あらすじ
〔ヒューゴー賞/ネビュラ賞受賞〕理論物理学者シェヴェックは、やがて全世界をつなぐ架け橋となる一般時間理論を完成するために、そしてウラスとアナレスの間に存在する壁をうちこわすために、いまアナレスを離れ、ウラスへと旅立っていったが……SF界の女王が緻密な構成と流麗な筆致で築く一大ユートピア!
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Posted by ブクログ
ジョン・レノンが『イマジン』の歌詞の三番で「少し難しいかもしれないが想像してほしい」と歌った"所有のない世界”を実現した惑星アナレスから、資本主義と社会主義が対立しながらも美しい繁栄を謳歌する惑星ウラスに降り立った孤独な物理学者の物語。
無政府主義を現実のものとしたアナレスでも、最後の障害は「人々の慣習にすがる態度」だった、というのが衝撃的だった。
しかし、ほんの小さな希望が、長い、長い旅を終えて、アナレスに帰還する宇宙船の中、遠く離れた、古い歴史を持つ恒星系セインから来たひとりの下士官によってもたらされる。
彼は命の危険があり、二度と戻ることができないかもしれないアナレスへの同行を願い出たのだ。
シェヴェックはかすかな皮肉かあきらめを込めて、
「良かった。われわれの特権を享受したがる人間はあまりいないからね!」
と言ったが、ハイン人は即座にこう答える。
「おそらく、あなたがお考えになっているより大勢いると思いますよ」
ハインは、すでに何百万年もの歴史を有し、その間にはアナーキズムも共産主義も、あらゆることを試してきた人々。しかし、その下士官は言う。
「しかし、わたしはまだ試みていません」
だから、アナレスが見たいのだと。
以下、印象に残ったシェヴェックの演説。引用メモの字数を超えていたので、こちらにメモ。
P436「われわれを結束させるものは、われわれの苦悩であります。愛ではありません。愛は心に従うことなく、追いつめられると憎しみに転ずることがあります。われわれを結ぶ絆は選択を越えたところにある。(中略)与えていないものを人からもらうことはできません。だから、あなたがたはあなたがた自身を人に与えなくてはなりません。<革命>を買い取ることはできません。<革命>を作ることもできません。あなたがたにできる唯一のことは、あなたがたが<革命>になることです。それはあなたがたの魂の中に存在します。それ以外のどこにもありません。」
それから、アナレスのアナーキズムはオドーという女性の思想に基づいているが、シェヴェックがその女性の墓をウラスで訪ねたシーン。その墓に刻まれた言葉がまたいい。
「真の旅は、帰還である」
Posted by ブクログ
政府をもたず、国境もない
オドー主義というアナーキーな思想を持つ
コミニュタリアンの星、アナレスと
資本主義的で、男尊女卑の文化を取りながらも
繁栄をするウルスという
双子星を舞台に、
人間の真の幸福とはなにかを問う作品。
資本主義と社会主義のメタファー。
アナレスでも、結局は人の目を気にする、
周りの人間からの暗黙のルールのような
しがらみに縛られたりする。
主人公はアナレスからウルスに行き、
資本主義の世界を経験する。
ラストはアナレスに帰って来る。
手ぶらで帰って来るラストが印象的だった。
時系列は分かりにくいし、文章も独特で
読みづらい。
しかし内容は素晴らしい。
読書に慣れた人間が読むべき1冊。
Posted by ブクログ
ウラスと植民星アナレス、それぞれがそれぞれを月とする双子星を舞台にした、ル=グィンのSF小説。アナレスに住む孤高の物理学者が、自らの理論を分かち合ってくれる者たちを求め、かつて先祖たちが暮らしていた星・ウラスへと、植民以来はじめての訪問者として向かう。
資本主義と共産主義、政府と無政府、権力と学問、緑と荒野、男性と女性…様々な二項対立が現れ、語られるが、それらのすべてが多面的に描かれていて説得力がある。
主人公・シェベックは常に孤独を抱えて生きているけれど、その孤独の底に誠実さを以って行動する姿が美しい。