あらすじ
アメリカ人の父と日本人の母のもとへ、養子としてやってきたアイ。 内戦、テロ、地震、貧困……世界には悲しいニュースがあふれている。 なのに、自分は恵まれた生活を送っている。 そのことを思うと、アイはなんだか苦しくなるが、どうしたらいいかわからない。 けれど、やがてアイは、親友と出会い、愛する人と家族になり、ひとりの女性として自らの手で扉を開ける―― たとえ理解できなくても、愛することはできる。 世界を変えられないとしても、想うことはできる。 西加奈子の渾身の叫びに、深く心を揺さぶられる長編小説。
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自分の幸せと、世界の幸せ
どちらも祈ることは全く矛盾していない。
世界にいる沢山の死者、それが自分じゃないだけで胸が苦しくなる繊細な主人公アイ。
自分がその死者になればその変わりに救われた命がある。どちらかを願うことしか分からないアイ。
でも大切な親友、恋人、家族に支えられ、どちらを願うことも自分の存在を認めることも肯定していく。
「この世界にアイは存在しません」数学の教師の言葉に傷つき、それが自分の重りになっていた。
「この世界にアイは存在する」そう認めていぬアイの変化に共感や勇気をもらった。
その変化のひとつに、自分の劣等感は悪くないと認めて受け止め自分はこうゆう人だと肯定する。それこそが次へ進むアイの糧になったと思う。
TheBLUEHEARTS「ロクデナシ」の歌詞から言葉をかりる。「劣等生で十分だ。はみ出しものでかまわない。」これを思い出し強く共感した。自分の弱みも含めて自分の存在を認めてあげることが大事なのだと思う。
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2025.7.5
話の進め方、間の取り方がすばらしい。一気に読んでしまった。読まされてしまった素晴らしい文章力。10年経った今でも鮮明に思い出すあの報道写真。それを元にした一冊なんだと分かったのが物語の最期・・・。それを知ってまた最初から読みたくなる。あまり西加奈子さんの本を読んでこなかったけど、全部制覇してみたいなと思わせる本でした。
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西加奈子さんの作品の中で断トツで好きな一冊です。
世界で起こる悲惨なニュースを拾っては自分のことのように心を痛めるアイ。
精神的、身体的にも弱ったりしながらもどの瞬間も自分や周りの人を大切に思い、ありのままを受け入れていく姿に本当の愛とは何なのかを教えてもらったような気がしました。
なんども読み返したくなる一冊。
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アイちゃんが繊細すぎるという感想が多かったが、
考え方が私ととても近くて、自分を言語化してくれているような感覚になって、読んでいて嬉しい気持ちがあった。
その自分に似ているあいちゃんが、最後自分というものを受け入れて存在を確信して、自分自身救われたような気持ちになった!
地震での死者○万人みたいな感じで死者は一括りにされがちだけれどその一人一人に人生があって未来があったと思うと悲しいなと思った……
別に過剰に悲しむ必要はないが、他の国にも目を向けることは大事だと考えるきっかけになった
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非常に難しいテーマを取り扱っているけど、最初から最後まで飽きることなく、読み切った。
複雑な境遇のアイ、世界で起きる不幸に胸を痛めながら、幸せな自分に疑問を抱き、さらには自分自身に不幸が訪れて、大切なものを見失い、そして取り戻す。
1人の女性の変化が辛くも愛おしい、素晴らしい一冊でした。
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又吉の感想で、「読む時代、時代で感じるものが違うのでは」とあった。時代もそうだけど、自身の年齢によっても捉え方が変わってきそうだから、次また人生の節目のタイミングで読みたいと思える本だった。
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◼️ 西加奈子「i」
人が根源的に持つかもしれない意識を微細に描く。親子、シスターフッド、興味深い。
西加奈子さんは・・「さくら」「通天閣」「窓の魚」「炎上する君」「白いしるし」「円卓」「地下の鳩」「ふくわらい」「ふる」おおけっこう読んでいる。たぶん「きいろいゾウ」も読んだかな。人の想いは様々で、他人からはどうしようもないところもある。そんな、心のひだにどこか共感する。
アイはシリア人で、アメリカ人の父ダニエルと日本人の母、綾子の養子として、裕福で愛情深い家庭に育った。ニューヨークから日本へ移り住み学校へ通うが、自分の外見・出自による周囲からの特別視になじめないでいた。進学した高校で、天真爛漫なミラと出逢い、親友となる。
アイは世界で起こる悲惨な戦争、事件、事故に胸を痛め、犠牲者数をずっとノートに記していた。世界、そして日本の激動の中、大学生で原発反対などのデモに参加していた時、カメラマンの男性ユウと知り合うー。
物語が進むとイスラム国絡みでシリアでひどい内戦が起こる。「悲惨な事態を、自分は免れてしまった」という意識を持つアイは苦しむ。
宮沢賢治も、不作の年もある農村で裕福な質屋、金貸しの息子として生まれた我が身の境遇に引け目を感じて苦しんでいたし、川端康成は本人の言う「孤児根性」に苛まれた。他人が冷静に見ると、そこでそんなに悩まないでも・・とも思ったりするが、細かい心理的影響は誰しもいくつもあるのでは、とも思える。
肥大化させた主人公を置いて、時代を追っている、世界は悲惨に満ちている、という流れを作っていることには響くものがあった。犠牲者の出る紛争、災害、事件事故に胸を痛めるアイはわれわれの姿でもある。現代を炙り出すことに好感。
内に籠る少女期を過ぎ、美しくなって愛情を受ける。幸せな場から降りかかること。そのタイミングでのミナとの絡みは上手すぎるし、面白い。人間の妙味であり、蹉跌のポイントからその発露、昇華まで。映画のようで、どこか文豪の小説にも似ている気がする。純文学っぽい。
深まり、翻弄され、ジリジリする場面もある美しいシスターフッド。女性同士の特別な友情もまた主要テーマのひとつ。清々しくまとまっているな、と。
時代を見せられたような気分もする。アイを通じて描かれたもの、心の折り合い、人間っぽさ。心の中の澱。読後感が良い物語でした。
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愛に溢れた物語。
考えすぎるのがあなたなんだからそれで良いと思う、相対的に見たら間違ってても親友なんだから絶対だよ、と肯定してくれる友人。言い淀む言葉を待って、言葉に出来ない時は抱きしめてくれる恋人。そんな人に出会えたら人生素敵。
いくら知識を得ていても恵まれていても歳をとっても抱きしめたいし抱きしめられたくて、それで良いのだと思わせてくれた。
自分も帰国子女でアイちゃんと似たようなことを幼少期考えたことがあるだけに前半は苦しかったけれど、そこに愛があったから、終盤はキラキラした海の波が一気に押し寄せて、余韻が後書きまで残った。素敵な感覚でした。
Posted by ブクログ
「不幸で可哀想な主人公」の物語は、ある意味でわかりやすい。不幸は読み手の感情を動かしやすいし、そこから幸福を掴む過程は物語として理解しやすい。
でもこの作品の主人公アイは、裕福な家庭に養子として迎えられ、家族に愛されて育ち、大学院にまで進み、尊敬できる親友や恋人にも恵まれている。そんな一見恵まれた人物を主人公にしながら、ここまで深く考えさせられる小説は、自分にとって新しかった。
この物語が最も伝えたかったのは、「世界の悲惨な現実に目を向けながら自分の幸せを願うことは、矛盾しない」ということだと思う。
逆説的に言えば、自分の身に降りかかる不幸があっても他人の幸福には関係ないということでもある。それでも、その不幸を一緒に悲しみ、寄り添ってくれる人がいるというのは価値のあることなんだと思った。
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生きにくさって誰しも感じるけど、アイの葛藤は想像するより辛かっただろうなあ。自分は誰かの立ち位置を奪って今ここにいて、その「誰か」が一生自分にまとわりつく。アイにとってミナとか両親、ユウがいてくれて本当に良かったと思う。いなかったら孤独で堪らなくて本当に死んじゃったかもしれない。
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シリアで生まれ、裕福な両親の元に養子として迎えられたアイは、自分が運よく選ばれた人間、恵まれた人間であることに罪悪感を抱きながら生きていた。
自分は「社会の被害者」から運よく免れた人間の側に立っており、日々の痛ましいニュースを見るたびに「生き残ってしまった」という思いに囚われる。
世界では本当に苦しんでいる人がいる中で、自分たちは相対的に恵まれている。でも、感謝や幸せの気持ちは努力ですることではない。
そうミナに言われてもなお、アイは苦しかった。
そんな時、アイは流産を経験し、肌で感じる。「これが渦中にいるということなら、こんな経験はしたくなかった」
渦中にいる人、何かに選ばれて死んでしまった人の気持ちはわからない。でも生きている私たちが想像する限り、彼らは存在する。
今まで自分の生活に一杯一杯で、国際情勢に目を向けることがほとんどなかったので、この機会にもっと世界で起きている内戦や紛争について知りたいと思うようになった。
☆を一つ減らした理由は、アイがずっと両親のお金で寄付をしたり洋服を買ったりと恵まれた環境を享受していること。それだけ考えているのに、なんで死者数をノートに書くとか泣くとか、それだけなのかな、と思ってしまった。
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この世界にアイは存在します。絶対に。
血の繋がりだけが全てじゃないんだよ。自分が幸せなことを後ろめたく思うことをしなくていいし。でも、どこかで、苦しんでる誰かを想う気持ち、考えることが大切なんだ。
自分とは違う考えでも、気持ちでも、否定から入らずまずは聞き入れることやめたくない。
Posted by ブクログ
なんとなーく表紙にずっと惹かれてて、やっとこさ読んだ。
「i×i=-1」な、懐かしい!言われなきゃ思い出さなかった、「i」という存在。そうか、数学って美しいのかぁ。美しいかどうかで考えた事なかったな。
この本に書かれてるのは、恋ではなく、愛。養子として育った愛はたくさんのことが不安で、本当の愛って何かわからなくて....でも、本当の愛ってこういう事だよね、という本。
好きでした。
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しんどい。しんどい人に読んで欲しいけど、読んだら読んだでしんどい。ラストに幾分救われたけど、しんどい。
愛の連鎖が血の連鎖と同等の価値で、尊いもんやと思えるよう、愛し愛される人でおりたいね。
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西さんの小説!って感じ。本当は抱かなくて良いはずの罪の意識と、それによる傲慢な自意識と、根底にある優しさと聡明さの間で苦しむアイちゃん。この経験や感情を追体験させてくれてありがとう、と感じる小説だった。悩み苦しんだ末に行き着くテーマがあまりにシンプルで少し拍子抜けしたけど、そのシンプルさが、人がただ生きることを肯定してくれる気がした。
Posted by ブクログ
途中までは第三者として割と冷静に、他人事として読んでいましたが最後の6ページほどで心乱されて涙ぐみながら読み終えました。親の愛を疑ったことがある方、何か生きにくさを感じてる方は読んでいて共感してしまい、苦しいと思います。
あらすじ
アメリカ人の父ダニエルと日本人の母綾子の元に養子としてやってきたシリア人のアイ、幼い頃から両親と血のつながりがないことで悩みつつも育つ。自分だけがシリアの内戦や他の様々な死戦を免れてしまったことにも苦しみながら日本で生きていくアイの成長物語。
あらすじと書くと難しいです。成長物語が1番しっくりはきますが、アイの悩みが重く、そして苦しい。繊細で賢いため、常人では気にもしないことを延々と考えてしまいます。
養子であり、父母どちらにも似ない容姿であるため、血のつながりにこだわり恋人とも何か違和感を覚えてしまう。そんなアイのことを、意味わかんないなあと思ってしまうのは多分自分が恵まれていて、日本人として一般的な人だからかもしれません。特に世界の不幸、犠牲者の数を記録して悲しんだりするのにはまるで共感できませんでした。え、自分が犠牲にならなくてラッキー✌️とかにならないところがアイのいいところであり、悪いところですね。
またあやふやな世界の中でもはっきりとした数学の理論に魅入られて数学科に入ってしまうってのもちょっと理解できます。アイの二乗はマイナス1、これ楽しいですよね。私も何度もチャートでこの章を解いたのを思い出しました。最後数学科はどうなるか気になります。さらに作中何度も出てくる、この世界でアイは存在しません、この言葉も暗示のように出てくるところがアイの悲観的な内面を想像させます。
世界のあらゆる不幸に敏感で、血のつながりに悩むアイに共感できるか、反発するかは読んだ人次第でしょう。ただ最後のシーンは暖かくて力強い、人間の芯の強さを感じて明日に向かう原動力になるでしょう。私は結構好きな本でした。また読み返して新しい視点を得たいと思います。
Posted by ブクログ
シリアで生まれた養子の女の子が裕福な家で育ち、世の中の様々な悲劇に対して自分の境遇を申し訳ないと思いながら成長するというなんだか斬新な切り口の物語で面白かった。
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ミナとユウのような、惜しみなく相手を信頼し愛情を注げる人間になりたいと思った。
巻末にあった又吉さんと西先生の対談記事から、「自分の幸せを願う気持ちとこの世界の誰かを思いやる気持ちは矛盾しない」というメッセージがこの小説で伝えたかったことだと汲み取った。
これまでニュースで流れる世界の悲惨な出来事は、どうしても自分の周りで起きたこととしては捉えきれず他者のために祈ることは偽善っぽいと思うこともあった。でも、少しでも誰かの幸せや平和を願う時間は決してポーズではなく尊いことだと思った。
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正直主人公が繊細すぎて読むのがしんどかった。
昔は主人公みたいに世界のニュースに心を痛める事はあった気もするが、今となっては所詮はみんな自分が大事で、自分が可愛くて一時的に心を痛めたとしても平気でご飯を食べられるし仕事に行くし、目の前の生活に必死で正直主人公程に考え込める余裕は無いなぁと思う。冷たいと言われればそれまでかもしれないけど、、、。自分と家族と何人かの大事な友人に愛を向けて生きるのに精一杯だなぁと。
人におすすめされた本なので、こんな風に世界を繊細に見ている人もいるのだと勉強にはなった。
Posted by ブクログ
i,愛、アイ
端的に言えば血と愛のお話。国宝を見た後だからかこの血という部分についてすごく親近感を持って読み進めていた。アイが自分の存在についてさまざまなことを経験し、自身の存在を確固たるものにしていくお話。
何というか読んでて苦しい部分もあったけど、最後は期待通りの綺麗な終わり方。読みたく無いけど、読み進めたいそんな矛盾を感じながら読んでいた。
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濱崎成男
矢吹沙羅
風間
数学教師。上級生たちに「アテネ」と呼ばれていた。
ワイルド増田アイ
アメリカ人の父と日本人の母を持つ。養子の女の子。1988年にシリアで生まれた。小学校卒業までニューヨークで暮らす。ノートに世界で起こった災害や事故の死者数を書く。国立大学の理工学部数学科に進学し、院にも進んだ。
佐々木譲
高梨沙耶香
ダニエル
アイの父。航空部品メーカー勤務。
定年前に退職し、人道支援団体に所属し活動に。
綾子
アイの母。
アニータ
アイの家で働いているシッター。ハイチからの移民。カタリナ、レジーナ、フローレンスの3人の子の母。お金を盗んで解雇された。
パウウソティア
アニータの後のシッター。
キョウコ
アイの日本語の家庭教師。
田丸陽子
平子沙希
権田美菜
ミナ。高校時代の友人。家は老舗のこんぶ屋。
ダーマット・ワイルド
ダニエルの祖父。アイルランドからの移民。
エヴァ
ダーマットの妻。
ジェイムス
ダニエルの父。
フロレンティナ
ダニエルの母。ポーランド移民の娘。
ブルーノ・カミンスキ
フロレンティナの父。
イザベラ
フロレンティナの母。
ジョージア
ダニエルの姉。
ロバート
ダニエルの弟。
ドナルド
ダニエルの弟。
栄吉郎
綾子の祖父。
武久
綾子の父。
なつめ
綾子の母。
豊作
なつめの父。
邦子
なつめの母。
美子
綾子の姉。
政子
綾子の姉。
内海義也
アイと高校3年生の時に同じクラス。プロのミュージシャンを目指すため進学しない。ウッドベース。ジャズ。叔父がプロのミュージシャン。アイの初恋の人。
ケイ
ミナの交際相手。ニューヨーク在住。ミナが大学に入った直後に別れた。
奥田
中学生のときに三平方の定理の美しさに魅せられた。
笹山
解析学の教授。
佐伯裕
ユウ。フリーのカメラマン。原発反対デモでアイに声をかける。アイと結婚。
津島
複素解析論の教授。
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恵まれている人に冷たい世の中になったなと思う。まるで幸福であることが罪であるかのような風潮。不幸なフリをするなんてそれこそ傲慢で冒涜だと思うけど、そうすることで許されたい、対等になりたいと思ってしまう気持ちもわかる。心が貧しいという点ではどちらが不幸なんだか。
不幸の程度なんて比べるものではないとはわかっている。けれど日々生きていく中で、そんなことでそんなに不幸ぶる?と思ってしまうことがないわけではない。良くも悪くも皆他人で、自分は自分として他人のことを祝福したり、心を痛めたりして、自分だけの気持ちを抱えて生きて行けばいいと思う。
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自分の存在意義を見出せないシリア難民の養女アイ。裕福で優しい両親の愛に包まれながらも、自分の存在を認めるという事は難しいのだろうか?いや、多分難しい。日本で生まれ、平凡な家庭で育った自分でも思春期などになると、自分の生きる意味などを考えてしまう時期というのは大なり小なり誰にでもある。結局答えなんか出ないうちに大人になって忘れてしまうか、仕事やパートナー、子供に出会う事でこれが私の生きる意味と信じて生きていく。でもね本来の自己の肯定感というのはもっと奥深い、心の根の部分にあるのかも知れないと思わされました。こらはもはや宗教の世界かも知れませんが、、、
ただ、人に紹介する物語としては見せ場などないので、自分で読み耽る本だと思う。
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主人公が「自分にだけふりかかってきた不幸」というものを実感してからが本番、という感じだった。個人的に身に覚えがあるようなことだったりするので、他人事として読めない部分もあったりするけれど、だからこそみんな優しい人ばかりで、少し遠い世界のことに思えてしまった。
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自分の恵まれた境遇に居心地の悪さや罪悪感をもち、世界の色んな悲劇から目を逸らしている自分も情けなく、目の前の友を大切に思う気持ちと許せない気持ちがせめぎ合う。幸せの定義を考えすぎるあまり孤に向かう主人公の不器用さが染みる。巻末の西さん又吉さんの対談もよき。
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目に見える世界よりも見えない世界の方が多い。
それでも目に見えない世界を想像することはできるし、想像することで苦しむことは無駄じゃない。想いを馳せることは自分の世界を広げる。
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2004年デビューの西加奈子さん。彼女の2016年の作品。
米国男性と日本人女性の家庭に養子となったシリア人アイの物語。彼女のガラスのような繊細な心、それを取り巻く周囲と彼女の自身への嫌悪感や罪悪感をざらりと描く作品。
なお、珍しく関西弁が出てこなかった、と思います。
・・・
ということで、本作はアイというシリアが出自の女の子のお話。お父さん(米国白人)、お母さん(日本人)と血のつながらないという設定。
彼女は、雰囲気の読み取りが巧みで、かつ両親の気持ち・周囲の期待も理解する。でも、裕福な家庭で育つことへの罪悪感、シッターを雇うくらいの家庭でのシッターとの身分の違いにとことん悩む、そういった少女です。
当初米国で生活を送るも、後に父親の転勤で来日し、私立中学、私立高校と進み、ユウというかけがえのない友人を得る。
後に、ヘテロであるアイは不妊に悩み、体外受精を行うも流産。大きく心を乱します。一方レズビアンのユウは一時の過ちで妊娠するも、堕胎を予定する。親友然とした彼らの仲はこれを切っ掛けに、引き裂かれ、そしてまた繋がってゆきます。こうして、物語は大団円を迎えます。
・・・
まあ本作の何がすごいかというと、この心の微妙な動きを的確にピンポイントで、しかもそれを自然に表現し文章を紡いでゆくことでしょう。
私みたいにがさつな人間はアイのような繊細な人も、『こいつめんどくせえ』って思ってしまいますが、それでも、文章の多彩さ、気持ちの「あるある」を見事に描くものですから、全く飽きずに読み終えてしまいました。
アイのように、他者と比べて劇的に幸運をつかんじゃった人だと、自らの幸福に罪悪感を(それこそ病むほどまでに)感じてしまうのでしょうね。もし私が近くにいたらみうらじゅんのエッセイでも貸してあげたくなったことでしょう。
その感受性の豊かさに、逆に居たたまれなくなります。本人もそれがおかしいと分かっているのに止められないのがもどかしい。
・・・
ということで、久しぶりの西作品でした。
個人的には物語の筋は普通。感情の機微は「あるかもなあ」という感じ。でその感情描写の的確さ・表現力は抜群。すごい。
西作品は言葉を味わう作品であると感じた次第です。