に言い聞かせながら歩く。

自然の中で生きた者は、すべて死をもって、生きていたときの価値
と意味を発揮できるのではないだろうか。キツネ、テン、ネズミに
食われ、鳥についばまれ、毛までも寝穴や巣の材料にされる。ハエ
がたかり、ウジが湧き、他の虫にも食われ尽くし、腐って融けて土
に返る。木に養分として吸われ、林となり森となる。森はまた、他
の生き物を育てていく。誰も見ていないところで死ぬことで、生き
ていた価値と意味を発揮していく。

だから私は、斃し方に心がけ、解体に気を配る。肉となって誰に食
べられても、これは旨いと言ってもらえ、自分で食べても最高の肉
だと常に思える獲り方を心がけ実行しなければならない。斃された
獲物が、生きてきた価値と意味を充分以上に発揮するように、すべ
てを自分の内に取り入れてやる。私の生きる糧とするのだ。
山での姿も、撃たれ斃れていった姿の細部までも目の奥に焼きつけ、
決して忘れないでおこう。それが猟で生活しようと決心した者の、
獲物の命に対する責任の取り方だろう。

猟犬はどんなに素質が良くとも、主人の技量と心以上には育たない
ということがわかった。猟犬を育てる側は常に技と思考の向上を目
指すことが必要となる。

だからこそ猟に対する考え方をしっかりと維持していかなければな
らないと己をきつく戒める。気を抜くと簡単に心を見透かされてし
まう。そこそこの仕事だけをして、ずるを決め込むような犬になる
ことが怖い。私の猟に対する姿勢がその程度だとフチに思われるこ
とが本当に怖い。良い素質を持っていればいるほど感覚が鋭いのだ
から、ごまかしはきかない。

脆く壊れやすい、しかし私にとっては望めばすべてがあり、与えて
くれたのが自然であった。獲物が、山菜が、川には魚が、厳しさが、
優しさが、そして夢と冒険がそこにはあった。脆く壊れやすく、儚
そうで強い自然だからこそ、その中にどっぷりと浸かりきってみた
い、自分の野生を確かめてみたかったのだ。その自然からは貪るよ
うなことはするまい、と常に自分に言い聞かせてきたはずであった
のに、気付かぬうちに楽をして多くを望んでしまっていた。
驕りであったのか、油断だったのか。いつのまにか自分が最も戒め
ていたはずの自然から貪ろうとする卑しい根性に取りつかれていた
のだ。

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●[2]編集後記

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一月の終わりに手術した父の予後が思わしくなく、一週間の入院の
予定が、三週間目に入っています。この二週間、病院に通い続けて
いますが、病院というのは、本当に色々と考えさせる場所ですね。

ベッドに縛り付けられていることに対して父親は苛立ちを隠せませ
ん。もともと文句の多い人でしたが、病院に行く度に、嫌味や小言
を言われるのは、それだけ不安でストレスを抱えているということ
でしょう。気を回して何かをしてあげようとすると逆に怒られるか
ら、何もせずにただベッドの横に座って、とりとめのない話に付き
合うように心がけています。

父の嫌味を聞きながら、本当に自分は、父の期待にも希望にも沿わ
ない生き方をしてきたしまったんだなあとしみじみ考えます。この
期に及んでも「息子は失敗作だった」と思わせるような生き方をし
てしまったことを申し訳なく思い、そういう親子関係しか築けなか
った自分を反省しもしますが、もう今更取り返しはつきません。

だから、自分は娘や息子とどんな関係を築くことができるのか、と
思いを馳せます。「猟犬はどんなに素質が良くとも、主人の技量と
心以上には育たない」と今回ご紹介した本の中にありましたが、本
当にそうだなあと思います。子ども達は親の「技量と心」を見透か
す力を持っています。「その程度か」と思われるような生き方にな
ってしまうのは本当に怖い。そう思われないように生きることが、
子ども達への責任なのだろうと思うこの頃です。

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Posted by ブクログ 2012年08月10日

北海道の「本物の」猟師による半生記。
猟師としてのドキュメントに加え、
「優れた羆猟犬には一生涯に一度めぐり会えるかどうか」と
いわれる程難しい、羆猟犬とのエピソード。
さらにはハンティングの本場アメリカへの
単身修行記と、ただでさえ魅力的な題材の数々を、
見事な文章で表現に昇華させている。

やは...続きを読むり何かに秀でた人の文章というのは
巧拙をこえて心に迫るものがある。

久しぶりに良い文章を読んだ、という気がした。

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Posted by ブクログ 2012年02月24日

北海道でプロの猟師だった著者の半生が書かれた本。
狩猟生活について、作者のの実体験がとても興味深くて新鮮だった。
探し追いつめていく過程、研ぎすまされていく感覚におどろく。
その鋭さを持っての観察力と予測はほんとうに見事で感動する。

大自然を深く知る作者の経験からあふれ出てくるような自然の描写がと...続きを読むても良い。誰かの書評で森の中にいるようだと言っていたそうだけれど、とてもよくわかる。
そして五感を働かせひたすら目標に向かっていく猟をする作者がうらやましいような憧れるような気持ちになった。

羆は多くの人にとってはあまり縁がないが、おそるべき自然の驚異だと思う。
土饅頭のくだりは本当に怖かった。

作者は狩猟をするにあたり、獲物の命に対して敬意をもっている。
芯の通った誠実さを感じた。

そして忘れられない、猟犬フチとの生活を書いた何章かについて、うまく言葉にできない。一生のうちで出会えた奇跡ともいえるフチ。
気持ちが入り込んでしまった。
自分もフチのことが愛しい。
猟犬としての賢さ、優秀さが嬉しい。
そして命あるもの、別れから逃れられないことがただただ悲しい。
最後は涙なしには読めないのであった。

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Posted by ブクログ 2012年03月17日

北海道にただ一人の熊撃ち(マタギ)
雪深い山の中で、わずかな兆候を探り
熊と対峙する主人公は、アイヌのように
自然を尊ぶ姿勢で好感がもてます
木々が風にゆれ、小さな雪塊が転がる
様子が文章から伝わり、kitanoも幼少の
ころさんざん彷徨った「山」の世界に
誘われました

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Posted by ブクログ 2011年08月31日

自分の命をみつめるということは
他者の命もきちんとみつめることなんだと思わされた

例えそれが獣や草木だとしても、何かの命を奪っていること
そのことを忘れてただ奪っていては、自らの命さえみつめられない

自分の命をしっかりみつめられれば、他者のいのちをみつめられる
そして生態系から外れることはない
...続きを読む
と思った

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Posted by ブクログ 2010年12月26日

小さな頃から父に連れられて猟に出ていた私は
成人を迎えてすぐに銃のライセンスを取り
大学卒業後は故郷の北海道でプロの猟師になった。
雪の中にテントを構えビバークを繰り返しながら
何日もかけて羆やシカたちを追う。
猟師になって2年後に猟の方法を掴んだ私は
猟犬を育てるという夢を実現するため犬探しをし
...続きを読む生れたばかりの雌の北海道犬、フチと出会った。
賢く忍耐強いフチはすぐに追い鳴き、止め鳴きを覚え
頼もしいパートナーとして成長する。
次にもうひとつの夢、ハンティングの本場アメリカで
腕試しをするためにプロハンター養成学校への留学を決意する。
フチを置いていかなければならなかったが
5週間に及ぶ集中講義が行われて見事17/19科目に
エクセレント印をもらう。
その後インストラクターやガイドの仕事を得てアメリカに滞在するが
ビザの期限が切れるため日本に戻り再びフチと共に猟に出る。
夢はさらに膨らみ、牧場経営もしたいしフチの子供も欲しい。
しかしフチの鼻に悪性のポリープが見つかってしまう。
装画:松尾たいこ 装丁:高柳雅人

日本唯一の羆ハンターである著者と猟犬フチの物語。
最初はどうして羆を殺して生活しようと思ったのかわかりませんでした。
フィクションでよく出てくるような
獲物を的としか思っていないようなハンターのイメージが強かったからか
あまりいい印象を持たずに読み始めました。のですが。
ありきたりな表現ですが命と向き合う真剣さに胸を打たれます。

「ナイフを取り出しシカの腹を裂いた。その腹腔に凍えてかじかんだ両手をもぐりこませて温める。シカの最後のぬくもりが、痛いほどの熱さで両手に染み込んでくる。私はそのまましばしの間じっとしていた。最後の温もり、生命の温もりの全部を両手にもらった。」

こんな凄い文章経験してなければ絶対に書けません。
そして中盤からはフチの健気さがとても愛しい。
ペットとしての犬には可愛さしか求めていませんが
猟犬となると賢さや従順さ、忍耐強さなどが必要となり相性も大切です。

「アイヌ語で「火の女神」という意味を持つ「アペ・フチ・カムイ」から取って「フチ」と名づけた。この名前なら冬の凍えた唇でも呟ける。」

この文で泣きました。
苦境を共に乗り越えるためのパートナーとしてフチを選んだのだということが
ひしひしと伝わってきます。

「大草原の少女みゆきちゃん」という家族ドキュメンタリーもあるそうなので
見てみたいのですが86年度文化庁芸術作品賞受賞って
今でも見る機会あるのかしら。

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Posted by ブクログ 2010年12月02日

私の親世代

大学を卒業後
職業ハンターとなり
猟だけで生活を送る

獲るもの、捕らえるもの
との間には
一瞬の隙も許さない
「気」があり

研ぎ澄まされた感覚をいっぱいに広げ
全人格で対峙する尊厳
が必要なのだ

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Posted by ブクログ 2010年01月04日

簡潔な文章で分かりやすく、その類い稀なる経験に圧倒される想いがした。命に対する畏れ、大切さ、そしてフチとの絆、筆者のタンタンとした語りにあふれている。

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Posted by ブクログ 2009年10月04日

大学卒業後、プロのハンターになった若者の半生記。北海道、アメリカンロッキーを駆け巡る。狩猟犬「フチ」との関係が愛おしい。

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Posted by ブクログ 2009年10月07日

2009年4月25日 初版弟1刷発行(5月中に増刷決定)

うまく文字にできず、読後ずいぶんたってしまった。
理由は二つ。ひとを食うヒグマの恐ろしさに怯えたことと、作者の文章がうますぎること。
ノンフィクションなのに小説を読むように感じてしまったからだ。

熊は世界では7種いて日本にはツキノワグマと...続きを読むヒグマ。ヒグマのほうが大きくて獰猛。
ディズニーの黄色いクマのプーさんは7種にはいっていない。

タイトルの「羆」はヒグマと読む。
吉村昭氏に「熊撃ち」という同タイトルのノンフィクションがあるので、あえて羆(ひぐま)という漢字を使ったのかもしれない。北海道のクマはヒグマだから、羆撃ちなのかもしれない。kumauchi とルビがふってあるので、クマ撃ちと読んでいいのだろう。

現在62歳になる著者の羆専門のハンターになろうとする20代ころから30代前半まで。
猟犬フチとの出会いからフチとの猟フチの死までが全編を通してつい昨日のことのように生き生きと描写されている。
作者は、時に母熊を撃つ非情なハンターである。非情なる理由は人を襲う熊だから。
羆のテリトリーに侵入した人間が悪いのかもしれないが、羆が獣であることを忘れてはいけないと教える。

こういうノンフィクションは初めの20ページがおもしろいだけであとはな〜んだが多いが、これは、逆である。初めは動物愛護教会からクレームがくるだろうな〜とか、女の私が好き好んでこういう本を読んでいるなんて人はなんておもうだろうかとか。フチがでてくるあたりから現実のすごさに動揺しながらも、自分とはかけはなれた、生き方を選んで生きている姿に魅かれてゆく。

フチは小柄なアイヌ犬のメス。
猟犬にはオスが良いとされているが、作者はタフだが放浪癖とむら気のあるオスを嫌い、子育てをする情と忍耐強さのあるメスを選んだ。生後2ヶ月から厳しくかつ愛情をかけて育てる。
フチに、撃った羆のうまい内臓を分け与えて食べさせ、羆を捕らえる喜びを体に覚えさせる。
山奥で猟中にはぐれてもフチを置き去りにして帰る。たとえ羆の餌食になろうとも自分で帰ってこれないような犬なら猟犬にはなれない。

フチという名は、アイヌ語で火の女神を意味する言葉なのだが、フチと決定する理由がすごいリアリティである。
場所は北海道の山の中。猟期は冬。解体した熊や鹿の心臓を雪の上におくと、凍ってしまう寒さなのだ。
寒く震えた唇でも「フチ」と発音できるからだという。凍えた唇では、ポチやタマとは言えない。
ためしに薄く口を開いて口を動かさずにフチといってみてほしい。

フチは、羆を見つけ、作者が追いつくまで、羆をその場にとどめておく役だ。
羆に噛み付いてはいけないし、自分がやっつけられてはいけない。
羆に逃げられたらもっといけない。山奥の道のないような茂みや崖で、羆の周りを走り周り、逃げ道をなくしながら、忍耐強く作者が追いつくのを待つ。作者が追いつく気配で、より一層激しくほえる。羆を鳴き声でまどわし、猟師が近づいていることに気づせないためにだ。賢い犬だ。

フチは、老いて腫瘍ができやがてひとりで静かに死んでいく。

この本は、フチという犬との感動の人生物語だ。

50年ほど前まで、作者の周りの日本の熊は生きた鮭を食べる習慣はなかったという。
飛び跳ねるサケやマスをくわえた熊を撮りたい写真家が餌付けし、生きたサケを食べるのが熊の文化となったのだという。

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Posted by ブクログ 2012年02月21日

「くまうち」を読んでいると思っていて,よくよく見ると「ひぐまうち」:1947年生まれの現在は牧場主兼羆撃ち猟師でローマ字を読んで「くまうち」と読ませると再認識〜小樽に生まれ,銃猟が好きだった父の影響で大学生の時に免許を取り,山での暮らしを選択した。小樽周辺では鹿を撃ち,標津に羆が出没すると聞いて勇ん...続きを読むで行く。アイヌ犬のフツを手に入れて,訓練を施してからは楽になったが,犬と離れるのは引き裂かれる思いだが,アメリカのハンタースクールで,優秀な成績を残して,ガイドの資格と仕事を得たが,戻る約束をしてビザが切れて北海道に帰ると,犬と共に獲物を求めるのが本当の猟師の姿だと認識を新たにし,標津に空き牧場があるからと誘われて行くと牛の世話に追われて碌に山にも入れない。フツの仔が取れたら猟が楽になると思い,牡犬を飼う決心をするが,じゃれ合っていた時の怪我が原因か,フツの鼻にポリープができ,躰の一部と化していたフツを失ってしまう。自然を貪ろうとする気持ちがあったのだ〜その後,一人で入山して羆を撃てるようになり,漫画家の女性と結婚し,娘が二人出来て,その娘達を鹿猟には連れて行くようになって,ドキュメンタリー番組として草原の暮らしが紹介された。牛の出産を待つ牛舎で子どもの頃からの思い出を大学ノートに書きため,妻の薦めで刊行の運びとなったが,2006年妻は先だった・・・という不思議な体験もしているし,九死に一生も得ている。波瀾万丈の人生で,羨ましいよな,自分には絶対無理と突き放したくなるような,矛盾が生じる。相棒・愛犬との出会いと別れ。獲物と対峙する人の中の野性。彼のような生業はアメリカではマウンテンマンと呼び,ハンターとは云わないそうだ。いや,良い本と出逢いました

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Posted by ブクログ 2013年03月28日

実話である、ということが更に感動します。フチというアイヌ犬との出会い、羆を倒すその1点にかけて過ごす日々。自然への畏敬、自然の一部としての自分。今となっては望むべくもありませんが、あこがれの生き方です。

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Posted by ブクログ 2011年10月04日

長年にわたり羆撃ちとして活躍してきた作者の狩猟生活の記録。
北海道での数々の狩猟やアメリカでの修行、そして猟犬との生活について記されています。
作者の純粋な狩猟者としての、狩猟や生命との向き合い方を知ることができ、深く考えさせられる内容になっています。

ちょっと長いですが、読みやすく非常に面白い本...続きを読むです。自分なりの生命との向き合い方を狩猟の中で見つけたい、と強く思わせてくれる素晴らしい一冊でした。(三井)

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Posted by ブクログ 2011年08月21日

小学生の頃、秋田のマタギを知って、猟師に対する畏敬の念を抱くようになった。
本書はその気持ちを改めて思い起こしてくれた。
同じ日本で、このような自然と、その真ん中で暮らす人がいる事に、勝手な感動を覚える。故星野道夫氏の言葉に通じるものがある。

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Posted by ブクログ 2011年07月24日

北海道でハンターを営む著者と、相棒の猟犬フチ。ハンターへの道のりや、獲物をしとめる様子を生々しく書く。
ハンターって、あまり身近な職業ではありません。現実離れした雰囲気があるし…。しかし著者は、凛とした姿勢でハンターへの道をまっすぐ進んでいきます。ご本人には失礼ですが、かっこいいと思いました。
狩り...続きを読むのシーンはすごくリアルです。血の色が目に浮かんでくるよう。北海道の大自然を感じました。

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Posted by ブクログ 2011年07月09日

筆者が初めて羆を撃つシーン。最初に放った弾は生まれたばかりの小熊に当たる。怒り狂い猛然と立ち上がる母熊にもライフルを向け、仕留める。その側には母親と兄弟をなくしたもう一匹の小熊が。淡々と綴られるこのシーンを受け入れることが出来るかどうかで、その人にとってのこの本の価値は決まるだろう。
過剰な生命賛歌...続きを読む、自然保護、大自然との対決、など、妙な主義主張を振りかざすことなく、猟をすることが生活そのものであり、その様子を丹念に描いていく。私にとっては良書であった。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2011年02月05日

北海道の道東で実際に羆撃ちをしていた方の実体験を元に書かれたエッセイ風の小説。
私自身が歩いたことのある地域に近いこともあり、切々と感じるリアリティと、雪山の静けさ、羆への敬意と恐怖、猟犬「フチ」への信頼と愛情が伝わってくる。
こういう生活に憧れる一方、作者自身も牧場を持ち、山での生活に区切りを付け...続きを読むる姿が印象的。

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Posted by ブクログ 2009年10月04日

親について狩猟をするうちにその魅力に取りつかれ、職業としてしまう著者の半生。文章は小説家のようにはいかないが内容は波乱万丈で、どきどきさせられる場面が続く。その場に居合わせた者にしかわからない緊張感を第三者に説明することはかなり難しく、そこは読者の想像力でカバーするしかない。フチの登場ですばらしい盛...続きを読むり上がりを見せるが、比較されるユクがかわいそうで、いらいらさせられる。著者の生き方に共感する人も多いと思うが、実践できる人はアーブさんの言われるように有能な人の中でも千人に一人もいない。

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Posted by ブクログ 2012年04月30日

射止めた羆(ヒグマ)の腹腔内に溜まった血に、かじかんだ両手を突っ込み温める。まだ脈を打つ羆の命の息吹を感じると共に、温かさから生命を引き継ぎ、彼が生きてきたことを忘れない。
ランニング後のポカリからですら生の潤いを感じるのに、数週間かけて極寒の山中で山の主を対決した後の肝臓は、どんな味なのだろうか...続きを読む

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Posted by ブクログ 2009年10月28日

日本唯一の羆ハンターの話。
本人が書いたノンフィクションのドキュメンタリー狩猟話でした。
事実なだけにリアリティがあってまぁ面白かったかな。
文体も癖がなくて読みやすかったです。

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