あらすじ
親を亡くし一人になった20歳の夏、父よりも年上の写真家の男と出会った――。
男の最後の写真集を前にあのひとときが蘇る。妙に人懐っこいくせに、時折みせるひやりとした目つき。
臆病な私の心に踏み込んで揺さぶった。彼と出会う前の自分にはもう戻れない。
唯一無二の関係を生々しく鮮烈に描いた恋愛小説。
解説・石内都
※この電子書籍は2019年7月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
たぶん、千早さんの小説をちゃんと読むのは初めて。
読み始めた瞬間から、文章に呑まれる感覚。文章というか、文章が漂わせる空気に。
夏の烈しい彩度、青空と入道雲の、目を刺すほどのコントラスト。けれども視線は上を向かず、灼熱のアスファルトに張り付いた、黒々とした影に落ちる。途方もない絶望と痛み。
そんな小説だと思った。
ものを食べるシーンが多い。藤子がずっとお腹をすかせていたことを示唆しているように思えた。飢えて、求めていた。
山で桃を食べた時の藤子の欲求は官能的に描写されていて、むきだしの本能を垣間見た気がした。
ふたりとも、生を渇望していたのだと思う。
里見がとても良い存在だと思った。達観した上で寄り添っているのと、何も考えていないのと。その中間くらいの存在感が心地よかった。
敵でも味方でもなく、緩衝帯のような。
このひとの結末が一番メンタルにきた。
写真家・石内都氏の解説。
レンズをのぞく事の原初的な欲望は男の方が強いかもしれない。
というところが興味深かった。
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✶印象に残った言葉↓
「誰かと関わると、もう出会う前の自分には戻れなくなってしまう。それが幸福なことなのか不幸なことなのかはわからない。」
「ひとりは楽だ。すり減ることも、奪われることもない。」
「好きなんじゃなくて、好きになられたいんだよ。自分をまるごと、百パーセント受け入れてもらいたいの。あいつは承認欲求の塊だ。」
「飽きた。面倒臭くなった。興味を失った。ばっさりと切られてしまうことを恐れるあまり、避けられている理由を深読みしたり、最初からなんの関係もないのだと思い込もうとしたりする。避けられているかどうかすら定かではないのに。」
「みんな自分の恋愛だけがきれいなんだよ。不倫してようが、歳の差があろうが、略奪しようが、自分たちの恋愛だけが正しくて、あとは汚くて、気持ちが悪い。どんな人の関係も同じです。どんなに深く愛し合っていても、お互い自分の物語の中にいる。それが完全に重なることはきっとないんです。」
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父親より年上の男、美しくないのに何故か惹かれてしまう恋愛。死と生。被写体になることと触れること。作品になるということは私と彼の間に何かがあるということ。うまくまとまらないけどそんなことを考えてしまう。
Posted by ブクログ
若い時って危険な匂いのする歳上の男性に惹かれてしまうことあるよね。全員かはわからないけど、少なくとも私はあった( ̄^ ̄)
自分の父親が亡くなって憔悴してる20歳の女の子(主人公)の前に突然現れた危険な男、全さん(父親の友達)がとにかく沼。
父親も全さんに憧れていたという事から、男から見てもかっこいい男っていうのがわかる。
全さんに沼って、他のことが手につかなくなったり、友達からの連絡もどうでもよくなったり、
全さんが仕事で女性と会ってる間は気が狂いそうになったり、もうとにかくめちゃくちゃ沼。
私も沼る自信しかない。
そんな沼にどっぷりハマったところで全さんは突然姿を消した。、、、クソジジイめ。
やっと無理矢理忘れて普通の生活送ってたら、まさかの全さんの奥さんが出てくる。
え、奥さんいるなんて聞いてない!!!!
奥さん「夫は末期癌で死にました。あなたの行為中の写真を遺作として写真集を出したい。」
は????( ̄^ ̄)
はじめから商売のネタとして近づいて利用して私を捨てたんかよ!って怒る主人公。
、、、(*_*)
感情移入しちゃって、めちゃくちゃ気持ちが揺さぶられた。
ハッピーエンドではないけど、また読みたい。
Posted by ブクログ
愛って、いったい何なんだろう。
この物語を読んで、改めてそう思った。
登場人物たちは決して理想的じゃない。
むしろ、自分の欲に忠実で、そのためには他人に無慈悲になれる人たち。
何を考えているのかわからない、恨まれても嫌われても平然としている。
そんな人ほど、なぜか心が惹かれてしまう。沼のように。忘れられない。
幸せになれそうにない人を、どうして愛してしまうのだろう。
その問いがずっと胸に残って離れない。
読んでいる間、心が痛くて、怖くて、
登場人物が離れていきそうになるたびに、
まるで自分の体まで反応してしまうほどリアルだった。
“人を愛することの残酷さ”と“それでも求めてしまう心”を、
この作品は静かに映し出している。とてもリアルで、面白くて、苦しかった。
Posted by ブクログ
神様って宗教だけじゃないんだなと思わされた。
その人にとっての神様は、
夫かもしれない。
子供かもしれない。
友達かもしれない。
推してる人かもしれない。
全さんと藤子にとってはお互いが神様だった。
大切な人が突然いなくなる。
これはいつか必ず起きる。
私はその瞬間が訪れた時に耐えられるのだろうか。
生き続けられるのだろうか。
そんなことを考えさせられてしまった。
以下、心に残った言葉。
俺が思う神様っていうのは、
かたちはなんでもいいんだよ。
みんな自分の恋愛だけが綺麗なんだよ
どんなに深く愛し合っていても、お互いは自分の物語にいる。それが完璧に重なることはない。
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暇つぶしと表現するには濃い恋愛だった。藤子にとって、そして全さんにとっても大切な時間だった。
切ないのか、怒りなのか、よくわからないぐちゃぐちゃな感情が残った。
人として1番魅力に感じたのは里見だった。
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読み終わった後のなんとも言えない虚無感 藤子の若さゆえ苦しくなるのか 全の無骨さから来るのかいろんなことがごっちゃになった
でも一生の中で忘れられない恋愛…自分はあるのかな
Posted by ブクログ
なんだろうね、このヒリヒリとする感じ。藤子の若さ、家族を失った虚無、友人との関係性。全さんの枯れた感じと懐の広さとか。恋愛小説というカテゴリーみたいだけど、こんなにダークな恋愛小説ってあるんだね。
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官能的。
食欲、性欲、睡眠欲。
出てくる食べ物の描写が大変美味しそう。
登場人物に共感できることはないのだけど、癖になる読後感。やっぱり好き。
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溺れるような恋をすると、すべてが特別なことのように思えて、狂おしすぎて苦しくなるんだよなぁ。過去を思い出して読んでる間は、ずっとヒリヒリしてしまった(たぶんそういう人が多いはず)。
全さんのような年上男性に惹かれるのはすごくわかる。気持ち悪いとか、グルーミングじゃない?って言われても止められない。
神様はだれ?というのも、タイトルの意味もラストでなんとなくわかるようになっていて、よかったです。
あとはとにかく藤子の食べっぷりがよくて、質量の重い恋愛の話を読んでるのに、お腹が空いちゃう。
Posted by ブクログ
両者の命と命が烈しくぶつかりあう刹那に、奇跡的に見える生々しくてぎらついた景色!
私の知っているどの恋愛とも全く似ていない苛烈さ、恋愛小説と銘打たれたものを読んでこんなに胸がひりついたことはない。
痛々しいほどの烈しさ、藤子の命が強く輝く様が神々しく美しい。どんなに人生を諦めていたとしても彼女を前にすると、どうしても生への執着、憧憬が生まれてしまう。
音や匂い、質感まで分かるみたいな小説だった。
Posted by ブクログ
神様の暇つぶし
時間は思い出を濾していく
残った記憶の粒で
思い出は美しく彩られていく。
だから私は醜く汚い記憶も
ちゃんと覚えておきたい。
大切な時間にこそ思うこの気持ち。
私も忘れたくないあの時間にあった
いい事嫌なこと、全部記憶に残そうとするのは、それを分かってるからなんだということを知った!
千早さんは私のなんとなくの感覚を素敵な言葉で形づけてくれる。
男女の愛はどこにでも生まれるものなんだなー。この愛が綺麗かとか本物かとかは分からないけど、フジを変えたことは大きいし、フジの人生はこの体験と思い出で構築されていくと思うと、やっぱり全さんは悪いと思う。きっと人生ってそんなもん。
Posted by ブクログ
全さんの圧倒的な存在感と
藤子の純粋で自虐的だけど抑えきれない感情の
どちらも違う角度の生々しさがあって、
交わることの無い世界で生きてきた2人が交わったとき、
人間の卑しさや美しさが溢れ出てきた気がした。
全さんと藤子のひと夏は、短くて切なくてどのシーンも絶対に必要で忘れたくない景色ばかりで永遠に続いて欲しい日常だった。
Posted by ブクログ
恋愛なんて似合わないと一歩引いてる女子大生・藤子が30歳年上の写真家の男性・全と出会うお話。
肉感が強い文章が作中の夏という季節感と相まって湿度高く生々しい。
描写がビビッドすぎて苦しく感じる部分もあった。
もっと暑い時期に読みたかったような気もするけど、そしたらより生々しさは増したかもしれない。
食欲旺盛な藤子の食事シーンがムシャムシャ食べてて気持ちよくて、生きてるー!って感じ。
全さんは高い場所から下を見たときのように吸い寄せられるような魅力がある。
全という名前にも何か意味を求めたくなるような人。
生と死、ふたつの命の対比が美しい。
Posted by ブクログ
年齢差のある恋愛のお話。
台詞や仕草、質感、食べるシーンなど人の魅力の描き方がすごく素敵だなと。全さんみたいな人は、近くにいたらきっと私も惹かれてしまうんだろうなと思った。
大枠のストーリー自体に目新しさはないものの、惹き込まれる話だった。誰かに惹かれることで、自分の人生の主軸が乗っ取られ狂っていく様子がひりひりした。
Posted by ブクログ
匂い、音、触覚の描写
初めは単調。後半になるにつれて、前半部分はとつながっていく。白銀の…と同様
20歳の女性の初恋はともかく、50代以上の中年〜初老男性の悲哀を描いている どうして40代女性の著者が感じられるのだろう
Posted by ブクログ
夏に読むと、もっと良かったかもしれないなとどうにもならない事を思った。
みずみずしい桃の描写が印象的で、水分を含んだ果実の輝きとグロテスクなほどの生々しさがひと夏の恋を象徴しているようだった。
描かれているのは紛れもなく藤子の恋で、でも私の知っているどの恋とも違っていて、私は本当の恋をもしかして知らないんじゃないの?とまで思わされる、嵐のような感情。幸せな結末を迎えるわけではないのだけど、ここまで溺れられることがむしろ羨ましい。
「みんな自分の恋愛だけがきれいなんだよ」
恋は結局、ふたりでするものであっても、わたしとあなた、それぞれの物語でしかなく、それこそ神様の暇つぶし…。
ズブズブに沈むところまで沈んでみたくなる。暑い夏の、汗がべっとり体にまとわりつくような小説だった。
Posted by ブクログ
全さんにわかっていても惹かれてしまう藤子が段々と荒々しく人間味を帯びている様子で描写が生々しいなと思った。
さすがにフィルターとか全さんが命を燃やしてたからとか諸々あるんだろうけど末期癌で死にかけてる人間のことなんとなくわかるだろー!と思ってしまったけど。
Posted by ブクログ
年上の男が年下の女を落とすのなんて赤子の手をひねるくらい簡単って20代で得た知見で読んだのに、やっぱり惹かれしまうんだよね〜。
物静かで影のある大人の男性を知りたい、と思ってしまうのやめたい。
フジコは逃げられた、捨てられた、全部嘘だったと思ってしまうと思うけど、全さんにとって撮りたいと願うことが恋することと同義だったんだと信じたい。
人を好きになるのって本当に傷つくし傷つけちゃうし、結局いつかは別れることになって独りに戻るし、もうしたくないけど、でも気付いたらまた心動かされる人に出会ってしまって、人生そのくりかえし。
食べて寝て仕事して友達と遊んでたまに恋して、それが生きてくってことなんだな。暇つぶしでもあるんだけど。だから考えすぎずにね
Posted by ブクログ
惹かれたくないと思う人ほど惹かれてしまったり、
記憶から消したいと思う人ほど五感で思い出してしまったりと恋愛においては自分の気持ちをコントロールしようと思えば思うほど上手くいかないような気がすると、自分の恋愛観を客観的に見直すきっかけになった。
苦しい、やめたい、離れたいと思うほど
その人の良いところばかりが自分の心の中で
キラキラ輝いてしまう現象からお別れしたい。
強くありたい。
二日で完読した。
Posted by ブクログ
苦味と甘味が残るような読後感。
人間の醜さも脆さも美しさも、全てがダイレクトに伝わってきて、辛く苦しくなるほどに魅力的な作品だった。
一歩間違えれば嫌悪感を抱いてしまいそうな物語なのに、こんな風に優しく描けるのがすごい。
艶かしい部分さえも愛おしく感じてしまうほど、丁寧なストーリー展開とキャラクター作りが上手だった。
何かを失った人、寂しい人、心に穴が空いてしまった大人におすすめ。
Posted by ブクログ
私は変わったんじゃない、変えられたのだと思いたいんだ。(本文より)
世間一般の男女が繰り広げる“普通の恋愛”とは大きく違う恋愛模様が書かれている。行き着く先は行き止まりな恋愛に意味はあるのか。またそれを失ったとき自分には何が残るのだろうか。ただの虚無感だけだろうか。そんな葛藤を引き起こす一冊である。
Posted by ブクログ
内容や展開は他の方が書かれている通りなので割愛。
率直な感想。
貪欲なまでの生への執着と渇望が感じられた。
「食べること」「人を求めること」「自我の主張」全てが描かれている。でもそこに、社会や他人と生きることで培われた屈辱や恥辱、意地やプライドなどが混ざっている。それも1つの「生」であることがより生々しく感じられる。
Posted by ブクログ
心がヒリヒリするのに読むのをやめられない。なぜなら若かりし頃の傷跡に触れているようで落ち着くから。という恐ろしく美しい作品だった。
20歳というだけで社会に放り投げられて、子どもでもなく大人になりきれていない時期にこういう方に出会うと人生が変わってしまう。引き返すタイミングはいくらでもあっただろうけど、若さが故に沼のように落ちていく姿が残酷に思えた。
作品のためにいとも簡単に手中に収めてしまう全さんは悪い人なんだろうけども、恋はお互いさまなんだよねどこまでいっても。私がその場にいてもきっと止めないと思う。行くところまで行かないと吹っ切れないことってあるし。それにしても、憎しみを吐き出す相手を失った藤子は恨むに恨みきれないだろうな...。
「みんな自分の恋愛だけがきれいなんだよ。不倫してようが、歳の差があろうが、略奪しようが、自分たちの恋愛だけが正しくて、あとは汚くて、気持ちが悪い」
「二十歳の私は、触れられさえすればすべてがわかると、わかり合えると、無謀にも信じていたのだ
った。」
Posted by ブクログ
林檎が宙に浮かんでいるのは、宇宙の摂理である重力を弄ぶ、神様の暇つぶしというタイトルを表しているのかな、なんてことを思いながら読みました。
それにしても、千早茜さんの小説は、なぜこんなにも艶やかで、色気を帯びているんだろう。
この本の雰囲気そのものに恋をするように、夢中で読み進めました。
一方の人物は、子どもにも大人にもなりきれない中途半端さを抱え、自身のコンプレックスゆえに、本当はなりたい姿になれないまま諦めを覚えている。常に気だるさを纏いながらも、その内側には瑞々しさを秘めた女子大学生。
もう一方は、すべてが終わろうとする気配を受け入れ、人生に対する諦観を漂わせている。
それでもなお、あるいはそれゆえに、心の奥底に潜む欲望は、密かに消えることなく燃え続けている中年男性。
まったく異なるふたりだからこそ、惹かれ合っていったのだと思いました。
千早さんの小説には、なんというか女のロマンが詰まっているように感じます。こんな運命的な出会いは滅多に訪れるものではなく、都合のよい夢物語だと思う人もいるかもしれない。けれど、私にとっては不思議なほどに現実味を帯びた物語として心に残りました。
そして私も、その人以外のことはどうなっても良いと思えるような恋を、してみたいなと思いました。
Posted by ブクログ
自分の父親より年上の男に惹かれ、その男と一緒に過ごすことで色んな感情と向き合うことになる一人の女性の物語り。自分の大切な人があっけなく死んでいく過程や色んな場面での食事のシーンが鮮明に記憶に残る。感情の動きを季節の移り変わりや食べ物の描写にリンクさせ、鮮やかに読み手の頭の中に再現させる手法は、最近読んだ本にはない新鮮さを感じました。
Posted by ブクログ
恋愛は年齢、性別に関係なく好きになってしまったらズブズブに溺れる。もうその人に出会う前の自分には戻れない。勝手に傷ついて、盛り上がって、一喜一憂する感覚が鮮明に伝わった。
好きだから離れる。離れられた方からしたら悲しいけど好きだからこそ離れた側はもっと苦しかったりするのかも。