あらすじ
親を亡くし一人になった20歳の夏、父よりも年上の写真家の男と出会った――。
男の最後の写真集を前にあのひとときが蘇る。妙に人懐っこいくせに、時折みせるひやりとした目つき。
臆病な私の心に踏み込んで揺さぶった。彼と出会う前の自分にはもう戻れない。
唯一無二の関係を生々しく鮮烈に描いた恋愛小説。
解説・石内都
※この電子書籍は2019年7月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
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Posted by ブクログ
✶印象に残った言葉↓
「誰かと関わると、もう出会う前の自分には戻れなくなってしまう。それが幸福なことなのか不幸なことなのかはわからない。」
「ひとりは楽だ。すり減ることも、奪われることもない。」
「好きなんじゃなくて、好きになられたいんだよ。自分をまるごと、百パーセント受け入れてもらいたいの。あいつは承認欲求の塊だ。」
「飽きた。面倒臭くなった。興味を失った。ばっさりと切られてしまうことを恐れるあまり、避けられている理由を深読みしたり、最初からなんの関係もないのだと思い込もうとしたりする。避けられているかどうかすら定かではないのに。」
「みんな自分の恋愛だけがきれいなんだよ。不倫してようが、歳の差があろうが、略奪しようが、自分たちの恋愛だけが正しくて、あとは汚くて、気持ちが悪い。どんな人の関係も同じです。どんなに深く愛し合っていても、お互い自分の物語の中にいる。それが完全に重なることはきっとないんです。」
Posted by ブクログ
父親より年上の男、美しくないのに何故か惹かれてしまう恋愛。死と生。被写体になることと触れること。作品になるということは私と彼の間に何かがあるということ。うまくまとまらないけどそんなことを考えてしまう。
Posted by ブクログ
若い時って危険な匂いのする歳上の男性に惹かれてしまうことあるよね。全員かはわからないけど、少なくとも私はあった( ̄^ ̄)
自分の父親が亡くなって憔悴してる20歳の女の子(主人公)の前に突然現れた危険な男、全さん(父親の友達)がとにかく沼。
父親も全さんに憧れていたという事から、男から見てもかっこいい男っていうのがわかる。
全さんに沼って、他のことが手につかなくなったり、友達からの連絡もどうでもよくなったり、
全さんが仕事で女性と会ってる間は気が狂いそうになったり、もうとにかくめちゃくちゃ沼。
私も沼る自信しかない。
そんな沼にどっぷりハマったところで全さんは突然姿を消した。、、、クソジジイめ。
やっと無理矢理忘れて普通の生活送ってたら、まさかの全さんの奥さんが出てくる。
え、奥さんいるなんて聞いてない!!!!
奥さん「夫は末期癌で死にました。あなたの行為中の写真を遺作として写真集を出したい。」
は????( ̄^ ̄)
はじめから商売のネタとして近づいて利用して私を捨てたんかよ!って怒る主人公。
、、、(*_*)
感情移入しちゃって、めちゃくちゃ気持ちが揺さぶられた。
ハッピーエンドではないけど、また読みたい。
Posted by ブクログ
最初は恋愛も不倫も気持ち悪いものだと思っていた藤子が全さんと再会して日々を過ごす中で、過去の自分が気持ち悪いと思っていた人達と同じような道を辿ってしまうのが印象的だった。
里見くんの「みんな自分の恋愛が〜」って言葉が忘れられない、傍から見たら異常だと思われるような恋愛でも自分の気持ちを、行動を正当化し続けて色んなことに気づかないフリをして関係を続けようとしてしまうことが執着なんだろうなと思った。
Posted by ブクログ
神様の暇つぶし
時間は思い出を濾していく
残った記憶の粒で
思い出は美しく彩られていく。
だから私は醜く汚い記憶も
ちゃんと覚えておきたい。
大切な時間にこそ思うこの気持ち。
私も忘れたくないあの時間にあった
いい事嫌なこと、全部記憶に残そうとするのは、それを分かってるからなんだということを知った!
千早さんは私のなんとなくの感覚を素敵な言葉で形づけてくれる。
男女の愛はどこにでも生まれるものなんだなー。この愛が綺麗かとか本物かとかは分からないけど、フジを変えたことは大きいし、フジの人生はこの体験と思い出で構築されていくと思うと、やっぱり全さんは悪いと思う。きっと人生ってそんなもん。
Posted by ブクログ
全さんにわかっていても惹かれてしまう藤子が段々と荒々しく人間味を帯びている様子で描写が生々しいなと思った。
さすがにフィルターとか全さんが命を燃やしてたからとか諸々あるんだろうけど末期癌で死にかけてる人間のことなんとなくわかるだろー!と思ってしまったけど。
Posted by ブクログ
全さん魅力的な男だな〜〜〜ずるい
藤子や里見くんはもちろん、
菜月も人間らしくて憎めない
他人が病気かどうかなんて
そうそう気づけないよね
周りの人との時間を
もっと大切に噛み締めようと思った
お腹が空いてくる小説!
中華をガツガツ食べたくなった
Posted by ブクログ
心がヒリヒリするのに読むのをやめられない。なぜなら若かりし頃の傷跡に触れているようで落ち着くから。という恐ろしく美しい作品だった。
20歳というだけで社会に放り投げられて、子どもでもなく大人になりきれていない時期にこういう方に出会うと人生が変わってしまう。引き返すタイミングはいくらでもあっただろうけど、若さが故に沼のように落ちていく姿が残酷に思えた。
作品のためにいとも簡単に手中に収めてしまう全さんは悪い人なんだろうけども、恋はお互いさまなんだよねどこまでいっても。私がその場にいてもきっと止めないと思う。行くところまで行かないと吹っ切れないことってあるし。それにしても、憎しみを吐き出す相手を失った藤子は恨むに恨みきれないだろうな...。
「みんな自分の恋愛だけがきれいなんだよ。不倫してようが、歳の差があろうが、略奪しようが、自分たちの恋愛だけが正しくて、あとは汚くて、気持ちが悪い」
「二十歳の私は、触れられさえすればすべてがわかると、わかり合えると、無謀にも信じていたのだ
った。」
Posted by ブクログ
背が高く女性らしさへの自己肯定感が低い主人公の初めての一夏の恋のお話。
大好きだった父を亡くし、そんな父の遺品からバイアグラを見つけたり、不倫して出て行った母への恨み…
男の人から愛される事への憧れと、性的な事への嫌悪感の葛藤を抱えていた主人公は父の知り合いの写真家おじさんに惹かれて触れたいと渇望する。
でもそのおじさんは誰よりも永遠の愛を求めているくせに手に入ると離れていく女癖の悪いひとで…
結局、不安は的中しおじさんは突然いなくなってしまう。
その後、末期癌で1人で死んでいったのだ。
いなくなったのは主人公に飽きたのではなく、この先も永遠に一緒に入れない事に苦しくなったからなのだと最後思えて報われた気持ちになれた。
ゲイの綺麗な男友達、その子を好きな女友達なども出てくるのだが
他人の恋愛は気持ち悪くて自分の恋愛だけがとても正しくて綺麗に思える
というような一節がある。
この父親より年上の自由奔放な芸術男との恋愛が綺麗な物語と言いたいわけでなく
誰にでも忘れられない大恋愛の一つや二つあって、人からすると馬鹿らしい関係も趣味の悪い相手であっても、その瞬間確かにその相手に未来を描いてもらえるほど愛されたということが生きていく上でのかけがえのない宝物になるという事を感じられたのが素敵だった。