あらすじ
恋人に去られ孤独なヴィクトルは売れない短篇小説家。ソ連崩壊後、経営困難に陥った動物園から憂鬱症のペンギンを貰い受け、ミーシャと名づけて一緒に暮らしている。生活のために新聞の死亡記事を書く仕事を始めたヴィクトルだが、身辺に不穏な影がちらつく。他人の死が自分自身に迫ってくる。ウクライナはキーウ在住のロシア語作家による傑作長編小説。
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Posted by ブクログ
「暗い雰囲気の本」ということだけ聞いて買った。確かに暗い。寒くて曇っていて昼でも暗い日を頭に浮かべた。
今後、水族館でペンギンを見たらミーシャのことを考えると思う。ミーシャは元気だろうか。
〈ペンギンじゃないミーシャ〉という表現も好きだった。
ニーナとソーニャと乾いた家族ごっこをしていたのは全く共感できなかった。いつか共感できる日が来るかもしれない。
セルゲイが好きだった。良いヤツ感がある。
Posted by ブクログ
売れない短編小説家のヴィクトルは、動物園が餌代を払えないためにお払い箱となった皇帝ペンギンのミーシャを引き取ってキエフで暮らしている。新聞の追悼記事「十字架」の執筆記者となり、まだ生きている人物たちのもしもの時に備えて詩的な追悼記事を書き溜めていくが、彼が追悼記事を書いた人物たちは計画的に「処理」されていくようだ。彼自身もよく分からないままに命を狙われ、無自覚のうちに危機をやり過ごし、しかしある日別の男がヴィクトルの「十字架」を執筆していることを知る。そこに記されていたのは、政治的陰謀に加担し、多くの人物の死に関与しながら、最終的に自殺したヴィクトルの一生だった。
心臓病があり憂鬱症のペンギンミーシャについて、ペンギン学者は、本来南極で生きる体の構造になっているペンギンが、全く環境の違うキエフで生きるなら病気になって当然だと言う。解説にもあったが、1996年のキエフは、ソ連から離れたばかりのウクライナが混乱していた時期で、マフィアや犯罪グループが横行していたから、そんな社会不安もあるんだろう。が、ほのぼのしてるように見えて展開がホラー。鍵変えても誰かが夜中に家に侵入してきているようだとか、突然友人が4歳の娘ソーニャを預けにきてサンタさんとしてピストルと多額の現金を置いていくとか、知らない男が自分の愛人に近づいて自分のことを根掘り葉掘り聞いているとか、全体的にじわじわ怖い。あと謎にペンギンを葬儀に連れて行きたがる謎の男リョーシャも怖い。その葬儀は、ヴィクトルが十字架に書いた人たちのものだったと最後にわかるのも怖い。ペンギンがインフルエンザになって、心臓移植が必要で、4歳の子供の心臓でなければいけない、って言われたあたりで、ソーニャの心臓が移植される線かと思ったら違ってよかった。南極にミーシャを送り返す手筈を整えていたヴィクトルが、最後に一人で南極大陸委員会の人に会って「私がペンギンです」って言う結末が思いも寄らなくて、喜劇的で好きだ。ヴィクトルを殺すためにミーシャの病院で待ち構えていた人たちは拍子抜けしただろう。
ミーシャがかわいくて、私もペンギン飼いたい。うちの皇帝ペンギンの等身大のぬいぐるみにミーシャって名前つけようか。
Posted by ブクログ
閉館した動物園から引き取ってきたペンギンのミーシャと二人で暮らすモノ書きのヴィクトル。著名人が亡くなった際に新聞に掲載する通称「十字架」を書く仕事を引き受けるが、出先の宿では銃声で目を覚ましたり、引き受けた子供の親からピストルを受け取ったり、常に陰鬱な緊張感が続くロシア文学らしいウクライナ文学。
ソ連崩壊後のウクライナの世相をよく表していると解説にもあったが、まさにそのとおりだと思う。ミーシャは動物園という囲いの中から出ても、自分の属していない土地に居るより他なかった。ウクライナもまた、ソ連崩壊後、世界の中で自分たちの居場所を見失っていた。
ヨーロッパ(特に冬の寒さが厳しい地域)の文学では孤独な人間が不条理を押し付けられ、苦悶のうちに死ぬ。みたいな物語がちらほらあるように思うけど、これは厳しい冬がそういった無力感みたいなものを人間に与える面があるのでは、とも思う。