あらすじ
冬、シーズンオフの別荘地・清里──
〝内側から開かない窓〟を設えた奇妙な別荘に、五人の男女が忍び込んだ。
彼らがある連絡を待って四日間潜むその隠れ家には、意外な先客が。
密室での刺殺、毒殺、そして撲殺……相次ぐ死によって狂い始めた歯車。
館に潜む殺人鬼の仕業か?
逆転に次ぐ逆転! 伏線の魔術師・カジタツが巧緻の限りを尽くした極上の「雪の山荘」ミステリ。待望の初文庫化!
解説 阿津川辰海
イラスト やまがみ彩
トクマの特選!
〈目次〉
第一章 叔母のくれたクリスマス・カード
第二章 密室の中の六人
第三章 こわくなかった理由
第四章 もう一人いる
第五章 死体は運ばれた?
第六章 殺人は暗黒の中で <br第七章 歳上の女、歳下の男
解説 阿津川辰海
感情タグBEST3
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Posted by ブクログ
もう40年近く前の作品だが、私は知らない作家さんの知らない作品だった。
なんだかやけに老けた大学生のグループが、雪山の山荘に閉じ込められる、いや閉じこもるクローズドサークル物だが、王道を行っているように見せかけてとんでもない変化球が飛んでくる。
もっとも物語は冒頭から違和感を持って進み、なんだかすっきりしない展開で、「なんでそうなるの」の感が拭えないまま終盤に入っていく。
驚愕が訪れるのは最後の1/4のいわゆる解決編に入ってから。いやー驚きました。違和感のもとであった部分も見事に回収されます。
事件を起こしたこの大学生は、生きていればほぼ私と同世代になるのだが、もう少し当時の若者にマッチした人物造形がされて、登場人物に感情移入できると満点だったかな。
Posted by ブクログ
初の梶龍雄。「トクマの特選!」で話題になっていたので購入。復刊されるまで名前も知らなかったが、あらすじを読む限り面白そうな作品が多い。
雪の別荘を訪れた5人の大学生と、たまたま居合わせた妖艶な女性。
一人また一人と減っていく。所謂、雪の山荘ものだが、物理的ではなく心理的なクローズドサークル。出ようと思えば出ていけるのだが、どうやら大学生たちには大きな秘密があるらしく、何かを待っている様子で。。。
意外な真相でかなりびっくり。ある一点にかけた、たまーに見かける大掛かりな仕掛け。しかし似たような作品はあれど、ここまで綺麗に、どんでん返す作品は初めて。
文体というか、表現などがかなり時代を感じるものとなっている(似たような時期に出た十角館の殺人が、今でもあまり違和感なく読めるのは改めてすごいと思った)。そこさえなければ、星5。仕掛けだけなら文句なしで星5。
昔の名作が復刊することは大変喜ばしくあり、国内作品、国外作品問わずその流れが続いて欲しいと思う。
Posted by ブクログ
正直途中までは、少し設定というか古い感じで少し違和感があり読みにくいな、という印象だったが、途中からは一気読み。展開がとても良かった。だからこそ、最後の選択が……そっちかァ……っていう。でもここまでの経緯とかがきちんと描かれているから、その選択を選んでも不思議では無いことも分かる。
良作だが、やはり主人公にはその道を選んで欲しくなかったかなぁと言うのと、呉は死ななければならなかったのか……?ということも込めて☆4で。
Posted by ブクログ
プロローグは三沢義信の視点から始まり、物語の舞台となる別荘の建物が、かつて思いを寄せていた叔母からもらったクリスマスカードに似ていることに気付くシーンが描かれている。この部分は物語のラストで義信と秋江が結びつき逃走するシーンにつながる伏線となっており、こうした伏線の多さが梶龍雄のミステリの特徴である。
物語の冒頭部分では状況の説明がなく、読者を置いてけぼりにする。義信のほか、勝浦、瀬戸、高森、呉、沢木、川光といった人物が登場するが、彼らの関係性や清里の別荘に来ている理由が不明である。
詳細な説明はないが、勝浦、瀬戸、高森、呉、義信の5人が沢木というリーダーの指示のもと、何らかの犯罪を犯し、その計画の一環として川口という男の別荘に忍び込んでいることが描かれる。その後、本来誰もいないはずの別荘に女性がいることが分かる。
義信は偶然出会ったその女性が、かつて思いを寄せた叔母・陽子に似ていると感じる。その女性は秋江で、別荘の持ち主の娘である。ここから、何らかの犯罪をしている5人と、その5人に軟禁される女性というシチュエーションが展開される。
高森と呉が喧嘩し、テレビとラジオを破壊するが、この喧嘩は外部からの情報収集手段を壊すための偽装の喧嘩であることが後に判明する。その後、一番奥の部屋で高森がナイフで刺され死亡する。
高森の刺殺によって動機やアリバイの調査が行われ、秋江は高森と喧嘩していた呉を疑うが、呉は「馬鹿馬鹿しい。あの喧嘩は…」と発言し、喧嘩が偽装だったことを示す伏線となる。また、高森を刺したナイフが強い力で刺されていることも、高森殺害の真相に関する伏線である。
ルリ子は秋江を疑い、秋江はメンバーの中に犯人がいるのではないかと指摘する。勝浦は外部からの侵入者による犯行の可能性を示唆し、外部にいる沢木からの電話もある。
義信は秋江に対し、自分たちが銀行強盗をしてきたと説明し、自己嘲笑する。これは叙述トリックで、義信の説明を通じて読者に銀行強盗が行われているという誤解を与えている。実際には義信が誘拐されているが、義信自身は銀行強盗をしていると思っている。
ブレーカーが落ちる事態が発生し、これはミスディレクションで、秋江がこの別荘の内部に詳しいことがさりげなく示されている。
章が変わり、義信がルリ子のために勝手に外部に出てコーラを買ってくるシーンが描かれる。この行動について、ルリ子を含むメンバーが義信を叱責する。この反応は、実際には銀行強盗ではなく義信の誘拐であることを示す伏線である。
秋江は義信に対して、義信が他のメンバーに利用されていることや、ルリ子が実際には勝浦と付き合っていると思われることなどを伝える。ここで秋江が川口の娘ではなく、会社の金を横領し、この別荘を死に場所として来ていた人物であることが明かされる。
その後、ルリ子が毒殺される。絞殺の疑いもあり、別荘内に殺人鬼である川口光一が潜んでいるのではないかという疑惑が生じる。「そして誰もいなくなった」系のミステリでよく見られる第三者の存在が疑われる。呉は隠し部屋の存在に気付き、隠し部屋には誰かが過ごしていた形跡が見つかる。
秋江は呉に沢木への疑いを向けるが、呉は動じない。そもそも義信の誘拐が事件の真相であり、身代金の支払いがない段階では疑う必要がないというのが真相である。
義信が誘拐されていると意識して読むと、勝浦や呉の言動にも、分け前を増やすために殺人をしている容疑者から義信を省く点など、伏線がしっかりとちりばめられている。
その後、沢木からの連絡があり、身代金を無事に入手したことが分かる。そして、呉が死亡する。勝浦は呉の殺害について秋江を疑うが、死体の冷え具合などから不可能であると判断する。仮に高森の死体を代用していたとしても無理である。
ブレーカーが落ちて、勝浦が殺害される。義信による推理が展開され、秋江が外部の福田京子という人物に電話して何かを確認している場面も描かれる。
義信による推理では、高森は川口光栄が仕掛けていた装置によってナイフが刺さり死亡したとされる。つまり事故である。隠し部屋に誰かが潜んでいた跡は、秋江が仕込んだトリックであると指摘される。義信は秋江が建物の構造をよく知っていたことを指摘し、ルリ子の毒殺は自殺のために用意されていたものであるとされる。呉殺害は、もう一つの死体である川口光一の死体を使ったトリックである。
秋江は川口光栄の秘書であり、ルリ子、呉、勝浦を殺害したのは秋江である。ここまでは普通のミステリで、アリバイトリックもある。ここから、271ページの最後で沢木たちが行っていた犯罪が銀行強盗ではなく義信の誘拐だったことが明かされる。誘拐されながら、誘拐された本人はそのことに気付かず、むしろ誘拐に協力しているというアイデアは見事である。
その後、作者による伏線の解説が行われ、誘拐の被害者である義信にこれが銀行強盗ではなく誘拐であることが説明される。膨大な伏線が仕込まれていたことが示される。伏線の解説はやや興ざめに感じるかもしれないが、分かりやすさもある。この作品がまだ少なかった時代背景も関係しているだろう。
最後に、秋江による説得の後、義信は沢木を殺害し、身代金を持って秋江と義信が逃走する。別荘で警察と川口光栄が死体を見つけるシーンがあり、最終的には年上の女と年下の男が逃走するシーンで終わる。
「実は誘拐だった」というオチを納得させる伏線はあるものの、物語全体の流れにはリアリティが欠けている。義信を閉じ込める場所として選ばれた別荘に秋江がたまたまいたという偶然や、秋江がいないと殺人も起こらない点、連続殺人のきっかけとなる高森殺しの真相が単なる事故である点は御都合主義的である。銀行強盗に見せかけた誘拐事件という形では斬新だが、ミステリとしては荒唐無稽な筋書きである。当時、またこうした児戯にあふれるミステリが少なく、評価が低かったのも仕方ないかもしれない。
根っことなるアイデアは近いが、『RのZ』はよりリアリティが高い。この作品の評価については、アイデアの形を作った作品として歴史的な価値を加味し、75点としたい。さらに、「本格ミステリ・フラッシュバック」というブックガイドの存在を知り、興味を持った。高森真士の『割れた虚像』や磯部立彦の『フランス革命殺人事件』など、読んでみたい作品も知れたのは嬉しい。
トータルで見れば、読んで良かった作品であると言える。