あらすじ
中学に進んでまもなく、どうしても学校へ足が向かなくなった少女まいは、季節が初夏へと移り変るひと月あまりを、西の魔女のもとで過した。西の魔女ことママのママ、つまり大好きなおばあちゃんから、まいは魔女の手ほどきを受けるのだが、魔女修行の肝心かなめは、何でも自分で決める、ということだった。喜びも希望も、もちろん幸せも……。その後のまいの物語「渡りの一日」併録。
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Posted by ブクログ
読み終えた今、胸の奥が温かい涙で満たされている。この物語が私に教えてくれたのは、魔法とは決して不思議な術のことではなく、自分の意志で人生を切り拓いていく「強さ」のことなのだということだ。
正直に言えば、物語の序盤、私は「魔女」という存在にあまり良いイメージを持っていなかった。世間一般でも魔女はどこか不気味でマイナスな印象があるし、何より車の中でのまいとお母さんの会話から、おばあちゃんのことを「気難しくて嫌な人」なのではないかとさえ思っていた。二人までがおばあちゃんを「魔女」と呼ぶところに、どこか他人事のような、冷ややかな響きを感じていたからだ。
しかし、その先入観はすぐに裏切られることになった。おばあちゃんが不登校のまいに教えたのは、意外にも地味で真っ当なトレーニングだった。早寝早起きをし、決まった時間に食事を摂り、庭の手入れをする。おばあちゃんは、魔女に必要なのは「意志の力」であり、それは毎日のコツコツとした積み重ねでしか養われないと説く。
この「意志の力」は、アドラー心理学でいうところの「自己決定」に近い。周囲の環境や他人の言動に振り回されるのではなく、自分の行動を自分で決める。そして、決めた自分を信じる。簡単に思えて、実は一番難しいこの修行を勧めるおばあちゃんは、魔女という怪しげな存在などではなく、どこまでも真っ当に、誠実に生きる一人の「人間」だった。
物語の終盤、二人は喧嘩をしたまま別れてしまう。言いたいことが言えないままおばあちゃんが亡くなってしまった切なさは、胸が締め付けられるようだった。しかし、そのモヤモヤを吹き飛ばしてくれたのが、最後にまいが見つけたメッセージだった。
「ニシノマジョ カラ ヒガシノマジョヘ、オバアチャンノタマシイ、ダッシュツダイセイコウ」
まいが毎日ヒメワスレナグサに水をあげていることを知り、自分が死んだ後も驚かせない方法で約束を果たそうとしたおばあちゃん。あのガラスに書かれた言葉と、大好きな土地をまいに遺したという事実。そこには、言葉以上の深い愛が溢れていた。おばあちゃんは、一人の人間として、まいの後悔も悲しみもすべて包み込み、死をもってなお「魂はあり、愛は続く」ことを証明してみせたのだ。
異国の女性という設定や、丁寧に描写される庭の風景は、日常から少し切り離されたメルヘンな香りを漂わせている。けれど、そこで描かれていたのは、自分の弱さを意志の力で律し、凛として生きる、誰よりも強くて優しい人間の姿だった。
私は、おばあちゃんのような「立派な人間」になりたい。自分の決めたことを守り、自分を信じ、大切な人を静かに愛せるような、そんな強さを身につけていきたい。おばあちゃんから手渡された「意志の力」というバトンを、明日からの私の修行として大切に握りしめていこうと思う。
Posted by ブクログ
優しい作品。
この作品に学生時代に出会いたかった。
自分の嫌なことをハッキリ言えるようになったと思ったらそれは相手にとっては嫌に感じたり。上手くいかないこともあるよね、でもそれが人間だよねってことと、伝えきれなかったことに対しての愛情を感じた。
Posted by ブクログ
さらっと読める作品でした。
物語の中にある自分で決めることや、妄想にとらわれないことについて、何か証明する出来事があるわけではなかったですが、なにか妙な説得感があると感じました。
本当におばあちゃんに教えてもらっている様な気分になりました。
Posted by ブクログ
日本で帰国試験(高校)を受ける日本語のあやしい中学生たち(うちの子どもたち)に、小学生でも読めるレベルの日本語で、内容は中学生にもなじむものをかつて探していました。
わたくし的には森絵都さん、瀬尾まいこさんあたりがツボで、このあたりを押していました。
その中で本書がなかなか良い、みたいな話を小耳にはさみ、当時は購入に至らずも頭の片隅に残っておりました。下の子も既に大学生になろうかというところですが、今般手に取る機会があったもので、読んでみたものです。
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表現力がなくて申し訳ないですが、「YAだなあ」って感じ。
大人が読むと少し物足りないかな。
クオーターの女の子(中学生)が学校を行くのがイヤになっちゃって、それを両親もそっと受け止め、山奥に住む祖母(英国人)のところに送り、そのうちに回復する、みたいな話です。
子ども目線で見れば、自分で決めること、他人を受け止めること、省察すること、リズムを刻むこと、みたいなところを読み取るのでしょうかね。
親目線で見れば、ぐっとこらえて見守ること、愛していることを感じさせる環境を作ること(けっして言葉でいうのではなくて)、ということでしょうか。
首都圏で生まれ育ったためか、田舎への憧れがアホみたいにあり、自然のリズムで生きてみたいなあという憧憬が頭をもたげてきました。まあ家内に真っ先に反対されるのでしょうが。
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ということで、梨木さんの本は初めて読みました。
どうやら氏の作品は、類似の路線の作品が多いようですね。ということは今後は余りお目にかかることはないかもしれません。
小中学生くらいのお子さんには読ませてみても良いのではないでしょうか。良質で上品なYA、といった印象です。