あらすじ
「私は殺人を依頼しました。恋人の妻を殺してほしいと頼みました…」誰もが滑り落ちるかもしれない、三面記事の向こうの世界。なぜ、姉夫婦の家は不気味な要塞のようになってしまったのか? 家出少年を軟禁する主婦の異常な執着心。「死んでしまえ」と担任の給食に薬物を混ぜる女子生徒。平穏な日常が音をたてて崩れてゆく瞬間のリアルな肌触り、追いつめられていく様子。現実の三面記事に書かれた、いわくありげな事件から著者が幻視した、6つの短篇。
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Posted by ブクログ
昔読んだものを再読。
これは本当におもしろい。
実際の事件をモチーフにした短編集。
普通の人だった人が気づいたら事件に巻き込まれてたり、起こしてたり。
大抵の事件ってこんな普通の人たちが何かのきっかけで闇に落ちていって起きてしまうことなんじゃないか?って考えてしまう。
こういう普通のひとたちの話が1番怖い。
角田光代さんの本の中で2番目に好き。
Posted by ブクログ
怖かった。
そして、どうしようもなく哀しかった。
『人間が一番怖い』とよく聞くけれど、それは確かにそうだと思うけど。
それと同時にとてもとても『哀しい』と思いました。
Posted by ブクログ
角田光代さんの、八日目の蝉もだけど、実際にあった事件を肉付けして小説化する物語が引き寄せられます。ニュースや新聞で事件をみて、なぜこんなことになってしまったのか、、、実際に犯罪を犯す人の気持ちなど分かりたくもないし、寄り添う気持ちも全くないが、背景があるなら知りたいと思ってしまう。折り合いをつけようとする自分がいるのかもしれない。
Posted by ブクログ
メモ
愛の巣
女を殺して自宅の床下に埋め、その上で26年間暮らした事件を元ネタに、配偶者の裏切りで人生を26年間ゴミ箱に捨てられた女の話。
ゆうべの花火
不倫相手の妻殺害を闇サイトに依頼する女の話。
糞以下のサイコパス男登場。女についてはよくわからない。
彼方の城
自分の子供と同世代の高校生に、性的に執着する女の話。
こういう話は稀に純愛ということもありそうだけど、普通に気持ち悪い。
永遠の花園
女子中学生2人が、担任の給食に抗うつ剤を混ぜる話。
時が止まれば良いと願う女の子、願った形ではないけど時が止まってしまった現実。
赤い筆箱
明るい妹に嫉妬した姉が、妹を殺してしまう話。
姉は土佐女子の生徒だったらしい。
地元でびっくり。
光の川
じりじりと蓄えを切り崩しながら、痴呆の母親を介護する中年男性の話。
どうしようもなく悲しい。
Posted by ブクログ
うむうむ、抜群に面白いですね。素晴らしいです。やっぱスゲエぜ角田光代。信じてよかった角田光代。そんな事を痛感する短編集、と言えたのです。自分にとっては。
日々、新聞の三面記事で目にする、ありとあらゆる事件。人間が引き起こす事件。それは、新聞の三面記事として、本当にビックリするくらいに、毎日あっさりと登場して、あっさりと忘れ去られていきます。日本国内でさえ、これほどに沢山の三面記事事件が起きている。そうすると、世界規模で考えたら、どれほどの、信じられないほどの三面記事事件が起きているんだ?と、途方に暮れてしまいますが、、、
こうした様々な三面記事の事件は、事件の直接の関係者以外にとっては、基本的には、全く関係が無い、ばかりでなく、ほとんど気にもかけない。或いは、へええ~そんな事件があったんだ~こわいねえ、と思ったとしても、ほんの一過性で心で思うだけの事件、というのが、正直な印象、という気がします。
だが、だが、その。ほぼ全ての人々が、一瞬で忘れ去れるであろう三面記事の様々な事件の背景には、当事者関係者にとっては、とんでもなく濃密な時間が流れていたのだ。剥き出しの人間性と、溢れかえる悲喜劇と、まさにそれが、彼ら彼女らの人生を一変させるほどの、とんでもない「何か」が、あったのだ。
ということを、これほどまでに濃密に暴き出した、角田さんの妄想力、というか想像力、というか作家魂の凄さよ。事実をもとにしたフィクションなのでしょうが、ここまで説得力あると、ある意味凄すぎて恐ろしいです。角田光代、ホンマにスゲエ。
収録された、どの短編も、それぞれ素晴らしいと思うのですが、いっちゃんグッと来たのはどれか?といいますと、、、「ゆうべの花火」でしょうか。
「千絵」が、何故にあれほどまでに壊れてしまったのか。何故あれほどまでに、後戻りができない地点まで行ってしまったのか。いやあ、怖い。人間は、怖い。
「田口洋」は、間違いなく、人間の悪性を象徴する人物ではあると思うのだが、そんな彼に、なんらかの惹かれるべき人間的魅力は間違いなくあったであろうし、彼も、自分の妻の前では、社内では、間違いなく「いい人」の面を持っており、妻の胎内に宿った「自分の子」に対しては、無償の愛を注ぎまくったのであろう。
「千絵」に対しては、あれほどに剥き出しの悪意を見せるにいたった「田口洋」は、だが、それ以外の面では、極めて普通の、まっとうな社会人であったはず、なのだ。
くう、怖い。そのことが、怖いですね。「千絵」の壊れっぷりも、でもそれほどに壊れていながらも、あくまでも普通に会社勤めを続けていたであろう面も、
「田口洋」の、普通の面は圧倒的に普通の社会人であったであろう面も。何故に人は、これほどまでに、両極端な自分を、同時に生きることができるのだろうなあ。
そんな、人間の不思議さを、これほどまでに書ききることのできる、角田光代という人物。ホンマにスゲエ。
Posted by ブクログ
三面記事とは言うけれどどれも聞き覚えがあったり知ってる事件だったのでとても読みやすかった。
最後の話の光の川はニュースで見たときも本当に胸が痛くて辛くて手を差し伸べるべき行政ってなんだろうって思った。別にお役所仕事だって否定するわけではなく規定から逸脱せず税収で賄っているから柔軟に対応する事ができないのもわかる。けれどそれもまた問題だよなって事件後20年近くたった今改めて考えさせられました。
同じ状況な人は今も沢山いるしなんなら自分の身にも起こるかもしれない。
角田さんの書く話は本当に色々と考えさせられてしまうなぁ。すき。
Posted by ブクログ
私たちが何気なくみるニュースの裏側を
なぜそこに至ったのかを覗きみた本だった。
そして確かに重いもので苦しいものだと
最初は恋仲
途中は友だち、同姓、姉妹
最後は親子
最後の光の川は苦しかった、同時に他人事ではないと思い余計に辛く暗くなって読むのが辛かった。
どの話もすごく現実的で角田さんのかく本が好きだなぁと痛感した一冊
Posted by ブクログ
身勝手で幼稚な独占欲、思い込みの激しさからやがて訪れる破綻。そこにある思考も、行動も何処か現実感に乏しい。
ただ、『光の川』だけはどこまでも、現実。描かれなかった実際の事件のその後までも、明日は我が身、ひたすら身につまされる。
京都伏見介護殺人事件/Wikipedia
ja.wikipedia.org/wiki…
Posted by ブクログ
ゆうべの花火は面白い。
好きの気持ちの天秤が逆になっていく恋愛の話。
光の川は介護の孤独と闇。身につまされる。
私達の税金や社会保険料はどこに…
Posted by ブクログ
短編小説だったので、ひとつひとつが読みやすかった。
この本を読んでから、普段何気なく知るニュースにもこんな裏側があるんだろうなと想像するようになった。
Posted by ブクログ
街で見かける人達、
少し会話を聞いたりするだけで
実はこうなのかな?と
友達と一緒に勝手に想像したり
知らない人を主人公にして
短いお話を作ったりするのが好きだった。
だから
三面記事からヒントを得ての小説を
ワクワクしながら読んだ。
読後はワクワクとは程遠く
辛くて落ち込んでしまったけれど。
どの話もそこらじゅうにありそうで
でもどこかでとどまっていて
一線は越えていないだけ。
自分も隣り合わせにいるのかも
と思わされた。
Posted by ブクログ
人間の奥底にある闇が丁寧に描写されていて、
結末にかけて次第にスピード感を増して、深く、重く降りかかってくる感覚
もしかすると自分も同じ状況になったら、こんな気持ちを抱いてしまうのかもしれないと、一瞬でもそんな気持ちにさせれられる作品
絶対にいけないことだけど、事件には少なからず"そうしなければならなかった背景''が存在するのかもと不覚にも思ってしまう
『光の川』はひたすらに辛くて、状況を変えられる選択はあの結末しかなかったのか、社会はこうも冷酷なのかと考えさせられた
Posted by ブクログ
三面記事とは政治、経済以外の社会面のことらしい
本編に始まる前に簡潔にまとめられた三面記事が載ってるんだけど新聞ではほんの数行でまとめられた事件もストーリーとして読むといろんな事情や登場人物の感情が複雑に絡んで起こってるんだよな〜と
特に最後だったっていうのもあり介護の末殺した親子の話しが印象的だった
母親のアルツハイマーしんどいなぁ
介護しながら働くことは困難なのに生活保護は規定外で受けられず限界な息子の状況が読んでてしんどくなるほどリアルだった
とにかくどの話も読みやすくて面白かった
Posted by ブクログ
現実的で突き刺さるような悲劇ばかりで読み終わると辛い気持ちになるのに読むことをやめられない。聞き流してるニュースのむこう側にはそれぞれ人生があるということをわすれてはいけないと言われてるような。
Posted by ブクログ
『元自宅床下から遺体 ー 二十六年前に東京都の小学校の女性教諭を殺害したとして、元同小勤務の無職の男(68)が、自首…男の供述に基づいて男の元自宅を捜索したところ、床下から、この女性とみられる遺体が見つかった。(平成16年8月23日付 読売新聞抜粋』
あなたは、新聞を読むでしょうか?
日本財団が18歳を対象に行った調査では、新聞を”読まない”と回答した人が七割にもなったそうです。実のところ私も自宅に新聞をとらなくなって10年以上の月日が流れました。テレビとネットの情報だけで生きてきたこの10年以上の日々の中で、少なくとも私にとって紙の新聞はすでに過去のものになりつつあります。一方で、職場でたまに目にする新聞には目を引く大きな記事の他にも夥しい事件の数々がびっしりと記されてもいることにも気付きます。テレビやネットの情報だけでは、私が知る由もなかった数行から構成された事件の数々。
そんな”日々の事件、風俗、ゴシップ、スキャンダルなど”、社会面に掲載される記事のことを”三面記事”と呼ぶのだそうです。私たちはその数行からこの国のどこかで確かに起こった現実に触れることができます。しかし、上記した引用記事を読んで分かるのはあくまでもその事件の結果でしかありません。『元同小勤務の無職の男(68)』とはどういった男だったのだろう、26年間も床下に遺体を隠し続けてきた日々とはどういうものだったんだろう。そして、ここまで発覚しなかった経緯には何があったんだろう、とさまざまな疑問が浮かび上がります。しかし、数行のみで記された記事はそのことに決して答えてはくれません。また、数多存在する事件の中でそんな一つの記事はあっという間に埋もれてしまい、それを読んだ読者の記憶からも消えてしまいます。
さて、ここにそんな”三面記事”に光を当てた物語があります。リアル社会に発生した六つの事件の”三面記事”を物語冒頭にまず提示するこの作品。消耗品のように読み捨てられるだけだった記事の背景に光を当てるこの作品。そしてそれは、数行のみで提示される”三面記事”の裏側に深い人間ドラマが隠されていたことに読者が戦慄することになる物語です。
『ちん、と短く鳴ったあと、じりりりりりん、と黒電話の鳴り響く音』に『アイロンのスイッチを切り、廊下へ向か』ったのは主人公の房枝。そんな電話は姉の美枝子からでした。『話したいことがあるの』という姉に『いいけど、正文さんはいるの』と訊く房枝は『姉の夫の正文が苦手』でした。『明日の約束をして電話を切』った房枝は過去を振り返ります。『結婚したのは三年前』という房枝は『未だ妊娠の兆し』なく、『七年前に結婚した姉の美枝子にも子どもがいない』こともあって『妊娠しにくい家系なのかと考え』ています。そして、『犬を飼おうか』と夫の大志が言い出したことで『この人は諦めたんだと』も感じています。そして翌日、約束通り姉と会った房枝は『あのねえ、あの人、よそで恋愛をしてるんじゃないかと思うの』という姉の話を聞いて『またその話か』とため息をつきます。『結婚して七年もたつのに、浮気をしているんじゃないかと始終気にしてびくびく』している美枝子をあきれて見る房枝は、自分との時間が『一種の憂さ晴らし』なんだろうとも思います。そんな姉と会ったあと、『一カ月に最低一度は電話をよこしてきた美枝子から、まったく連絡が』なくなりました。一方で『貯金ができたら引っ越さない』、『いつまでも団地暮らしっていうのもな』と夫婦で仲良く会話する房枝は大志との幸せを実感しています。『訛りの残る無愛想な、しかもずいぶん年の離れた男と見合いで結婚した姉』より『自分の方が幸せである』と優越感を感じる房枝。そして『念願の庭付き一戸建てに引っ越した』房枝は『課長へと昇進した大志』との暮らしを満足するも大志は忙しさから家に帰れない日も増えていきます。一方で房枝は『年末近くなって』、『美枝子に電話をかけ』るも『早く電話を切りたがって』いる気配がありありで早々に電話を置きました。そしてついに『ぱたりと連絡をよこさなくなった』美枝子が気になり、姉の家を訪れることにした房枝。『駅を下り、記憶を頼りに商店街を進む』も、どうしても記憶にある家を見つけられません。『目についた酒屋』で『あのう、小林さんてこの辺じゃなかったでしょうか』と訊く房枝に怪訝そうな顔をする店員は、『小林さんちは変わらないよ、あそこだよ。気味が悪いったらないよ…』と語り、もし訪ねるのなら『変な薬品を庭にまくの』をやめるよう伝えて欲しいと言います。そして店を出て目的地と思える場所へと着いた房枝は、そこに『ブロック塀にトタンが堆く積み足され、そのさらに上には有刺鉄線まで張り巡らされている』というまさかの光景を目にしました。まるで要塞のように思える『得体の知れない』光景に立ち尽くす房枝に『なんの用だっ』と『頭上から野太い声が降ってき』ました。『おにいさん…』と思わず口にした房枝の前に『無愛想を通り越して能面を思わせ』る表情をした正文の姿がありました。そして、『ふーちゃん』と顔を出した美枝子に驚愕する房枝。久しぶりに再会した二人に、この時点からは予想もできないまさかの結末が待つ物語が描かれていきます…という最初の短編〈愛の巣〉。平成16年8月23日付の「読売新聞」に掲載された記事を元にその事件の裏側を見事にフィクションとして書き上げた角田さんの上手さを感じる好編でした。
「三面記事小説」という六つの短編から構成されたこの作品。作品間に繋がりは全くありませんが、書名の通りそれぞれの短編が現実に存在する”三面記事”を元に書かれたという点が共通点となります。“ある編集者から永井龍男の作品で昭和の三面記事を題材にした短編集があると聞いていたんです。それがずっと頭に残っていて、文藝春秋から連載のお話をいただいた時に、その平成版というのはおこがましいですが、やってみようと思ったんです”と語る角田光代さん。そんな角田さんのこの作品はそれぞれの短編タイトルに新聞記事の切り抜きが貼られいて、その後にその記事の背景が物語として描かれていくという構成をとっています。では、そんな記事と物語について三つの短編をご紹介しましょう。
・〈ゆうべの花火〉: 『不倫浮気相手の妻の殺害を依頼 ー 闇サイトで不倫相手の妻の殺害を依頼したとして、都職員の女が14日…逮捕された。殺人を請け負ったとして、自称探偵業の男も同容疑で逮捕。(平成17年9月15日付 新聞報道)』
→ 『学校教材会社が私たちの職場だった』という主人公の千絵は、先輩の田口洋と不倫関係に陥ります。一方で『人との関わり』が苦手と職を転々とする安田孝幸は『復讐やいやがらせを代行する闇サイト』を運営する矢崎という男から『不倫相手の妻に嫌がらせをしてほしいっていう依頼』を引き受けたことから千絵とのやりとりが始まり記事の事件へと進んでいきます。
・〈彼方の城〉: 『16歳男子高生にみだらな行為の38歳女逮捕 ー 無職女性(38)が…逮捕された。調べでは容疑者は九月十日、高校二年男子生徒(16)を自宅に誘い込み、みだらな行為をした疑い。(平成17年11月17日付 中日新聞)』
→ 『未来がすばらしいもののはずであると信じていた』主人公の愛子に待っていたのは他の女の元へと出ていった夫が残した家でゴミに埋もれて生活する拓磨と香奈との三人の生活でした。夫からの養育費に頼る日々の中、日々通い詰める漫画喫茶で『真心の接客 隼人』と名札をつけた少年と関係を深めていく愛子は記事の事件へと進んでいきます。
・〈光の川〉: 『介護疲れで母殺害容疑 ー …長男(54)を殺人容疑で逮捕した。長男は病気がちの母親と2人暮らしで、「介護に疲れて、発作的にやってしまった」と供述しているという。(平成18年2月3日付 朝日新聞』
→ 『中度アルツハイマー型認知症』と診断された母親のことを心配し『母は輝男がだれだかおそらくわかっていない』という中で母親の介護と自らの仕事を切り回すギリギリの日々を送る主人公の輝男。行政にも見捨てられ、一人追い詰められていく輝男は記事の事件へと進んでいきます。
といったようにそれぞれの短編には、結果として、リアル社会に現実に起こった事件の内容がまず提示され、その事件に至る過程が描かれていきます。しかし、この内容自体はノンフィクションではなくあくまで角田さんの創作であるという点がポイントです。私たちは日々数多なされるニュース報道で、この国の中で、そして世界で日々発生している現実の事件の数々を知ります。しかし、そこに報道されるのはあくまで結果であってそれぞれの事件の裏側に何があったのかという詳細な事実、事件の舞台裏を知ることはなかなかに叶いません。この作品では、そんな事件の背後にあり得たかも知れない物語が角田さんの筆の力によってまるで事実であるかのように描かれていきます。私たちは犯罪とは悪である、そんな風に単純な立ち位置を基本的には取ると思います。”三面記事”の内容だけでは、その行為自体の悪の側面にしか気を回せないということもあります。しかし、この作品を読むことで、そんな事件の背景に、事件へと至る道筋に、そんな事件を起こした人物の心の内がどのようなものであったかに思いを馳せることが出来ました。もちろん、犯罪者の心の内、事件が事件として成立していく流れを見ても犯罪の事実、犯罪というものの重みが消えるわけでも薄まるわけでもありません。しかし、冒頭で提示されたリアル社会の事件に対して自分の感情に変化が生じるのを感じました。
そんな六つの短編に取り上げられた事件はいずれもショッキングな内容ばかりですが、中でも特に衝撃を受けたのは最後の短編〈光の川〉でした。『介護疲れで母殺害容疑』という記事の見出しが提示するその事件。昨今、似たような報道を数多目にすると感じられる方は決して少なくないと思います。特にそんな介護が認知症を原因とするものの場合、その舞台裏は凄惨を極めます。『生ゴミをなぜかあちこちにしまいこむ』、『意味不明の言葉、被害妄想的な幻覚』、そして『大便を漏らしたパンツのなかについ手を突っ込んで、その手で家具をさわってしまう』と生々しく記される認知症の症状が悪化する母親と、それに働きながらの対応を余儀なくされる息子の輝男。そんな輝男はやがて職を失い、『収入はたつ子の年金七万円だけになる』という生活不安の日々の中、一日一日をギリギリに生きていきていく様がリアルに描かれていきます。そんな孤独な日々の中、『こちらは何も意地悪をしているんじゃないんでね』、『高齢化社会ですからね。おたくだけじゃないんです』と行政にも見放される輝男。それでも介護を止めるわけにはいかない毎日が描かれていく物語は、今のこの国では決して他人事でない現実に、読んでいて目を伏せたくなるような思いに終始包まれました。そして、そんな物語を読み終えて『介護疲れで母殺害容疑』という三面記事の見出しを再度読んだ時、そこには最初に読んだ時とは違った感情が、なんとももどかしさに包まれる感情が自分の中に去来するのを感じました。
“三面記事を使って今の時代を切り取り、50、60年後の人たちが今の時代を知る手がかりにしたかった”とおっしゃる角田さん。そんな角田さんがこの作品の元にした六つの事件は、平成のこの国で現実に起こった、リアルな”三面記事”の内容を元にしたものでした。新聞には夥しい量の記事が掲載されています。そんな中に小さく数行だけ記された”三面記事”を読むと、まるでその事件が全体からすると大したことのないもののように錯覚もしてしまいます。しかし、そんな一つひとつの記事の裏側にも、それぞれに奥深い人間ドラマが隠されていることをこの作品を読んで実感しました。
新聞の”三面記事”という、消耗品のようにその場限りに消化されていく記事に光を当てたこの作品。それぞれ数行に過ぎない”三面記事”を元にここまで奥深い物語を創り上げることのできる角田さんの筆の力に改めて感じ入った、非常に興味深い試みの先にある作品だと思いました。
Posted by ブクログ
新聞の中の、注意をして見ていないと
見落としてしまう三面記事。
そこには数々の事件の、事象が書かれている。
その事象の裏には、
1つ1つの事件のストーリーがあること。
悪いことをした人間だけが悪い訳じゃないこと。
色々な背景があること。
この小説を読み、
物事の本質を考えないといけないなと
思った。
角田光代さん、さすがです。
Posted by ブクログ
★★★★
今月1冊目。
これは良かったな、恋愛とか介護系の新聞の3面記事に出そうな物語がいくつか。
色々考えさせられた小説。角田光代さん、いいね
Posted by ブクログ
三面記事に載った事件を元に書かれたフィクション。その事件に至るまでを想像して書いた物語はリアルすぎてノンフィクションかのような錯覚をしてしまうほど。
中学生が教師の給食に薬を盛る、介護疲れから母を殺害、38歳女性が16歳男子を監禁淫らな行為など、たしかにどこかで聞いた記事。
角田作品は、読んでいるこちらが犯罪をしているような、片棒担いでいるようなゾクゾクした錯覚をさせてくれる。
今作も流石です。
短編集なので、気負わず読めた。
Posted by ブクログ
題名の通り三面記事になっていそうなネタが深掘りされて短編の小説になっていた。角田さん特有というかさすがに短編であっても読ませる内容になっているところがさすがという感じだった。新聞を日常的に読まなくなって久しいけれど小説になるようなネタは新聞は宝庫だろうなぁ。そこから小説にするのは凡人にはムリだけれど。
Posted by ブクログ
どこまでが実話なのかわからないが、
新聞やニュースでは見出しと大まかな内容しか分からないが、ここまで登場人物の性格や言動を記載してくれたら本当のニュースも奥行きが出て興味を持つようになる。
事実は小説よりも奇なり、とは言いますが小説より悲しく切ない事件も数多くある。
このような事実を表現してくれたり、事実とは細かい部分は異なるが事件の全貌を知れるのはいいことなのでは。
Posted by ブクログ
最後の「光の川」が、最も印象に残りました。一人で懸命に認知症の母の世話をしている主人公の輝男は、最後には母を手にかけることになるのですが、誰か一人でも救いの手を差し向ける人がいたのなら、違う未来があったのではと思うと悲しい気持ちになりました。
Posted by ブクログ
実在の事件に肉付けされたストーリーという事実が重い。
事件の当事者の人生を大きく変える事件を小説という形で消費して良いのかと、読みながら背徳感を拭えなかった。
それほど生々しい迫力のある一冊だった。
Posted by ブクログ
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三面記事って、よくある話・日常の話だから目新しくもないから取り上げられることもない話のイメージだったけど、そんな小さい記事の中にもこんな物語があるのかもしれない
そしたらとっても胸糞悪いね
話は暗いし絶望的だし、もう見返すことはないけれど
こういう三面記事もよくある話で片付けちゃだめだと思った
わたしって幸せ者だなって再確認した
20190909
Posted by ブクログ
自分のダークな部分に更に深く潜れば、私も三面記事に載ってしまう事をしでかすかもしれない。背筋が寒くなるような、だけど一気に読んでしまった作品であった。