あらすじ
いじめで群馬に転校してきた女子高生のアオちんは、ナナコと親友になった。専業主婦の小夜子はベンチャー企業の女社長・葵にスカウトされ、ハウスクリーニングの仕事を始める。立場が違ってもわかりあえる、どこかにいける、と思っていたのに……結婚する女、しない女、子供を持つ女、持たない女、たったそれだけのことで、なぜ女どうし、わかりあえなくなるんだろう。女性の友情と亀裂、そしてその先を、切なくリアルに描く傑作長編。第132回直木賞受賞作。
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結婚、キャリア、子育て。
それぞれの人生の分岐を進んだ女たちは、心から分かり合えるのでしょうか。
専業主婦の小夜子は義母との関係に疲れ働く決心をします。採用されたのはハウスクリーニングの仕事。
その会社を経営する女社長の葵は、小夜子と同年齢で出身大学も一緒。
共通点が多いことや、明るい性格の葵の人柄に惹かれた小夜子のコミュニケーションにより、2人は仲良くなります。
しかし、距離が近くなるにつれ葵の言動に対して疑問を感じるようになった小夜子。
ひょんなきっかけで葵の過去を知り、2人の関係性は変わっていくことに。
結婚をするしない、子供を産む産まない、キャリアアップを目指す目指さない。
年齢を重ねるほど、気が遠くなる決断を求められる機会が女性には比較的多いと思います。
その分岐は人生を変えるにはあまりにも大きく、選択の内容次第で今まで仲が良かった友人同士の絆を引き離すことも。
異なる分岐をした人が交じり合うことはなく、同じ道を選んだもの同士で関係を深めていくのだろう。
そう思っていました。
しかし、選んだ分岐に対して強い不満を抱いていたらどうでしょう。
専業主婦の分岐を選んだ小夜子と、やりたい仕事に挑戦する分岐を選んだ葵。
一見関わることのない2人が、自分の環境に関係なく心を通わせようとしたら…。
疎遠になった友人がいる人、これからの人生に対して迷いがある人に是非読んでいただきたいです。
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Posted by ブクログ
きっかけ
ライフステージが変わると女友達と分かり合えなくなる、というような紹介文が気になって手に取った
読んだ感想
どよーんとした重たい本の空気に自分がのまれそうになったけど、女友達との関係にとどまらない、人生の深いテーマを勝手に?感じることができてすごくよかった
考えたこと3つ
1いつかは自分を変えることができる
最初読み進めていた時は、人って何歳でも変われるんだって思っていた。中里さん、葵を見て小夜子も変わっていくんだと感じた。でも読み終わって振り返ると、表面上はこう生きようと自分を変えたつもりでもやっぱり本質の本質はそう簡単には変わらないのだと思った。人生のいろんな経験や出会いを通して変わった、やっぱりもうやめた、やっぱり変わる!を繰り返しながら、すこーしずつ前進していくのが人間な気がする。だから100年ぐらい必要なのかな笑
2大事なこと=怖いこと
私にとって大切なことは?って考え詰めると本当に全てがどうでも良くなりそうで一瞬怯んだけど、やっぱり家族と近くにいてくれる友人、それから健康な体と心が大切。職場での周りからの評価やどうでもいい人にそっけない態度を取られたって本当にどうでもいいこと。学生時代から自分の大事なことがはっきりしていた子ってすごく強くて凛としてたなあって思い出した
3でも無敵の人になったらダメ
この本が出た頃にはそんな言葉なかっただろうけど、ナナコとアオちんは現実に戻ってこれないほど遠くに行きすぎて、逃避行の中で本当は大事なことも大事に思えなくて、無敵の人になっちゃったのかなと思った。ナナコの手紙にあった「この街に帰って来たいと思えたら幸せだよね」って言葉からナナコの根っこの思いが見える気がして、すごく切ない気持ちになった。やっぱりナナコには自分を変えないとやっていけない辛い過去があって、ナナコは変わったつもりでいたけど、捨てきれない大事なものがアオちん以外にもこの街にあるんじゃないかな。
番外編。ナナコとアオちん
重たい雰囲気が漂うこの本の中で、ナナコとアオちんが2人で過ごすシーンがすごく好きだった。アオちんって呼びかけるナナコの声が勝手に再生される笑ナナコはアオちんが大事すぎるゆえに、連絡できなかったんだなあって思うけど、連絡したらよかったのに!!!!と思ってしまうよ。ちょっと背伸びして凛と振る舞っていたナナコが私は大好きだったので、そんなナナコとアオちんが再会する世界が見たい。そのときのアオちんはきっとナナコのようには振る舞わず、また高校時代のアオちんに自然と戻っていくような気がする
⭐️塞ぎ込みそうになったらナナコの言葉を思い出そう。
あんな場所でなんにもこわがることなんかないよ。ほんと、ぜーんぜんこわくないの。そんなとこにあたしの大切なものはないし」
Posted by ブクログ
そういえば学生時代、どこにも行けない不安や焦燥感を抱いていたことを思い出して胸がぎゅっとなった。どうしたいか聞かれても答えがない時期ってあるよね。
普段言葉数の少ない葵の父が葵とナナコを乗せてタクシーで市内を走り回るシーンで泣いてしまった。その優しさが温かくて苦しくて。書きながらまた泣けてくる、笑
時が経ち、持つ者と持たざる者の間に川が流れている。相手の立場に立って考えようなんて言うけど、私は無理だと思ってる。でも、相手を知ろうとすることや歩み寄ることはできる。近付いて傷ついて裏切って裏切られて何度も嫌になるけど、人と出会うことはやめられない。
人を生かすのは人なんだ、やっぱり。
私もまた進んでみようかなと思えて嬉しかった。
タイトル回収する作品は良作。
2人の主人公の現在、過去が交互に進んでいくけれど、そこが繋がる美しさ、そしてタイトルを気づけば回収してるといううまさめっちゃ読みやすかった。
Posted by ブクログ
"口に出せば喜劇性を帯び、すぐに忘れられる。言わずにためこむと、些細なことがとたんに重い意味を持ち、悲劇性と深刻味を帯びる。"
瞬間瞬間をかみしめたい、とは思うし
そうできてないんじゃないかという焦燥感に悩むことも多々ある
でも、そんな常々瞬間を噛み締めてかけがえのないものだと思い、色んなものに感動するなんてかえって疲れるに決まってる
心に残ってる光景とか瞬間って、そうしようと思って残ってるわけじゃないし自然と刻まれる物
むしろ日々の生活なんていつのまにか忘れ去ってるくらいがちょうどいい
その当たり前の日々にあとからたまーに思いを馳せてじんわりと楽しかったなあと懐かしむのだっていい心地なんだし
現実から目を背けて、逃避行をしたナナコと葵
同じような道に足を踏み出しかけた、小夜子と葵。そしてそこに気がついて引き返した小夜子。
楽観的なあっけらかんとした性格で心を許しやすい、気持ちのいい人間として描かれたナナコと大人になった葵
熱海で小夜子の心中が描かれていてはたと気付かされる。
そんな人間の裏を返したマイナス面
ひとりよがりで自分がいいなら大丈夫、という根底に実はある考え
誰もがとは言わないけど、それなりの人がこんな濃密な絆の経験があるのかな
あの頃の、答えのなさ、どこかに常に携帯している焦燥感、かと思えば時に味わう万能感
みんないろんなものを抱えながら前に進んでいく
解説まで含めて素晴らしかったな
Posted by ブクログ
小さな子供を持つ小夜子と独身で会社を経営する葵の二人の女性の物語。
葵の性格が高校の時に出会って高校の時に別れてたまま会えていない女の子のナナコに似てきていること、葵がナナコからの手紙を大切にとっておいていること、とても良かった。
永遠のように長く続く友情と思っていたものの儚さ、子供でもない大人でもないときの無力さ、人生のいろいろな選択を経て小夜子と葵が出会っていること、すごく愛おしいと思えた
Posted by ブクログ
あらすじの「 結婚する女、しない女。子供を持つ女、持たない女。それだけのことで、どうして女どうし、わかりあえなくなるんだろう 」に惹かれて購入。
私自身も思ってることだったから、なにか答えみたいなのがこの本にある気がして読み進めた。
読みながら感じたのは、わかりあえなくなる理由どうこうより、小夜子への共感。
子どもを保育園にあずけてまで働かないといけないのかとか、自分に足りないと思う部分を子どもで補おうとしてしまうところとか、子育て真っ只中の私には本当に共感しかなかった。
そんな小夜子に葵がかけた言葉も心に残った。
「 友だちが多い子は明るい子、友達のいない子は暗い子、暗い子はいけない子。そんなふうに、だれかに思いこまされてんだよね。私もずっとそう。ずっとそう思ってた 」
「 ひとりでいるのがこわくなるようなたくさんの友達よりも、ひとりでいてもこわくないと思わせてくれる何かと出会うことのほうが、うんと大事な気が、今になってするんだよね 」
この本を通じて、大切にしたいと思える言葉に出会えて嬉しい。
葵と小夜子がもう一度一緒に働くことになってめでたしめでたしで終われないのは、私からしたら小夜子の「そのあとどうなったの?自殺未遂のあと」って言葉が致命的すぎたからかもしれない。
傷つけてやろうって魂胆が見えてしまう一言が出てしまった2人の関係が、簡単に修復されるわけがなくないか?と思ってしまってるからかもしれない。
ナナコのその後を書くのはこの物語においては蛇足なのかもしれないとは理解できるけど、ハピエン厨すぎてナナコのことも知りたすぎた。
ちゃんとどこかで幸せになってるナナコを感じたすぎた。