あらすじ
ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』に先駆けて発表された英米の吸血鬼(ヴァンパイア)小説に焦点を当てた画期的アンソロジーが満を持して登場。バイロン、ポリドリらによる名作の新訳、伝説の大著『吸血鬼ヴァーニー――あるいは血の晩餐』抄訳ほか、ブラックユーモアの中に鋭い批評性を潜ませる異端の吸血鬼小説「黒い吸血鬼――サント・ドミンゴの伝説」、芸術家を誘うイタリアの謎めいた邸宅の秘密を描く妖女譚の傑作「カンパーニャの怪」、血液ではなく精神を搾取するサイキック・ヴァンパイアものの先駆となる幻の中篇「魔王の館」など、本邦初紹介の作品を中心に10篇を収録。怪奇小説を愛好し、多彩な翻訳を手がけてきた訳者らによる日本オリジナル編集で贈る。/【目次】序文――バイロン男爵の光の下に 夏来健次/吸血鬼ダーヴェル――断章(一八一九) ジョージ・ゴードン・バイロン/吸血鬼ラスヴァン――奇譚(一八一九) ジョン・ウィリアム・ポリドリ/黒い吸血鬼――サント・ドミンゴの伝説(一八一九) ユライア・デリック・ダーシー/吸血鬼ヴァーニー――あるいは血の晩餐(抄訳)(一八四七) ジェイムズ・マルコム・ライマー トマス・プレスケット・プレスト/ガードナル最後の領主(一八六七) ウィリアム・ギルバート/カバネル夫人の末路(一八七三) イライザ・リン・リントン/食人樹(一八八一) フィル・ロビンソン/カンパーニャの怪(一八八六) アン・クロフォード/善良なるデュケイン老嬢(一八九六) メアリ・エリザベス・ブラッドン/魔王の館(一九〇七) ジョージ・シルヴェスター・ヴィエレック/解説――ドラキュラ伯爵の影の下に 平戸懐古
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Posted by ブクログ
吸血鬼ラスヴァンの悪趣味さは、古典海外小説読んでる〜って気分になれた。ちょっとした行動で綺麗に転げ落ちてバッドエンドを迎える悪趣味さは昔の小説って感じで偶に摂取する分には良いよね。 ただやっぱりハピエンが性に合ってるようで一番好きなのは善良なるデュケイン老嬢だった。 主人公?と言うより語り手は真実を一切知らずに呑気にみんな良い人って思いながら財産と、医者かつ美人で、その妹とも友人関係な結婚相手手に入れて大好きな母の元に帰っていくの幸運の加護でも持ってるんか?って感じで好き。
Posted by ブクログ
ブラム・ストーカーが吸血鬼モノの嚆矢だと思っていたのだが、先行する作品が存在することを知ったのは、数年前、『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』を読んだときのことだ。同作品は著者であるメアリー・シェリーが、バイロンらとともにレマン湖畔に滞在し遊戯的創作が提案されたときに着想を得たという。本書のタイトルになっている吸血鬼ラスヴァンは、バイロンの専属医であり、その場にも居合わせたポリドリの手になるもので、これをもって吸血鬼モノというジャンルが誕生したとされる。
紹介されている作品群には19世紀のものとは思えない瑞々しさがあり、現代の作品に見たあれやこれやが散りばめられていて驚かされる。
ゴシック小説というものに勘所がないため、読み進めるに連れ、本書にはフォークロアがホラーと成る階梯を踏みしめているような印象を得た。そのような浅学の身にとっては、本書解説はありがたい。そこで示された多数のタイトルは、次の読書のよき導き手となってくれよう。
以下余談。
『魔王の館』について雑感。魔王とはレジナルド・クラークなる登場人物のこと。
この人物の在り様に、AwTという、今でいう同人TRPGで創造したキャラクターのことを思い出す。人ならぬなにかであり、「芸術家」を名乗った。奇妙な一致もあったものだ。
Posted by ブクログ
「吸血鬼ドラキュラ」以前の傑作集ですから、もちろんドラキュラを超えるような小説があるはずありせん。更に吸血鬼に出てこない話もあったりするのですが、一番面白かったのは表題作、ポリドリの名作「吸血鬼ラスヴァン」。若き紳士オーブリーが旅の友に選んだラスヴァン卿。旅の途中でラスヴァンの正体を知るも山賊に襲われラスヴァンは「自分のことは誰にも話すな」と言い残して命を落とす。しかし死体は消えてしまった。その後ちらつくラスヴァンの影そして彼との約束。怯えるオーブリーにとって最悪の結末が待っていた!
話がよくできてますね。現実なのか神経症なのか。恐怖が募っていきます。
そしてドラキュラ以前のもう一人のスター「吸血鬼ヴァーニーあるいは血の晩餐(抄訳)」。この話は英語でも全2巻で900ページくらいあるらしく抄訳は他のアンソロジーにも翻訳されてて読んだことあるけど、まあ、部分的に読んでもよくわからない。抄訳なんで仕方ないですね。
Posted by ブクログ
『吸血鬼ドラキュラ』以前の19世紀英米吸血鬼小説アンソロジー。
本邦初公開の作品を中心に10篇を収録。
吸血鬼ダーヴェル―断章 ジョージ・ゴードン・バイロン
・・・人物描写と情景の妙。未完なのが残念。
吸血鬼ラスヴァン―奇譚 ジョン・ウィリアム・ポリドリ
・・・彼と出会い、興味を抱いたことが悲劇の始まり。
黒い吸血鬼―サント・ドミンゴの伝説
ユライア・デリック・ダーシー
・・・不条理でナンセンスなれど、黒人奴隷問題提起も。
吸血鬼ヴァーニー―あるいは血の晩餐(抄訳)
ジェイムズ・マルコム・ライマー
トマス・プレスケット・プレスト
・・・全232章から数章を抜粋。処女の血を求めて彷徨う男の遍歴。
ガードナル最後の領主 ウィリアム・ギルバード
・・・横暴な領主と占星術師との対峙。そして妻に迎えた娘は。
カバネル夫人の末路 イライザ・リン・リントン
・・・地主の新妻と迷信深い村人たち。嫉妬と羨望、不安が
入り混じり、起こる事件。この女は吸血鬼だ!
食人樹 フィル・ロビンソン
・・・動植物研究家が描く、蠢く枝葉が徐々に迫る恐怖。
カンパーニャの怪 アン・クロフォード
・・・古屋敷に籠った男と呼応するように倒れた男。
その屋敷の地下坑の霊廟で友たちが見たものは。
善良なるデュケイン老嬢 メアリ・エリザベス・ブラッドン
・・・念願の老婦人付添婦になったベラ。元気いっぱいの
彼女だったが、徐々に衰弱していく。その理由は?
魔王の館 ジョージ・シルヴェスター・ヴィエレック
・・・『ドラキュラ』以降の作品から。抗えぬ威厳と
カリスマを備えた男に魅了される青年の運命とは。
解説-ドラキュラ伯爵の影の下に
注記一覧有り。
『吸血鬼ドラキュラ』以前の9作と以後の1作での、
19世紀英米吸血鬼小説アンソロジー。
バイロンの未完の作品から始まり、同年アメリカの異色作品、
ゴシックからヴィクトリア朝文芸への様々な作品、
週刊連載形式の三文恐怖小説、そして『ドラキュラ』以降の
作品までの、様々な吸血鬼小説を紹介している。
植民地やアフリカからの奴隷、簒奪者と農民や農奴の当時の情勢。
まだ科学発展以前の、土地の瘴気説、輸血思想がある一方で、
処女の生き血を首から摂取、ゾンビ、宿命の女等、
その後の吸血鬼小説に見られる特徴の先駆も、登場。
ちょっと尻切れトンボな作品もあるけど、それぞれの描く
吸血鬼の姿が様々で、ある意味吸血鬼かもしれないものも。
それぞれのホラー感覚がなかなかの妙味。